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創作 アイデアの生み出し方 『大根の月』はどう発想したのか

創作 アイデアの生み出し方 『大根の月』発想を妄想

「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師 柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回は、少し掘り下げたアイデアの生み出し方をご紹介。向田邦子さんは『大根の月』をどう発想したのか妄想します。その方法を考えることは自分のテクニックを磨くことにもつながります。

向田邦子の頭の中を想像してみる

小説を書くレッスンとして、まず短編小説を書く。そのアプローチ法として、完成度の高い向田邦子の『思い出トランプ』の諸篇をテキストとしています。初心者でも入りやすい、400字詰め原稿用紙で20枚前後の短編小説ですし、この手法を応用する(盗む)ことで、皆さんもテクニックを磨いてほしい。

アイデアの生み出し方として、「向田式比喩的発想法」(※1)を解説しましたが、もう少し掘り下げて(勝手に想像して)みます。

作家が出版社とか編集者から注文なり依頼を受けて、それがシリーズ連作ならば、まず大まかな縛りなり、シリーズ構成案を作ります。『思い出トランプ』ならば、20枚程度の短編で、トランプのそれぞれの一枚のカードのように、人が思い出の一枚をめくる連作、でしょうか。

20枚シナリオのレッスンでも、「雪」とか「結婚式」「愛する一瞬」のように、それぞれの課題があって、そこから皆さんは「どういう話にしようか?」と考えます。発想にはこうしたとっかかりがあった方がいいし、自由に書けるはずのプロ作家も、発想のためのヒントなりきっかけを常に探しています。

向田さんが上記のような縛りを自身に課したとして、どのように各作品の構想を得ていたのかは分かりません。最初からアイデア(ミソ)帳みたいなのがあって、例えば「子どものいない夫婦の夫が妻の恐ろしい本性を見つけてしまう」とか、あるいは「妻が何かの動物(かわうそ? イタチ? タヌキ?)に見えてしまう」とあったのか?

前回教材とした(※2)、ぞくりとさせながらも、女(人間)の哀惜を感じさせる『大根の月』は?

この作品の場合で、「向田式比喩的発想法」を当てはめて勝手にイメージしてみますね。

『大根の月』がどう生まれたか、勝手にイメージ

ある日、(小説のヒントを探していた時なのか、それとは関係なく、とある時なのかは不明)向田さんが実際に、数寄屋橋界隈(じゃないかもしれない)を歩いていたら、ビルの向こうの空に薄い月が出ているのを見た。スラリと黒目の洋服の向田邦子が、数寄屋橋の交差点あたりで、昼間の薄い月をぼんやり見ている姿……そんなちょっとステキな、一枚のモノクロ写真が浮かびませんか。

こうした日常で、ささやかに思わぬものを見る、見つける、気づくということは誰にでもあります。でも作家とかではない普通の人は、「あ、昼間に月が出ている」と気づいたとしてもそれで終わりでしょう。

けれども(いつもスイッチをONにしておいてほしいという“創作モード”が機能している)作家ならば、このネタ(イメージ)から「小説にできないか?」「どうすれば物語にできるか?」と考えます。とっかかりの発見ですね。

ともあれ、意外だけど確かにある昼間の半月形の月から、向田さんは「切り損なった薄切りの大根」を連想した。向田さんの数々のドラマやエッセイには、驚嘆するほどの子ども時代の記憶、それも日常の風習が再現されています。

本作も主人公の祖母の包丁さばきの巧みさと、おせち料理の膾にする大根の千六本を刻む様が描かれます。そこから「切り損なった半月の大根」で、これは向田さん自身の記憶、イメージ、まさに思い出でしょう。昼間の薄い月→大根の薄切り→包丁→切り損ない→指……といった連想があって、これを短い小説にしようと思う。

後は登場人物です。このあたりで作家としての冷徹な客観的な眼が現れて、素材を見つめる。事故で指が切り落とされるなら、誰の指なのか? あるいは、どういう状況ならば、そんな事故が起きるだろうか?

向田さんが天国から笑っているか、怒っているかもしれませんが、こんなふうに他人の作品から想像するのも楽しいと思いませんか?

出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2019年7月号)より
次回は10月2日に更新予定です

※1「向田邦子さんから学ぶ小説の書き方 向田式比喩的発想法」

※2「『大根の月』に学ぶ“緊張と緩和”」

■『隣りの女』から学ぶ、こちらの記事も併せてご覧ください。

・「官能的なシーンを書く とき-『隣りの女』に学ぶ-」

・「脚本と小説でトップシーンが違う『隣りの女』」

・「シナリオと小説 場面と描写 どう書き分けるか」

■要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらで。
小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう↓
https://www.scenario.co.jp/online/20685/

「創作のスイッチをつねに、オンにしてください」

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