menu

脚本家を養成する
シナリオ・センターの
オンラインマガジン

シナリオ・センター

シナリオのヒントはここにある!
シナリオTIPS

シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。

創作するなら キャラクター作りから/脚本家・内館牧子さん

2015.06.22 開催 THEミソ帳倶楽部「新井一生誕100年機縁シリーズ~内館牧子さん編~」
ゲスト 内館牧子さん(シナリオライター)

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2015年11月号)よりご紹介。
今回も、シナリオ・センター創設者新井一生誕100年を記念して行った模様をご紹介。新井一と縁のある出身ライターの方々に、ご自分のシナリオ作法について、お話をしていただく機会を設けました。題して「新井一生誕100年機縁」。今回のゲストは内館牧子さん。講座当時、連続ドラマ『エイジハラスメント』(テレビ朝日)執筆中のお忙しい中、受講生たちの質問票をあらかじめお読みいただき、実際のドラマを例に挙げて、向田流のシナリオの書き方について、わかりやすくお話いただきました。脚本を書くときのキャラクター作りの他、セリフ・構成・発想の部分など、脚本家・小説家志望者はぜひご自身の脚本の書き方に取り入れてみてください。

キャラクター作りのきっかけ

皆さんから質問をいただいております。

キャラクターについての質問で多いのが、「周りにいる人たちをモデルにすることはありますか?」。

周りにいる人たちをモデルにしていたら、1作は書けたとしても、2作、3作とは続きません。皆さんの周りには殺人犯だとかシャブ中だとか、いないでしょう?(笑)。でもシャブ中のことだって、殺人犯のことだって、例えば人間以下の行為だって書くことがあるかもしれない。だから周りにそういう人がいなければ書けない、と言っていてはダメ。

私自身、周りにいる人をモデルにしているかといったら、たまにきっかけはありますが、その人をモデルにして、連続ドラマ10本書けと言われたら、書けないですものね。

じゃあ、きっかけってどういうものか。

男の人に振られた友達がいたんです。友達が別れ話をしに行ったら、そこに新しい女がいて鉢合わせた。これ自体は珍しいことではないですが、彼女は負けてスゴスゴ帰ってきた。

それで私に、「ダメだったのよね。なんだかさ、お腹空いちゃってさ、アンパン食べちゃった」って言うんです。「あなた、振られてそれだけの目に遭って、アンパン食べたの?」って言ったら、「お腹って空くよね」。これ面白いなあって思いました。モデルにするんじゃなくて、そのきっかけなんです。

この間、ジェームス三木さんのお話で、『月刊シナリオ教室』に「男に捨てられたかなんかして公園でわんわん泣いている女の子が、水道の蛇口が緩んでいて、泣きながら締めていた」って書いていらしたけれども、まさにそれなんですね。全然別のところに気が行くわけです。

「アンパン食べた」っていうのが、私も面白いなあと思って、そういう時にアンパン食べちゃうキャラクターを書いたんです。新宿の副都心の大きな歩道橋の上で、向こうにキラキラ街が見える。主人公はそこでアンパン食べる。そういうシーンにした。

ところがですね(笑)。こういうことがままあるんですけれども、送られてきたビデオを見たら、アンパン食べるシーンで女優が缶ビールを飲んでいるの。私は激怒しました。

「男に振られて缶ビールを飲むんだったら、私は原稿料もらえないわ! これ、アンパンでしょ!」って言ったら、どうも現場で女優が「振られたらヤケ酒でしょう」って言ったらしいんです。彼女はアンパンまでは思い至らなかったのでしょう。

私が、なぜアンパンかということをト書に書くなんて考えもしませんでしたし。昔の話なのに、あの時のショックはいまだにあって、それからはト書をちょっと増やすようにしています。

そんなわけで、男に振られた時にどうする女なのか、というのがキャラクターです。 例えば、男に振られた時に、少なくとも私の女友達は相手の男のところに話をつけに行っている。行く女なのか、行かない女なのか。これがキャラクターです。

