「考える部屋」は小学5年~中学3年生向けのオンライン創作講座。
2022年6月に開講した2期生のメンバーは、小説を読んだり書いたりすることが大好き。
小説とシナリオの書き方の形式は少し異なるため、小説に慣れ親しんでいる皆さんは、「こういう表現をしたいとき、シナリオではどう書くんだっけ?」と戸惑うときもあります。
でも大丈夫!
まず目指すのは、シナリオの形式に慣れて、シナリオの技術を使えるようになること。そうすると、映像的な表現が出来るようになり、小説を書くときも読者がイメージしやすい表現で書けるようになります。
そんな2期生の皆さん。先日、12回目を迎える「エピソード12」で中間発表会を開催。
課題テーマは「料理」。
「考える部屋」担当の新井と、講師のてっちゃん・ヒロくん(※考える部屋では先生とは呼びません)による「制限があることで、かえってアイデアが鋭くなる」という想いから、敢えて以下3点の執筆ルール
・シナリオの形式で書くこと
・ペラ(200字詰め原稿用紙)なら10枚、400字詰め原稿用紙なら5枚以内で書くこと
・主要人物は3人くらいで書くこと(3人だと本音と建前が交錯して物語が面白くなるから)
――を設けました。
発表後、てっちゃんは、「まだ12回目なので、シナリオとしてまだまだ稚拙なところもありますが、“物事を見る眼”が着実にレベルアップしているのが分かります。そして、自分が伝えたいことをどう表現したら人に伝わるのかを考えるチカラもついてきているのがよく分かりました」とコメント。
発表してくれた作品の中には、シナリオと小説の書き方が合わさっているものもありましたが、「自分は料理というテーマでこういうことを表現したいんだ!」という強い想いが伝わってきました。その模様を広報の齋藤がリポートいたします。
「シナリオと小説の形式は違うのに、シナリオが書けるようになると、小説のスキルもあがるの?」という大人の方々も、これからご紹介する内容を参考にしてください。
まずはシナリオの形式から
柱 ト書 セリフ
小説は「地の文(状況説明の役割を担う部分)」と「セリフ」でできています。
対してシナリオは「柱」「ト書」「セリフ」でできています。
そもそもシナリオは「映像にするための設計図」なので、映像に映らないことは書きません。そのため、小説の「地の文」で書く情景描写・心理描写・人物描写を、小説と同じように書くことはできません。
※「地の文」について詳細はこちらを。
小説は地の文で「天・地・人」を表現
ではどうしたらいいのか。まずは「柱」「ト書」「セリフ」の機能を押さえます。
■柱:場所や時間帯の指定
例:上の画像では「〇駅・ホーム(夕)」のところです。
※詳細はこちらを。
【 脚本 柱 】つまらなさを脱却する柱のチカラ
■ト書:
・舞台装置・情景
・人物の配置と動作
例:上の画像では「多くの人が、せわしなく歩いている」のところです。
※詳細はこちらを。
ト書とは何か。良いト書の書き方を解説!
■セリフ:
・人物の心理や感情を表す
・事実を知らせる
・ストーリーを展開させる
例:上の画像の“山田「 」”のようにセリフは「かっこ」の中に書きます。
※詳細はこちらを。
良いセリフを書くためにおさえるべきセリフの機能、種類とその方法
上記のような「柱」「ト書」「セリフ」の3つの要素で脚本は成り立っています。
それでは、こちらの基本的な形式を踏まえた上で、「考える部屋」中間発表会の模様をご覧ください。
「考える部屋」がシナリオを書くときに意識していること
*
――「考える部屋」中間発表会の冒頭、司会進行役を務める新井が挨拶。
〇新井:今日は保護者の皆さまや1期生の先輩、また、シナリオ・センターの生徒さんで「興味ある!聞いてみたい!」という方にもオーディエンスとして参加してもらっています。発表会というスペシャルな日なので、イングランドのバンド「The Specials」のTシャツを着てきました。BGMも流しています。
〇新井:こんな感じでいつもおすすめの曲をBGMにしてお送りしている「考える部屋」。<イメージしている物語を面白い物語として描くことができるようになろう!>という目標を掲げてやっています。そしてエピソード7から、登場人物のキャラクターの作り方や魅せ方がさらに高まるように意識してきました。
――具体的にどんなことを意識しているのか。それがこちら。
■「登場人物らしさを描く」
そのためにはどうするか
→性格や感情によってアクション・リアクションを考える
■「登場人物のキャラクターを魅力的にする」
そのためにはどうするか
→登場人物の性格や二面性(憧れ性・共通性)を考える
・憧れ性:視聴者・観客に「自分もああなりたいなぁ」と思わせる部分
・共通性:視聴者・観客に「自分と似ているなぁ」と思わせる部分
■「登場人物の目的を考える」
どういうふうに考えればいいのか
