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キャラクターの作り方が分からない 人必読:脚本家 清水有生さん脚本術

2015.09.28 開催 THEミソ帳倶楽部「新井一生誕100年機縁シリーズ~清水有生さん編 清水流キャラクターの作り方~」
ゲスト 清水有生さん(シナリオライター)

シナリオ・センターでは、ライター志望のかたの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2016年2月号)よりご紹介。
2015年度に行った「THEミソ帳倶楽部~達人の根っこ」では、シナリオ・センター創設者新井一生誕100年を記念し、「新井一の生誕100年機縁」と題して、出身ライターの方々にご登壇いただきました。今回のゲストは清水有生さん。ご自身の体験を通して積み上げてこられた、清水流シナリオの作り方を、具体的にお話しいただきました。「登場人物のキャラクターが何を書いても似通ってしまう…」「そもそも登場人物のキャラクターはどう考えていけばいいのか全然分からない…」とお悩みのかた、清水流のやり方を今すぐ実践してみてください。

ケースワーカーとしての10年

私がシナリオライターになろうと思ったのは30歳の時で、シナリオライターになってからは27年になります。もうすぐ30周年が近づいてきているという感じです。

私は20歳の時から10年間、区役所の福祉事務所という、今話題にもなっている生活保護を担当するケースワーカーをしていました。生活保護だけじゃなく、身体障害者や高齢者や母子家庭とかあるんですが、ほぼすべて担当し、いろいろな人と接する仕事をしていました。

ですからハタチで、老後の話とか、アル中のお父さんと向かい合って話すとか、今思うと結構ハードなことをやっていました。

10年経つ頃には「一生、社会福祉に身を捧げよう」と決意していたんです。ところが「課税課」への転属を言われました。福祉関係をやる気マンマンでしたから、そんなの冗談じゃないと区役所の職員課に乗り込んでいった。

資格だっていっぱい持ってるし、福祉関係はそもそもみんなやりたがらない。そんな仕事を自分からやりたいって言ってるのに、なんでやらせないんだ!って、職員課長相手にケンカして、「撤回しないなら辞めるぞ!」って言ったら、パッと退職届を出されちゃった。

後ろを振り向いたらギャラリーがいっぱいいて引っ込みがつかなくなって、「辞めてやるよ!」って。家に帰ったら、みんなから電話が掛かってきて、「謝って、2~3年課税課で頑張って、また福祉で頑張ればいいじゃない」って言ってくれたんですが、もう退職届出しちゃったもんはしゃーないなと思って、腹をくくって退職しました。

公務員というのは失業保険がないので翌月から無収入です。退職金も出ましたが、すぐに困窮し、これは困った、いよいよ働かなきゃいけないと。

私は10年間他人のお世話をしてきて、精神的にはたくさんのものを得たり与えたりしてきたけど、形には何も残らなかった。例えばビルを建てる仕事をしている人なら、「これは俺が造ったんだ」とかあるのに、私には何もなかった。だからこれからの人生は何か形に残る仕事がいいなと思いました。

そして考えたのが、陶芸家と音楽家だったんですが、どちらも無理で諦めたんですが、たまたまシナリオ・センターに通っている友達がいて、「失業してやることないなら、シナリオライターになれば?」って言ってきたんです。「そんな簡単になれるの?」「結構なれるらしいよ」って(笑)。

そこで初めてシナリオのことを知って、「ちょっとやってみてもいいかな……」くらいの感覚でシナリオ・センターに来ました。

シナリオ・センター時代

8週間講座の初日に、「ペラ2枚で何か書いてきなさい」と言われ、添削が返ってきたら、赤い花丸がついていて「素晴らしいです」なんて書いてあるわけです。「俺って才能あるんじゃない」と思って、それでシナリオライターになろうと思ったんですね。

何よりも魅力的だったのは、毎週テレビで色々なドラマをやっていて、それに合わせてたくさん制作する人がいるわけですから、すぐに仕事になるんじゃないかと。当時は生活費もカツカツで、とにかく早くお金を作らなきゃならない。そのためにはシナリオライターになるのが一番手っ取り早い……と思う恐ろしいほどの浅はかさ……(笑)。