行く女だった、行ったらそこに新しい女がいた、その時にどうするか。これがキャラクターですよね。私の女友達は負けて帰ってきたわけです。帰って来る時にメソメソ泣いて帰ってくる女か。泣かないで帰ってきて、その足で男の会社に行って、上司にぶちまける女か。これもキャラクターです。

キャラクターを押さえていないと、セリフが出てこないし、アンパンも食べない。「ヤケ酒でしょ」って通り一遍の話になってしまうんです。

だから履歴書としての「何とか中学を出て、何とか高校に行って、何とか大学では何を専攻して、出身地は大阪で、お父さんお母さんはどんな仕事をして」っていうのも必要ですが、キャラクターとは、そういうことばかりではないんですね。

発想のきっかけ。例えば真っ赤なペディキュア

ある日、私は男性の脚本家と串揚げ屋に行って、2人でカウンターに並んで串揚げを食べていたんですが、食べながらずーっと気になっていたことがありました。お互いに何も言わなかったんですが、食べ終わって外に出たら、その脚本家が「な、気が付いた?」って言うんです。やっぱり2人とも気が付いてたんですよ、口に出さなかったけれど。

何かって言うと、串揚げを揚げているのは若い、30代の男の人で、揚げて、愛想よく出してくれる。その後ろに暖簾があって、暖簾の奥が厨房になっていて、時々暖簾の向こうから、お客さんの様子を見ているのか、チラッチラッと女の人が覗くんですよ。覗く女性は60代くらいかな。だけどお母さんには見えない。この人何なんだろうって、私、ずーっと考えてました。

私と彼が気が付いたのは、その人が真っ赤なペディキュアをしていたことなんです。60代で真っ赤なペディキュアして、素足にサンダル引っかけて、暖簾からチラッと顔をのぞかせる。あの覗き方は親にしては違うって。彼も同じことを思っていたわけ。

「どっちか早い方が1本書けるね」って笑ったんですけどね。

赤いペディキュアをしているお婆さん。これも発想のキッカケにはなりますが、その人をモデルにして全部書くってことではないんですよね。そこから先は自分で考えて作らなければならない。そのお婆さんのキャラクターを明確に作り上げないといけない。

良い人しか書けない!?

それからもうひとつ「良い人ばかりになるんですが」っていう質問(笑)。良い人ばかりのドラマを書くと、必ずプロデューサーが「面白くないッスねー」って言います(笑)。それから、俳優さんもあまりやる気が出ないかもしれない。

良い人っていうのもキャラクターなんですよ。ただ、裏も表も良い人なのか、表は良いけど裏は悪いのか、表は悪いけど裏は良いのか、表も裏も悪いのか。これによって全然違う。そこのところを練っていないで書くと、平べったい話になっちゃう。つまらないですね。

私がシナリオ・センターに通っている時に、実際に親しい仲間の1人がそういう人だったんです。「作品を人に読まれると恥ずかしい」って言うんですね。読まれると恥ずかしいから、常に良い人を書いちゃう。何かを書いた時に、「え、あの人ってこんなこと考えてたの?」って思われるのが嫌だと。

この人は消えるなと思っていたら、やはりいなくなりました。無理ですよ、恥ずかしいから書けない、それで作家になるというのは。彼女の20枚シナリオ、何度も聞きましたが、死ぬほどつまんなかったですね。

私がテレビで脚本家としてデビューした後にも、彼女はよく言ってました。「ねぇあなた、あんなの書いていて、ご両親には平気?」「どう思われるか考えるんじゃないの、普通」って。

こういうタイプは、クリエイターとしては無理です。人間を描く仕事ですから、人間の表と裏を書くのは当然。「お父さんやお母さんに見られたら恥ずかしい」という場合は、見られても構わないジャンルに行くしかないだろうと思います。あるいは、良い人だけが出てくる、面白くない人生訓みたいなものを書くしかないでしょう。

それから、「意地悪な人をどういう気持ちで動かしているのか、反面教師だと思って動かしているのか、それとも共感して動かしているのか」っていう質問。これなんか正にそうですよね。登場人物を反面教師だなんて思って書いているうちは、まだ素人です。皆さんはもう素人の域ではないんだから、そこから先、もうワンステップ出ていかなくてはなりません。

