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矢口史靖監督流 ミュージカル映画が出来るまで

2019.08.28 開催 THEミソ帳倶楽部「映画『ダンスウィズミー』を撮って―矢口流ミュージカル映画が出来るまで―」
ゲスト 矢口史靖(映画監督)

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2019年12月号)から。
今回は、映画『ダンスウィズミー』の公開を記念して、矢口史靖監督をお招きした模様をご紹介。制作エピソードに加え、これまでの作品がどのようにして作られたのか、とっておきのシナリオ作りの秘訣も交えてお話しいただきました。脚本家や映画監督になりたいかたは是非参考にしてください。

ずっと撮りたかったミュージカル映画

矢口史靖です、今日はよろしくお願いします。今回の『ダンスウィズミー』は長編映画10本目になります。「ミュージカルを採り上げたのはどうしてなんですか?」ってよく聞かれるんですが、実はミュージカルは好きで、いろいろ観てきて、いつかやりたいとずっと思っていました。

『スウィングガールズ』を撮った時には、脚本にワンシーンだけ「ここはミュージカルになります」って書いていて、実際に撮影するつもりでいました。

でも直前になって、アルタミラピクチャーズのプロデューサーの桝井さんに、やめたほうがいいと止められました。なぜかと聞くと、「この作品は17人の若い女の子たちに、お芝居だけでなく演奏もしなければいけない。その上にミュージカルなんてやったら、どっちも上手くいかなくなってしまう」と言われました。

「どうしてもやりたければ、いつか本気で全編ミュージカルの作品をやろうよ」と説得されて、その時は諦めました。でも本心では、頑張ればやれたんじゃないかと思っていたんですけど、今回『ダンスウィズミー』を撮影してみて、あの時、桝井さんに止めてもらって本当に良かったなと(笑)。こんな大変なものなのか……というのを味わいました。

その後もいつかやろうやろうとは思っていたんですが、なかなか思い切れずにロボットや飛行機や停電の映画を作ってきました。それには理由があって。あるシーンを歌とダンスで描く、というのがミュージカルですよね。

だいたい主人公の感情が高まったところでミュージカルになり、歌の中で心情を吐露したりします。でもよく考えてみると、そのミュージカルシーン、なくて成立するんじゃない? というものが多いというか、だいたいそうなんですよね(笑)。

映画としては華やかで楽しいものになるんですが、ストーリー上、歌やダンスがあってもなくても同じなのではないかというものがほとんどで……。自分がやるんだったら“ミュージカルじゃないと描けない”物語を作りたいと思っていました。そのアイデアがなかなか浮かばなかったので、踏み切れなかったんです。

ただ『サバイバルファミリー』を撮っている最中だったんですが、不意にこれならミュージカルができる、そんなアイデアを思いついたんです。それが催眠術でした。催眠術にかかることで、ミュージカルじゃないと描きようがない映画を作れるなと。

シナリオ・センターでお話しするなら、と家で調べてきました。初めてプロットを書いたのが、2016年10月6日でした。その次の年2017年の8月2日にシナリオの第1稿を書いていて、2018年の7月12日が決定稿。計12回シナリオを書き直しました。振り返ってみると、意外と時間をかけていたなと思いました。

主人公の人物設定は、ミュージカル催眠にかかって然るべきはどんな人物か、どういう人なら、踊り出した時に困っちゃうのかなっていうところから、主人公の設定が決まりました。その原因を作ったちゃらんぽらんな女性と一緒に解決への旅をする、というところはプロットの段階からほぼ決まっていました。

※YouTube
ワーナー ブラザース 公式チャンネル
映画『ダンスウィズミー』本予告【HD】2019年8月16日(金)公開

プロットからシナリオへ

プロットはうまくいく所、いかない所があったとしても、とにかくエンドマークまで必ず書きます。書き上がったプロットは、まずかみさんに見せる。かみさんから「このシーンとそのシーン、役割が一緒じゃない?」みたいな、結構キツイことをズバズバ言われるんです。