稼げるようになるにはプロにならなきゃ。それには早く卒業して、テレビ局とか映画会社に行けるようにならなきゃいけない。そのためには早く書かなきゃ、というような強迫観念にかられた私は、本科の20枚シナリオ20本を3カ月くらいで書いちゃった。

正直、20枚で書くのは途中で飽きてしまって、200枚くらいの作品を書いていました。20枚書いては次の課題に沿ってさらに20枚を書く、というような離れ技ですね。私はゼミが終わったらすぐにプロになれると信じていました。でも、そう甘いもんじゃないということは、研修科に上がった辺りで気付いてきました。

ゼミでは色んな人と出会ったけれど、ほとんど書いてくる人はいなくて、他人の書いた作品をとやかく言う人ばかりで、私は言われるほうの代表でした。習っている人達の作品ばかりでなく、プロの作品についても、「山田太一もそろそろ終わったな」みたいな話も出てくるわけです(笑)。

だけど私は恐ろしいことに、脚本家の名前をひとりも知らなかった。そもそもテレビドラマを見てなかったので。そういう意識の低い人間で、ドラマの話はわからないし、ただ自分はこういうのが面白いと思うってことだけを、ひたすら書き続けていた。

そんな感じで1年経って、NHKのコンクールの最終審査作品5本にひっかかったんです。1000本以上の応募のうちの5本なので、「これはすぐにでもNHKでドラマとか書けるんじゃないかな」と思って、下見しようと渋谷のNHKの前まで行ったりもしました。ところが結局選ばれなかったんです。

その時応募したのは、地下鉄の車掌さんの話でした。都電で車掌をしていた人が、都電が廃止されていくので地下鉄の車掌に転職する。都電というのはお客さんとコミュニケーションをはかりながら走らせる。

そのノリで、地下鉄でもマイクで話をしたり、歌を歌ったり俳句を詠んだりしちゃう。まもなく定年を迎えるその車掌さんが詠んだ俳句が、飛び込み自殺しようとしていた若者の心にヒットして、自殺を食い止めることが出来た……っていう、ちょっとホロリとくるいい話でした。

いい気になっていたら次の年はさっぱりダメで、5本くらいコンクールに出したけれどもどこにも引っかからなかった。その頃の私はお金が無くてどん底生活でした。シナリオ・センターの授業料も1年以上滞納していて、昔は教室の手前に事務室があって、通るたびに「まだ払ってないですよね」「すみません」っていうのを続けた結果、とうとう出禁寸前になりました(笑)。

そうしたら先生が「清水、しょうがないから1本書いてシナリオ・センターのコンクールに出して、その賞金で授業料払えよ」って言うものですから、その通りにして無事に滞納分を払いました(笑)。

この仕事で食っていくという執念

お金を稼ぐという目的だけだったわけですが、こういう世界で生きていこうと思うなら、大事なことです。皆さんの中には、「一生のうち1本でも、自分の書いた作品がドラマになればいい」って思っている人がいるかもしれない。

でも絶対商売にしていくんだ、これで食ってくんだって決意がないと、プロにはなれない。「一生の思い出に1本でもいいから」「映像にならなくてもいい、月刊ドラマに載るだけでも十分」っていう人。そういう人って大体書けないんです。やっぱり書ける人は、何があってもそれで食ってくってくらいの、恐ろしい執念と決意を持っているものです。

結局、20枚シナリオがもととなった『正しい御家族』という作品で、「TBS新鋭シナリオ大賞」を受賞し、それが放送されて私のデビュー作となりました。

レンタル家族の会社から家族を借りて出世しようとしたサラリーマンの話です。一流建築会社で、優秀な男を部長に抜擢するために家族を調査することになった。家に行くと理想的な家族で、彼は無事に昇進が決まる。

しかし実は全員レンタル家族で、本当の家族は、奥さんが新興宗教に夢中で娘はシングルマザー、息子はゲイバーで働いている。主人公はニセモノの奥さんのことを好きになってしまい、そこから嘘がばれていって、最後彼は会社から飛ばされるという話です。当時としてはアイデアが斬新ってことが評価されました。