構成もキャラクターから考える

「構成が苦手だ」という質問が随分来ています。

例えば「短いのだと何とかなるんですが、シナリオが50枚以上になると書けない、どうしたらいいでしょう」。「構成が苦手で、自分では良いと思っているんだけど、他の人から主人公の動きがおかしいと言われることがある。どうしたらいいんでしょうか」。

それから構成の中の人間関係ですね。

「人間関係の裏が書けません。憎悪を書く時に、プロット説明が足りないと、先生やクラスの皆さんにダメ出しされます」。「ネタをどこでどう生かすか。不安・迷いを主人公に入れ込みながら人間ドラマを書くように心がけてはいるのですが」って。

この3つの質問、どれも非常にトンチンカンなものです。何がトンチンカンかというと、結局キャラクターを作ってないのです。

例えば山田太郎という作家がものを書いているとしたら、山田太郎という作家が言わせるんじゃなくて、その中の登場人物がセリフを勝手に言わなければなりません。作家が強引に言わせるから、おかしなことになる。

「50枚以上書けない」というのは、構成がなっていないんじゃなくて、キャラクター作りがなってないということです。いちばん時間を取るのはキャラクターです。キャラクターさえキチッと押さえておけば、嘘じゃなくて、本当にその登場人物が自分でしゃべります。

これはねぇ、最初のうちはすごくむずかしいけれども、「できたぁ!」ってなると快感ですよ。「あ、いける」って。よく作家が「登場人物が勝手に動くんです」ってキザなこと言うけれども、やっぱり動くんです。

私は朝のテレビ小説『ひらり』を書いている時に、「あっ、動いてる」と初めて思いました。皆さんにはできるだけ早くわかってもらえたらと思います。そのためには、しっかりとキャラクターを作ることです。

キャラクターがしっかりしていれば、50枚どころか、それこそ大河ドラマだって、朝のテレビ小説だって書けるようになります。

「人間関係の裏が書けない」っていうのもおかしなことで、裏って自然に出てきたり、あえて隠したり、あえて出したりっていう、それがキャラクターでしょう。だから、「さぁ、人間関係の裏を書くぞ」って頑張っても書けません。まず登場人物のキャラクターをしっかり作ってほしいですね。

セリフは登場人物が言うもの。
セリフは私たちの勝負どころ

脚本家はセリフでギャラをもらう、セリフが勝負だっていうのは、皆さんも、多くの人たちから聞いていらっしゃると思います。

他のことは助けてくれます。ストーリー案を出してくれたり、ここでもう1人登場人物を出したいけれども、どんな人がいいかなんていう時には、「こんな人がいいんじゃない?」とか「こういう手もあるよね」とか、プロデューサーも監督も色々刺激をしてくれます。

ところが、セリフについては、彼らはプロではない。監督兼シナリオライターという方もいらっしゃいますが、製作サイドは「シナリオライターにセリフでお金を払っているんですよ」というのが、明確に見えます。

だからセリフは私たちの勝負どころです。これは皆さん、もう十分わかっていると思うので、問題はこのセリフをどう書くのかということです。

皆さんの質問の中に、「共感してもらえるようなリアルなセリフを書くためには、どのような練習をすればよいでしょうか?」。これね、トレーニングしてもダメ。セリフって、訓練して出てくるようなものじゃないという気がします。

私がシナリオ・センターの横浜校に通っている時、今から35年くらい前のことですけど、クサーいものを書くA君という人がいたんですよ。すごくいいヤツなんだけど、書くものがクサいのね。

どういう風にクサいかというと、その彼、すごく純朴な人なんですよ。登場人物が語るのではなく、純朴な本人が言わせてるから、純朴なセリフになっちゃう。絶対に悪者を書けない人だったの。彼が書いたセリフは、今でも覚えています。

男と女の間で、別れる別れないってシーンを書いたんですね、20枚シナリオで。そうすると女の人が「私はとても暗い過去を持つ女なの。だから、あなたにはふさわしくないわ」と言う。それだけだってクサいのに、相手の男が、「やめろよ、キミのその暗い過去は、ボクが消しゴムで消してあげるよ」って(笑)。

