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2015.08.28 開催 マンガ原作――感動をつくる法則
ゲスト 大石賢一さん(マンガ原作者/マンガ・プロデューサー/スパイスコミニケーションズ会長)

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2016年1月号)よりご紹介。
今回は、マンガ原作者の草分けでマンガのプロデュースやマンガ雑誌の制作・発行も行っている大石賢一さんをゲストにお迎えいたしました。大石さんには、シナリオ・センターにて、マンガ原作講座の講師も務めていただいたこともあります。
この公開講座を実施した当時、『マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則』に続き、『マンガ原作 感動をつくる法則』(言視舎)を新刊として上梓されたときでした。
そこで、この、『マンガ原作 感動をつくる法則』に基づいて、感動的なマンガシナリオ執筆のコツについてお話ししていただきました。
「マンガ家になりたいけど、絵は苦手…」「マンガ原作者になりたいけどどうしたらいいんだろ?」とお悩みのかた、必読です!

マンガシナリオの黎明期

私がマンガの原作を書き始めたのは、今から30年くらい前のことです。

近年は出版社と話をして、こういうマンガが世の中に必要じゃないかというところから、マンガを作って雑誌にしたり、単行本にしたり、ある時は出版社の依頼で連載マンガのプロデュースもしたりしています。

それから株式会社スパイスコミニケーションズというプロダクションの経営をしております。この中に編集部がありまして、編集員が何人もいて、マンガ雑誌を作っております。

この会社は広告会社でもあり、新しい広告の中にどういうマンガを入れていったらいいかとか、業界間をつなぐコラボレーションの実験作もやっています。マンガの可能性を試そうと、新しいフィールドの開拓もしています。

私の著作は2冊あり、5年前に書いた本は『~77の法則』ということで、「こういう風にした方がいいよ」ということを箇条書きで並べました。「法則」が先で、数学的なアプローチになっているのですが、今回の2作目は『感動をつくる~』ということで、どちらかというと文学系の仕切りで書いた本です。

1作目で書けなかったことを、2作目にはかなり盛り込みましたので、濃い内容になっていると思います。

マンガ原作の30年間の変遷を見てきましたが、昔はマンガのシナリオの書き方を教えてくれる人はいなかったので、編集者と一緒に考えていきました。

編集者もわからないので、シナリオライターの私に振ってくるわけです。私も研究して、新しいマンガを作るために色々本を読み、シナリオにして出すんですが、漫画家のところに持っていくと見向きもされなかったりして、そういうやりとりの中から生まれてきたのが、この2冊の本です。

でもこの本の前には様々な失敗とものすごい数の試行錯誤があって、私が始めた時は手書きでした。今の方々にはビックリかもしれませんが。ワープロはその1年後か2年後に出ました。

当時のNECの「文豪」は専用スタンドとイスを含めるとタタミ1畳くらいあって、上にプリンター、下にキーボード。1枚プリントアウトするのに3分くらいかかる。原稿をどういう書式にしていったらいいのかということも、私のやり方を出版社に提供しました。

私の原稿は縦20横40の800字詰めで、あとから色々書き込めるように余白を取ってあります。FAXで送る時に枚数が少ない方がいいので、800字詰めにしました。

漫画で24ページになることを想定すると、シナリオは800字詰めで大体11~12枚。案外短いですが、この中にすべてを詰め込んでいく。1回で読者を納得させる面白さが出ていて、かつ腑に落ちる何かが入っていないとダメです。当時、出版社ではこのシナリオの形がスタンダードになっていて、新しいライターにはこの形で書いてくれと言っていたようです。少しは貢献したかなと思っています。

私は会社勤めの傍ら、7~8年もの間、出版社から依頼を受けてマンガ原作の仕事をするという、二足のわらじ状態が続きました。『ビックコミック』系の大人の雑誌は隔週で、2つ連載を持つと月4本。プラス、月1本の連載で計5本。