「ここ、面白い」とは絶対に言わない(笑)。かみさんのダメ出しがある以上は、外には出せない。でも否定されたところをよく見ると、確かにって思うことも多い。よーし、かみさんを面白いって言わせてやるぞ! とまた頑張ります。

それで、かみさん的にもこれでいいんじゃないのとなると、やっと家から外に出します。プロデューサーの桝井さんに見せて、面白いって言ってもらえれば「脚本にしていいですか?書いちゃいますよ」ってなるんですけど、OKが出ないと引っ込めます。

引っ込めるというか、そのまま預けちゃうんで、アルタミラピクチャーズのどこかの引き出しの中には、かつてOKが出なかった僕のプロットが、何本か眠っているはずです。

脚本になると、初めはプロット通りに展開するんですが、ただ書いているうちに、このキャラクターって本当にこれでいいのかなって思う時もあれば、そんな疑問も持たずに突っ走ってラストまで書いてしまうこともあります。

脚本になってくると、読んでくれる人が増えるので、「ここ、これでいいんですかね?」って言われたりするので、そこから直しが始まります。大体長めに書き上がるので、尺の調整もします。あの人もこの人も、こう言ってたけど、本当はここが一番面白いポイントであって、それを削るくらいだったら、あっちをなくした方がいいのかなとか、いろいろ考えます。直しをチョイチョイやっているうちに、結局12回も書き直していた、ということです。

『ダンスウイズミー』で初稿と決定稿で変わったところは、マーチン上田のシーンです。最初の稿では、マーチンは催眠術をかける時と解く時の2回しか出てこなかったんですが、桝井さんがマーチンをもっと見たいとおっしゃったので、登場シーンを増やしました。

いちばん気に入っているセリフは、主人公の静香がバスの中で姪っ子に言う『そもそもミュージカルっておかしくない?さっきまで普通に喋ってた人が急に歌い出したりしてさ、そんなのヤバい人でしょ?ミュージカルなんてバッカみたい!』っていうセリフです。

ミュージカルシーンでは、最初にマンションで踊るところです。もの凄く頑張って、パンツが見える状況を作っています(笑)。

使用曲とキャスティング

シナリオ上でどこにミュージカルシーンが入るかは決まっていましたが、楽曲はまったく決めていませんでした。ここのシーンにはどんな歌がハマるんだろうか、というものを後から探していきました。

掲載されている完成台本には曲名が載っていますが、撮影用の決定稿に、この曲をここで歌いますってタイトルも載せたのは『ウェディング・ベル』だけです。どのミュージカルシーンに関しても、脚本が出来上がってからぴったりあったものを一つ一つ探していきました。

でも許諾や使用料の問題があるので、簡単に決まっていった訳ではないです。主人公の立場や気分にちゃんとあった曲を見つけなきゃいけない。ただ、楽曲のために脚本の方を変えるということはしませんでした。

でもひとつだけ例外で、さっきも話しましたが、もし『ウェディング・ベル』の歌を使えなかったら結婚式場のシーンもchayさんの役もなくなってしまったかなと思います。

若い頃、『ウェディング・ベル』を聞いて、なんて恐ろしい歌なんだと思って(笑)。いつか映像化するなら、こんな感じかなという妄想が膨らむくらい好きな曲でした(笑)。chayさんが演じてくれたから上手くいったエピソードだと思いますね。chayさん本人に、あんなことは絶対しそうにないっていうイメージがあるから。

主役の静香は、三吉彩花さんにやっていただいたんですが、今回も大々的にオーディションをやりました。と言っても、会場はそこそこ広めのフロアのカラオケボックスを借り切ってやったんですけど(笑)。

舞台でミュージカルを経験した方もたくさん来ていただいて。舞台系の人って歌もダンスも申し分ないんですが、普通の芝居をしてくださいって言ってもなかなか普通の人には見えない。普段、舞台上で遠くの客席から見ても分かるように、大きく芝居する癖がついてるんですね。それだとどうしても映画の中の、日常のリアリティから離れてしまう。

