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どういう脚本家 が求められますか?/
脚本家 清水有生さん×プロデューサー 丹羽多聞アンドリウさん

2017.03.04 開催 THEミソ帳倶楽部「脚本家×プロデューサー 脚本家の視点、プロデューサーの視点」
ゲスト 清水有生さん(脚本家)、丹羽多聞アンドリウさん(BS-TBSプロデューサー)

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2017年7月号)から。
今回は、2017年3月に公開された映画『コスメティックウォーズ』のプロデューサー丹羽多聞アンドリウさんと、同映画のシナリオを執筆されたシナリオ・センター出身の清水有生さんにお越しいただいた模様をご紹介。当日は丹羽さんによる進行で『コスメティックウォーズ』をはじめとしたシナリオ作りについてお話しいただきました。また、「どういうライターが求められていますか?」「ホン打ちでの直しとは?」「シナリオに個性がないと悩んでいますがその打開策はありますか?」「シナリオの勉強にお薦めの作品は?」といった質問にもお答えいただきました。脚本家志望者なら知りたいことですよね?ぜひ参考にしてください。

自分から遠い題材だから書けた

丹羽さん:清水さんとのお付き合いは、ずいぶん前ですが1995年に遡ります。終戦50周年記念の2時間ドラマ『こちら捕虜放送局』を、私が初プロデュースした時の脚本家が清水さんです。すでにベテランだった清水さんに、面識がなかったのにある日突然電話して、『あなたのホンが気にいってるので、ぜひ書いてください』って、お願いしました。

清水さん:そうそう、「TBSの丹羽ですけど、ちょっと会えませんか」って電話がかかってきて。うちは都心からちょっと離れたところに住んでいるので、そうしたらわざわざホテルに前泊して来てくださいました。

丹羽さん:今回清水さんに書いてもらった映画『コスメティックウォーズ』は全国26館規模の短館系の映画です。

まず日本映画の状況を話しておきます。年間1000本以上映画が作られています。皆さんにもチャンスがあるわけなんですが、逆に言うと公開されない映画も増えている。大手の4大映画以外の映画、いわゆる単館系は、作っても公開されないことが多くなっている。以前は公開されると1日5回くらい上映していたんですが、今は1日2回とか3回しかかからない。単館系にとって興行で稼ぐのは非常に辛い立場です。

さらに追い打ちをかけるようにDVDが売れない時代で、映画のあり方が変わってきている。清水さんは今回、急に映画をやりましょうと言われて、どうでしたか?

清水さん:いきなりそこですか(笑)。僕はほとんどテレビしか書いていなくて……。映画って、いろんな事情で企画がなくなっちゃうことがある。ハリウッドのプロデューサーから英語のメールが来て、ぜひやりたいとか言われて、1年間企画を預けたりしたこともあります。でも塩漬けになり全然実現しなくて……。だから映画ってなかなか大変で、達成感はあるんでしょうけど、あまり意欲が湧かなかった。

今回は実現性が非常に高いということで引き受けました。でも化粧品メーカーの話ですよって言われた瞬間に、ちょっと無理だなと。もともと女の人を書くのは得意でないし、化粧品も遠い世界。最初正直、丹羽さんの顔を潰さなきゃいいけどなあという気持ちでした。

丹羽さん:チラシやポスターもそうですけど、スタッフは監督も脚本家も音楽も全部男性です。実際、化粧品会社を取材してみて、女性目線を描くというのはどうでしたか?