サラリーマンとして勤めながら月5本の連載を持つという、すごいハードな生活をしていました。それも会社にバレないように原稿を書くという……。私も若かったし、出版業界にもそういう無茶をする人がいっぱいいる時代でした。懐かしく思い出しますが、非常に面白かったですね。

その毎月5本書いている時に、石ノ森章太郎先生との仕事が始まり、会社を辞める大きな決心をしました。ここで聴いていらっしゃる皆さんの中にも、いつか会社を辞めて文筆でやろうと決心しているかたがいると思います。私は会社をやめてすぐにマンガのプロダクションを作り、現在に至ります。

マンガ原作を書くための心構え

今の方が昔よりもチャンスは少なくなっているのかもしれませんが、マンガのシナリオを書いて出版社に持っていくとか、知り合いに編集者がいたら読んでもらうとか、公募に応募するとか、そういうことはガンガンやるべきです。これなくして世に出ることはできません。趣味でマンガ原作を書く人はいませんから。

マンガの原作というのは、漫画家が読むものです。漫画家1人しか読みません。小説は色んな読者に読まれますね。ドラマの場合も、役者やスタッフなどの関係者みんなに読まれます。マンガの場合は、ただ1人。漫画家さんのために書くものです。

それを仲介する編集者がいますが、漫画家さんにわからないようなシナリオを書いてもダメ。ここがまず、大きく違うところです。

それと謙虚にならずに思いっきり書くこと。つまり極端に言うと、「死ぬ前に書いておきたい1本から書いてみなさい」ということ。遺言のように残したいこと、まずそこと向き合って書いてしまえと。

これ、みんな怖いからやらないんです。それを書いちゃったら、そのあと何もなくなって書けなくなると思うけど、ライターはそこから始まる。そこが一番の底辺になって、色々な発想が生まれてくる。

ダメなのは、ちっちゃなネタでとりあえず書いてみようと考えること。人生に例えると、ちっちゃい夢なら神様は叶えてくれるんじゃないか、みたいな発想ではダメ。どんどん上に這いあがっていくような感覚の生き方をする人の方が、サクセスします。

最後はピラミッドの頂点の石に手を掛けるわけですから、下からコツコツなんてやらないで、なるべく高いところから手を掛ける。キーワードは「死ぬ前に書いておきたい1本から書け」。

大丈夫です、その後ネタはいっぱい生まれてきますから。それ1本で終わるなんてことはない。それくらいやって初めて、「こいつ何か持ってんな」って周りがザワザワし始める。

漫画とドラマの違いとデビューのチャンス

小説というのは、主人公の名前なんかどうでもいい。小説はストーリーが体に入っていれば人に伝えられる。

でもマンガの『ちびまる子ちゃん』のストーリーを語る人は、誰もいないですよね。マンガはキャラです。

「『ちびまる子ちゃん』、面白かったよ。まる子が~~しようとしたらおじいちゃんが出てきて~~」なんていう会話は、ありえない。『ちびまる子ちゃん』、「見たよ、面白かったよ」で済んじゃう。

ちびまる子ちゃんの名前を忘れる人は誰もいないでしょう。タイトルでもありますし。これが、マンガと小説の大きな違いです。このマンガのキャラクターを作るのが、シナリオの目的です。小説と随分違います。これが身体感覚でわかるといいですね。

あと、ドラマと何が違うのか。ドラマでは、主な登場人物が10人いるとすると、その10人をどのように配置すればいいかを考えてストーリーを綴ります。マンガはまったく違う。10人の登場人物の中で、描くのは1人きりです。10人を同じような配分で描いたら、もうそれはマンガではない。

長編を書いて持ち込んでも出版社は相手にしてくれません。「3年続く長編連載の第1話を書きました」って言うのはダメ。短編の読み切りを書いて持っていくのがベストです。

編集者は、大御所の先生が病気になって原稿が落ちちゃった場合に、代替の原稿を入れなきゃいけないという宿命があります。だから、いいシナリオは持っていたい。

ですから、そういう人と出会うと、そのシナリオをすぐに掲載するとは言わないけれども、「ちょっとお預かりしておきます」って言って、何かあるとそのシナリオをベースにマンガを描かせて掲載することもありえる。

