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周防正行さんに聞く 映画作りの発想の原点は「自分が面白いと思うもの」

2011.04.29 開催 映画監督の根っこ~伝えたいことがあるかどうか~
ゲスト 周防正行さん

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』よりご紹介。
今回の達人は、映画『ダンシング・チャップリン』(2011)の公開を記念してお迎えした、脚本家・映画監督の周防正行さん。発想の原点やシナリオへの取り組み方について語って頂きました。

バレエ映画を撮る最後のチャンス

今回の映画『ダンシング・チャップリン』は、ドキュメンタリーでもあり、バレエ映画でもあるという、二部構成の少し変わった形です。そもそも妻がバレリーナでなかったら生まれなかった企画です。妻の草刈民代が、振付家ローラン・プティの作品をずっと踊ってきたということが発端です。

牧阿佐美バレエ団で『アルルの女』という作品をやることになった時、草刈がプティから主役に指名されました。その時にルイジ・ボニーノの指導を受けたのですが、草刈にとってはプティもボニーノも別世界の人、憧れの人だったんですね。彼女が30歳の時です。

それを機に、草刈はクラシックバレエ中心のキャリアから、様々な振付家の作品を踊るようになりました。そして、たまたまプティが『Shall we ダンス?』を見て、「あ、この女性はタミヨだ」と気づいたというところから、彼と私との親交も生まれたんですね。

バレリーナとして活動の幅を広げる彼女を見ていて、「バレエ映画を撮ってみたい」という思いは、常にありました。そんな中、ルイジがプティの奥さんである元バレリーナのジジ・ジャンメールから「『ダンシング・チャップリン』をあなたと民代で映像化してはどう?」と提案されたんです。

それで、ルイジが草刈に相談し、草刈が僕に振ったと。『ダンシング~』は好きな作品でしたし、ちょうど草刈が引退することを決めていたので、僕がルイジや草刈を撮る最後のチャンスだなと思いました。

そこで、自分の制作会社のプロデューサーに相談したんです。僕は最低限、この作品を記録として残せればいいなと思っていましたので、もしプロデューサーが乗らなければ自腹でビデオ撮影するつもりでした。

ところがプロデューサーは「これを映画としてやろう」と。そこで僕は、単なる記録でも舞台中継でもない、バレエ映画を撮ることにきめたんです。

チャップリンの世界観を1時間に

僕は舞台中継を撮ったこともあるんですが、カメラ位置が決まってきてしまうし、実際のバレエとはまったく別物になってしまうんですね。だから、バレエを見ている観客が実際に感じているものを、映画にしたいと思った。舞台芸術としてのバレエの美しさは、舞台中継では伝わりませんから。

この作品を物語やフィクションにして見せようという発想はなかった。何かのために『ダンシング・チャップリン』を使うのではなく、『ダンシング・チャップリン』というバレエ作品そのものを映画にしたいと思ったんです。

『Shall we ダンス?』は社交ダンスの映画ですが、社交ダンスを通して別のものも表現しているんですね。それとは違って、今回はバレエそのものを見せたかった。なぜなら、多くの人がバレエを知らないからです。みんなが知らないものを撮るというのは、僕の作品に共通することですね。

問題は、それをどう撮るかという点です。「白鳥の湖」だったら難しかったと思うんですが、この作品は元々チャップリンの映画を基にしている。

ローラン・プティがチャップリンの何に心動かされて、それをどうバレエとして作っていったか。そこが、映画監督の僕にとっては拠りどころになると思いました。

プティに話したら、「(全幕の上演時間)2時間そのままやるのは飽きちゃうから止めろ」と言われました。「あれは劇場で成立する2時間だ、もっと短くした方がいい」と。「じゃあ短くしてください」と頼んだら、「それは君に任せる」と(笑)。

衣装替えの時間稼ぎや続けて踊れないとかで、つなぎのように見える演目は落としました。そしてチャップリンの世界観にダイレクトにつながるわかりやすい演目を残した。そうしたら1時間になってしまったんですね(笑)。

それでは商業映画になりません。だからといって、1時間にしたものを、1時間半に延ばせるかというと、逸れは違うなという気がしました。

期待を高めてもらう伏線

その時、今は亡き佐々木芳野プロデューサーからこんな提案があったんです。「バレエを作る過程を撮っておいて、周防正行なりのバレエの観方のようなものを作ったらどう?」と。

その映像は絶対にバレエを観てもらう前に見せた方がいい、なぜかというと、ラストシーンで歩き去っていくルイジ・ボニーノの後ろ姿を観た後に余計なものは観たくない、というのが彼女の意見でした。

僕は最初、イヤだと言いました。バレエを観てもらう前に「前説」のようなものをくっつけたくないと思ったからです。僕なりのバレエの観方というのもわからなかったですし、まず先にバレエを観てほしいと思っていた。

