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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『怪物』を楽しむ 見どころ
おもしろさは、ミステリー要素と、解答への運ばせ方にある!

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その73-
『怪物』おもしろさは、ミステリー要素と、解答への運ばせ方にある!

まさに今、旬な話題作『怪物』です。極力ネタバレせずにご紹介します。特に本作は、できるだけ予備知識を入れずに、まっさらな状態で観てほしい。

ただ、ここに貼ってある予告編はご覧ください。私自身、少し前から映画館でこの予告編を見て「どういう映画なんだ?」と、あれこれと想像していました。

場面(俳優さんたち)の意味深な切り取りと、投げかけられる問い、特に「かいぶつ、だーれだ?」というセリフの意味は?社会性ある教育問題を扱っていそうだけど、ホラーチック、もしくはサスペンスっぽくて、何かぞわぞわさせる空気感に満ちています。

すでにニュースになっていますが、本作はカンヌ国際映画祭に出品され、坂元裕二さんが脚本賞を、さらにLGBTやクィア(性的マイノリティや既存の性のカテゴリに当てはまらない人の総称)を扱った作品に与えられるクィア・パルム賞を受賞しています。

ん、クィア? この用語が出てくるということは……で、若干ネタバレ要素になりますが、まあそれは頭の片隅でいいかと思います。

ちなみに是枝裕和監督作は、本コラムではかの傑作『万引き家族』()を7回目で、そして坂元裕二脚本作は、『花束みたいな恋をした』()を31回で取り上げました。このお二人(と音楽が故坂本龍一さん)がタッグを組んだ、ある意味画期的な、それこそ日本映画史に刻まれる傑作の誕生といえるでしょう。

このお二人を結びつけた(まさにお手柄な)プロデューサーは、センターOBでもある川村元気さん。コロナ禍前から企画が立ち上がり、自身が坂元脚本のファンだったという是枝監督が、坂元さんが出されたロングプロットを読んで、監督することを即決されたということ。

初稿は3時間になる長さで、坂元さんが削りに削ったら90分(半分だ!)になってしまい、是枝監督がなくなったシーンやセリフを復活させて、最終稿(125分)に収まったということ。

もうひとつ、これも情報として出ているのは、本作の構成が黒澤明監督の『羅生門』方式という点。確かにひとつの事件(出来事)が、見る人によって様相が変わるという造りで、この手法のための三幕構成(というよりも、三部構成)になっていて、そうした緻密な構成の妙も見どころです。

それもそうなのですが、今回の「ここを見ろ!」は、第一部に顕著な「謎」、すなわち「ミステリー要素」と、そこから以後に明らかにされる「真相」、すなわち「解答」とドラマの展開のさせ方です。

この第一部では、シングルマザーの早織(安藤サクラ)の視点で、息子の湊(黒川想矢)との生活が描かれます。湊に母としての愛情を注ぎ、賢明に生きる早織ですが、湊が何かを隠している。それがどうも友達の依里(柊木陽太)がらみで、担任の教師保利(永山瑛太)の指導に要因があるらしく……

ミステリー要素に関して、ジャンルとしてだけでなく、物語をおもしろくする要因になる、と常々述べています。「殺人事件の犯人は?」といった、王道としてのミステリーはもちろんですが、ホームドラマでも、恋愛物でも、謎や秘密があると、平板な物語であっても、観客の興味を引っ張ることができる。

例えば、「夫は毎週金曜は深夜帰宅する。なぜだろう?」があることで、夫婦関係性に不穏さが醸し出されます。夫は何を隠しているのだろう?

こうしたミステリー性を放り込んで、引っ張るだけで観客はその解答を知りたくなります。これが「この先を知りたい」「これからどうなる?」となって、すなわち「おもしろさ」の秘訣になるわけです。

ただ問題は、散りばめた謎の解答を示した時に、観客が「なんだよ、それ」とか「想像した通りだった」だとつまらなかった、になってしまう。

『怪物』の第一部で小出しにされ、ひたひたと満ちていく不穏さ、解答を簡単に示さずに、謎がさらなる謎を呼んでいく実に緻密な脚本の造り。さらに、それぞれの人物たち(俳優さんたちの見事さも)の造型、そのキャラクターを見せるディテールの見せ方も。

あらゆるところを切り取っても、ため息が出るほどの緻密な脚本を、じっくりと味わって下さい。脚本家志望者ならば特に、必見です。

その7『万引き家族』

その31『花束みたいな恋をした』

※YouTube
ギャガ公式チャンネル
映画『怪物』予告映像【6月2日(金)全国公開】

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その74-
『1秒先の彼』キャラクターの転換が新たな突破口となる