これ、彼は抜群のセリフだと思ったはずです。胸張って読んでましたから。「キミの過去は消しゴムで消してあげるよ」「やめて、消えないわ」って(笑)。だけど、こういうのが、ちょっと洒落たいいセリフだって思っている。

私、その時はわからなかったんですが、あとになって、あれは書いているA君のキャラクターだなと気がつきました。A君はたぶん女の子にああいうことを言いたいんです。だからとっても素敵なセリフだと思って書いた。でもセリフは登場人物が言わなきゃいけない。じゃあどんなセリフを言わせればいいのかというと、キャラクターなんです。

だから、「消しゴムで消してあげるよ」っていうキャラクターなのか、「いいじゃない、そんな暗い過去があったってさ」というキャラクターなのか、「へぇ、自分は明るいから、暗いのが好きだ」っていう人なのか。これによって全然違うんですね。

キャラクターをしっかり固めておけば、セリフはおのずと登場人物が言ってくれるということです。A君が言わせるんでも、内館が言わせるんでもない。

だから、まず皆さん、あなたたちの存在を消してください。まったく違うセリフが出てくるはずです。それが共感を覚えたり、こういうの、あるよねぇってなる場合がある。皆さんはご自身を消して、登場人物に成りきって書いてください。

例えば、その登場人物のキャラクターの心の中から出てきたセリフであれば、何気ない一言でも、ものすごく感動的になるんです。「さよなら」だけで泣けてくることもあります。こういう時は、女優さんたちも本当に泣いて「さよなら」って言っています。ト書で泣く、なんて書かなくても。これはやっぱり登場人物が言ったってことなんだなってすごくよくわかります。

それから、「ストレートなセリフ、『好き』とか『嫌い』とかストレートに言うのはNGなんでしょうか」という質問がありました。「裏のある考えさせるようなセリフよりも、割とハッキリ言う方がテレビドラマでは多いので」って。これも「好き」って言うキャラクターなのか、「好き」って言えないキャラクターなのかということです。

「好き」って言えないキャラクターだったらば、「好き」っていうことをどう表現するか……。どうしても言いたい、でも言えない。でも、「好き」って言わないと、誰かに取られちゃう。でも言えない、どうしようっていう時に、その女の子は「好き」って言う代わりに、何らかの手段を打つだろう。それはどういうことなのか。

「好き」って絶対に言いそうにない登場人物が、テレビドラマはハッキリ言う方がいいからと、「好き」って言わせたとしたら、これは女優さん、言えないですよ。必ずプロデューサーを通じて脚本家に言ってきます。「このセリフちょっと無理があります、どういう風に言ったらいいんですか?」って。

女優さんはその役になり切って、身体から言ってますから。「これ『好き』って言わないんじゃないですか、この人」っていうようになります。

だから、「好き」とか「嫌い」って言う子なのか、言わない子なのか。「嫌い」って言えないけど、言う場合はどういう風に言うのか。普段は絶対に言えないんだけど、ここぞって言う時には言うのならば、どういう風に言うのか。これもキャラクターです。

時代とクロスする

アイデアや発想は、みんながみんな違うと思いますが、私の場合は「時代」というものを考えます。

つまり、時代が求めているものは何だろうか。テレビでは「半歩先がいい」と言われます。1歩先だと受け入れてもらえない。横一列だともう古い。半歩先といっても、半年以上前から作り始めるわけですから、オンエアの時に半歩先ということになります。それはちょっとむずかしいけれども、やっぱり時代とどうクロスしているかということは、いつも考えていますね。

そして、ドラマを書く時には、1行で書きたいことをまとめるんです。これは、私にはすごく効果的なことです。皆さんも試しに、何を書きたいかということを1行でまとめてみてください。

例えば、大河ドラマは200字詰でいうと、直しも入れると1万枚近く書きます。

私は『毛利元就』を書きましたが、この1万枚は1行で言えるんですね。毛利元就は、58歳から立ち上がった遅咲きの武将です。人生50年の時代の58歳ですから、今の人生80年で幾つかって言ったら、94歳くらいから立ち上がってるんですよ。で、成功しちゃった。