しかもこの映画ってかなり特殊で、ミュージカルと実生活のシーンがシームレスに繋がるお話なんです。東京に住んでいて家族とちょっと疎遠で、底意地悪そうな女の子なんですよって言っても、ミュージカルシーンの流れでお芝居をするとその延長で明るく朗らかになってしまう。

そんな中で、飛び抜けてムッツリした女の子が会場に入ってきて、最初目も合わなくて。でも唄って踊ってもらったら、まるで表情が変わったんです。それが三吉彩花さんでした。

今回欲しかったのは、ミュージカルの最中は溌剌とした華やかさで、その直後は「やっちまった!」と落ち込み、周りから白い目で見られるわ、場合によっては捕まったりもする。そんな天国と地獄みたいな落差を大きく持った人物を探していたので、彼女がダントツに役に合っていると思いました。

宝田明さんの起用は、恥ずかしながら白状しますと、宝田さんの舞台にしろ映画にしろ、ミュージカルをされていた時期を僕はほとんど目撃していなくて、知っていたのはデビュー作の『ゴジラ』くらいでした。その後、だいぶ時を経て、映画館で宝田さんに遭遇したのはディズニーの長編アニメ『アラジン』の吹き替え版でした。今は吹き替えでも歌とお芝居の両方をやれる方はいっぱいいらっしゃいますけど、当時はそんなに多くなくて。

でも、この『アラジン』では、山寺宏一さんがジーニーを、宝田さんがジャファーを歌と芝居の両方やっていらっしゃって、とても良かったんです。特にジャファーは悪役でインチキくさいんだけど、どこか憎めない面白さがある。

あの役そのものが、マーチン上田に近いなと思って。歌って踊れるおじいさん。これは宝田さんでしょうと、ダメ元でお願いしました。とりあえず連絡を取ってみましょうってことになり、宝田さんが、台本を読んだらぜひということで引き受けていただきました。

皮肉と本気のミュージカル

もともとミュージカルは結構観ていましたが、もの凄くハマって気持ちのいいものもあれば、乗りそこねるものもあります。ミュージカル嫌いの方が「急に歌ったり踊ったりするのは変でしょ?」って言うんですけど、その気持ち、まったく同感です。でも、その違和感そのものを楽しむのがミュージカルだと思うんですね。

僕は『ウェストサイドストーリー』とか『サウンドオブミュージック』とか、普通の生活と景色の中で突然歌い出して、またドラマに戻っていくような、現実には歌ったり踊ったりしちゃいけないところで展開するミュージカルが大好きです。

逆にあまりときめかないのは、歌手が主人公とか、バックステージもの。普段から演劇やダンスをしている主人公が、いくら歌ったり踊ったりしても、別に違和感はないですよね。それ、当たり前すぎて誰も文句言わないもんってワクワクしない。やってはいけない場所で堂々としでかしているミュージカルこそが楽しい。そんな偏った観方をしている人が他にもいるのかは分かりませんが。

「現実にはそれをやっちゃダメでしょ」って言い出したら、ミュージカル映画史を遡ると逮捕者続出ですよね。高速道路を占拠したりとか(笑)。刑務所がいっぱいになると思うんですけど、今までのミュージカル映画では誰も捕まってない(笑)。だからちゃんと捕まる映画を作りたいと思ったんです。

『ダンスウィズミー』は、入り口こそはそんな皮肉から入っていますが、もともとミュージカルが好きで、そんな本気な部分と皮肉とを、ちゃんと両方見せたかったんです。よくよく考えればこれって歪んだ愛情ですね(笑)。

撮影で苦労したのは、すべてのミュージカルシーンです。歌や音楽のフレーズに合わせてカメラを移動していく工夫を心がけました。最近は踊るミュージックビデオなどが流行っているので、大勢の踊りを正面から撮ったり、全員が同じ動きをするという演出になってしまいがちなんですが、映画のミュージカルはそこが大きく違うと思うんです。

「正面」などというものは存在しない、カメラは後ろにも、真上にも行きます。踊りは一人一人違う動きを。そう振り付けの方に頼んだら、もの凄く困っていらっしゃいました。

今日はミュージカルシーンの絵コンテを持ってきたので、皆さん、回して見てください。今日の分はミュージカルシーンなので、かなり早めに描いたものですが、芝居の絵コンテは撮影の日の朝に書きます。早いうちから皆に配っても、ロケ地は状況が変わっちゃうんですよね。

