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映画『ラプソディ・ラプソディ』『黒牢城』
脚本を楽しむ 見どころ・感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その111-
『ラプソディ・ラプソディ』○○すぎるキャラクターが対立・葛藤を作る

名バイプレヤーでありつつ、『エレファント・ソング』や『BeRLiN』『クロエ』などの映画監督でもある利重剛さんの新作『ラプソディ・ラプソディ』です。

利重監督は脚本も書かれるのですが、それもそのはず、お母上は かの『3年B組金八先生』の産みの親、名脚本家の小山内美江子さん。本作もライトメイドな心温まる脚本で、まさに肩の力を抜いて見られる映画になっています。

利重監督が生まれ育った横浜のオシャレな空気感と、それでいて伝統と古さも残されている町並みが、この映画のテイストとしてここそこに活かされています。

皆さんも“とある東京近郊の街”とかでもいいのですが、具体的な土地柄ならではの設定を作ると、まさに“絵”が見えてきますよ。

物語ですが、自己主張をせず存在感の薄いサラリーマンの夏野幹夫(高橋一生)が、叔父の歯科医・大介(利重さん)に、「どうして結婚しないの?」と聞かれても、「機会がないだけで」と暖簾に腕押し。
ところがパスポート更新のために、区役所に住民票を取りにいったら驚愕。妻の欄に「繁子」とある。いつの間にか、自分は結婚していることに!
繁子探しを始めた幹夫は、通り道の花屋に夏野繁子(呉城久美)を発見、そこから二人の奇妙な婚姻(恋愛?)関係が始まりそうで、始まらなくて……

映画でも述べられますが、確かに「婚姻届け」なんて、書類が揃っていれば通されてしまう。犯罪がらみでもなければ、通常は考えにくいのですが、でも制度上ではあり得るわけで、まずそこに目をつけたのがうまい。

また、基礎講座の課題で「出会い」がありますが、まさに幹夫と繁子の出会わせ方のアクティブなおもしろさ。こんな「出会い」をさせたら、以後の二人の行く末が気になって仕方なくなりますね。

そうしたアイデアや展開の妙も、「ここを見ろ!」なのですが、やはり今回の一番の注目ポイントは、人物造形について。

公募コンクール対策講座などで、担当の浅田直亮講師が、人物について強調するのは、「〇〇すぎるキャラクターにしろ!」ですね()。

私は人物の魅力づくりや、人物を立体的に造型するためには「一点個性を強調させるといい」と述べたりしますが、これも同じです。それすることで葛藤するし、他者とも対立が生まれたりする。人物像が俄然際立ちます。

で、主人公の幹夫はどんな理不尽なことをされたりしても、「けっして怒らない」「穏やかすぎる」キャラクター。繁子に勝手に戸籍を汚されても怒らない、お金を貸してくれと頼まれれば都合してやったり。

一方の繁子は意図せずに「いろんなものを壊しすぎる」キャラ。掴んだ取っ手だけじゃなく、人物関係とかも。このひたすら不器用で両極端の二人の恋(なのか?)の行方が、うまく行くはずもなく、じれったく遅々と進んでいく。

その“〇〇すぎるキャラ”の二人ですが、どうしてそうなったのか? 
それぞれの過去(履歴)も、きちんと作られています。

ともあれ、今に限らないのでしょうが、こうした恋愛下手、生きづらさを抱えた人物たちこそリアルですし、人間味としての魅力となります。この「人物造形」の妙を教えてくれます。

もう一人、そんな幹夫に片思いしている毒島りずむ(池脇千鶴)のキャラと、それゆえのアプローチ、彼女のセリフも見どころです。

ところで、利重監督は根っからの映画ファンで、パンフのインタビューで、ご自身の原点として、かつてあった地元の鶴見文化劇場で観た作品群、「特にアメリカン・ニューシネマと呼ばれる映画の数々でして、特別なヒーローやヒロインではなく、生きている誰もが主人公になり得るのだと教えてくれました」と語り、「映画館を出たあともまだ物語が続いている状態へいざなわれるのが好きで」本作はそうしたハッピーエンドを目指したとのこと。

このコメントを読んで嬉しくなりました。私もまさにアメリカン・ニューシネマこそが原点なのですが、この『ラプソディ・ラプソディ』を観ていて思い出した映画こそ、ピーター・イェーツ監督、ダスティン・ホフマンとミア・ファローの、逆の順序から始まる恋を描いた名品『ジョンとメリー』です。

なお、シナリオ・センターでは5/20(水)に、公開講座「利重剛監督の創作術“街を描くこと 人を描くこと”~ 映画『ラプソディ・ラプソディ』公開記念」を開催します(※好評のうちに終了となりました)。利重監督にお越しいただきます。じっくりと映画・脚本作りの心得をお聞きください。

※登場人物のキャラクター(性格)を設定するとき、「〇〇すぎる性格」を考える。このポイントは、シナリオ・センターの浅田直亮講師(研修科ゼミ シナリオ作家養成講座 公募コンクール対策講座 等担当)が、シナリオ・センター創設者である新井一 著『シナリオの基礎技術』『シナリオの技術』等をもとに、今の時代に合わせて編み出した考え方です。

★浅田講師 著書情報

▼『ちょいプラ!シナリオ創作術 人気ドラマが教えてくれる「面白い!」のツボ』(言視舎)
https://s-pn.jp/archives/3784#more-3784

▼『いきなりドラマを面白くするシナリオ錬金術』(言視舎)
https://www.amazon.co.jp/dp/4905369029 

▼『シナリオ錬金術2「面白い!」を生み出す即効テクニック』(言視舎)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784865651690