清水さん:主人公が女性であれば女性目線で描くわけですが、それよりも何よりも化粧品っていう題材が、そもそも自分には遠くて、だからこそ書けちゃったという気もしています。

皆さんにも似たようなことがあると思います。自分がよく知っていることや得意なことって、書いてみると変に饒舌で独りよがりなホンが多い。指摘すると「だって私、これ本当によく知ってるから」って言う。わかっている分だけ思い入れもあるんで、余計なことまで書いちゃう。僕の場合、正直興味のない世界だったので、逆にほどよい距離感で書けた。

化粧品の研究所って本当にスゴい。口紅の試作品や美溶液が並んでいて、研究員が作業している。女の人が見たらトキメいちゃうと思います。でもオイルと何かを混ぜ合わせたりしていても、僕にはサラダオイルか何かにしか見えない(笑)。これでどのくらい儲かるんだろうとか思っちゃう(笑)。そういう距離感があったから、たぶん本筋のほうをきちんと描けたかなという気がしています。

取材で一番大事なこと

丹羽さん:僕はいろんなライターと仕事をしますが、皆さん取材をちゃんと生かしますね。リアリティと取材ということでいうと、僕ら、世界観をスゴく大事にしています。

でも新人ライターさんって世界観がないことが多い。僕は今までにベテランから新人まで付き合いがありますが、世界観を作るためには、特にリアルなことを舞台にする場合、取材が非常に大事です。今回は実在するアルビオンという化粧品会社を取材しましたが、清水さんの場合、作家としては今回どういうところに気をつけましたか?

清水さん:取材していろいろ見せていただき、教えていただいたんですが、ザクっと2つのことを感じました。取材で一番大事なのは、自分が驚いたり「えっ!」と感じたりすること。そのまま脚本に驚きとして表現できるんです。

アルビオンの企画部に行ったら、映画で大政絢がやっているようなボスが、ボスと言っても若い女性の方なんですけど、いきなりスッピンでした。化粧品メーカーの女性はバッチリメイクを決めているかと思ったら、ホントにスッピンで、ゆでたまごみたいな顔をしていた。それで驚いた。

なんでスッピンなのって聞いたら、アルビオンでは企画の人も自分で使ってみて、研究員や作る人とディスカッションするって言うんです。自分で使ってみなくちゃわからないから、そもそもメイクする必要性がないっていう。そこに、またもう1つの驚きがありました。モデルさんとかモニターを使ってやっているとばかり思っていたら、ご本人が全部使って企画を立てているっていうのは、侮れない、スゴいなと。

アルビオンという会社は、創業60周年で、社員も数千人いる大きい会社なんですが、最大手化粧品メーカーや外国の有名メーカーに比べるとそんな大きくないので、それで社員がやっているのかと思ったんですが、そうではなく、本当に商品を大切にしている。これが2点目の驚きです。

それで何を大事に取材したかというと、働いている人の精神性とか考え方、会社に対する愛情とか、そういうところを知りたかった。みんな誰でも会社で働いていれば、自分の会社を誇りに思っているかというと、そんなことない。しょうがなしにやっていたり、イヤな上司とかって思いながら働いている人もいる。

でもアルビオンは愛社精神が強くて、それがこの映画のシナリオを描く時に人物に反映させることができた。会社を愛しているという強い気持ちがうまくいったり、裏切られたり、ダメになったり。これがドラマになるなと。僕は働いている人のそこばかり見ていた。そこが一番大事だった。

丹羽さん:店舗にいる女性の方や研究所にいる研究員、いろんな方に取材しましたね。でも清水さんがおっしゃられたこと、この2つがなければ、この映画のテーマはわからなかった。取材してから作ったんですよね。化粧品会社を舞台にするっていうことだけ決まっていて、大筋で、大政絢がどんなことしながら成長するかっていうところだけ考えて提案しました。清水さんは取材時にはいつもどういうところに着目してますか?

清水さん:僕もいろんな取材をやってきましたが、ここ触れちゃったらヤバイだろうなっていうところに、どう触れるかっていうのが、取材にあたっての一番のテーマですかね。

NHKの朝ドラ『あぐり』を書いたときは、執筆期間が1年間あるんですが、僕、あぐりさんを一切取材しなかった。書く前には1回も会ってないんです。会ったら、人間のズルさとか怪しいところとか書けなくなるのが嫌だった。会ったらきっと書けなくなっちゃうだろうって。

自分なりのテーマと世界観で書く

丹羽さん:試写をご覧になっていかがでしたか?

