シナリオの書き方ですが、コンクールに出すシナリオと、テレビ局に頼まれて書くシナリオでは、書き方が違います。
コンクールに出す場合は、ていねいに書かないといけません。審査員はそんなに本気で読みませんからね。たくさん読まないといけないから、最初のほうを読んで、面白くなければやめてしまいます。途中で訳がわからなくなると、もう読まなかったりします。
あと冒頭が面白くないとね。「エッ!」というのがないと。争いや動きがあるのがいいというわけじゃなくて、2人きりで淡々としゃべっている中に、ものすごい敵意がある、そういうのが最高。見ている人は、一言一言に目が離せなくなります。
ていねいに書くというのは、例えば「馬鹿たれ」というセリフを書いたら、(愛をこめて)とカッコ書きを入れるとかね。コンクールの審査員は、それほど親切じゃないですから。
ただ、現場でこういう書き方をすると、プロデューサーや演出家は怒ります。「わかってるよ、そんなこと!」「いちいち書くな!」ってね。だからスッキリ仕上げる。
例えば「てめー、ぶっ殺すぞ!」より「あんた、死にたいの?」って言った方が恐いでしょ。単純すぎるセリフはダメ。できれば含みを残すこと。ナレーションや回想が多いのもダメです。
私が皆さんのコンクール応募作を読んで思うことは、登場人物に男か女かわからない名前をつけるな、ということ。「薫」なんて、男か女かわからない。そんなことで、途中で読まれなくなったら損でしょう?
大河ドラマや朝ドラではナレーションは多いけれども、朝ドラはドラマじゃなく「テレビ小説」ですから、必要です。ナレーションで説明している。ナレーションで説明するのは楽ですから、だったらナレーションだけでいいじゃないかということになりますね。
でもドラマを見る視聴者は、自分の中で想像することが楽しいんです。ドラマっていうのは、考える楽しみがある。「こいつ、ひょっとしたら犯人だぞ」「こいつ、嘘言ってるな」、それが面白い。だから一生懸命見る。
テレビを見ながら家族でどうのこうの言う、これが視聴者の楽しみです。ところがテレビ局はそれを忘れていて、全部説明しようとする。
野球やサッカーの解説、面白くないでしょう。2時間の試合のうち、1時間半はつまらない。ドキドキハラハラするのは10分くらい。でも我慢して見ているのは、想像力で見ているから。
「このピッチャー、そろそろ疲れが出る」「このバッターがヒットを打ちそうだ」「代わりにあいつがピンチヒッターに出ればいいのに」。いろんな想像をしながら見る。これを解説者が全部しゃべっちゃったら、こんなにつまらないことはない。
マラソン中継に、なんで解説者がいるんですか。「苦しそうにしています」「もう1人抜けば2位に上がります」、わかってるんだよ(笑)。アナウンサーはしゃべりっぱなしじゃなきゃいけないと思っている。
自分が主役だと勘違いしていので、黙ってる訳にはいかない。しかしあんなに馬鹿げた放送はない。視聴者っていうのは、いろんな見方をしていますから、一々説明するなということです。
セリフで説明するのが一番愚かしい。セリフは逆を言った方がいい。「こいつ、こんなことを言ってるけど、たぶんそうはならないぞ」、それが見る人にとってドラマの醍醐味です。
橋田壽賀子さんのドラマは、1時間で大体18シーンくらいしかありません。橋田さんのドラマには風景は出てこないでしょう? 飯食ってるところとか、食堂とか。同じ人が集まっている。でも退屈しない。
それは、自分の身に染みるセリフ、会話があるから。橋田さんは、同じことを形を変えて3回くらいやる。橋田さんの考え方は、テレビを見る人は連続ドラマの3回に1回くらいしか見ないから、忘れるから、ていねいに描いた方がいいと。これもひとつの考え方ですね。
私には、ちょっとそれは我慢できないですが。同じことを繰り返したくない。映画なんか特に、省略して省略して、間は観る人が埋めるんだという考え方です。
人間には喜怒哀楽の感情があります。喜びと楽しみはどう違うかわかりますか? 喜びは達成感。「東大に受かった」とか「甲子園に出られた」というような、やったーっていう気持ちが喜びです。
楽しみとは、まだ起きていないことに対する期待感。達成感を目標にすると人生辛くなります。期待感は外れてもいい。宝くじを持っている間は楽しかったじゃないかって考えることもできる。
入院する人は退院する楽しみがある。刑務所にいる人は出所する楽しみがある。離婚した人は再婚する楽しみがある。心の中に楽しみの種を持っている人が幸せなのです。今、どんなに不幸であってもね。
ドラマもそう。「こうしたら、こうなるぞ」という楽しみの種を感じさせる。これがドラマを見る楽しみです。綺麗事ばかりじゃないんですよ、人の足を引っ張る楽しみとかね。私も内心では、この中からシナリオライターが出てこないように願っています(笑)。私だってそうそう追い出されたくないからね。
落とし穴を掘る楽しみもあれば、テレビを見てタレントを罵倒する楽しみもあります。喜びより楽しみが大事。「この次どうなる?」という楽しみを、お客さんに伝えられるホンを書いてほしいと思います。