第48回 創作テレビドラマ大賞(応募総数1123作品)。
三次審査通過9作品の中から大賞1作品、佳作2作品が選出され、竹上雄介さん(元通信作家集団)の『明日、輝く』が大賞を、三原貴志さん(研修科)の『タケシと宇宙人の夏物語』が佳作二席を受賞!
先日開催された授賞式の模様を広報の齋藤がリポートいたします。竹上さんと三原さんの「受賞の言葉」とともに、最終審査を担当された脚本家・池端俊策さんのコメントもご紹介。
池端さんのコメントをお読みいただくと、「どんな作品が大賞になるのか」が良く分かります。また、社会問題・社会現象・事件を題材にした作品を書きたいと思われている方は特に必読です。
※『月刊シナリオ教室 2024年1月号』には、お二人にお話しいただいたコメントと受賞作のシナリオを掲載。あわせてご覧ください。
大賞『明日、輝く』竹上雄介さん
「なんて映像化しづらい作品を書きてしまったんだと大賞は諦めていました」
=あらすじ=
将来有望のランナー・新野亮介は、駅伝の試合でライバルの堂前に転倒させられ、ケガを負う。3年後、現役を引退した新野(25)は家出中の心海(15)と出会う。復讐を誓うほどの恨みがあると言う心海。新野は聞き出そうとするが、逆に自身の過去を話すことに。すると心海は、オリンピック選手にまで上り詰めた堂前に復讐しろと言い出す。新野の押し殺していた恨みが蘇っていく。一方の心海は恨みを打ち明けない。だが新野は、心海が同じ家出少女たちと広場で生活し、オーバードーズに走っていることを知る――。
〇竹上さん:最終選考に残ったときに自分の作品を読み返してみたんですけど、冒頭に駅伝の大会のシーンがあって、中盤には台風のシーンがあって、渋滞する交差点の真ん中でダンスを披露するシーンもあって、ラストは二羽の鳥が都合よく飛び立っていくという、なんて映像化しづらい作品を書いてしまったんだと大賞は諦めていました。なので、受賞の連絡をいただいたときには本当に驚きました。
本作は心にわだかまりを抱えた男女が出会って、前を向くという話です。私もこれまでいろいろな人に出会って、支えられてきました。やっぱり人というのは、ネットとかSNSではなくて、“人との新たな出会い”によって価値観を得て、前を向き、進んでいくべきだと思っています。そんな作品を評価していただき、とても嬉しく思っております。これからも頑張って書き続けていきます。
佳作二席『タケシと宇宙人の夏物語』三原貴志さん
「この心を忘れなければ世界に戦争が起きないのに、という想いを込めて書きました」
=あらすじ=
1970年夏のある日、進藤健志(10)は、悦子(35)のお好み焼き屋で外食をする。被爆のケロイドが顔に残り、「宇宙人」と陰口をたたかれている悦子だが、母・頼子(35)の元同級生と知り、親近感を覚える。その後もお店に通い、心優しい悦子と交流する健志は、ある時「ケロイドのお陰で、原爆手帳の証人が不要。運がいい」と発言。その反応から、悦子を傷つけたと気づき、罪悪感を抱く。しかし、気恥ずかしさもあり、謝罪をつい先延ばしにしてしまう――。
〇三原さん:私は(NHKの)「少年ドラマシリーズ」で育ち、「銀河テレビ小説」と「土曜ドラマ」でドラマ好きになったという世代ですので、今回の受賞というのは格別でとても光栄に思います。
私は3年くらい前にシナリオ・センターでシナリオの勉強を始めまして、大きなコンクールで最終に残ったのは初めての経験でした。1ヶ月ほど前に最終に名前が載って、その後は、尊敬する脚本家の方や第一線で活躍されるプロデューサーの方が最終審査で私の作品を読んでくださっている姿を妄想して、とても幸せな時間を過ごすことができました。
受賞作は私の子ども時代の記憶をモチーフとしています。私は広島出身で父も祖父母も被爆し、その経験談を聞いて育ちました。今回の受賞作の登場人物は3人だけ、と少ないんですけれども、3人とも優しい心をもった人たちです。この心を忘れなければ世界に戦争が起きないのに、という想いを込めて書きました。この想いが少しでも若い方に伝わればな と思っています。
審査員講評:脚本家 池端俊策さん
「魅力的な人間が描けていないと、我々はやはりちょっと不満なわけですね」