清水さん:こういうのって質問に答えてるかどうかわからないけど、本当に脚本の通りに監督が撮ってくれていたんです。

丹羽さんが脚本家の立場を本当に大切にしてくれて、一字一句変えさせないと。変える場合はちゃんと作者に了解をとるようにって、本当にコープロデューサーの方から毎日のように「このセリフ変えていいですか?」って連絡が来る。たいした変更じゃないんですよ。流れとして、こういうふうに言いたいとか。僕はそのたびに「どうぞどうぞ」って、もう次の仕事に入っていたので、とにかくいいからどうぞみたいになるんですけど(笑)。でもていねいに、その通りに撮ってくれたのがいいなって思いました。

僕は『3年B組金八先生』を書いていましたけど、主人公がめちゃくちゃアドリブを飛ばしていて、気づいたらシナリオと全然違うじゃないっていうこともあって。僕もスタジオで聞いているんですが、「あれ?うーん」って唸っているうちに、いつの間にか1時間ドラマになっちゃう……(笑)。もうこれはこれでいいかって、自分に言い聞かせながら帰って行ってましたね(笑)。

丹羽さん:僕らの世代くらいではね。脚本家を尊重するのが当たり前で、直したい時は脚本家に直してもらう。その分の原稿料も払ってるわけだから、どうしても直したい時は脚本家の知恵を借りようよ、脚本家に直す時間を取ってもらおうよっていうことをやってるだけなんです。特にハコを変えたい場合にはね。監督によっては、打ち合わせでアイディアが出てこなくて、現場に入ってから出てくるっていう人もいるので、そういう場合も可能な限り連絡を取ります。

清水さんとはもう1回やろうって言って、6月にサンシャイン劇場で『ファラオの墓』というモーニング娘。17のミュージカルを私のプロデュース、清水さん脚本でやります。

清水さん 今から4000年前のエジプトのこと、知ってる人いますか? 何を食ってたかとか、そもそも歌を歌うわけですけど、エジプト人はどういう歌を歌っていたのかとか。実際、ハープを弾いているって書いたら4000年前にハープがあったか、わからない。調べたらあったんですけど。ほぼそういう状態で書くしかない。これは私の長年の作品歴の中では異作中の異作です。なにせモーニング娘。のミュージカルですからね。

そもそも僕、若い女の子を中心にしたものって書いたことがない。実際に劇中にはお姫様もいれば王子様もいたり、悪い企みをしているお爺さんがいたり。それを全部女の人だけで、宝塚の人も入れてやる。

4000年前のエジプトだけど、自分なりのテーマや世界観で、今の日本だと思って書こうと。隣国との戦いが起きて、王と王が殺し合う。その間に入った女の人がどっちかを好きになっちゃうって話というのは、日本と中国の話だと思えば書けるかなって。自分の世界観ですね。諍いばかりしてないで、みんな仲良く平和にやっていきましょうっていうテーマ性みたいなものを自分に持てれば、エジプトであろうとギリシャであろうと、どこでも同じものを書けると思う。

少女歌劇でもむしろ辛口でいい。丹羽さんは男気があるので「予定調和の甘ったるさはなくていい」って言ってくれて。その点では、苦手な世界だったけど書けたかなと思います。自分なりに職人気質だと思ってるので。モーニング娘。を僕が書くはずがないって最初は言ってましたけどね(笑)。

年末に丹羽さんから原作の『ファラオの墓』が送られてきて、正月はそれをずっと読んでた。そしたらうちの娘に「どうしたの?お父さん、大丈夫?」って言われました(笑)。「モーニング娘。」だって言ったら、動揺してました。だから、ホントだったら無理って投げ出したいんだけど、それを60すぎたオヤジが書くっていうところがカッコいいかもって、自分で気合いを入れて書いたという感じです。

丹羽さん:鴨下信一さんっていうテレビの神様と言われた演出家がいらっしゃって「脚本家はお仕着せがいいんだ」って昔から、よくおっしゃっていました。お仕着せっていうのは、とにかく仕事が来たら、それをやるということ。いい意味で言ってる。それが勉強になるし経験値を増やせるということなんです。

