子育てものをやろう
〇川村:ここにいる皆さんは、まずオリジナルの作品を書いて、賞を獲ってデビューし、そのうち原作ものを担当することもあるでしょうが、最初のキッカケはオリジナル、ということになる。オリジナルが書けなければ、原作ものも手掛けられないということです。
細田監督は、『時をかける少女』で原作もの、『サマーウォーズ』でモチーフの組み合わせ手法、そして本作で完全オリジナルものを作られました。今回は何をシッポに、オリジナル作品のスケッチを始められたんですか?
〇細田:前作の『サマーウォーズ』って、結構複雑な話だったんです。登場人物が多くて、世界も2つあって……。そういう作品をやり終えて、今度はシンプルで力強い話を作るべきじゃないかと、漠然と思ったんです。それが一番最初のキッカケだったんじゃないかな。
ただ、「シンプルで力強い」って、一体何なんだろう、自分でもわからなかった。その疑問に自分で答えなきゃいけない。口では簡単に言えるけれど、それを具体化していくことはむずかしい。
「登場人物を少なくしたい」というのは、『サマーウォーズ』の反動で思いました。面白さてんこ盛りというのではなく、映画の面白さを、別の形でちゃんと出したいというのが始まりでしたね。
〇川村:発想の仕方には色んなタイプがあります。こういうキャラクター、テーマ、ストーリーでやりたいとか、こういうノンフィクションや実体験があるとか、様々な取っ掛かりがあると思いますが、監督の場合は?
〇細田:ちょうど3年前の今くらいの時期、郷里である富山の叔父さんちに行き、入道雲を見ながらボケーッと過ごしていたんです。
夏ですからNHKで終戦特集とかやっていた。その年に母と祖母が続いて亡くなったということもあり、自分の祖父母が戦後どうやって子供を育ててきたのかということを考え始めたんです。
祖父が戦地から戻るまでの4年間、女手一つで子供を育てていたとか、農家じゃなかったから、食べ物の調達には苦労したとか、叔父からそういう話を聞いているうち、我が家の三代記のようなことを思い浮かべました。
でも夏が終わったら、戦争ムードはすっかり遠ざかってしまったんだけどね(笑)。
結局、子育てものをやろうと思った時に、おおかみおとこと組み合わせたら面白くなるんじゃないかと思いついた……というのが、その後の顛末です。女性観というか、どうやって主人公の人物を作ろうかという時に、このときの叔父さんの話が残ってる感じですね……。
〇川村:子育てもの、親子ものと考えると、メジャーなジャンルですが、「おおかみおとこの子どもを育てる」というアイデアを入れたのは、アニメーション的な発想ですよね。
〇細田:そうですね。どうやって子育ての面白さを伝えていくか、色々方法はあると思うけれども、おおかみおとこの子どもを……というのは確かにアニメ的な切り口かもしれない。
私はアニメ監督ですから、当時自分が置かれていた状況から、内的必然として出てきたものかもしれない。アニメ的に面白くするためにどうすればいいのか考えた結果が、おおかみおとこだったのかもしれないですね。
〇川村:アイデアを紙(文章)に落とし込む作業というのは、どのタイミングで行うんですか?
〇細田:プロデューサー陣と延々雑談をしながら話を膨らませてはいたけど、ずっと企画書にはしてなかった。自分の作業の中で、おおかみこどもというアイデアを思い付いた時に、ようやく紙に書いた。
その代わりといってはなんだけど、書き始めたら、A4で7ページくらいのプロットなんだけど、わずか1時間半くらいで書けちゃったんですよね。
〇川村:僕もそのプロットを読ませていただいたけれど、この映画のストーリー、そのままでしたね、原形というか……。
〇細田:おおかみこどもというモチーフを使うにしても、色んなやり方がありますよね。すぐに思いつく展開としては、例えば全然関係ない女子大生がおおかみこどもを預かって育てる、というような疑似家族もの。コメディ的な雰囲気も出せそうだし、泣ける要素もありそう。
企画としては、疑似家族は便利じゃないですか。だけど、僕は嫌だったんです。一応やろうと検討してみたけど、うまくいかなかった。
本当の家族ものをやらなきゃダメだなと、その時思ったんです。自分の必然性みたいなものかもしれない。自分を誤魔化さずに実子として描くことを決めたら、あまりプロっぽくなくなってもいいやと、腹を括りました。
〇川村:1時間半でプロットが書けたらいいなと、ここにいる皆さんは思っているでしょうね。
〇細田:いやいや、そのプロットを書くために、9カ月くらいかかっているわけですから(笑)。
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映画「おおかみこどもの雨と雪」予告1