『サバイバルファミリー』などでも、川が増水していて予定の場所に入れなかったとか、草が生えているはずだったのに枯れていたとか。天気に左右されるし、太陽が落ちればデイシーンは撮れない。ロケって大変だし、面倒くさいんですけど、それでもセット撮影よりロケが好きなんです。

『ハッピーフライト』の時はセットを3つ使いましたけど、それ以外の映画は全部ロケです。今回の『ダンスウィズミー』も全てロケで撮影しました。

物語は、最終的には北海道くらいまでは行きたいなっていうのがありましたが、ルートは決めていませんでした。ロケをしていくっていうことは、その地域の協力が必要ですし、お金もかかりますから、必ずこの場所でなければダメという時以外は、ある程度舞台設定はフレキシブルに考えておきます。今回の撮影は2ヵ月半くらい掛かりました。

マーチン上田を捕まえる最後のチャンスというクライマックスは、悩ましいシーンでした。静香の催眠が解ける。ケンカ別れしていた静香と千絵の友情が戻ってくる。千絵とマーチンの関係とか、マーチンの催眠術師としての復活もあり。興信所の調査員が機能しつつ、借金取りの3人にも見せ場がある。

あとchayさんの役もちゃんとオチがつかなくちゃとか、テンコ盛りで。そうするためにはどうしたらいいのか、凄ーく考えました。ストーリーの流れとミュージカルシーンが、説得力のある着地をしなくてはいけない。

要素がいっぱいありすぎて、久々に撮影中に脚本を変えるという荒技もやっちゃいました。ただ脚本と演出を自分で両方やっているので、「脚本家さん、ここ変えていいですか?」っていうお伺いを立てたり、モメたりしなくてとても便利です。

『雨女』でPFFを受賞して

僕が映画を撮り始めたのは大学に入ってからです。8mmフィルムの初めての長編が『雨女』(72分)で、雨が降りっぱなしの中、世間のルールを無視しながら二人の女が無軌道に疾走するという映画です。

ちゃんとした脚本があるわけではなく、ノートの端にセリフと絵を書いて、こんな風に喋ってほしいっていうのを見せて、色んなシーンを思いつくままに撮っていました。

でも撮影を始めて1年くらい経った頃、僕一人でこっそり電柱に昇り、電線を撮っている最中に落ちて手足を骨折して入院しちゃったんです。病室では暇で暇で、『雨女』の今後の展開のことをずっと考えていました。雨が降り続けていたけど、突然晴れることで二人の生活が破綻することにしよう、そんな二部構成にしようって思いつきました。怪我してもタダでは起きない(笑)。

退院後、『晴れ』編を撮り始めて完成まで2年半かかりました。大学3年から始めていたんですが、卒業すると大学の機材を貸してもらえなくなるんですよ。だから居続けなきゃいけないと思って、院生になり、『雨女』を完成させた後は大学に行かなくなっちゃいました。

その『雨女』が、1990年のぴあフィルムフェスティバル(PFF)のグランプリを受賞して、次回作のお金(スカラシップ)をもらえることになり、そこから初めてプロデューサーと呼ばれる人と仕事をすることになりました。

「お前、シナリオ勉強しろよ」っていきなり言われて、初めてシナリオの書き方の本を買いました。それを見ながら『裸足のピクニック』を書いたんです。グランプリを受賞してから1年半も経っていて、その間にいくつも企画を出した中の1つでした。

最初は『日本最大の稀に見る不幸な女』というタイトルをつけていたのに、プロデューサーに変えられちゃいましたね(笑)。でも僕のつけるタイトルはいつも却下になるんです。

『ダンスウィズミー』も元は『歌劇な彼女』ですし、『サバイバルファミリー』は『OFFの細道』ってタイトルつけてたんですけど、すぐさま却下(笑)。たぶんプロデューサーに任せたほうがいいみたいです。

