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脚本家 国井桂さんに聞く
アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』を書いて

2012.05.21 開催 シナリオライター国井桂さんの根っこ アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』を書いて
ゲスト 国井 桂さん

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』よりご紹介。
今回のゲストは出身ライターの国井桂さん。2012年に公開され、国井さんが脚本を手掛けたアニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』について語っていただきました。その一部をご紹介します。

原作を噛み砕いて咀嚼する

私がシナリオ・センターに通っていたのは、15年程前のことです。シナリオ8週間講座を受けて、本科にも通いました。

今まで映画、ドラマ、アニメーション、バラエティ、小説といろいろやってきました。

アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』は、製作は東映アニメーションです。『ONE PⅠECE』や『プリキュア』などのテレビアニメの映画化を主に手掛けているところで、アニメのオリジナル映画は実に30年ぶりだそうです。

5年前、梅澤プロデューサーがある雨の日に駆け込んだ本屋さんで、偶然ある本が光って見えたそうです。それがこの映画の原作本でした。それがすべての始まりです。

私がオファーをいただいたのが2008年末で、決定稿になったのが2010年です。この作品は特に長くかかりましたが、一般に映画はテレビドラマなどに比べるとシナリオから公開まで足かけ2年、3年掛かることはザラです。

この作品はアニメーションですが、CGを一切使わず7万枚以上のセル画を描いたそうです。ホタルを描くだけの担当の人がいたくらいです。

原作は、私がお話いただいたときは販売部数6万部でしたが、今は40万部を超えました。映画化が決まって売れたこともあるでしょうが、やはり作品自体の力でしょうね。

原作の小説を、どうシナリオにしていくのか。小説には数多くの要素が詰め込まれています。どの要素を残し、どんな要素を加えたらいいのか。人物やエピソードも削ったり、足したりということがあります。

著者の川口雅幸さんからは特に注文といったことはなく、映画は映画として自由にやらせていただきました。

まず最初に原作を読み込むことが第一歩です。物語を自分の体に馴染ませる。

「ただ小説をシナリオ形式に置き換えました」というわけにはいきません。映像作品として原作とはある意味別物にしていく作業に入ります。

このお話は、主人公ユウタのお父さんが交通事故で亡くなっていて、その1年後、少年はまだそのトラウマを抱えている状態で物語が始まります。

小説だと文章でいろいろと書き込めるんですが、映像やアニメだとそうはいきません。

最初の10分間で状況説明をしなくてはなりませんが、ナレーションや説明セリフでなく、絵で見てパッとわかるほうがいい。お父さんが遺した携帯の留守電を聴くユウタ、というところから始まるようにしました。

その前にも膨大な物語があるわけですが、お父さんが亡くなった場所のガードレールの場所をチラッと見たりとか、ところどころ、まだ立ち直っていない主人公の気持ちを表す描写が、さり気なく入っています。

主人公の変化や成長を明確にする

構成に関しては、映画の場合は3幕構成が基本です。

シナリオ・センターの方ならご存じだと思いますが、柏田道夫先生の『エンタテイメントの書き方』(1~3)(映人社)に映画の実例を引用して、詳しく書かれていますよね。映画はこの3幕構成で考えます。

私も『エンタテイメントの書き方』を読んで『虹色ほたる~』を照らし合わせてみたのですが、「空間限定型」になるのかなと思いました。『千と千尋の神隠し』とか『ローマの休日』なんかがそうですね。

ある日突然主人公がそれまで暮らしていたのとは違う世界に入ってしまう。そこで様々な経験を経て最後に元の場所に戻る。『虹色ほたる~』では主人公のユウタが突然の嵐に遭って33年前の世界にタイムスリップします。

原作と変えたところはいくつかあるんですが、一番大きいのは、原作ではサブキャラのさえ子が大事な決定をするのですが、映画では主人公のユウタが決めてさえ子を説得する形にしました。

原作では、さえ子自身が生きることを自分で決め、その決意を聞いたユウタに迷いが生じるのですが、映画ではユウタに「必ず君を見つけるから、生きてくれ」と言われて気持ちが変わります。

映画では限られた時間内で表現していかなくてはならないので、なるべくすべての出来事が必ず主人公に収束していくようにします。いわゆる主人公として「立たせる」ということです。

さえ子の決心も、ちゃんと見ている人がわかるように表現する必要があります。

二人に別れが迫った時、ユウタがさえ子の手を掴んで走り出す場面があるのですが、さえ子がユウタの手を握り返すシーンがあります。ここでさえ子は生きようと決心する。セリフはありませんが、動きの中で感情が変化したことがわかる演出になっています。

要素が多いと削るのが大変ですが、捨てるところは大胆に捨てる。でも主人公の感情を大事にして、そういうシーンはちゃんと描く。主人公の変化や成長を明確にしていく。でも本筋の軸は1本通していくということです。

「アニメーションと実写とのシナリオ上の違いは何ですか?」という質問をよくいただくのですが、私は特に明確に区別して書いてはいません。

多少アニメの方が、はっきりセリフで言ったり、絵で描く部分の説明を詳しく書いたりといったことはありますが、この映画に関していえば、アニメか実写かということはほとんど意識しませんでした。

アニメーションの場合、シナリオが上がると絵コンテ作業に入ります。それを元に原画を起こしていく。美術監督、音響監督など、それぞれのパートでも監督と名のつく人がいて、実写とはまた違う職種の、ものすごく大勢のスタッフが関わっています。

※アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』
原作:川口雅幸(アルファポリス刊)/監督:宇田鋼之介/脚本:国井桂/企画製作:東映アニメーション/配給:東映/上映時間:105分 
■You Tube
シネマトゥデイ 映画『虹色ほたる ~永遠の夏休み~』予告編映像

シナリオライターは生活すべてが肥やし・ネタになる

シナリオの技術的な書き方はある程度お教えできますが、何を書くのかということは誰にも教えられません。皆さん一人一人にしか決められないんですよね。

ただ、ライターとしての姿勢や取り組み方というのは、お話しできるのではないかと思います。

実はシナリオライターというのは、生活すべてがシナリオの肥やしになります。

作家の眼でいつも周りや自分を観る。もし辛い体験をしたとしても「いつかネタにしてやる!」と、ライターとして自分自身さえどこか突き放した目を持つといい。

本当にどんな経験でもネタになりますので無駄がない商売です(笑)。毎日の生活の中で自分や周囲の人をよく観察してください、後々絶対にネタになります。自分と向き合うことです。

アイデア出しをしなくてはいけない時、私はスケッチブック使っています。以前はカレンダーの裏を使っていました。大きくて真っ白なので、自由に発想ができる。

ひとつテーマを考えたら真ん中に書いて、そこから発想を広げて、どんどん放射状に枝葉を伸ばしていく。いろいろなシチュエーションをアトランダムに書いていきます。思いもかけないことが、自分の中から出てくるので、新しい企画を考える時に有効です。

映画を観るときは、ただ観るだけではなく開始から何分のところで何が起きるか確認しながら観る。映画館で観る場合は、文字板のはっきりした時計をしていくといいですね。

テレビドラマを観る時にも、次はどんな展開、どんなセリフになるのか自分なりに想定しながら観るのも勉強になると思います。副音声で聞いているとト書を言ってくれるので、それも参考になるかもしれませんね。

ネタ帳を作ってメモするクセをつけるのも大事です。まったく違う時に書いたトピックを結びつけたら新しい企画ができるということもあります。

自分なりのアイデアのストックは常にいくつも持っておく必要があります。既成の概念や価値観を疑うクセをつけることも多様な人間の心理を描く練習になります。

嫌な奴に会ったら観察する。「コイツは偉そうだけどホントは実は小心者じゃないか」とか考える。キャラクターを作る時にやっていることと同じです。

生きていれば心が折れそうになることもありますが、それだって、シナリオのためと思えば、折り合いがつけられます。恋愛もいいですね。感性が研ぎ澄まされるので。例えば失恋だって、書くためには非常にいい経験になります。

作家はパソコンの前にいるだけじゃダメです。外に出ていろいろなことをしてみる。熱中したことが役に立つときがあります。

趣味も極めると専門性が出て、その趣味ならではの世界観が出る。そこで出会った人たちが、自分の知らないことを教えてくれたり、面白いことを運んできてくれたりします。

シナリオライターは毒舌家でよいと思います。シナリオの上手いライターは、シニカルな見方が出来る。言うことが辛辣で面白いんです。だから、シナリオ上でも多彩な描き方が出来る。

「私の歳でもプロになれますか?」と聞く方もいますが、誰々さんがデビューした、誰々さんが何何を今書いているとか、気にしたらキリがありません。人と自分を比べないこと。焦ったら終わりですから、マイペースで行きましょう。

あとシナリオの筆写も有効です。読むだけでなく、自分の手で写す。今は「月刊シナリオ」「月刊ドラマ」やシナリオ集もあるので、自分の好きな作品でよいと思います。

シナリオのリズムが、筆写すると自分の中に入ってきます。時間がないときでも、30分やろうとか、15分やろうとかでも構わないので、最後まで写してみてください。

それから当たり前のことですが、毎日書くこと。シナリオでなくても、ブログやツイッターなど必ず読む人がいるものも有効です。「シナリオ・センターなう」だけではダメですが(笑)、140字のツイートでもおもしろい!と思ってもらえるようなことを書くとか。

何かしら毎日書かずにはいられない、そんなクセをつけることもライターになる第一歩になると思います。

出典:『月刊シナリオ教室』(2012年8月号)より
〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部 達人の根っこ
「シナリオライター 国井桂さんの根っこ
アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』を書いて」
2012年5月21日採録

プロフィール:国井桂(くにい・けい)

千葉県出身。脚本家・小説家。
1995年CHKラジオドラマコンクール優秀賞受賞。脚本を手掛けた『夕凪の街 桜の国』が2007年、第17回日本映画評論家大賞作品賞を受賞。
脚本を手掛けた主なテレビドラマは『松本清張 球形の荒野』(2014年)、『隠れ菊』(2016年)、『モブサイコ100』(2018年)、『僕とシッポと神楽坂』(2018年)。映画は『ハッピーウエディング』(2015年)、『王妃の館』(2015年)、『ノーマン・ザ・スノーマン ~流れ星のふる夜に~』(2016年)など。
また、ノベライズ本においても『夕凪の街 桜の国』『NHK連続テレビ小説ひよっこ上・下』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『そして、生きる』『セミオトコ』『ツユクサ』『七人の秘書 THE MOVIE』など多数手掛けている。

【要ブックマーク】その他のゲストの講座もチェック!

様々なクリエイターの創造の根っこに触れることができる公開講座「Theミソ帳倶楽部」。過去にお越し頂いたゲストの講座の模様は、下記のページにて順次公開中です。

>>プロフェッショナルに迫る公開講座「Theミソ帳倶楽部」

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