配信、DVD、そして映画
〇杉原さん:脚本家である僕が、この企画に参加したのは2016年の10月でした。監督から電話があって、すぐに原作を読んでほしいということで始まりました。
もちろん企画はそれ以前から動いているわけで、最初はどういうところから始まったんですか?
〇辻村さん:僕はエイベックス・デジタル株式会社という会社でdTVという映像配信サービスをやっている会社に所属し、オリジナルの配信動画コンテンツの企画・プロデュースをしています。
今回は、その企画立案の中で、「2つのドラマを制作する」「DVDと配信の展開を行う作品」という条件で企画を作る機会があり、ならば「映画でも出来るんじゃないか?」と考えて、本企画を提案しました。
つまり本作は配信企画としてスタートしましたが、実際のところ「映画の方が監督スタッフはモチベーションが高く制作できるね」ということもあって、配信の制作費で少し頑張って映画として成立する企画まで持って行きました(笑)。
〇杉原さん:脚本家としても配信だけで終わるより映画館でかかることはすごく大きいので、ありがたい企画です。こういった配信と映画館上映を両方やるやり方は、前作の『裏切りの街』の影響もあるんですか?
〇辻村さん:そうですね。三浦大輔監督の『裏切りの街』は、もともとdTVで配信した6編のドラマ作品でした。その後、映画バージョンに再編集し、映画として劇場でレイト上映しました。配信から半年くらいあとだったと思います。
ウィキペディアで見てみたら、dTVで配信され、好評につき映画業界の目にとまり映画になりましたというようなことが書いてありましたが、あれは少しウソかも(笑)。実際は「これは映画として劇場でもかけられる作品なのでやりたい」とを言い続けて、粘り勝ちしたみたいなことです。
〇杉原さん:そうだったんですね。僕も『裏切りの街』は劇場に見に行ったんですけど大盛況で。その興業の成功があって、今回の作品に繋がっているっていうことですよね。
〇辻村さん:そうですね。こういう言い方が正しいか分かりませんが、映画ってドラマと違うものと思われがちですが、実際配信ドラマを作るときと脚本的な制作プロセスは同じと思うんです。なので配信の企画で映画も作れるんじゃないかって。
とはいえ映画を作ることは、当然大変で、宣伝もしなければいけないし、出演者の気合いも違い大変なことはあります。しかし作っている工程、役者さんの演技など、配信と映画を比較しても本質は変わらないと僕は思っているんです。
〇杉原さん:そういう企画の流れがあって、プロデューサーとして、どういうところで今回の『望郷』という原作に惹かれたんですか?
〇辻村さん:企画を立てる中で気を付ける点は、ある程度映画やドラマに興味のない人でもわかるものじゃないとダメだと思ってます。もっと言うと見られないと思うんです。本を読む以前に、読んだ後が想像できるもの。
例えばこの映画で言うと、基本的な打ち出しを「湊かなえ原作」や、「感動のミステリー」として、1人でも多くの方に振り向いてもらえる言葉で打ち出せる企画を意識しました。
有名原作者というのは、やはり本作の最大の強みで、脚本の内容がいいからと言って、それで企画成立とはならないです。皆さんは普段から映画をたくさん観ていらっしゃると思いますが、そういう方じゃない方にどれだけ興味を持ってもらえるかをイメージ出来るかどうかだと思います。
〇杉原さん:内容的にはどうでしたか?
〇辻村さん:いい話になると思いました。自分自身の話のように感じられるというか。「私もそうそうだった」とか「うちの親もそうそう」みたいな、みんな故郷はあると思いますし、その捉え方は少しずつ違う。それを改めて考えられるかな?という感じ。
脚本の段階でも、共感性の高いリアリティのあるように書いてほしいと何回も言った記憶があります。
〇杉原さん:言われましたね、何回も(笑)。湊かなえさんの原作っていうと、衝撃的な展開のサスペンスというイメージが僕自身にはあったんですが、今回の『望郷』は身の回りの話というか、派手ではないけれども、だからこそ普遍的なテーマというか、誰もが体験したことのあるような感情を扱っていて、それをいかに映画として語るか、それが脚色のモチベーションでした。
そして、いよいよ僕が呼ばれて、制作の段階に入ると、辻村さんともう一人、清家優輝Pがいて、菊地健雄監督がいて、4人で脚本作りが始まりました。監督、脚本の人選はどのように行われたんですか?
〇辻村さん:企画が通って監督は誰にしようっていう中で僕が言ったのは、助監督経験があって芝居をつけられて、キャラクターをちゃんと演出できる人。経験が豊富で下積みの長い若手監督とやってみたいと考えてたと記憶してます。僕自身もプロデューサーとしてはまだまだですし、同年代くらいでやりたかった。
〇杉原さん:僕と辻村さんが同い年で、監督が3つ上で、清家さんは20代で、みんな年齢が近かったので、打ち合わせも非常にリラックスした感じでしたね。
〇辻村さん:そうですね。お菓子がいつの間に無くなる、みたいな。(笑)
〇杉原さん:作品自体は渋い映画ですが、現場のスタッフも含めて、実はチームとしては若かった。
〇辻村さん:原作から考えても、年齢の高い人にも観ていただきたい映画ですが、制作体制としては若いから出来ないということではなく、逆に同じ世代でチームワークよく出来たらいいなという気持ちが強かったです。デジタル世代ではない年代の方だと、結構感覚が違ってくるんですよね。
〇杉原さん:配信に対する考え方とかも違いますか。
〇辻村さん:それもありますね。それからフットワークの問題とか。今回も自分の役割以上のことをみんながやっている。僕は実際、企画とプロデューサーをやっていて、宣伝や配給もやってる。これは少し範囲が広すぎたという話もあるんですけど(笑)。
〇杉原さん:今日も本作の宣伝で大阪から駆けつけているんですよね。
〇辻村さん:明日も大阪・京都・神戸・名古屋の初日で舞台挨拶を行うので、監督は宿泊をしています。地方での取材なども積極的に行ってますが人数が少ない分、話は早いです。
〇杉原さん:直接交渉できるってことですね。
〇辻村さん:そうですね。ただ、いっぱい確認が来るから、少し大変です(笑)。