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官能的なシーンを書く とき-『隣りの女』に学ぶ-

「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師 柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
シナリオでも小説でも、官能的なシーンを書くとき、困ってしまうことはありませんか?そこで、今回は、向田邦子流 画期的かつ美しい官能シーンについてご紹介。『隣りの女』から学びましょう。

“声”に恋する主人公

名脚本家であり直木賞作家にもなった向田邦子の作品『隣りの女』で、シナリオと小説をどう書き分けているか、の続きです。

主人公の専業主婦、時沢サチ子(28)(ドラマでは桃井かおり)が、アパートの隣室に住むスナックママの“隣りの女”田坂峰子(38)(浅丘ルリ子)と関わるはめになる。

峰子が昼間っから引っ張りこむ男との情事の声(音)が、薄い壁を通して聞こえてくる。興味と嫌悪感の入り混じった思いで盗み聞きしているサチ子ですが、峰子が向かい入れた二人目の男、麻田数男(根津甚八)の“声”に恋をしてしまう。

今なら異様なまでに叩かれそうな不倫ものでもあり、それなりに生々しさもあります。ただ、ドラマ版についていたサブタイトル「現代西鶴物語」が示すように、平凡な主婦が一途に恋に突っ走る物語として、せつなさだけでなく、ある意味爽やかな読後感も残します。不倫ものといった安易なレッテルではなく、恋愛ものとして名作たる由縁でしょう。

シナリオ上での人物、事件やストーリー展開と小説はほぼ同じ。シナリオの(向田さんらしい)白眉なセリフは、小説でもそのまま使われています。

向田流の画期的かつ美しい官能シーンとは

特にドラマでの名シーンとして記憶に残り、今でも語り草なのは、根津甚八さんの低い声で語られる“谷川岳に行くまでの上野から上越線の各駅停車の駅名”。小説はこう書かれています。

 サチ子は夢うつつのなかで、また隣りの女の声を聞いた。
「谷川岳ってどこにあるんだっけ」
「群馬県の上越国境」
 男の声が答えている。
「そうすると上野から上越線?」
「上野。尾久。赤羽。浦和。大宮。宮原。上尾。桶川。   北本。鴻巣。吹上」
 男の声は低いが響きのいい声である。ひとつひとつの駅名を、まるで詩でもよむように言ってゆく。夢ではない。声は明らかに、壁の向こうから、隣りの部屋から聞こえてくる。

繰り返しますが、ドラマ版は根津甚八という独特の魅力(声さえも)を備えていた俳優がこの男を演じていたからこそ、という面はあります。はたして、シナリオ執筆時から、根津さんを当て書きされていたのかは分かりません(たぶん、そうでしょう)。

それにしても、上野から谷川岳に至る上越線の駅名とは!

「谷川に登るときは、勿体なくて急行なんか乗れないなあ。上野から鈍行に乗って、少しずつ少しずつ、あの山に近づいてゆくんだ」

という男のセリフを聞くだけでサチ子は恋に落ちる。それも性愛を伴うリアリティ。こんなものすごいフォーリンラブのシーンがあったでしょうか!?

サチ子は男の声を聞きながら自慰をするという衝撃シーンになりますが、これはシナリオも小説もほぼ同じです。ふざけ合う二人の声が聞こえる。男は谷川岳の美しさを語るのですが……

「くすぐったい……」
「思いがけないところに窪地がかくれている」
「くすぐったいって言ってるでしょ」
「光のあたっているところ。かげになっているところ。乾いているところ。湿っているところ。みんな息をしているように見えるんだ」
 サチ子の手が、壁に寄りかかって横ずわりになった自分のからだをそっとなでてゆく。スカートがめくれて、肢がのぞいている。窓からさし込む夕焼けが、からだに光と陰の地図をつくっていた。

危うい官能シーンながらいやらしくなく、映像的ですね。この続きはまた今度。

出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2020年4月号)より
次回は9月4日に更新予定です

※こちらの記事もご覧ください。
■「脚本と小説でトップシーンが違う『隣りの女』」

■「シナリオと小説 場面と描写 どう書き分けるか」

※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらで。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
■小説家・脚本家 柏田道夫「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧

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