TBSでの放送後、新聞の社会欄で「こういうドラマが放送されたけれども、家族を借りなきゃいけない人たちがこれから本当に出てくるのではないか」と書かれて、随分反響があり、評価が高かったですね。

この作品は、NHKの最終に残った後の、パッとしなかった1年間に書いたものです。応募しても2次審査までしか行かなくて、「こんなの破って捨てちまおう」って思ったんですが、当時はコピー1枚30円、ペラ120枚だとコピー取るだけで5000円くらいかかる。お金のない私から見たら、ものすごい財産で、もったいないから捨てられなくて、そのまま取っておいたんです。

当時はTBSとフジテレビのコンクールの締切がほぼ同じで、どっちかに応募しようと思っていたんだけど、なかなかアイデアが浮かばずに締切日が近づいてきた。もう無理だなと思ってやめちゃったんです。

たまたま夜10時くらいに中央線に乗っていてカバンを開いたら「月刊ドラマ」が入ってた。そこにTBSのコンクールの応募要項が載っていて、締切がちょうどその日だった。「出しときゃよかったな、残念だったな」と思ってふと見たら、そのコピーの原稿がカバンに入っている。

もしかしたらこれ出せるんじゃないか?と思って、新宿郵便局の本局に行った。そこでもう一度「月刊ドラマ」を読んだら、やれ紐で綴じろだの、あらすじを書けだの。しょうがないから郵便局であらすじを書き、閉まっていた文房具屋に頼んで紐を売ってもらい、何とか発送したのが夜の11時45分くらい。

セーフだったけれども、こんなにバタバタして出したし、ましてや生原稿じゃなくてコピーだったので、絶対にダメだろうと思っていました。ただ僕の全財産をはたいたコピーですから、その思いだけで応募したようなものです。そんなの調子良すぎるんじゃないかってよく言われるんですけど(笑)。

シナリオ3つの要素

シナリオは3つの要素で成り立っていると思います。1点目はセリフ。2点目は構成力。3点目がキャラクター。この3つに尽きます。

セリフは、はっきりいって天性のものです。野球で言えばイチローのバッティングのようなもの。打てる人は打てるし、打てない人はいくら理屈で考えたりトレーニングしても打てない。

セリフも同じ。その天性は生まれつき培われているかもしれないし、本能的なものかもしれない。例えばひとつのセリフを考える時に、ポッポッポと浮かぶ人もいれば、一生懸命考えて浮かぶ人もいますが、天性のものを持っている人は、とても素敵なセリフがパッと浮かんでくるんだと思います。

この天性は、自分にはあると思っていた方がいいけれど、無い人も結構います。その代表が私。自分でいつも思うんです、セリフの趣味が悪いなと。勉強していた頃から、どうもキラリと来ないな、味がないなと思っていました。

ただシナリオにする時に、ちょっと良さげに見える書き方ってのがある。セリフを際立たせるように、ト書とト書の間にちょっと言葉を入れておくとか……セリフに魅力や重みを感じさせるようにするんです。

そういう手口を覚えてきましたが、それにしてもあまり上手くはない。天性のことなので皆さん無理しないでください。自分のありのままの生理と感覚の中で書いていくしかないです。

構成は、パーセンテージで言うと、私は50%くらい自信がある。でも50%くらいは自信がない。でも構成というのは一番能力が無くても大丈夫なものです。あ、これはプロになってからの話ですよ。

なぜかというと、プロデューサーやディレクターと一緒に打ち合わせをしていくと、プロデューサーがちょっとしたアイデアを出してくれて、「それ面白いですね、それでいきましょう」ってこともある。

脚本家が基本的な構成を提案して、みんなで作り変えていく。他の人に助けてもらうことができる。皆さんだったら、シナリオ・センターで一緒に勉強している人や、あるいはシナリオとはまったく無縁のお父さんとか、そういう人に読んで聞かせて「どう思う?」って聞くと、意外と鋭い感想を言われたりします。そういう他の人の力を借りて、構成は変えていくことができるものです。