広島のちっちゃな城と領土しか持ってなかったのが、中国地方を全制覇しちゃった。毛利元就の何を書きたいかを1行にまとめると、「零細企業の次男坊が、58歳から立ち上がり、大企業の社長になった話」。

これが1本の木の幹となり、中心になります。絶対に忘れちゃいけない1行で、ここから枝葉が出るわけです。だから皆さんも、一口で言えるかどうかをやってみてください。それがあれば、おかしな方向には飛ばないものです。当然ファーストシーンでも活きてくるわけですよね。

そして、毛利元就は500年も前の人なんですが、遅咲きの武将というのは、今の高齢化社会にピッタリだと思いました。時代にクロスしている。

58歳から60歳というのは、大体定年ですよね。私が会社勤めをしていた時は社内報の編集をしていて、定年になる人にインタビューをしたんです。「これからの人生、何をなさりたいですか?」って。そうすると10人中、8人から9人までが「女房と温泉に行く」「孫と遊ぶ」って言う。でも女房のほうは、夫とは行きたがりませんよね(笑)。

ところが毛利元就はどうしたかというと、58歳の時に厳島の合戦に出るんです。大嵐の夜中だったんですよ。ものすごい大嵐の中、チャチな和船に乗って、5000人の兵で、2万の軍勢に対して奇襲を掛けて、破っちゃう。これで一気に現在の山口県は追いつめられるわけです。

最初は、お付きの者たちが「ダメだ、この暴風雨に出ちゃいけない。明日の朝、陽が昇ってから一気に攻めましょう」って言うんだけど、元就は、暴風雨こそが人生における好機だって言って出ていく。

私はそれを元就のセリフで、「行くぞ、者ども続け! 嵐こそが人生のチャンスじゃ」って書いて、プロデューサーに「16世紀に『チャンス』という言葉はありません」って言われて、「ああ、しまった!」って思ったんですけど……(笑)。

高齢化社会が来る中で、孫と遊んで女房と温泉に行くのもいいけれども、それよりも「暴風雨こそチャンスだ」ってことを、今こそもう1回考えてみよう、そういう思いがすごくあったんですね。時代劇とはいっても、どこかで時代とクロスするものがないか考える。おそらく皆さんの周りにも、誰もまだ書いていない、そういう時代とクロスするものがあるんじゃないかと思うんです。

20枚シナリオを書いている間に、登場人物は少なくていいから、
徹底してキャラクターを作ることを心掛けてください

キャラクター作りでもうひとつ、お話ししておきたいと思います。

『月刊シナリオ教室』が送られてくると読んでいますが、皆さんのシナリオを読むと、キャラクターを作ることに、あんまり時間を掛けていない気がするんです。20枚シナリオのうちから手を抜かずに練習しておくといいと思います。やっておくと後が楽ですよ。

今年の春まで、私は地方紙に新聞小説の連載をやっていました。タイトルが『終わった人』。主人公は会社を定年になった63歳の男で、「第二の人生とはいっても、趣味ではなく、いくつになっても仕事がしたい」というのが、1行で言える大テーマ。

多くは、これは強がり半分だと思いますけれども、「定年になったら好きなことができる、張り切ってますよー」って男も女も言う。でも張り切るのはせいぜい1ヵ月か2ヵ月ではないかと思います。飽きちゃって飽きちゃって堪りませんから。

「人間、幾つになっても仕事をしていたい」というのが1行で言えるテーマ。これで書こうと思ったら、ここからキャラクターを考えます。つまり言いたい1行をキチッと出せるキャラクターを考える。

私が考えたのは、岩手県のいい県立高校から東大の法学部を出て、東京のメガバンクに勤めた男。役員の一歩手前で定年になった。不完全燃焼ですよね。不完全燃焼のその男がどう生きていくかってことです。

で、ストーリーは後なんです。ここで皆さんすぐストーリーを考えて、この男の家が火事になったらどうするか、奥さんに男が出来たらどうするか、息子がシャブやったらどうするかって(笑)、こういうことはキャラクターじゃない。ストーリーは先に作らない。