とにかくそれまではシナリオを読んだことも書いたこともなくて、柱があってト書があるっていうのすら知らなかった。本を読んで勉強したような気にはなっていましたが、おそらくシナリオの作法としては無茶苦茶だったと思います。次に『ひみつの花園』という映画を撮ったんですが、これも作法はあまりこだわらずに好き勝手に書きました(笑)。

「断るのやめます」

3本目の『アドレナリンドライブ』のあとの『ウォーターボーイズ』は、桝井さんから「男のシンクロ映画をやろう」って誘われたんですけど、実はすぐ断りました(笑)。だって僕、男のシンクロ映画って聞いて、コントの映像しか浮かばなかったんです。男が女性用の水着を着て、メイクして、洗濯ばさみのようなものを鼻につけてみたいな……(笑)。

即決で断ったら、桝井さんから「VHSビデオを送るから」と。川越高校の男子生徒たちのVTRが家に送られてきました。それを見た時に、自分の想像力のなさを恥じましたね。

今となっては、川越高校のシンクロは映画だけでなくドラマにもなったし、ニュースでもよく取り上げられるので、知らない人はいないと思うんですけど、本物のシンクロ(※シンクロナイズドスイミング→現在は「アーティスティックスイミング」)とはまるで違います。

競技のものは大抵は屋内の水深の深いプールで、多くても10人だったかな、少ない人数でやるんです。でも川越の男の子たちは部員全員参加の30人とかで、足が着いてしまう浅い50メートルの競泳プール。

青空の下、大勢で群舞をする。泳いでいるだけかと思ったら、プールサイドでも踊ったり。とにかくショーとして面白いんです。想像していたものとはまったく違って、これは映画にしたいと思って、「断るのやめます」って連絡しました。

でも取材はそんなに多くはしなかったです。川越高校の卒業生にも集まってもらって話を聞きはしたんですが。面白かったのは、シンクロを始めたきっかけの部分でした。川越高校は男子校で、近くに女子校もあるんですけど、女子と出会うチャンスがなかなかなくて、堂々と会えるのは文化祭くらいだって言うんです。

一番人気があるのがバスケ部のオバケ屋敷で、ほかの部も負けじとアイディアを凝らすんですが、水泳部はいつもプールサイドで喫茶店をやっていて、全然女子が来てくれない。何か手を打たなくてはということで、喫茶店をやりながらシンクロ始めたら、女子が来てくれるようになった。

それで女子にキャーキャー言われたいってことで、もう喫茶店はやめて、シンクロに特化していったと。毎年3年生が受験勉強のために部活を引退する前に構成を考えるというのが伝統になったということでした。そんな下心だけで始まったっていうのがとても面白い。シンクロを世に広めたいとか、自己表現をしたいとかではなく、ただモテたいだけっていうところが可愛らしいって思いました。僕は、ダメ人間のほうが好きなんですよね。

次が『スウィングガールズ』で、これは僕が見つけてきたネタです。兵庫県に女子だけでやっているビッグバンドがあると聞いて、フジテレビのプロデューサーさんと桝井さんを誘って取材に行ったんです。真冬で、もの凄く寒くて、音楽室がキンキンに冷えている。授業中はストーブをつけてもいいけど、放課後には消えちゃうんですって言って、セーラー服の下はセーターとかジャージでモコモコなんです。

これ大丈夫かな?と思ったんですが、演奏が始まったらとんでもなくカッコいい。この見た目と演奏のギャップが魅力だな、と。そこをより強調するにはどうすればいいか、と考えているうちにズーズー弁の東北が舞台になりました。

『ハッピーフライト』と『WOOD JOB!』

飛行機に惹かれてしまったのが『ハッピーフライト』です。きっかけは、ある方に「航空パニックものってハリウッドでは沢山あるのに、日本ではないよね」って言われて、航空パニックものが好きだった僕としては、いつかやりたいと思っていたんです。日本で誰もやらないのは、規模が大きすぎてやれないからだよ、とは分かってはいたんですけど、『スウィングガールズ』の次につい手をつけてしまいまして(笑)。

