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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『銀河鉄道の父』を楽しむ 見どころ
“人口に膾炙”した素材をどう観客に伝えるか?

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その71-
『せかいのおきく』時代劇を発想する職業性と、珠玉の名ラブシーン

これまでこのコラムで、「時代劇」は取り上げていませんでした。

私はもっぱらというか、時代劇を小説や脚本でも書くことが多いのですが。で、これまでさまざまに硬派な映画を撮ってきた阪本順治監督・脚本の初時代劇映画『せかいのおきく』を、ようやくですが。

この映画は冒険している、というか、採算度外視で開き直っているとしか思えません。今どき敬遠される全編ほぼモノクロだし、それ以上に最も底辺で、嫌われる職業性だったり、映像にして(どう撮ったとしても)心地よくないモノを、真正面から取り上げています。

企画会議とかなら、まず通らない要素が満載なのですが、逆にここまで見せてくれると、潔いとさえ思いました。これまでの日本映画(時代劇)でも、この世界をこんなにリアルに描いた映画はなかったと思います。

その心地よくないモノというは、一言でいうと「糞尿」です。タイトルになっている主人公のおきく(黒木華)こそ、浪人の父(佐藤浩市)と長屋住まいをしている寺子屋の師匠ですが、おきくと親しくなる若者二人、矢亮(池松壮亮)と中次(寛一郎)は、下肥買い(汚穢屋ともいう)をしている。

ちなみに拙作の短編集『面影橋まで』に、「夜鷹舟あわせ黒子」という小説があります。(出勤する)夜鷹たちを乗せて運ぶ舟の船頭の清太少年が主人公。清太は昼間、荷を運ぶ仕事も請け負っていて、ある日、空の肥樽を運んだら匂いが取れずに、夜鷹たちに文句をつけられるという場面を書きました。そのくらい臭かっただろうということです。よかったら読んでみて下さい。

今こそ日本中ほとんどが下水道完備ですが、私の少年期までいわゆるボットン便所でした。ましてや江戸時代は、なのですが、大都市江戸は見事なまでのエコリサイクル循環社会でした。

当時の長屋の図などを見ると分かりますが、住民たちの部屋(店=たな)が並んでいて、一角に共同便所(厠)がある。そこで溜まった下肥(糞尿)は、長屋を管理していた大家さんの大きな収入源でした。

これを矢亮のような下肥買いが集めて、江戸近郊の農家に売り、農家はこれを有機肥料として野菜を作り、大消費地帯である江戸に流通させていました。

一見不潔に見えるかもですが、同時代のヨーロッパなどは、そのまま川や溝にたれ流していて、疫病の元になったりしたのに比べると、はるかに優れたサイクルだったわけです。

どんなに蔑まれても、彼らが来ないと大変なことになります。その様子などもしっかりと描かれます。もう画面から匂ってきそうなほどに。

それでもこの映画は、時代劇としてのベースをしっかりと踏まえつつ、三人の若者の青春物語として心に染みます。

また、タイトルとなってる「せかい」だったり、セリフで語られる「青春」といった用語や概念は、この時代にはまだなかったはずです。そうした意図的な確信も、時代劇では許されるということもよく分かります。

さて、今回の「ここを見ろ!」ですが、時代劇を発想するための職業性です。研修科最後の課題が「時代劇」ですが、皆さん苦労するようです。時代考証うんぬんもあるのですが、何より親しみがないので、何をとっかかりとしていいか分からない、ということが多いのでしょう。

上記の『面影橋まで』の諸編はまさにそうなのですが、私はまず江戸の庶民の生活や職業案内の本を眺めたりします。オススメは、中公文庫から出ている三谷一馬著作シリーズ(『彩色江戸物売図絵』『江戸職人図聚』など)。

ここに描かれている人物たちを主人公としたら、どんな物語ができるだろう? と考えるだけで、どんどん映像が見えてきます。これこそがとっかかりです。

ただこれら三谷さんの本にも、「下肥買い・汚穢屋」は出ていませんでした。そのくらいにこれまでも描かれていなかった職業だったと言えるでしょう。でもだからこそ、この映画は新しいのです。

もうひとつぜひぜひ見てほしいのは、たったひとつの「ラブシーン」。

職業や身分の違いが大きなカセとなる時代にあっても、人は人を慕う。その感情は時代劇だろうがSFだろうが同じです。新たに日本映画史に刻まれるであろう名ラブシーンを、見逃さないで下さい。

※YouTube
東京テアトル公式チャンネル
映画『せかいのおきく』本予告《90秒》

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その72-
『銀河鉄道の父』「人口に膾炙」をどう観客に伝えるか?