 

★柏田講師 著書情報

▼『劇的!小説術2:エンタメ小説を書こう!』(言視舎)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784865653106 

▼『劇的!小説術:上手くなるのが実感できる95のレッスン』(言視舎)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784865652536 

▼『小説・シナリオ二刀流奥義:プロ仕様 エンタメが書けてしまう実践レッスン 』(言視舎)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784865652000 

▼「映画のここを見ろ!」全コラムはこちらでお読みいただけます。
名作・話題作に学ぶ!シナリオを面白くするコツ/映画を観ながら創作の勉強もできる記事一覧

▼映画会社ビターズ・エンド
『ラプソディ・ラプソディ』予告編

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-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その112-
『黒牢城』ミステリーとしての作りと、現代に通じるテーマ性

話題の時代劇映画『黒牢城』です。
原作は米澤穂信さんの同名小説ですが、第166回の直木賞、第12回山田風太郎賞をW受賞した他、『このミステリーがすごい!2022年版』『週刊文春ミステリーベスト10』『ミステリが読みたい!2022年版』『2022本格ミステリ・ベスト10』といったミステリランキングで第1位を獲るなど、時代小説でありながら、ミステリー小説としても高く評価されました。

この“おいしい”原作を脚本・監督したのは、『CURE』『トウキョウソナタ』『スパイの妻』など、独特のダークタッチで知られる黒沢清さん。私も追いかけている監督さんですが、このコラムで取り上げるのは初めてですね。ちなみに黒沢監督はキャリア初の時代劇映画とのこと。

このコラムでは、「その92」にて「新しい時代劇を書くために」といった観点で、史実の“虚”と“実”を対比させる構成の『八犬伝』を取り上げました。

「その104」では、葛飾北斎の娘・お栄(絵師の号:応為)の生き方を、季節の移ろいと合わせて描いた『おーい、応為』を。

「その108」で取り上げた『木挽町のあだ討ち』は、まさに殺人(仇討ち)事件の真相は? で引っ張るミステリー時代劇でした。

また、日本ではありませんが、「その109」での『ハムネット』も、16~17世紀に実在した劇作家シェイクスピアには“もしかしたらこうだったかもしれない”という歴史のifからの物語を展開させていました。

さて『黒牢城』の「ここを見ろ!」は、まずこの新しい時代劇とするための切り口。
さらに、ミステリーの王道をミックスさせるアプローチについて。

本作の主人公は、戦国時代の摂津の大名、荒木村重(本木雅弘)。歴史上では織田信長に反旗を翻し、有岡城に籠城、その後、一族郎党や部下たちを残したまま城を脱出、本能寺の変後にも茶人として生きのびた人物です。

映画ではそうした村重のその後は語られますが、村重が城から逃れた後に、妻のだし こと千代保(吉高由里子)ら一族や部下たちの多くは、信長によって処刑されています。

その容赦ない処刑のありさまは『信長公記』にも書かれています。それについては触れられていませんでした。そうしたことから、荒木村重=裏切り者・卑怯者といった見方もされていました。

もうひとつよく知られた史実としては、後に豊臣秀吉の重要な軍師となった黒田官兵衛(菅田将暉)を村重は、有岡城の牢に1年半余幽閉、そのあまりに苛酷な待遇に、官兵衛は足が不自由になったとか。

このあたりの物語は、司馬遼太郎先生の『播磨灘物語』をぜひ!
余談ですが、現在オンエア中の大河ドラマ『豊臣兄弟!』で、秀吉を支えたもう一人の天才軍師が竹中半兵衛ですが、演じていたのが菅田将暉さん。大河では半兵衛はもう死んでますが、映画を見ていて混乱しました。どちらが先かは知りませんが、このキャスティングはやめてほしかった……。

『黒牢城』に戻ると、原作小説はこの黒田官兵衛幽閉の史実を活かして、ミステリーのひとつの型「アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)」を取り入れたこと。

まずは城内で起きたいわば「密室殺人事件」の謎を、村重が牢内の官兵衛に語り解かせる。この後の事件も官兵衛が推理を働かせて謎解きをしていきます。この歴史劇でありながら、ミステリーとしての特異な展開をさせていき、最後に全体を通しての意外な真相、という作りにしています。

このアプローチこそが、まさに「新しい時代劇」のカタチになっています。

もうひとつは、裏切り者の印象のある荒木村重を、今の時代に通じるヒューマニスト的思想の持ち主として造型している点。

本作は戦国時代の人物と、残された史実を踏まえているのですが、今の時代の我々の心に響く「反戦映画」としてのテーマ性を感じさせます。ここに時代劇を描く際の、目指すべき作者の姿勢や精神性があります。

時代劇、歴史劇はただ昔の出来事を描けばいいのではありません。
当たり前に伝えられていることをそのまま描くのでは、新味は出せないのはお分かりでしょう。

今までにない切り口なり、価値観、見え方をする。
それに加えて、「今の時代にどうしてそれを描くのか?」。
そうした描くべき理由なり、必然性を見いだしてほしい。

ここでちょっと Information.
7月3日(金)に「新しい時代劇を書くための時代劇講座 2026」を開講します。
これからの時代劇を書くための考え方、アプローチ法、時代劇のための基本などをお話したいと思います。
よかったら是非ご受講ください。

▼これまでの全コラムはこちらでお読みいただけます。
名作・話題作に学ぶ!シナリオを面白くするコツ/映画を観ながら創作の勉強もできる記事一覧

▼松竹チャンネル/SHOCHIKUch
映画『黒牢城』本予告

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