それから、他人の作品や映画をいっぱい観て、自分なりに咀嚼して研究すると、構成力が付いてくる。セリフのように天性が必要なものではなく、努力すれば結構なんとかなる。

そしてキャラクターは、その人の持っている世界です。登場人物は、書いている人の分身みたいなものです。書く人がどういう世界観を持っていて、どういう生き方をしている人なのか。どういうことを美しいと思うか、人間のどういうところに魅力を感じているのか、世の中をどう見ているか。その全部が試されるのがキャラクターです。

キャラクターさえ面白ければ、セリフがまずくても構成でドジ踏んでも面白くなる。セリフは書きこんでいくうちに「これは説明ゼリフだね」「このセリフは浅いね」「もうちょっとシャープに、一言で決めちゃおう」なんてやっているうちに、何とか形になっていく。構成も変えていくことができる。

でも、キャラクターだけは脚本家自身が発信していかないと絶対にダメ。自分で鍛えて、自分の持っている世界を発揮していく。何を面白いと思っているか、何が美しいと思っているかを、登場人物に託していく。

コンクールの審査会で、候補作が10本あったら、それぞれの審査員が推す作品は全然違います。僕が「これ一番ひどいなあ」と思う作品を、他の人が「一番面白いですよ」なんて言うくらい千差万別です。

アイデアが面白い、セリフが上手、構成がちゃんとしてるとか、そういう評価をしていくわけですが、結局は選ぶ人の世界なんです。「こういうのは好きじゃない」とか言われてしまう。選ばれる作品は、選ばれる運命にあるんですね。

でもキャラクターが面白いと、多少ストーリーが面白くなかったり、破綻してたり、セリフがバタバタしてても、「この登場人物は面白いよね。こういうキャラを考えるやつって、イケてるかもね」って思わせられる。だから、キャラクターが面白く作れることは、コンクールでも大事です。

キャラクターをタイプ別に分ける

ある幼稚園の園児47人を、ある心理学者が1時間観察した結果、4タイプに分けることができたといいます。

タイプ1は指導型。遊んでいる時に「こっちで遊ぼう」「積み木やろう」「それ持ってきて」というように、いちいち言う子。これが6人いたそうです。

タイプ2は世話型。うまく積み木が出来ないこのところに行って助けてあげたりする、お世話好きな子。これが19人。一番多いです。

タイプ3は対等型。相手の話をちゃんと聞いて、相手が何をしたいかを理解し、それに応えていく子。これが11人。

タイプ4が依存型。誰かが何か言うと、「じゃあ僕もそうする」というような主体性のない子。これが11人。この4つに分けられたそうです。

私はこれをドラマのキャラクターに当てはめていきました。でも、実際に作っていくと、もうちょっと発展形になっていきます。

私は普段脚本を書く時に、大体5パターンに分けるんです。

1はリーダーシップ型。何かにつけて提案して、物語を転がしていく役割の人。

次は優等生タイプ。これはさっき言った世話型とほとんど同じなんですが、一部対等型も入ってくるキャラです。いい子で、いつも全体をまとめて、おかしいことになると修正していこうとする。でも絶対に自分の殻を打ち破ることができない。

次が、マイペース型。いわゆる自己中心的なタイプ。指導型と世話型も一部入ってきます。他人が何と言おうと、自分の思った通りにやっていく。みんなと同じ方には流れていかない。物語が都合よく行きそうになるのを、止めてくれる役割ですね。

次がトラブルメーカー。これはドラマには絶対に必要な人。話がうまくいきそうになると、引っ掻き回す役割。世話型といっても余計なお世話をするばっかりに余計なトラブルが起きる。指導型も入っていますね、リーダーシップを発揮しているうちはいいけれど、それが発揮できなくなるとイジケちゃって大変。

それから自分で決められない依存タイプ。

私はほぼいつもこの5パターンで作ってます。最近書いた昼ドラの『プラチナエイジ』は60歳の3組の夫婦の話でした。

1軒目は夫婦ともに優等生タイプ。旦那の方が優柔不断、奥さんの方はすぐに良い子を演じてしまう。2軒目はリーダーシップを発揮する奥さんとマイペースな旦那。3軒目がトラブルメーカーの旦那と依存型の奥さん。