しかし撮影後、映像を編集していくうちに「これはバレエへの期待を高めてもらう伏線のようなものになる」と考えを改めました。

自分の知っている曲が流れたり知っている人が出てきたりすると、親近感がわき舞台に集中できるものです。ですから、先に、稽古しているダンサーやその稽古内容を知ってもらうことで、観客が2幕でバレエを観るモチベーションになると。

佐々木プロデューサーはこのことを直感的にわかっていたのではないでしょうか。天国で「ほら、私の言った通りでしょ」って言っているに違いありません。

公園での撮影

バレエは舞台芸術ですから、前方にある客席に向かって振り付けられています。映画ならクレーンを使っていくらでもダイナミックに撮れるわけですが、今回カメラはあまり奇抜なアングルに入っていません。

真上から撮った方が美しく見えるとか、映画のシーン上の理屈に合う場合は、そのように撮影していますが。踊りの流れを壊さないよう、慎重に撮影、編集しています。

唯一、屋外で撮影したシーンがあるんですね。以前から僕は、バレエを劇場から解き放ってみたいと思っていました。

屋外でトウシューズで踊ることは無理なので諦めていたのですが、今回のロケハンで偶然、ちょっとした林を見た時に、警官の踊りはバレエシューズなので、緑豊かな屋外で撮影すべきだと閃いたんです。

チャップリンは「公園に、警官とかわいこちゃんがいれば映画は撮れる」と言った。「ダンシング~」はほぼすべて黒い背景なので息苦しさもある。そこで絶対、屋外だと。

「公園で撮るけど、何かアイデアはないですか?」というつもりでプティに話したところ、いきなり「だったら映画はナシだ」と言われてしまった(笑)。アッと思いました。するとカメラが僕のその表情を撮ろうと回り込んできた(笑)。

ボソボソとつぶやきながらその場は撤退しましたが、「屋外で撮るんだったら俺は違う振り付けをする」という意味だったんじゃないかと考えました。

シナリオライターの立場に置き換えるとその気持ちは理解できるんですが、黙ってやることにしました(笑)。説得は諦める、というのがその日僕が出した結論です。

ルイジにこのことを話したところ、「大丈夫だ、やりたいようにやった方がいい」と言ってくれました。実際にすごくいい画が撮れて、僕はすっかり舞い上がっていたんですね。プティにダメと言われた時のために同じシーンを屋内スタジオで撮っておくということを忘れていたんです。

ですから、プティに見せる前は緊張の極みでした。結果的に彼はこのシーンをすごく気に入ってくれ、「ブラボー」と。翌日僕は熱を出して寝込みました(笑)。

最初の驚きを大切に

僕は、デビュー作『変態家族 兄貴の嫁さん』以降、自分の観たいものを撮るということを続けてきました。映画監督の僕ではなく、生活者としての僕が面白いと思うものが発想の原点になっています。

都合よく現実をつまみ食いして映画のためのネタ探しをするのは良くないと思っているんです。相撲や社交ダンスも、映画にふさわしいネタかどうかなんて考えなかった。考えていたら『ファンシイダンス』や『Shall~』はできなかったでしょう。

僕がシナリオを書くときに大切にしているのは、書こうと思ったことを最初に知った時の驚きです。迷ったらそこに戻る。僕はなぜその世界を面白いと思ったのか。それを観客に伝えるにはどうしたらいいのか。何よりも大事なことは「伝えたいことがあるかどうか」です。

上手い文章を書く人はいっぱいいますけど、でも一番強いのは書きたいことのある人の文章です。表現したいっていう強い思いのある人には絶対にかなわない。

皆さんが勉強しているテクニックも必要ですが、まずは「表現せずにはいられない」というのが原点ですから。それがなかったらモノなんか作れません。皆さん、熱意をもって書いていってください。

※編集部注 もともとのバレエ作品『ダンシング・チャップリン』の原題は『Charlot Danse avec Nous』(邦題『チャップリンと踊ろう』)です

出典:『月刊シナリオ教室』(2011年8月号)より
ダイジェスト「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」
周防正行さん 映画監督の根っこ 伝えたいことがあるかどうか
2011年4月29日採録

 

プロフィール:周防正行(すお・まさゆき)

1956年、東京都生まれ。1984年、『スキャンティドール 脱ぎたての香り』で脚本デビュー。同年、小津安二郎監督にオマージュを捧げた『変態家族 兄貴の嫁さん』で監督デビュー。1992年『シコふんじゃった。』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。1996年、社交ダンスブームを巻き起こした『Shall we ダンス?』で第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞という快挙を果たす。2007年『それでもボクはやってない』が公開され、各映画賞を受賞。2011年『ダンシング・チャップリン』が公開。単館上映にも関わらず、ロングランヒットとなり話題を呼んだ。2012年『終の信託』を監督。

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