まあ、脚本を書く前に2年くらい取材はしているんですけど(笑)。書き上がったものは、一読して「こんなの撮れる訳ないでしょ」という脚本でした。

でも僕には秘策がありまして、「ほとんどミニチュアでいけます」と。でもそれは怪獣映画のようなミニチュアではなく、本物に見えるミニチュア撮影をしたいということです。

自然光で撮影するとかなりごまかせるんです。飛行機なんで、バックは基本的に空と雲ですからね。本物の空を背景にすればセットは作らないで済んじゃう。だから、あの映画の中で本物の飛行機は飛ばしていません。上手くいったと思います。実は『WOOD JOB!』も、クライマックスの祭りはほぼミニチュアなんです。

『ハッピーフライト』は登場人物が多いんですが、描き分けるコツとしては、すべてのキャラクターを身近な人に置き換えて考える。どこから見ても完璧みたいな人間なんていないし、そんな人は登場してもつまらない。

この人、こっちから見ると素晴らしいけど、別の角度から見たら面倒臭いよね、みたいな。いつも仕事の時は格好良いのに、私服になった時は長靴を履いて、水たまりをバシャバシャやっていましたよ、あの晩……みたいなのが記憶に残っていると、可愛げとして入れたくなるんです。いいところもあれば、こんなダメなところもあると。

頭の中で想像しただけではなく、身近にいる人をどんどん取り入れてしまえば、キャラクターの魅力が増していくんです。この人、単にストーリー上いるだけだよなっていうのはつまらない。書いているうちに好きになって、セリフを一言加えたいなって思うこともあれば、現場で思いついて加えることもあります。

登場人物に対するもっと面白い奴にしたいって欲は抑えずどんどん追加します。気がついたときには、すべてのキャラクターが魅力的になっていくんじゃないかなと思います。今日は僕の凄い秘密を暴露してしまいました(笑)。

アイディアを練るのはいつも散歩中。メモ帳とペンだけ持って歩いています。家にいると、パソコンやテレビで情報が向こうからどんどんやってきてしまうので、一切繋がらない状態にしたくて、散歩に行きます。スマホも持ちません。アイディアがたまっていったら、パソコンに書き出します。

『WOOD JOB!』は、監督をしてほしいとのお願いがあった時、原作をもとにした脚本がすでにある段階でした。ところが、読んでみたら原作のダイジェスト版という感じで、演出目線で考えるとあまりそそられるものがなかった。

「今ある脚本は一旦忘れて、三重県に取材に行かせてもらい、好きに書かせてもらえるのなら引き受けられるんですけど、どうでしょう?」と結構生意気なことを言ったんですが、なんと承諾していただけたので、引き受けた仕事です。

三重県の山と村に9ヶ月ほど取材に通いました。原作の中に描かれていることは活字の情報で、自分が体験したことでも、体験した人から聞いたことでもないですから、詳細は分からないんですよね。だから取材が必要でした。

原作の中にあった山岳信仰といいますか、林業をやっている人たちの山への思い、それとクライマックスの祭りが死ぬほど面白いと思ったんで、そこに取材で得たものを盛り込みました。そうしたら原作とまったく形が変わってしまったんですけど、出来上がった脚本を原作者の三浦しをんさんに見せたら、「面白いから、そのままやってください」と言っていただきまして、無事に作ることができました。

光の部分と影の部分

『サバイバルファミリー』はもしもこの世から電気がなくなったら、という設定です。きっかけそのものは、『ウォーターボーイズ』をやっていた頃に、初めて携帯電話を持たされて、同時に家にデスクトップのパソコンがやってきたという事件が起こりました。

ところが僕は、携帯もパソコンも上手く使えなかったんです。いまだにスマホを持っていないのは、どうせ使いこなせないからなんです。気がつくと世の中はどんどん進化していって、「そのツール、使ってくれないと皆も困るんですよね」って周りが言う訳です。憎たらしい訳ですよ。僕が悪いのかって思って。いや、僕が悪いんですけど(笑)。だったらいっそのこと、電気とか全部止まってしまえばいいのにって。