この3組でドラマを作った。これだけのキャラクターだと、たわいもないシーンでも何とかなるんです。

例えばこんなシーン。

みんなでタラ鍋を食べようということになった。秋田の方の格言で、「タラ鍋と雪道は後からの方がいい」というのがあると誰かが言い出します。後から食べた方がタラの出汁が出ていて美味しいし、雪道も誰かが踏みしめてくれたところを歩く方が楽だ、というような意味。

そうするとみんながそれに対して意見を言い始める。「やっぱり前を歩く方がいい」とか、「後ろを着実に行きたい」とか。言い合っているうちに、このシーンが十分成立しちゃうんです。

最近『滝を見にいく』という映画を観ました。おばさんたちが幻の滝を見に行って、遭難して1泊2日山の中で過ごしました、ってだけの映画です。非常にコンパクトな話なんですが、勉強になるのでぜひ見ていただきたい。

全員のキャラがこれだけ濃いと、1泊2日山の中をウロウロするだけで十分にもつ。最後まで面白い。これはキャラクターがしっかり掻き分けられているからです。

キャラクター作りトレーニング

作詞家の阿久悠さんは、作詞家になる前にこんなトレーニングをしていたそうです。

人の名前を聞くと、その人は丸の内のOLだとか春日部に住んでるとかメモしておいて、その人が家に帰って冷蔵庫を開けたら何が入っているかを考える。ビールが何本も入っているのか、それともプリンがいっぱい入ってるのか、1カ月くらい前の漬物が残っているのか、それでその人の性格がすぐにわかる。

僕はそこまで真面目にやっていなかったけれど真似したことはあります。ある時期、芸大でシナリオを教えていた時に、学生にやらせていたトレーニングです。

リーダーシップタイプのA子、優等生タイプB子、マイペースC子、トラブルメーカーD子、依存型E子。この5人がファミレスに行ったシーンを脳トレのように考えさせるんです。

皆さんはたぶん

〇ファミレスの入り口
   5人がファミレスに入ってくる。

〇ファミレス店内
   5人が席に着き、注文をする。

――って感じで始めると思いますが、それじゃダメ。
ここでキャラクターをどう表現するか。

5人が入ってきて席を決めるとする。A子が「ここにしよう」と言うと、C子が「眩しいとこはダメ。暑いし」って別のところに座る。D子が「タバコ吸うから喫煙席がいい」と言い出し、ケンカになる。E子はみんなの言うとおりにする。B子が最後に「今日のところはこの人の顔を立ててここに座ろう」とまとめに入る。

ここまででひと悶着。こうやって考えるといくらでも書けそうでしょ?

これだけで面白いのは、キャラがブレないから。ひとりでもキャラがブレちゃうと展開しない。これって決めたらずっとそのまま書き続ける。物語の都合でまとめちゃうとつまらなくなる。貫けば物語はどんどん広がっていきます。どうですか?
あっ、書けるかもしれないって気になるでしょう?

新井一先生が現役でシナリオを書いていた時に、東宝の『社長シリーズ』って映画がありました。森繁久彌さんが社長で、社員が加東大介さん、小林桂樹さん、三木のり平さん。今でも忘れられないワンシーンがあります。

初めてハワイに行くことになって、飛行機の機上で社長の右に加東大介さん、左に三木のり平さんが座り、2人とも箱を持っている。

社長に「何が入ってるんだ」と聞かれ、加東さんが開けると中には炊飯器が入っている。「ハワイはコメがありませんから、社長のお口に合うように持ってきました」と。そういう気配りができるから、社長の片腕になれた、そういうキャラクターがよくわかる。

隣の三木のり平は「これは見せられません」って言ってそのままハワイに行っちゃう。空港について手荷物検査で箱を開けると、芸者のカツラが入っている。三木さんは宴会部長で、どこにいってもそれを使って芸をしている。カツラが出て来るだけで、この人の役割やキャラクターがよくわかる。説明セリフは1個もありません。

