映画を観ながら、自分の創作に役立つヒントを見つける!
脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その115-
『さとこはいつも』書くことを始めたきっかけは何だった?
沖田修一監督の新作『さとこはいつも』をご紹介します。
このコラムではすでに2回、沖田監督・脚本作を取り上げていました。
第28回に『おらおらでひとりいぐも』、第63回に『さかなのこ』(共同脚本・前田司郎さん)。
この2作は共に原作があっての脚色でしたが、本作は沖田監督のオリジナル脚本です。
三人の“さとこ”の物語。15歳の鼻炎持ち中3生で初恋中の聡子(姫野花春)、35歳の韓国オタクで不倫恋愛中の映画配給会社宣伝部員の沙都子(有村架純)、そして55歳で3人の息子の子育て終了、自分の時間が持てるようになった里子(石田ひかり)。
この世代の違う、三人のさとこの物語を順番に描きつつ、微妙に重ねながら、ひとつの軸で一致して、結ばれていく様を紡いでいきます。
沖田監督の映画を新作ごとに見ているのですが、それなりに深刻だったり、深いテーマだったりするのですが、どことなくユーモラスな独特な語り口で、ついついクスリと笑いながら見てしまいます。
本作も例えば、聡子編だと、ロマンチックな初恋との出会いなのにかなり間抜け(でも、本人たちは深刻)。
沙都子編では、思いきりホラーテイストでびっくり展開なのに大笑い。
里子編のルーティーンでやっているトレーニング会場シーンの妙なおかしさなどなど。
どの場面か実際に確かめてください。
こうしたディテールの造り。『さかなのこ』の「ここを見ろ!」でクローズアップしたのは、絶妙な「シャレード」表現でした。ここはこういうことだよ、こうなのだよ、と説明しなくても、場面や小道具、ディテールを見せることで、観客に分からせる、観客自身に考えさせて伝えるテクニックが駆使されているからです。本作ならば「イカの塩辛」とか。
そうした絶妙さは見て納得していただくとして、今回の「ここを見ろ!」は、主人公の動機、すなわちそれは作る人の動機と同じだということ。
これは予告編でも述べられていますし、ネタバレにならないと思うのですが、本作の3人は、それぞれのきっかけで「小説を書く」「物語を創る」ことに目覚めていきます。これが三人に共通する「物語の軸」になっている。
シナリオ・センターの基礎講座などでは、最初に受講生の皆さんに、本講座を受講するきっかけ、動機を書いてもらったりします。毎回興味深く拝読するのですが、それぞれの皆さんで違います。
代表的な動機を列記すると、「子どもの頃から物語を思い浮かべていた」「学校の演劇で脚本を書いてハマった」「文章を書くことが好きだった」「書くことで救われた」「自分の体験を物語にしてみたい」、さらに(年配の人に多い)「人生の再出発として」「子育てから解放されてもう一度」などなど。
そうなのです、皆さんが挙げていた「書きたい」という動機から、まさに三つをチョイスして、それぞれの“ありふれている”けど、でも彼女たち“独自の”「書くにいたる」物語として構築されているのがこの映画なのです。
つまり沖田監督は、世の中のそれなりの人たちが抱えている「創作意欲」のひとつ、「文章(言葉)によって物語を創りたい」というところにスポットをあて、三人の年代の違う女性たちの物語にしている。
そういえば『おらおらでひとりいぐも』の原作者は、50歳を過ぎてから小説修業を始めて、63歳で芥川賞を受賞した若竹千佐子さん。沖田監督はこの作家の原作の映画化を手がけたことがきっかけで、三人目の里子に反映されたことは間違いないでしょう。
劇中劇として描かれる里子が書くファンタジー小説もなかなか。私が個人的に惹かれたのは、15歳の聡子の初恋物語。せつないけど爆笑もの。
そうそう、この聡子のティーン小説や35歳の沙都子の書くリアルな不倫小説とかは、物語の経緯として……なのですが。
ともあれ、皆さんにこの映画をぜひ見て欲しいのは、まさにご自身が抱いたであろう「書きたい」という動機に思いきり共感できることと、もう一度その初心を、本作で思い出すことができるから。
特に習作時代に書いた、まさに習作はそのままではモノにはならないでしょう。でもその作品は、まさにあなただけのオリジナル作品です(なのでAIとかは使わないこと!)。それを捨てずに、大事にしてほしい。
そうした「書くこと」の素晴らしさを再認識させてくれる映画です。
【公開されている最新映画を中心に、DVDで見られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューじゃなくて、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてね!】
▼これまでの全コラムはこちらでお読みいただけます。
名作・話題作に学ぶ!シナリオを面白くするコツ
映画を観ながら創作の勉強もできる記事一覧
https://www.scenario.co.jp/online/36640/
▼Happinet phantom
映画『さとこはいつも』本予告
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-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その116-
『わたしの知らない子どもたち』時代のどこを掘り下げるか?