シナリオなしで、漫画家にマンガを描かせりゃいいだろって思うかもしれない。でも描かせてみないとわからない。シナリオが先にあると、「この通りに描いてね」ってことで、雑誌の大きなバランスは保てる。

このように、代替で出せる原稿として編集者に持たせておくと、デビューのチャンスがあるかもしれない。よく舞台でも、誰か役者が倒れたら代替で出るチャンスができるなんてこともあるでしょう。これが狙い目です。

ヒットマンガ5つの法則

マンガの場合はキャラクターがすごく重要だということは、よく言われているし、皆さんもご存知でしょう。結論から先に言うと、「ストーリーを先に作るのではない」。みんなビックリするんですけど、ストーリーは二の次で、キャラクターを作る。

じゃあキャラクターって何か。ここを理解できなければ、マンガのシナリオは書けません。出版社の編集者もキャラクターに注目し「じゃあこれを漫画家に書かせよう」とするわけです。キャラクターが出ていないシナリオはダメです。

キャラってどこでも言われていますが、僕の新しい本の第2章には、次の基本の5つの法則が出てきます。これは昔からマンガ業界で言われている法則です。

1.主人公は応援したくなる人物だ。
2.主人公は目的を身近に感じている。
3.主人公は他人と違う個性を持っている。
4.主人公は生活、行動の好き嫌いがハッキリしている。
5.主人公は正義感や優しさを持っている。

男性マンガ・女性マンガによる違いもありますが、これを押さえていないと大手出版社の編集者が見た時に「何かが欠けている」と言われてしまいます。大手出版社は、連載したら大ヒットしそうな作品しか載せません。いわば王道をいくマンガを作るには、この5原則が入っていなければダメなのです。

「5つの法則」は、何とも当たり前のようなことばかりですから、「うんうん、わかった」と通り過ぎてしまうかもしれませんが、この言葉の奥にあるものがとても広い。

ほとんどのマンガのヒットは、この5つの法則から生まれてくると言って間違いない。5つ全部持っていれば最強でしょうが、強弱はあっても要素は持っていないと大ヒットにはならない。

それから、漫画家さんが自分で描けばいいのに、なぜシナリオが必要なんだという点も重要です。編集者が考えている雑誌のバランスの中で押さえたいものって、漫画家さんに描かせても、必ずしもそれが出て来るとは限らない。

ところが一旦シナリオにすると、かなり狙えるので、そういう理由で編集者がシナリオを欲しがることはあり得ます。

今の編集者の中には、自分で書いちゃう人もいます。漫画家が他の人のシナリオを書いている場合もあります。このように、シナリオ技術は色々な様相を見せています。

それと、大手出版社のエンターテイメント作品だけではなく、それ以外の出版社も『マンガでわかる○○』というような本をたくさん出している。私の見たところ、ああいった本ではもっと面白く見せる方法があるのに、シナリオ技術がないために、絵の横に文言が並んでいるだけになってしまっている。そういったところまで、シナリオ技術は必要とされています。

キャラクターを徹底的に作る

最初の「主人公は応援したくなる人物だ」という法則、皆さんが過去に読んで面白かったマンガも、これに当てはまると思います。簡単に言うと、主人公の運命は一体どうなっちゃうんだろう?と、読者をハラハラさせながら巻き込んで、感情移入させて引き込むやり方です。こうやってキャラを作ると、読者は乗ってきやすい。

主人公がマイナスの部分をたくさん持っていると応援したくなります。本では18の例を載せていますが、いくつ組み合わせても構いません。どうすれば応援したくなるようなピンチに主人公が陥るのか。そういうところから応援させる仕掛けを作りましょう。