今回の作品は、日本映画としてリメイクされる、というニュースを聞いて以来、ずっと心待ちしていた『1秒先の彼』です。その理由はまず、元の台湾映画『1秒先の彼女』は、ここ数年のうちでもベスト級の大好きな映画で、このコラムの第39回()でも取り上げました。

あの秀逸なアイデアと、突出した二人のキャラクターの魅力を、どう日本に置き換えれば、勝負できる作品に造り変えられるのか?こうしたリメイク作は、そもそも元の作品が名作ゆえ、ハードルが高くなります。よっぽどの何かがないと、新作としての輝きが得られないことが多い。

ただ期待が抱けたのは、メガホンを取るのが山下敦弘監督で、脚本はクドカンこと宮藤官九郎さんと聞いたから。クドカンさんに関しては改めて述べる必要はないでしょう。現在日本で最も活躍している脚本家のお一人です。

山下監督は、本コラムで初登場というのが、我ながら意外でした。最初に観たのは05年の『リンダ リンダ リンダ』、女子高生4人がブルーハーツのコピーバンドをやる学園音楽映画。これで一気にファンになりました。07年の『天然コケッコー』では、今回の『1秒先の彼』主演の岡田将生さんが記憶にインプットされました。

さて、肝心の出来は……このお二人がタッグを組んだということで、元の作品をしっかりとリスペクトしつつ、日本(の中の日本ともいえる京都!)を舞台にした、おかしくてせつないラブファンタジーに仕上がっていました。正直な感想として、「よかった!」「楽しくて、またしみじみとした幸せ感に浸らせて頂きました」と映画館を後にすることができました。

さて、今回の「ここを見ろ!」は、キャラクターの大転換で、ディテールとストーリー展開も新しく変えられるというところ。すでにお気づきかと思いますが、「1秒先の“彼女”」が、「1秒先の“彼”」になっています。

パンフによると、やはり元の作品で、何でも1秒早く行動してしまうせっかちガールの郵便局員シャオチー(と演じたリー・ペイユー)の素晴らしさ、インパクトが強すぎて、山下監督も宮藤さんも頭を抱えていたとか。

そんなある時、元の作品の“1秒早い彼女”と“1秒遅い彼”の組み合わせをそっくり入れ替えたら、というアイデアが出て、宮藤さんも脚本を書き直したところ、リメイクの突破口が見えたとか。

特に前半部を通すせっかちな郵便局員の皇一(すめらぎ はじめ)を、ヒロイン感のある(と山下監督も宮藤さんも思った)岡田将生さんをキャスティングすることで、「見た目100点だけど、性格0点」と評されてしまう残念男の姿が浮かんだ。

そして後半部の視点者となる(この視点の転換も注目点)ほっこりおっとりとしつつ、ほとんど目立たないカメラ女子の長宗我部麗華(ちょうそかべ れいか)に、清原果耶さんを当てることで、リアルな自然さが出せたとか。

この、性別を変えることで、印象やストーリー展開を変えられるという例では、第63回の『さかなのこ』()でも述べました。実在していて強烈なキャラであるさかなクンを演じるのに、男優ではどうしても比べられてしまう。そこで起用されたのがのんさん、という絶妙さでした。

ともあれ、皆さんが書いている脚本が行き詰まった折、思い切って主人公と脇を逆転させたり、性別を変えてみると、意外な展開が見えるかもしれません。

ところで、本作のメインテーマは「時」です。1秒早いことで人よりも多く時を費やしていた男と、1秒遅いことで時を貯めていた女による時間差が引き起こすファンタジー。こうした「時」を描くために、古都である京都、さらには海のある天橋立というロケーションも なるほど です。

また、元の作品は1秒遅い男の職業性が展開に活かされていたのですが、本作の麗華は大学7年生と変わっています。これだとある重要な点を変えないといけなくなるのですが、これまた爆笑のプラスアルファが加えられています。

前回取り上げた『怪物』もでしたが、本作も計算された脚本で、見事な伏線回収がなされています。

もうひとつ、今年亡くなった笑福亭笑瓶さんが二つの役で出ているのも、ある意味、テーマである「時」のズレと、せつなさを感じさせます。映画はまさにファンタジーそのものです。

その39『1秒先の彼女』

その63『さかなのこ』

※YouTube
映画会社ビターズ・エンド
映画『1秒先の彼』 30秒予告*岡田将生×清原果耶 W主演*7/7(金)公開

「映画が何倍も面白く観れるようになります!」

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