西川美和監督・脚本・原案による話題作『わたしの知らない子どもたち』です。素晴らしく哀しく、美しく、かつエンタメとしてもおもしろい感動作。
私は冒頭部あたりから早々に涙腺決壊。映画館に飽きずに通っているのは、年に何作か「よかった! こんな映画に出会えた!」と思えるから。
西川監督作は、このコラムでは第32回に、役所広司さん扮する出所後のヤクザだった男の生き直しを描いた『すばらしき世界』を取り上げました。
『すばらしき世界』は佐木隆三の小説を原案としていたのですが、主人公が実は戦争孤児で、反社の人間として生きざるを得なかったという境遇があり、そこから西川監督が、「終戦後に、国家や大人たちから見捨てられた戦争孤児たちが、どのような生き方をしたのか?」をテーマにしようと思ったとか。
そこから(『すばらしき世界』がそうであったように)、脚本を書くための徹底した綿密な調査と取材を重ねたとのこと。
これまでも、80年前に終わった太平洋戦争を題材とした作品はたくさん作られています。
ただ、そのほとんどは史実、戦争の当事者を扱ったものでした。
本作の戦争孤児たちも、もちろん当事者なのですが、であると同時にサバイバーとして生きざるをえなかった被害者で、その子どもたちをこれほど丹念に描いた作品はなかったように思います(あえて挙げるとジブリアニメの『火垂るの墓』か)。
私も五十嵐匠監督(共同脚本)の、沖縄戦で住民を救おうと奮闘した島田叡知事と荒井退造警察部長を取り上げた『島守の塔』の脚本とノベライズ本を書きました。二人は実在の人物ですし、まさに戦争の当事者でした。
この映画の中に、鉄血勤皇隊という名目で徴用されたムネユキという少年が登場します。当初、シナリオには書かれていなくて五十嵐監督が加えた場面、戦場で会った島田知事に、ムネユキ少年が「戦争が終わったら、また学校に行けますか?」と尋ねるセリフが心に残っています。
この後、ムネユキは爆撃に倒れて短い人生を終えてしまう。そうした子どもたちがあの戦時下、さらにはその後の混乱の時代にどのくらいいたのか?
今回の「ここを見ろ!」は、まずこの時代、歴史の中の埋もれている部分にスポットを当て、掘り起こすことで新しい作品にするアプローチです。
ほぼ描かれていなかった戦争孤児の物語。
主人公は音楽家の父の元で、それなりに豊かな生活を送っていた茅野琴子(小八重葵美=圧倒的な名優の誕生も目撃してほしい!)が孤児となり、自身の髪を切って男の子となって生き抜いていくサバイバルストーリー。
そして、この琴子をやむをえずも見捨てたことを悔いながら、シングルマザーとして必死に生きつつ、琴子を探す小学校教師だった曽根文美子(二階堂ふみ)の物語がクロスして描かれます。
この2人以外の子役たち、脇を固める名優たちの演技も見どころです。
あの終戦直後に、ガード下などにたくさんいた戦争孤児たちが、どのように生き、その後の人生を送ったのか? 辛い物語なのですが、平和に生きている今の日本人こそ見るべきでしょう。ぜひ見てほしい。
ともあれ、過去や歴史、その時代を描く姿勢として、このようにスポットライトがまだ当てられていない事項はいくらでもあります。そこに気付いて掘り下げることで、新しい物語として描けるかもしれません。
これに関連して、新しい物語ゆえに見出せる空間、場所が見つけられる、というのも「ここを見ろ!」です。
映画をご覧になったらぜひ(若干高めなのですが)パンフレットを購入してほしい。決定稿の脚本も掲載されているのですが、「プロダクションノート」が素晴らしい。
映画の中に登場した重要ないくつかのシーンについて、どのように監督のイメージを、美術チームやVFXの白組が映像にしていったかが解説されています。
常々、基礎講座やゼミなどで講師が、「人物を描け」「魅力的なシーンを作れ」と述べているはず。
この映画のいくつかのシーン、疎開先の教室、空襲後の焼け跡、終戦後の闇市、ドヤ街、ガード下、孤児たちの住処、列車、子どもたちが収容される小島と施設、漁師小屋などなど……
そうした特異な場面(シーン)が、どのように作られていったかを知ることができます。そうしたドラマの神髄をぜひ見てください。
【公開されている最新映画を中心に、DVDで見られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューじゃなくて、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者は大いに参考にしてね!】
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名作・話題作に学ぶ!シナリオを面白くするコツ
映画を観ながら創作の勉強もできる記事一覧
https://www.scenario.co.jp/online/36640/
▼株式会社K2Pictures
映画『わたしの知らない子どもたち』【絶賛上映中】物語の始点となる本編映像
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