→登場人物がドラマの中で諦めずに進んでいく目的とは何か、どんな行動をしていくのかという「貫通行動」を意識する。
■人物同士の関係性を考える
どういうふうに考えればいいのか
→人物関係・本音と建て前を考える。
→“仲良し”にさせるだけではなく、対立・葛藤を作って“ぶつけあう”。
――こういったことを意識しながら、これまでやってきた2期生メンバー。
では、どんな作品を作ったのか。次の章でその一部をご紹介。
小説でもシナリオでも映像として具体的に想像できるように書く
*
――2期生メンバーはテーマ「料理」に対して、お粥、風邪に効く料理、魔法の駄菓子屋、雨が降らなくなって食べ物に困っている世界、何を掛け合わせても美味しくなる能力など、いろいろな切り口で作品を作ってくれました。
その中で、MさんとKさんという2人の生徒さんが「薬草料理」について書いていました。
同じ題材でも内容や伝えたいことが全く違います。また、2人とも読書が大好きなため、小説の形式にひっぱられてしまっている部分も少しありましたが、「ではシナリオではどう表現すればいいのか」が分かる発表でもありましたので、この2人の模様をお伝えします。
【Mさんの作品(タイトルは考え中)】
主人公のアイリス・アントニアは、動物と話すことが出来て、怪我をしたり傷ついている動物たちを薬草料理で治します。でも、アイリスは料理が苦手で――という物語。
作品発表後は、作者に「今回工夫したところ」を話してもらい、その後、新井や講師陣、そしていつも子どもたちと一緒に“勉強する側”で参加してくださっている脚本家の田嶋久子さん(※ニックネームは「ちゃこさん」)に感想を発表していただきます。
〇Mさん:工夫したのは、3匹のウサギが登場するのですが「おじいちゃん口調で話す」という設定にしたことです。それから、主人公が不安な気持ちでいることをセリフではなく、アクション・リアクションで表しました。
〇新井:「苦手なんだけど動物たちを助けるためには料理をしなきゃいけない……」っていう「障害・葛藤」をちゃんと入れている。だから「アイリスがんばれ!」って応援したくなるし、物語に引き込まれます。
〇ヒロくん:さきほど「工夫したところ」で言ってくれたように、主人公が不安だということをセリフじゃなくて「ギョッと目を見開く」「ギュッと手を握りしめる」とアクション・リアクションで表現している部分、アイリスのキャラクターがよく出ていて、映像としてアタマに思い浮かべることもできるので、すごくいいなと思いました。
劇中に「人間の呪い」というのがよく出てきていたので、例えば、どこかで悪役となる人間を登場させて「対立」を描くというのも面白いのかなと思いました。ぜひこの続きも書いてみてくださいね。
〇ちゃこさん:一般的にかわいいイメージのウサギを“おじいちゃんキャラ”にしているのがとっても面白かったです。
ちょっと気になった点があります。「見たこともない動物がいた」というト書がありましたが、どんな動物ですか?
〇Mさん:異世界なのでドラゴンとかユニコーンとか、「動物」と言っていいのかもわからないようなものです。
〇ちゃこさん:なるほど、そういう子たちもここに来るんですね!
ただ、シナリオに「見たこともない動物」と書いちゃうと、これを映像化するとき、監督さんは何を撮っていいか分からないんです。だから例えばユニコーンだったらユニコーンとト書に書いてください。基本的に「映像にならないものは書かない」というのがシナリオの鉄則。
それに小説だとしてもね、「ユニコーン」と書いてあった方が読者がイメージしやすいでしょ?
小説でもシナリオでも、文章を読んだ人が映像として具体的に想像できるように書く。このことを引き続き意識してくださいね。そうすると、人に伝わる文章を書けるようになりますよ。
【Kさんの作品『薬草料理物語』】
主人公の みなと は、“草”に詳しく、料理も得意。そんなみなとはガイドとして島に残るか、夢である医師を目指すか迷っていて――という物語。
〇Kさん:工夫したのは、みなとを“いたずら好き”にしたかったので、そこが強調されるように、みなとのお父さんを厳しいキャラクターにしたところです。あと、夏休みに西表島に行ったのですが、その時のガイドさんをモデルにしています。「どんな過去があるのかな?」「どうしてガイドになったのかな?」と想像して、みなとのキャラクターを作りました。
〇新井:おお!そういえば、旅先からも「考える部屋」に参加してくれていたよね!今年の夏に体験したことも“掛け算”になっているのか!こうやって身近な人物をモデルにキャラクターを膨らませていくというのは創作ではとても大切。素晴らしい!
あ!考える部屋1期生のメンバーも感想をチャットに書いてくれています。
〇考える部屋1期生:“草に詳しい”という憧れ性と、“いたずら好き”という共通性があることで、みなとのキャラクターが出ていて、とても面白かったです!
