ナイショ話、好きですよね？「芸能界のナイショ話」なんてタイトルがあると、そそられますし、「あのさ、ここだけの話なんだけど…」なんて言われると、つい「え？なになに？」と聞き耳を立ててしまいます。恋愛テクニックでも秘密の共有は二人の距離をグッと縮めるそうですし、幼いころ「二人だけの秘密だよ」と友情の絆を強めた経験があるんじゃないでしょうか。

秘密は、人を魅きつけ、関係を深めます。シナリオでも同じ。登場人物に秘密を持たせることで観客や視聴者を魅きつけ、より深く感情移入させることができます。

秘密は、たった一つ持たせるだけでガラッとシナリオを変えてしまう特効薬のような武器なのです。しかも人は誰でも必ず秘密を持っています。持っていない人なんかいません。なので、この登場人物のキャラクターなら、どんな秘密がありそうかな？と考えてみて下さい。必ず浮かぶはずです。

う～ん、浮かばないなあ、という場合に、とっておきの奥の手を。基礎講座でお配りした「カセの研究」と書かれた表（私たちはカセ表と呼んでいます）を見て下さい。秘密性をもつものとして10項目55種類が上げられています。これだけあれば、これだ！　というのが見つかるはず。

というわけで今回は、ナイショの話はあのねのねの術！

秘密の持たせ方としては、まず主人公に持たせるパターン。連続ドラマ『合い言葉は勇気』が、このパターンです。

ストーリーは、とある田舎の村にゴミ処理場があり、立退きを迫る住民たちがゴミ処理場に火を放とうとしたのを、村長は裁判を起こすからと何とか止めます。香取慎吾さん演じる主人公・大山忠志は村役場に勤めていて、東京に弁護士を探しに行くことに。

しかし、引き受けてくれる弁護士はなく、役所広司さん演じる売れない役者・暁仁太郎に弁護士になりすましてもらい裁判を諦めるよう住民を説得してもらおうとしますが……という、いわば社会派裁判コメディでしょうか。

結局、お調子者の仁太郎は住民たちに乗せられ裁判を起し、主人公は仁太郎がニセ弁護士であるという秘密を抱えながら法廷闘争に巻き込まれていきます。

自然に恵まれた村のゴミ処理場をめぐる裁判ドラマならニセ弁護士である必要はありません。でも、ニセ弁護士だからこそ、住民にバレるんじゃないかとハラハラドキドキしながら、ニセ弁護士が本物の裁判をどう戦うんだ？　どうする？　どうなる？　と引きこまれるわけです。

もちろん、ニセ弁護士だからこそ主人公は秘密がバレないよう右往左往しコメディにもなります。

次に登場人物が秘密を持っていて、それを主人公が知らないパターンを観てみましょう。

一つは映画『暗いところで待ち合わせ』です。ストーリーは、田中麗奈さん演じる主人公・本間ミチルは交通事故で視力を失い、さらに父親が急死、一人暮らしをしています。

ある日、呼び鈴が鳴りドアを開けますが返事がありません。すぐそばにチェン・ボーリンさん演じる大石アキヒロが立っていますが、盲目のミチルには見えません。アキヒロは家の中に忍び込み、ミチルに気づかれないよう、ひっそりと暮らし始めるのですが……というサスペンス・ラブストーリーです。

アキヒロが忍び込んだことをミチルは知らないので、ただでさえ観客は、一体どうなるんだ？とハラハラドキドキしますが、さらにアキヒロは殺人容疑で警察に追われていることが分かりハラハラ感がアップします。

と同時に、アキヒロが立っている壁のギリギリのところにミチルが手をついたりして、とはいえ大きく動くと気配や物音がしてしまうのでアキヒロは動くに動けず、バレるんじゃないか、バレるんじゃないかとアキヒロの方にも感情移入してハラハラドキドキします。

アキヒロは捨ててあったペットボトルにオシッコをして窓の外に捨てたり、冷蔵庫の食パンと牛乳を少しだけ食べたりして気づかれないようにしますが、ミチルもだんだん誰かいるんじゃないかと思い始めます。