そして目的を口に出して言わせる。わざわざ口に出すなんてマンガでしかありえないですけど、日常の会話とは違って、マンガの場合は、「僕は中学に入ったらサッカー部に入ってチームを優勝に導くんだ」とか、「俺はボクシングで世界チャンピオンを目指す」とか、「私は弁護士になって世界中の貧しい人たちの味方になりたい」とか言わせて、読者と共有させることによって、その目的のためにこれをやっているということをわからせる。

テレビの刑事ドラマでは、主人公の刑事は毎週犯人を逮捕しますが、犯人を捕まえた感想は言いません。この刑事はなんで捕まえてるのか?ということは言わない。

小説の場合は言っちゃいけない。言わずに、周辺のことを描いてわからせる。小説やドラマはテーマをはっきり言わない方がいいのかもしれませんね。でも、マンガは語っちゃいましょう。

刑事なら、たぶんこう言うでしょう。「俺はこの世の悪が憎い!」「幸せに生きていた人が涙を流すなんてことは許せない!」「そんな世界にならないためにも、俺は殺人犯を捕まえるんだ!」。これ、言っちゃうんです。

くだらないと言えばくだらないんですが、これをカッコ悪いと思ったら、マンガは書けなくなっちゃう。恋愛ものでもビジネスものでも同じ。主人公が何をしたいかを明確に打ち出す。

毎回言っていたらおかしいですが、長い連載の中で初期のうちに1回くらい言えばいい。その目的のために2話目があり、3話目があり、というようにひとつのピラミッドを構築していくと、見事に単行本として完成する訳です。

毎回毎回フラフラすると、単行本にはならないで、失敗作になっちゃう。目的に沿って回を重ねるうちに、読者も単純に「これって痛快に犯人を捕まえるマンガなんだよね」「主人公は目的に懸けるヤツなんだよね」ということが見えてくる。これがマンガっぽさです。

普通なら諦めるのに、この主人公は走って追っかけまわす。そういう風に、テーマに沿ってキャラを特化させるのがマンガ独自の方法です。

小説家というのは自分の作品にどんどん思い入れして構わないんですが、マンガは、作家と主人公はまったく別という意識で書かないと成立しません。読者の想像をはるかに超えた突拍子の無さやキャラの面白さで見せていくものだから、自分本人を主人公にして書いても、面白い作品は出来ない。当人が思っているほど、自分は面白くないですから。

昔、さいとう・たかを先生が『ゴルゴ13』というキャラクターを作った時、「これは花火であって、みんなは花火を見てくれればいい」とおっしゃった。「私は花火師だから」と。『ゴルゴ13』というでっかい花火を見てくれればいいんだよということで一線を画していました。自分とは切り離した方がいい。

「漫画は主人公だけが特別」「主人公は他人と違う個性を持っている」。さっきの御神輿の話でもわかるように、ドラマで言うところの共演者と一緒にしてはいけない。

主人公だけが特別。明らかに脇役であることを明確に出すこと。外側から見る主人公は、何か違うように見えること。これが、他人と違う個性を持っているということです。

キャラを出す時に、そのキャラが自分のことを喋っても読者は本当のことかどうかわからない。キャラが嘘をついているかもしれないから。でも脇役が「俺は見たんだ、あいつ弱い素振りしてるけど、チンピラ3人をいっぺんに殴ってた」って言うと、本当に聞こえる。

このテクニックを使って、主人公を作っていく。これが行数の少ないシナリオの中でキャラを立てていく方法です。主人公だけが違う何かを、噂話で知らせてキャラを立てていく。シナリオの中でうまくこれを組み合わせて、キャラを作っていく。本人が言うことって嘘かもしれないと疑われちゃうんですが、他人が言うと読み手に伝わる。

主人公は生活や行動の好き嫌いがハッキリしています。これは、内面から出てくる好き嫌い。どうしてこの人はこんな行動をするの?って疑問に思うような行動をとる。

「みんなが左に行くのに、どうしてお前だけ右に行くの?」「いや、こっちは危険だから」「何言ってんの? こっちの方が崖だろう」。そう言っても主人公は右に行く。そして、結果的にそれが正しかったりする。ひとりだけ違う行動をわざとさせて、積み重ねていく。