話題の感動作『銀河鉄道の父』を取り上げます。

原作は、2018年第158回直木賞受賞作の門井慶喜著の同名小説。

脚本はシナリオ・センター出身ライターで、八面六腑の大活躍中、坂口理子さん。監督は『八日目の蝉』や『いのちの停車場』など、人間ドラマを美しい映像と、絶妙な語り口で見せてくれる成島出さん。

さて本作は、日本人なら誰もが知っている作家(というか、文人、詩人、思想家などでもある)宮沢賢治の物語。これまでも賢治自身の生涯を描いた映画や、賢治原作の映像化作品もたくさんあります。

ですが、門井さんの原作は、宮沢賢治を取り上げながらも、タイトルが示すように、父の宮沢政次郎(映画は役所広司)と長男の賢治(菅田将暉)の、父と息子の関係性を中心に、賢治のミューズでもあった妹トシ(森七菜)、母イチ(坂井真紀)、祖父喜助(田中泯)、弟静六(豊田裕大)らの宮沢家の物語として描いていて、これまでにない切り口でした。

特に息子賢治を心の底から愛しながら、その「放蕩ダメ息子」ぶりに振り回される政次郎の葛藤や苦悩、悲哀がメインテーマとして書かれていました。この原作は講談社文庫で読めます。文庫本で500P以上(ざっと換算すると400字詰め原稿用紙800枚以上)の長編です。実に丹念に賢治の生涯はもちろん、宮沢家に関しても調べた上で書かれていて、読み応えある家族の物語となっています。

この長尺の原作から、128分の映画脚本とする際に、どの場面やエピソードを抽出して、さらに原作に(史実にも)ないオリジナル要素を加えているか?

原作で描かれているテーマ性やカラーを尊重しつつ、定まった評価なり、愛してやまない読者がわんさかといる宮沢賢治をどう描けばいいか? これぞ脚本家の腕が存分に試される「脚色」の筆力です。

シナリオ・センター発行『シナリオ教室』5月号に、決定稿脚本が掲載されています。原作と合わせて読むと、どのように脚色されているかが分かります。

例えば、トシが高齢となって錯乱する祖父の喜助を「きれいに死ね」と諫めるシーンがあります。これは実際には、トシが喜助に送った長尺の手紙に書かれていたと原作にあります。この逸話を映像的な場面に転換しています。

さて、今回の「ここを見ろ!」ですが、いわゆる「人口に膾炙した(人々の話題に上ってもてはやされ、広く知れ渡ること)」素材をいかに脚本(物語展開)に取り込んでいるか?

宮沢賢治の作品というと、皆さんはまず何を思い浮かべるでしょう?小説ならば『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』あたりが真っ先にあがりそう。そして詩ならば『雨ニモマケズ』と、トシの死への鎮魂詩『永訣の朝』……

こうした賢治の代表作とかを、映画の中でどのように取り上げるか?
これは脚本を書く際に、結構悩ましい問題だったりします。

例えば私が脚本を書いた『二宮金次郎』ですが、金次郎といえば、本を読みながら背中に薪を背負う姿でしょう。これを入れるべきか、入れるならばどういう場面とするか?やはり観客はこの場面を期待するわけです。結果的に【起】部分に入れて、とてもいいシーンになったかと思います。

つまり上記の賢治の代表作を入れないと、観客に肩透かし感を与えてしまうでしょう。だけど、例えば『風の又三郎』の全編(内容や文章とか)を、映画の中で描くことはとてもできません。

でもその物語世界を期待する観客には、さわりでも伝えたい。で本作の、有名な「どっどど どどうど~」という書き出しを語る場面の見事さ。

さらに「あめゆじゅとてちてけんじゃ」の『永訣の朝』、さらに(映画版オリジナルとなっている)「雨ニモマケズ、風ニモマケズ~」の詩の示し方。

一度、さわりとして振り、観客に「えっ?」と思わせた後で、ここぞという場面で伝えることで、感動として盛り上げる。もう涙なくしては見られません。

宮沢賢治は生前は本もほとんど売れず、死後にようやく認められ、今もなを読み継がれ、作品は色あせません。でもこうした天才児は、家族や周囲の人にとっては、かなりの迷惑な(困った)人物だった。

それもキャラクターの魅力の所以でしょう。賢治だけでなく、本作の各人物たち描き方、魅力も感じとって下さい。

※YouTube
キノフィルムズ
映画『銀河鉄道の父』予告【2023年5月5日(金・祝)全国公開】

※こちらの記事も併せてご覧ください。
脚本家 坂口理子さんに聞く/ 映画『銀河鉄道の父』や舞台ユニット「Project未來圏」について

「映画が何倍も面白く観れるようになります!」

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