人間力とチャンスをつかむ能力

丹羽さん:ここからは皆さんからいただいた質問にお答えしていきます。

まず、どういうライターが求められていますかっていうことなんですが、以前BSで、『恋する日曜日』っていう1話完結の30分のドラマを半年間作っていたときのことです。

知り合いから脚本家になりたいっていう人がいるからって頼まれて、じゃあ『恋する日曜日』のあらすじ出してって言ったんです。そしたら半年後2クールの放送が終わったあとにあらすじが来た。もったいないと思いません?企画書出してってプロデューサーに言われたら、普通1週間以内に、いや明日出しますよね。だからチャンスはちゃんとつかんでほしいというのが1つと、あともう1つ、人間力だと思うんです。

僕がBSに行った時に、新人の作家さんがホンを送ってくるんですよ、ここでデビューできるかもしれないって。当時、募集してないのに勝手にどんどんどんどんホンが送られてきた。一緒にいたライターやスタッフと話して、ならばシナリオコンクールやろうと。それでBS-TBSで、当時はBS-iでしたが新人脚本賞を5年間やりました。大賞は必ず作ってデビューさせるということで。

でも受賞作のうち1作だけは出来なかった。その1作の人は可哀相なんですけど、打ち合わせすると泣いちゃうんです。「怒ってないから」って言っても、話が進まなくなる。何を言いたいかというと、デビューできても今、仕事してない人って、それなりにいる。やっぱり人間力ってあって、脚本家に求められるのは交渉能力とか対話能力だと思います。

ある時、別の学校で講義した時に「シナリオライターは営業力がないとダメ」って言ったら、1人の男性が手を挙げて「僕は人と会いたくないから脚本家になりたいんですが、ダメですか?」って言うから「ダメです」って言いました。実は才能じゃない、やはり人間と交渉できる人だと思うんですよ。継続して次の仕事がやれるっていうのは、やはり人間力だと思います。

清水さん:僕の昔からの持論なんですけど、プロの脚本家っていうのは、ものスゴいいい人か、ものスゴい才能がある人か、どっちかのような気がしてるんです。「あいつは嫌なやつなんだけど、上手いんだよな。頼もうか」みたいなのと、「いいやつなんだよね、話とか面白いし、そこそこ書くし」って。そのどっちかかなって。僕はあとのほうをずっと最初から目指してたんです。

シナリオ・センターの講義でも言ったことがあります。「いい人になりなさい」って。どうしてもいい人になれなかったら、刃のような切れるセリフと構成を書けるようなライターを目指しなさい、どっちかしかないと思いますって。いい人っていうのは語弊があるんだけど、つまりそれは「あいつの世界って面白いんだよね。セリフとかイマイチなんだけど、彼の持っている世界は独特で、あれだけは他の人にはないんだよな」ってことです。

丹羽さんが言ってる人間力っていうのは、世界観っていうことに繋がると思いますが、それがあるかないかというのはとても大きい。あいつが書くとこうなるんだよなっていう。

僕はシナリオ・センターの出身ですが、今さら言うのもなんですけど(笑)、ゼミにいる時、僕はすぐプロになりたかったから、一生懸命必死に書いた。毎週120枚のシナリオをほぼ書いていました。実際は20枚くらいしか読めないけど、先生が「面白いから、もっと先を読んでみて」って言うから最後まで読んだこともありました。

そうするとね、ゼミの皆さんが必ず言うことがあるんです。「清水さんの書く人って、いい人ばっかりでつまらない」って。「プロになりたいなら嫌な人も書けなきゃ」とか言われて、言われる筋合いはないよって思ってケンカにもなりました。

そうなんです、嫌なヤツ、いつも書けないんですよ。みんないいヤツになっちゃう。でも、皆いい人でもドラマって書けるんですよ。それで30年間食っています。

あとラブストーリー。「ラブストーリーは嫌いだ」って言ってたら、亡くなった市川森一さんに「お前はよっぽど悲しい恋愛体験をしたんだな」って言われたことがあるんですけど、そういうわけじゃなくて嫌いなんです。だから書かない。