そんなある日、食器棚の上のものを取ろうとして椅子に乗っていたミチルが転倒、食器棚の上から土鍋が落ちてきます。それを転んだミチルの顔の寸前でアキヒロが受け止めます。ミチルは横に置かれた土鍋を触って「ありがとう」と言います。アキヒロは返事をしませんが、その夜、ミチルは二人分の食事を作り並べます。アキヒロは黙って食卓につき食べ始めます。ミチルもアキヒロの存在を感じながら黙って食事をするのです。

ここでアキヒロの秘密をミチルが知ることになります。このあとアキヒロに容疑がかけられた殺人事件の真相を明らかにしていくというドラマに展開します。

もう一つ映画『評決』を観てみましょう。これも登場人物が秘密を持っていて主人公が知らないパターンなのですが、『暗いところで待ち合わせ』は観客が最初から秘密を知っているのに対し、最初は主人公と同じように観客も秘密を知らず、途中で知らされるのです。

主人公は、かつては一流だったが今は落ちぶれアル中の弁護士フランク・ギャルヴィン（ポール・ニューマン）。主人公のみじめな姿を見かねた知人弁護士から、ある医療ミスの仕事を紹介されます。被害者の家族も示談を望み、病院側も示談に応じる姿勢を見せ相応の金額も提示され、その金額なら主人公自身も満足な報酬が得られるのですが、病院で植物状態になった被害者の姿を見て心が動きます。主人公は周囲の反対を押し切り示談を蹴って裁判を始めるのですが……というストーリー。

まだ示談で動いていた主人公は行きつけの店でローラ・フィッシャー（シャーロット・ランプリング）という女性と出会い恋愛関係になります。ローラは主人公と知人弁護士の仕事の雑用をしたり、裁判で証言してくれるはずだった医師が姿を消し落ち込む主人公を叱咤激励したりしますが、実は病院側の大物弁護士のスパイだったのです。

ローラが大物弁護士のスパイだと分かるのは大物弁護士から金を受け取るシーンで、映画が始まって90分を越しています。映画は129分なので本当に後半の後半になります。もちろん、ローラが大物弁護士のスパイである秘密を最初から観客に知らせておけば、情報を洩らされているのに、どうなるんだろう？と、より主人公に感情移入したり、主人公にバレるんじゃないかとローラに感情移入したりします。

しかし、それでは、いろんなドラマが混在してしまいます。観客に秘密を知らせないことで、まずは主人公が逆境から立ち上がるドラマ、そして、示談をやめ裁判を決意するドラマ、裁判に勝つ目的に向かう主人公に障害物が次々と立ちはだかり、それを乗り越えようとするドラマに集中してもらうことができます。

で、徹底的に追い詰められた主人公が唯一の可能性として証言拒否をしている看護師に目をつけ、主人公にとって都合のいい方向へ動き出したところで、実はローラが敵のスパイだという主人公にとって都合の悪いことを知らせ、観客に一体どうなるんだろうと思わせているわけです。

三番目は、人物が抱えている秘密を、別の登場人物は知っているのに知らんふりをしているパターンです。連続ドラマ『阿修羅のごとく』が、このパターンです。

八千草薫さん演じる次女・巻子をはじめ四人姉妹は、いしだあゆみさん演じる三女・滝子が興信所に調査を依頼、佐分利信さん演じる父親が週2回、愛人のところに通っていて子どももいるらしいと知ります。

が、このことを絶対に母親にだけは知られてはならないと話し合い、知らないふりをするのです。さらに、実は母親は、このことを知っています。知っていますが、夫にはもちろん、娘たちにも自分が知っていることを隠しています。

ほかにも、このドラマには登場人物に、それぞれ秘密を持たせていて「秘密の宝石箱やあ～！」（ちょっと古い）というようなドラマです。

出典：『月刊シナリオ教室』(2011年7月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回は9月25日に更新予定です★

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