キャラクターって細々と性格を語るんじゃなく、その人が何を言って何をやるかが大事です。そこを間違えないでほしい。血液型で「A型はこうでB型はこう」と分けるのは誰でもできる。でもA型とB型は、ひとつのことで議論したらこうなるという行為が面白い。

寅さんって、女に弱くて、必ず揉め事を起こすことで知られていますよね。マドンナが「とらや」に来て、「寅さんいますか?」って言うと、寅さんは留守。

おいちゃんやさくらが「こんな時に帰って来なきゃいいけどねぇ」って言っていると、戸口の向こうを寅さんがスーッと通り過ぎる。お客さんはワーッと笑うわけです。それは、寅さんのキャラクターがお客さんに完璧に沁み込んでいるから。だから通り過ぎるだけで可笑しい。寅さんだったら、必ずこうなるって、展開が分かる。

その逆もあります。このキャラクターだったら絶対にこうすると思ったのに、その通りにならないのも面白い。物語がグッと深くなります。「キャラクターは貫き通しなさい」って言ったけれども、そこの加減が難しい。経験や、他人の作品を観て研究してください。

ドラマ『リーガル・ハイ』の古美門なんか、典型的ですよね。絶対にこう言うだろうなと思ったら案の定言った、だけどもう1つ先に、彼がまったく想像もできなかった行動を取るというのが面白い。このようにキャラクターがどう変わるかも、ひとつのポイントです。

人間は負の部分が魅力

どういう人間に魅力を感じるのか。シナリオ・センターでも「登場人物は魅力的じゃなきゃ」って散々教えられていますよね。どういう人間が魅力的かというのは、その人の世界観なんです。感性、美学、人間を見る目。カッコいい人、綺麗な人、頭の良い人、いろんな魅力があると思います。

僕が芸大で教えていた時に、「家族を箇条書きで説明してください」って宿題を出しました。その中でひとりの学生が、お母さんについて書いてきたものを読みますね。

「福島県生まれ。書道で段を持っている。畑を借りて家庭菜園をするのが趣味。この趣味は10年ほど続いている。以前は陶芸をしていた。またやりたいと思っている。

最近ではテレビ番組の影響で社交ダンスをしたいと思っている。よくテレビのグルメ番組を見ている。

人と関わると過剰になってしまう。相手が誰であろうと自分のペースで進める。

これがいいと聞いてきたものには、その情報元も確かめずに強引に進めてしまう。都合が悪いことがあるとすぐに『私が悪いんでしょ』と言ってすべての事態をウヤムヤにする。

小学生に書道を教えているが、小学生が書道を嫌いになってしまう。

お酒を良く飲み、暴れてしまう。お酒を飲んではよく人に絡む」

これがお母さんのキャラクター。前半は面白くもなんともない、普通です。顔も浮かんでこない。

ところが後半で皆さん、クスクス笑いましたよね。ここが人物の魅力だと思うんですよ。つまり欠点、人としての負の部分。

人は人間の負の部分に興味を持ち、吸い込まれていくんですね。品行方正で困っている人にすぐにお金出すような人に魅力を感じるか。感じませんよね。

ケチで、爪に火をともすような生活をしているようなヤツの方が笑えるし面白い。それは、その人間の持っている欠点が魅力だからです。

例えば『リーガル・ハイ』。古美門弁護士はめちゃくちゃひどいヤツですが、その負の部分に感情移入する。『寅さん』もそうですね、すぐに泣く、すぐに殴る。でもその負の部分が魅力なんです。

私も負の部分が面白い人物に魅力を感じて書いていくので、この部分がキチンと描けているかどうかは必ずチェックします。負の部分が書けてなくて、違うところにフォーカスされていると、それはキャラクターがブレてるってことなので、書き直します。

「清水のドラマって、ダメなヤツの傍に行って『わかる、その気持ち』って言ってあげたくなる」とよく言われます。それは人間の負の部分をいっぱい見てきたからです。

生活保護を受けているような方たちや、なりたくて病気やアル中になっているわけじゃない人たちと触れ合って、人間は負の部分を抱えながら生きてきて、そのことが妙に笑い話になったりもする。

人間の弱い部分は魅力的なんだなって、その頃からうすうす気づいていて、この稼業に入ってさまざまなキャラクターを書かなきゃいけなくなった時に見つけたのが、「人間は弱い部分があるから魅力がある」ってことだったんですね。

でも強い人が好きな人もいれば、弱い人が好きな人もいる。皆さんはどういう人間を魅力的に書くでしょうか?