TBSのコンクールで受賞した時に、いろんなプロデューサーから連絡がきましたが、僕はまず「恋愛ドラマ書かないけどいいですか?」って聞いてました。

だって恋愛ドラマ全盛期ですよ。『東京ラブストーリー』とか。だから、大半のプロデューサーは「またどこかで」って電話切るんです。でも、僕はそれでもいいと思った。書けないものは書けないんです。僕は、こんな生き方してても何の得もないのに、拾った何かから「今日も幸せだったな」みたいなことが起こる、小市民的なささやかな幸せみたいのを書くのが大好きで……。当時は「そういうのは要らない」って言われていて……。

でも「あなたの世界は面白いよね」って言ってくれたのが『3年B組金八先生』のプロデューサーだったんですね。100人のうち99人からは「お前なんか無理」って言われて、でもたった1人、「面白いんだよね」って言ってくれた人とずっとお仕事をさせてもらった。ちょっと、カッコよすぎますね、今の話は。

丹羽さん:僕は、その意見はちょっと違うなと思っていて。清水さんは運が良かったんですよ(笑)。

やっぱりジャングルと同じで、大きな木が倒れないと次の木が生えない、光が当たらないから。チャンスを逃すなっていうことを言いたくて。だいたい皆さんに声がかかる時って、チーフライターが書けなくて穴が空いた時なんです。穴が空いた時にどれだけ書けるか。今、清水さんが20枚のシナリオを120枚書いてたっていうのは、それだけの経験をされて力がついていたからだと思う。

先ほど言ったBSのコンクールでは、お題が出て3週間とか4週間後で締切という乱暴なことをしました。それくらいの期間でお題を入れたホンを書けない人というのは、プロになれないと思ってましたから。締切自体が1次審査で、締切を守れない人はダメなんです。

チャンスを逃さないってのが大事。大木が倒れた時にチャンスがある。チャンスってどこに転がっているのかわからないから、そのチャンスをつかんでほしいっていうことです。

誰に見てほしいのか

丹羽さん:ホン打ちでの直しについての質問も来てますが、基準は、まず主人公が魅力的かどうかということ。主人公や脇役のキャラが立っているかどうか。誰がしゃべっても同じというんじゃなくて、これはAっていう人がしゃべったセリフ、これはBっていう人がしゃべったセリフにちゃんとなっているかどうか、スゴく気にします。

あとプロットの時には全体的な構成のバランスを見ます。清水さんのようなベテランには、ここ「もうちょっとボリューム欲しいですよね」程度のことしか言わないんですが、新人の作家さんはわからないので、長くしてって言うと、ただダラダラと長くなっちゃう。

次の質問ですが、シナリオに個性がないと悩んでいる、その打開策は?ということなんですが、何のためにドラマを作ってるのかって考えてみてください。僕の場合は、娘が喜んでくれるかどうかなんですよ。『熱中時代』を書かれた布勢博一さんは、お母さんに見せたかったって言ってましたね。ある女性脚本家はね、僕にほめられるのを待ってる。

自分の作品を気にされているのは自信がないからだと思う。誰のために作っているのか。誰に見てほしいのかってことを考えてほしい。それは1人でいい。僕の場合は娘です。

清水さん:僕も家族です。いや、本当なんですよ(笑)。うちも息子が2人と娘がいて。息子が小学生くらいの時、仕事がバンバン来て、その時の選ぶ基準は、子供と一緒に見られるかどうかでした。2時間サスペンスで『混浴露天風呂殺人事件』みたいな話が来た時に「僕、この手は無理なんです。これ、おっぱい出ますか?」って聞くと、「出ますよ」って、それで「失礼しましたって」(笑)。自分の子供が見て面白かったって言ってほしいっていうのが一番基本にあります。