岩手出身の神童と呼ばれた少年で、「第二の人生が楽しみです」って、辞めてく。ところがカルチャーとかジムでは満たされない。

そうだ大学院に行こうって考えるんですね。東大の文学部を受けようって。俺は岩手だから啄木研究でいくかなって。ところが、受験勉強しても面白くないんですよ。あぁ仕事がしたいなぁってぼやいている男です。

石川啄木を調べていくとね、サラリーマンにピッタリの歌が色々出てくるんです。例えばね、石川啄木が「こころよき疲れなるかな 息もつかず 仕事したる後のこの疲れ」、1910年の『一握の砂』ですよ。息もつかないほど仕事した後のこの疲れはいいなぁっていう思いが出ている。100年前からこれです。

こういったことをずっと調べていくと、石川啄木と主人公が、うまーくリンクしてくるんですね。啄木から引用できることもいっぱい出てくる。この男のキャラクターが少しずつ少しずつ、固まっていく。

で、よし大学院に行こうって決めた時に、ここからはまたキャラクターですよ。突然ここで仕事が来た。「ちょっとこの仕事手伝ってくれませんか」。ものすごくいい仕事だった。さぁ、この仕事をやるのがいいのか、でも本当に大丈夫なのか、大学院に行く方がいいか。これを決めるのもキャラクターです。

この男はなにしろ働きたいんですから、よっしゃーっていうんで、大学院受験を蹴って仕事に就く。で、一生懸命仕事をやってイキイキする。このイキイキぶりなんていくらでも書ける。だってやりたかったんだから。そうすると、そこでもどんどん偉くなって、もっと手伝ってくれなんて言われる。

するとそこに女が出てきた。だけどその女が食わせ者だったりする。女とどういう接触の仕方をするのかっていうのも、キャラクターです。これは東大を出ていようが何だろうが関係ない。その状態における男のキャラクターです。

で、仕事も恋も、ちょっとずつ上手く回り始める。でもそんなに仕事も恋も上手く回る訳がないですよね。男がカーッと有頂天になった時に、一人娘が「パパ、言っとくけど、上手く回る訳ないよ。パパんところに若い女の子が付いてくるのは、理由はひとつだよ。美味しいモン食べさせてくれるから。それだけだよ」って言う。

「若い女が年取った男に魅力を感じるとしたら、それは家庭がうまくいってない男よ」って娘に言われて、男はガクッとくるわけ。そこからお父さんは、どんどんどんどん大変な目に遭っていくんです。

皆さんのキャラクターを作る時の立ち向かい方が、とても甘いと思ったので、20枚シナリオを書いている間に、登場人物は少なくていいから、徹底してキャラクターを作ることを心掛けてください。相当ものが違ってきます。そうすると、トップシーンも随分違ってくるはずです。

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「新井一生誕100年機縁シリーズ~内館牧子さん編~」
ゲスト:内館牧子さん(シナリオライター)
2015年6月22日採録

次回は1月21日に更新予定です

※You Tube
東映映画チャンネル
映画『終わった人』予告編

プロフィール:内館牧子(うちだて・まきこ)

秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業後、三菱重工業入社。13年半のOL生活を経て、1988年に脚本家デビュー。 2006年、東北大学大学院文学研究科修了。
主な作品に、ドラマ『都合のいい女』(フジテレビ)、『ひらり』『私の青空』(NHK朝の連続テレビ小説)、『毛利元就』(NHK大河ドラマ)、『週末婚』(TBS)等、ヒット作多数。小説では『義務と演技』(幻冬舎)、『転がしお銀』(文藝春秋)、『終わった人』(講談社文庫)、『すぐ死ぬんだから』(講談社)。その他『あなたはオバサンと呼ばれてる』(講談社)、『牧子、還暦過ぎてチューボーに入る』(主婦の友社)、『女の不作法』『男の不作法』(ともに幻冬舎)など話題作多数。
また、第1回橋田壽賀子賞、文化庁芸術作品賞、日本作詞大賞、放送文化基金賞、など様々な賞を多数受賞。

過去記事一覧

  • 表参道シナリオ日記
  • シナリオTIPS
  • 開講のお知らせ
  • 日本中にシナリオを!
  • 背のびしてしゃれおつ