コンクールではキャラクターがしっかり書けているかどうかが、審査員にグイグイ読ませる原動力になると思います。堂々と、「私はこうだ!」といえるようなキャラクターを考えてみてください。

自分を磨いて、自分を知ってもらうこと

僕が脚本家になった頃はまだ「作家性」という言葉がありました。物書きにはそれぞれ世界があって、それを映像にしていく土壌があった。

今は作家性自体が邪魔になっている。亡くなった市川森一さんが「テレビドラマは汚れた娼婦に成り下がった」みたいなことを仰ってたけれども、言われたことを、どれだけ上手く書けるかが脚本家の質になってきています。

でも飯のタネにしていこうと思うならば、ここはとてもいい世界だと思います。ある程度お金も手に入るし、想像力がお金になっていくわけだから。

自分が書きたいものを映像にするのはすごく難しい時代なので、シナリオの世界が自己表現の場として、どれほどかはわからない。自分の作家性を大事にして書きたいものだけを貫いていくのは、難しくなってきていると思います。

ドラマそのものの数も減りつつあって、一方のシナリオライターはコンクールではたくさんの応募がある。我々のように今現場で生きている人間は、新しい才能を守らなきゃと思いつつも、追い詰められている、すごく窮屈な厳しい時代だと思います。

どんなに上手くて才能のある人でも、必ずプロになれるわけではなく、いいヤツで酒飲んだら面白いからってプロになっちゃった人もいる。才能とか能力とは別次元です。

プロになることと、いいものを書くということはイコールじゃない。プロになるには運と人間関係。いろんな人に会って、書いたものを見てもらえるチャンスを広げられる人でないとダメ。運も必要だけど、自分を磨いて、「自分を知って!」「自分を見て!」って言える能力が一番大事だと、僕は思っています。

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「新井一生誕100年機縁シリーズ~清水有生さん編清水流キャラクターの作り方~」
ゲスト:清水有生(シナリオライター)
2015年9月28日採録
次回は2月25日に更新予定です

プロフィール:清水有生(しみず・ゆうき)

1987年『正しいご家族』がTBS第1回シナリオ大賞を受賞。これがキッカケとなり脚本家デビュー。NHK連続テレビ小説『あぐり』『すずらん』の脚本などを執筆。1998年橋田賞受賞。2005年の『3年B組金八先生』第7シリーズの第11回から脚本を担当し、『ファイナル』までのすべてのエピソードを執筆。その他、テレビドラマ『家栽の人』(1993年)、『熟年結婚 妻への詫び状』(2006年) 、『明日の光をつかめ』シリーズ(2010年~2013年)など代表作多数。また、2017年にフジテレビ系列で放送された『さくらの親子丼』が大きな話題となり、2018年に『さくらの親子丼2』が放送。なお、『オトナの土ドラ』枠で“シーズン2”を放送するのは初。

※以前、シナリオ・センターでは「清水有生さんの特別講義・清水ゼミ」を実施したことがあります。その時の模様をご紹介した記事も併せてご覧ください。創作の際、「ページが進んでも、なんか面白い区ならないんだよな…」とお悩みのかたは「そうすればいいのか!」と発見できることがあると思いますよ。

ブログ「ドラマティックな展開を作る方法」はこちらから。

■ブログ「魅力的なクライマックスシーンの作り方」はこちらから。

 

今回ご紹介した記事を映像でも!You Tubeで公開中

①脚本家 清水有生さんの根っこ・前編【Theミソ帳倶楽部】より

②脚本家 清水有生さんの根っこ・中編【Theミソ帳倶楽部】より

③脚本家 清水有生さんの根っこ・後編【Theミソ帳倶楽部】より

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