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〇池端さん:時代が変わるから人間も変わっていくわけですけど、ドラマで何を書くべきかというと、やっぱり人間を描くんです。歴史ドラマを書いたりしていても、わたくし大河ドラマ(『太平記』『麒麟がくる』)をやりましたけれども、歴史そのものを書くというよりも歴史の中から人間を、自分が面白いと思う人間をチョイスして、その人間の何が面白いのかという、自分のヒーローを作り上げるという、それが面白いんですね。これは脚本家にとって永久に変わらないテーマだと。勿論、新しい社会現象とか事件とかそういう「素材」はいろいろありますけどね。でも人間を描くというのが最終的なテーマだと思います。
今回、知的障がい者の息子の性的な問題に悩む親の話がありましたが、大賞には至りませんでした。それは、この問題をどうすればいいか困ってオロオロする親たちの姿があまりにも一般的で、誰でもそうだろうな、こうなるだろうな、と。親たちが困惑する姿は非常にリアルで、今の時代のある断面を書いていると思うんですけど、「じゃあ、魅力的な親たちか」というところになると、極めて普通の人たち。登場人物に魅力がないとやはり感情移入できないわけです。「ああそれは大変だろうな。困るだろうな」と非常にリアルで、素晴らしい描写力があるんだけれども、両親がいまひとつ魅力がない。ちょっとすいません、マイナスなことを言っちゃいました。でも、よく書けている、その“現象”は。ですからそこが評価されたわけですけれども、ただ、そこから抜け出して「これ一本!」というところに到達するには、魅力的な人間が描けていないと、我々はやはりちょっと不満なわけですね。
そんなことがありまして、で、大賞をとられた竹上さんの『明日、輝く』。ストーリーはどうってことないんですね。挫折した若い男女が、お互いなんとなく励ましあうというような話。どこにでも転がっていそうな話題。ですけどね、この女の子が非常に生き生きと描かれている。
「ストーリー」というのは大昔からどれだけ作られてきたか分からないけど、どこか似たりよったりでそんなにびっくりするほど個性的なストーリーというのはなかなか、特に新人の人には書けない。難しいです。ですけど、「人間を見る眼」があれば、人物の面白い表情とか言葉遣いとか生き様とかは、一人ぐらいは書ける。
(『明日、輝く』の)男の子のほうはパターンになっていてあまりうまく描けていないんだけど、この女の子の描き方は素晴らしい。いや、褒めてるんですよ(笑)。この作品だけっていうんじゃなくね、今後10年20年と活躍していただきたいわけです。人間を見る眼があるし、セリフがいい。「あ、このセリフは他の人には書けない。僕には書けないな」と思わせる勢いと、なんというかキレの良さみたいなものがあって。竹上さんだから書けるんだ、と思わせるようなセリフなんですよ。作家としての個性が出てくる、そこに。セリフがいいというのは大きな武器です。
随分昔に一度だけ呼ばれて審査員をやったことがあるんですけど、自分としては今回初めての感じで参加させていただきました。今回参加させていただいて面白かったし、こういう人たちがぞろぞろっと出てくるといいなと、5年後10年後が楽しみだなというふうに思いました。
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シナリオ・センター創設者の新井一は講座でも、著書でも、『月刊シナリオ教室』のコラムでも、「ドラマとは人間を描くこと」と何度も述べています。「人間を描くってどういうことだろう?」「魅力的な人物ってどういう人だろう?」とお悩みでしたら、シナリオ・センターではそのヒントとなるコンテンツを沢山用意しております。こちらの記事や動画もぜひ参考にしてください。
・記事
▼脚本の勉強法:『ホタルノヒカリ』に見る魅力的な主人公の作り方
・動画
▼魅力的な人物の書き方/ヒント
▼魅力的なキャラクターの作り方
▼人物を魅力的に伝える方法
これまでもシナリオ・センターの在籍生&出身生が創作テレビドラマ大賞を受賞しています!
▼第46回創作テレビドラマ大賞/ドラマ・映画が好きで、書くことも好きならシナリオ
▼第44回創作テレビドラマ大賞/自分が書きたいものを書いて賞をとるには
▼第43回創作テレビドラマ大賞/脚本家になるには“出し続ける”
- 「シナリオは、だれでもうまくなれます」
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。
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