次の質問で、シナリオの勉強にお薦めの作品ということなんですが、自分が脚本家を目指していた頃に見たドラマや読んだ脚本を基本にしてるところがありますね。今でも必ず読む脚本は、倉本聰さんの『幻の町』です。東芝日曜劇場の45分のドラマなんですが、人間の弱さや強さがしっかり描かれていて、僕は大好きです。この前たまたま再放送があって何十年ぶりかで見ました。今も脚本は読むことが出来ると思うので、お薦めします。

丹羽さん:僕はあえて作品を挙げないで言うと、今流行っているもの、です。僕はテレビ局の社員面接を受けに来た子には「『アナ雪』見た?」とか「『シンゴジラ』見た?」とか聞くんです。最新のもの、特に当たっているものは見てください。見ない、読まないで作りたいっていうのはあり得ないと思います。

清水さん:脚本家に求められてることっていろいろあって、いろんな人がいろんなことを言うと思います。でも、そのたびにそうなろうと思ったら、自分がいくつあっても足りません。

僕は最初、冷やかしのつもりで8週間講座に来ました。でも新井一先生の一言に心を打たれたんです。「どうか皆さん、チェコの動乱で戦車の前に身を挺した若者のドラマを書いてください」って、そうおっしゃった。そういう社会派の、1人でも戦車に立ち向うような強いドラマを書くのって悪くないって思って、本気になったんですね。

今、ドラマを書いている人たちが、ある意味お手軽な感じがしてならないんですけど、書きたいならそのくらい肝の据わった気持ちで書いてもらいたいと思います。すぐ何か言われただけでヘコんだり、どうすればいいのって、いつも回りをキョロキョロ見ているようなことばかりしていると、いいものは書けないと思います。

丹羽さん:最後に今日、ご縁があってお話を聞いていただいたので、皆さんがプロになって、またどこかで会ったら、ぜひ僕に声掛けてください。ある若い映画監督が、「10年くらい前に多聞さんの講義を1日だけ聴きました」って言うから「じゃあ教え子だよ」って言って、その監督も教え子を名乗っています。ゲームやマンガなど別のクリエーターの世界に行く人もいると思うんですが、それでも教え子だと思っているので、会った時にはぜひ声掛けてください。それが僕のお願いです。

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「脚本家×プロデューサー 脚本家の視点、プロデューサーの視点」
ゲスト:清水有生さん(脚本家)、丹羽多聞アンドリウさん(BS‐TBSプロデューサー
2017年3月4日採録
次回は11月25日に更新予定です

プロフィール

清水 有生(しみず・ゆうき)
1987年『正しいご家族』がTBS第1回シナリオ大賞を受賞。これがキッカケとなり脚本家デビュー。NHK連続テレビ小説『あぐり』『すずらん』の脚本などを執筆。1998年橋田賞受賞。2005年の『3年B組金八先生』第7シリーズの第11回から脚本を担当し、『ファイナル』までのすべてのエピソードを執筆。その他、テレビドラマ『家栽の人』『熟年結婚 妻への詫び状』『明日の光をつかめ』シリーズ、『さくらの親子丼1・2』など代表作多数。

※以前、シナリオ・センターでは「清水有生さんの特別講義・清水ゼミ」を実施したことがあります。その時の模様をご紹介した記事も併せてご覧ください。創作の際、「ページが進んでも、なんか面白い区ならないんだよな…」とお悩みのかたは「そうすればいいのか!」と発見できることがあると思いますよ。

■ブログ「ドラマティックな展開を作る方法」はこちらから

■ブログ「魅力的なクライマックスシーンの作り方」はこちらから

 

丹羽 多聞アンドリウ(にわ・たもん あんどりう)
BS-TBSメディア事業局長・統括プロデューサー。テレビドラマでは『ケータイ刑事』『恋する日曜日』『東京少女』『怪談新耳袋』『王様ゲーム』他多数、舞台では『夢見るテレビジョン』『1枚のチケット~ビートルズがやってくる』『熱帯男子』『タイムリピート~永遠に君を想う~』他多数のプロデュースを手掛けている。

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