インターネットのせいで、世の中がどんどんつまらなくなってない?というネット社会へのアンチテーゼですか。なんて言うと格好いいんですが、どちらかというとそれは建前で、本音は機械音痴の恨み節です。全部止まっちゃったらどうなるのかなというのを、いろんな方に取材してみたら面白かった。

多分、普通の会社は作らせてくれない話ですよね。制作にフジテレビが入っていますけど、いまだにテレビで放送していないのは、「いっそ電気がないほうが世の中面白くない?」っていう映画は、テレビじゃやりづらいのかもしれません(笑)。

次の作品はまだ決まっていないです。今まで10本やってきて、題材を選ぶ時はかなり吟味します。「シンクロっていいですよね」とか「ミュージカル最高」みたいな信奉者ではなく、どこか斜めから観ている意地悪な部分と、愛おしくて好きな部分、光と影の両方を感じるものに惹かれる傾向が、どうも僕にはあるみたいです。

オリジナル脚本でしかやらないんですか?と聞かれることもあるんですが、「こんな面白いのは僕には絶対に書けない」っていう脚本があれば、それはもうすぐにでも監督させてもらいたいと思います。今、皆さんの目が光りましたね(笑)。

原作ものは1本しかやっていないんですが、なぜかと言うと、小説とかマンガとかのメディアの中で最高に面白く仕上がっていて、映像に置き換えたとして、それ以上のものになるんだろうかって考えちゃう。一応CGで再現しました、翻訳しましたみたいな感じは意味あるのかなって。単なるコスプレみたいになるくらいなら、僕にはできない。

『WOOD JOB!』は唯一『神去なあなあ日常』という原作があるんですが、山の景色とか空気感とか、祭りのダイナミックさとかは映像化する意味があるんじゃないか。これは自分が映画にする意味がある、人に撮られたくないなと思ってやりました。

結局は自分が楽しいかどうかで撮るものを選んでいるんで、だから僕はプロの映画監督とは言えないかもしれませんね。

最後に、僕は監督もして脚本も書いているので、脚本家になりたいという人に適したメッセージを言えないかもしれませんが、映像に出来ないことを書いても仕方ないんです。

例えば『大宇宙の深淵なる混沌に、ものの見事に恐ろしい怪物がブラックホールのような形で現れる』みたいなことを書いても撮れません(笑)。今、CGがいくらでも使える時代なので、『大宇宙の深淵なる混沌』も撮れない訳ではないかもしれませんが、今のお客さんは、これCGで撮ったんだろうなって分かっちゃうので面白くはないと思うんです。

現実に撮ることができて、しかもワクワクするもの。スケール感ばかりを追いかけるよりも、見ている間じゅう観客の感情があっちにいったりこっちにいったりする物語があれば、題材がどうあれ、面白い映画になると思います。でも皆さん、頑張りすぎないでください、僕の仕事が減るので(笑)。そしていつか現場で会いましょう。

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「映画『ダンスウィズミー』を撮って―矢口流ミュージカル映画が出来るまで―」
ゲスト:矢口史靖(映画監督)
2019年8月28日採録
次回は12月28日に更新予定です

※映画『ロボジー』の公開を記念してお越しいただいたときの模様をご紹介した記事「矢口史靖監督に聞く 脚本が悪ければいい映画はできない」も併せてご覧ください。 

プロフィール:矢口史靖(やぐち・しのぶ)

東京造形大学時代に映画制作を始める。『雨女』(1990)がぴあフィルムフェスティバルPFFアワードのグランプリを受賞。第7回PFFスカラシップ作品『裸足のピクニック』(1993)で劇場映画監督デビュー。『ウォーターボーイズ』(2001)で注目を集め、日本アカデミー賞優秀監督賞と脚本賞を受賞。『スウィングガールズ』(2004)も大ヒットし、同賞最優秀脚本賞を受賞。そのほか『ハッピーフライト』(2008)、『ロボジー』(2012)、『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』(2014)、『サバイバルファミリー』(2017)など話題作多数。

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