〇新井:さすが“先輩”、いいコメントですね!
〇てっちゃん:すっごい面白かったです。草のことをきちんと調べていて、個人的にこういう知識がいっぱい詰まった作品、大好き!
中間発表会で課題テーマを「料理」にしているのは、無数にある「料理」の中で、どこに目をつけるのか、そこをどう掘り下げるのか、いろいろな方向から考えてほしいという想いがあります。Kさんはタンポポについて、そして、それを薬草料理として実際どう使うのか、をきちんと調べて書いていました。
また、ガイドになるか、お医者さんになるかで迷って葛藤しているのがすごく良かったです。で、最後、島に残ってガイドの仕事をするんだけど、みなとオリジナルのお蕎麦を出す。そのとき、みなとはこの島の方言で喋っている。言葉遣いが変わっていることで、みなとの心境の変化を表現できています。葛藤を経て、主人公が成長している、変化している、という部分も描けていて感心しました。
あとは、みなとが変化していく最初のキッカケはお父さんでもあると思うので、お父さんのアクション・リアクションも描けているとよりいいかなと思いました。
〇ちゃこさん:タンポポについて調べているシーンで、ト書に「18ページに載っている」とあったけど、なんで18ページなの?
〇Kさん:私が花の図鑑で調べたときに18ページだったから。
〇ちゃこさん:そうなのね!(笑)。図鑑の18ページくらいのところにタンポポが載っているんだなって、映像として具体的に思い浮かべることができるからすごくいいと思います!
ちょっと気になったのが「記憶の限り作る」というト書。映像化するとき、監督さんはどんな映像を撮ればいいのか悩んじゃうと思います。
「記憶の限り作る」というのをどんな“絵”にするか。例えば、みなとのこれまでの記憶が走馬灯のように映像として流れていて、そういう中で料理をしている、とかね。なるべく「“絵”にしやすいト書を書く」というのを意識してくださいね。
あと、料理をするシーンで「ざくざく切って、炒めて、ドレッシングをかけると完成だよな」というセリフがありましたよね。このシーンは“絵”に出来ると思うの、セリフじゃなくて。
ざくざく切っている絵があって、炒めている絵があって、ドレッシングをかけている絵があって、というふうに映像で見せていくと、観客が「おいしそうだな」って思う、香りが感じられるような見せ方ができると思います。この表現方法は「カットバック」というシナリオの技術です。“絵”をたたみかけるようにして見せていく。この技術を使うと、より映像的に表現できるようになるし、小説を書くときもこれを意識すると文章のリズムやテンポが良くなりますよ。
〇新井:カットバックはこれから「考える部屋」でやるからね、楽しみにしていてください!
創作をするということは、あなた自身を客観視してみること
――ここまで、中間発表会の模様をお読みいただいて、「シナリオと小説の形式は違うのに、シナリオが書けるようになると、小説のスキルもあがるの?」という方は、「小説を書くときにもシナリオの技術は使えるんだな」と感じていただけたのではないでしょうか?そんなアナタにもう一つ、中間発表会でお伝えした言葉を。
〇てっちゃん:シナリオ・センター創設者・新井一のこんな言葉があります。
<創作をするということは、あなた自身を客観視してみる必要があるのです>
人に見せる、人に伝える、ためには、自分自身をちょっと俯瞰で見てみる。これを「客観視」といいます。
〇新井:創作における「客観視」というのは、自分が書いたものが、どういうふうに相手に伝わるのか考えることです。これができると、より面白いものが作ることができます。
――「考える部屋」は全24回。12月15日実施のエピソード24は大発表会です。そこにむけて2期生メンバーは、さきほど出たカットバックなどのシナリオの技術をたくさん吸収して、「この表現で人にちゃんと伝わるのか」という客観的な視点も身につけていきます。大発表会の模様もご紹介予定ですのでお楽しみに!
※「面白い小説を書けるようになるためにシナリオを学んでみたい!」という方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
▼小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧
比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう!
“だれでも最初は基礎講座から”~基礎講座コースについて~
シナリオ・センターの基礎講座でご紹介している映像シナリオの技術は、「魅力的なドラマ」を作るための技術です。テレビドラマや映画などの「映像のドラマ」を作るだけではなく、小説やアニメ脚本・マンガ原作など、人間を描くすべての「創作」に応用することができます。まずはこちらの基礎講座で、書くための“土台”を作りましょう。
創作好きなお子さんがお近くにいましたら!
「考える部屋」についてはこちらも参考にしてください。
▼小学5・6年生、中学生向けオンライン創作講座『考える部屋』まとめ
▼観客・視聴者・読者が 「おもしろい!」と思うシーンを考える:『考える部屋Ep6』
▼『考える部屋』EP12 中間発表会「物語を書くのが好き!」な子どものチカラ