もちろん全部理由があるわけで、そういうものが内面のキャラクターを作っていきます。最初にキャラの設定をする時に、こういうところまで全部作ります。使えるシーンが来たらガンガン使っていく。これが、ちゃんと辻褄の合うキャラクターを作るコツです。

主人公は正義感や優しさを持って、今まで申し上げた4つの法則を支えます。読者はすごく安心するんですね。面白い主人公でも、悪い方向に引っ張っていくのではなく、実は優しさや正義感を持っているのだということがわかると、読者は安心してますます主人公を好きになる。

正義感って何なんでしょう?

正義ってすごく曖昧ですね。今は正義という言葉は危険な意味に捉えられている時代です。

でも私がここで言っている漫画上の正義というのは、例えばラーメン屋を開いたら美味しいラーメンを作ろう!というのが正義。主人公が医者だったら、一人たりとも死んでほしくない、怪我を治す。これがその道の正義です。

正義を貫くための弊害と戦うところに大きなテーマがある。ただラーメン作っているだけでは誰も感動してくれない。ラーメンを作ることにすべてを捧げている、これが俺の生き方なんだと言いきることが出来る。その先にあるのが正義だと思います。

悩むよりまず書こう、そして直そう

こういう5つの法則が絡まって、主人公が出来ていきます。パッと思いつきで書けばいいというものではありません。深く考え抜いて主人公を決定しなければいけません。本当にいい作品を作りたいなら、プロがやっていくには、これくらいの思慮深さが必要になります。

ただアマチュアの場合、囚われ過ぎて書けなくなるのも困ります。言っていることが相反しているようですが、はじめて作品を書くのなら、マンガのシナリオなんて「エイヤッ」と、ドッカーンと書いてしまいましょう。

矛盾していますが、あとで反省すればいい。私は「まず書いちゃいましょう」と勧めています。で、書き始めたら、書き終えましょう。稚拙だったら書き直せばいい。

苦しくてもいいから、端折ってもいいから、最後まで書いてみる。そうすると自信もつくし、「これが自分のテーマと結論だったのか、なんて情けない」となるかもしれない。でも書き終えてみないとわかりません。だからまずは書き終えてみる。躊躇しないで、何もかも無視してエンドマークを打ってから、すぐに書き直せばいいんです。

それに、本当にプロとして世に出ていく人は、書き直した人です。今までに、色んな生徒さんが提出した作品に私が講評をつけて返すんですが、違うところに関心が行っちゃって、次はまったく違う作品を出してくることがあります。

それに対して講評すると、また違う作品を出してくる。そうすると全然進歩せずに同じところに留まるだけになってしまう。でもひとつの作品を何回も書き直すと見えてくるものがあって、ドンッと跳ねる。これを体験した人がプロになる人だと思います。

プロになると、せっかく書いたものを直して出さざるを得ない。苦しいですけど、それが仕事です。気の向くまま好き放題書き散らすという感覚ではない。

預かっているマンガを毎週書いていかなければいけないんですから、色んな方向からネタを考えて、次号をどうしようって常に頭の中がいっぱいになるくらいじゃないと連載なんかできない。

 

感動を作る、山を書く

あと重要なのは、感動を作ること。消えていった人は、シナリオに感動が入っていなかった。逆に、なんで感動を入れなきゃいけないんだ?っていう声もありました。

けれど、結局生き延びている作家というのは、感動を入れている人なんです。じゃあ感動って何か。漫画家に、「これはいい、描きたい作品だ」「俺を選んでくれてありがとう」と言わせるような作品。

人間や人類にタッチしているヒューマニズムのある作品。後味が悪くて素っ気ない書き方をしているよりも、感動させてくれる作品を編集者は選ぶ。感動が込められているシナリオの方が世に出ていきやすい。

昔の無頼派小説家の人たちが、自分の日常や恋愛を書いていったことと似ていますが、やっぱりマンガのシナリオも、自分の恥ずかしゾーンに目を向けていくと、他人は心を動かしてくれます。

人によって恥ずかしゾーンは違ってくるかもしれませんが、奥行きがなければ。カッコいい主人公が、その後ろに恥ずかしい人間性を持っていると、幅が出てきていい。カッコいいだけの主人公でいいなら、シナリオライターは要らない。

それから「天の目と地の目を持つこと」。これはドラマや小説でも同じですが、設定をする時には天の目を使います。読者が面白がってくれるかどうかを検証する場合には、読者と同じ地の目を使います。

天の目で設定した内容が、地の目で見ても面白いかどうか。それを見極められるのが才能。天の目だけで、設定やうんちくだけで書いちゃってるものが多いんですが、読者が置いてきぼりで面白くい。

逆に、地の目だけで書いた作品もダメです。主人公が行き当たりばったりで、大きな設定がない。ですから、天の目と地の目を両方行き来して、自分の作品を見直すことが重要です。

「山を歩くキャラを作れ」というのは、山の峰に主人公が立っているイメージだとか、陰と陽の陽の部分だけで繋いでいくような書き方が必要ということです。谷だけ書くのは小説なら通用するかもしれませんが、マンガでやると何とも陰々鬱々で暗い気持ちになります。

漫画家さんが絵にできない内面の描写はマンガにはなりません。谷と山があるなら、山だけを選んでいくこと。一旦自分で考えた起承転結の中で、陽のあたっている部分だけを綴っていく。それで全体のストーリーが語れるかどうか。

例えば殺人事件だったら、マンガなんだからナイフを持って「貴様―!」って突進するところを描いて構わない。それを書くのがマンガだし、どういうセリフを言って刺したか、どういう倒れ方をしたのか、そこを読者は見たい。下衆な興味で描かなければ面白くない。血の付いたナイフを持っている中途半端なところから書きはじめるのは、小説ならあり得るけどマンガにはならない。

犯人が捕まって自白するシーンとか、手錠を掛けられるところとか、サスペンスドラマの山場をまったく描かないで裏側の谷だけを書いていくのは、いかがなものか。結構皆さんも谷書きをしちゃうので、自分の書いた内容が谷かどうかを、客観的に眺めた方がいい。

私は「幕の内弁当理論」と呼んでいますが、四角い弁当箱の中にご飯や卵焼きをどうやって詰めるかがプロのテクニック。谷をいっぱい入れたら、食材が入りきらない。極論ですが、山だけでいいんです。

自分の書いたシナリオがマンガになると嬉しいですよ。漫画家さんはこういう風に考えて、こういう絵にしたのかと。自分と漫画家さんとのやりとりや息遣いのようなものが見えて、非常に面白い世界観が生まれます。

そうすれば漫画家とのコンビができてくる。どんなチャンスでもいいから狙ってみてください。自分の書いたシナリオがテレビドラマになるのは大変な道のりです。でもマンガなら、ちょこっと書いたものがマンガになることはあり得ます。つけ入る隙はいっぱいあると思いますので、チャンスを狙って仕事してみてください。

 〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「マンガ原作――感動をつくる法則」
ゲスト:大石賢一さん(マンガ原作者 マンガ・プロデューサー スパイスコミニケーションズ会長)
2015年8月28日採録
次回は2月11日に更新予定です

プロフィール:大石賢一(おおいし・けんいち)

広告代理店勤務を経て1989年に独立。『HOTEL』(石森章太郎プロ)ほか、多数の原作を手がけるマンガ原作者。また、『SATION』『カックラ陣太』などマンガ脚本、ゲームシナリオも多数手掛ける。主な著作は『マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則』(彩流社)、『マンガ原作 感動をつくる法則』(言視舎)など。現在、(株)スパイスコミニケーションズ 取締役会長&コミックコンテンツプロデューサーとして活動中。また個人事務所(株)オフィス大石では新しい表現を模索中。

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