2022年度 第43回 BKラジオドラマ脚本賞。応募総数115篇(前回141篇)。その中から最優秀賞1篇、佳作2篇を選出。
最優秀賞は通信研修科の高橋百合子さん作『赤いあと』が、佳作一席はシナリオ・センター大阪校 作家集団の阿部奏子さん作『天空のふたり』が受賞。なお、阿部さんは昨年2021年度 第42回 BKラジオドラマ脚本賞において、『赤い花 白い花』で佳作二席を受賞されており、“2年連続受賞”となりました。
おふたりに受賞の言葉をいただきましたのでご紹介。
その中には、シナリオ・センターで学んできたことやゼミを活用して今回のコンクールへ挑戦されたという、在籍されているお二人ならではのコメントがあります。
映像シナリオの技術はラジオドラマのシナリオを書くときにも役立つこと、また、シナリオ・センターのゼミでの経験は創作のモチベーションを維持することに役立つことも、お分かりいただけるかと思います。
ラジオドラマに興味がある方だけでなく、「書こうと思っているのになかなか続かない」「シナリオスクールに通った方が書けるようになるのかな」とお悩みの方も、是非参考にしてください。
最優秀賞『赤いあと』高橋百合子さん
「聴き手に映像を浮かべてもらえるように」
*
=あらすじ=
大阪で暮らす加納幸乃(54)は、末期ガンの夫・加納健治(55)の入院見舞いに通う日々を送っている。ある日、妊娠中の娘・相田未希(28)と買い物中、幸乃は赤い観覧車の近くで、首筋に赤いアザのある女性の後ろ姿を見かけ、釘付けになる。その女性は、健治が二十年前に浮気をしていた立花美里(56)にそっくりだった――。
※本作は、50分のラジオドラマ番組「FMシアター」として制作され、NHK-FM全国放送予定。
――受賞の感想
〇高橋さん:最初、受賞の連絡をいただいたときは、嬉しいよりも驚きのほうが大きく、夢なのではないかという気持ちでした。
普段、映像シナリオのコンクールに応募をしていて、BKラジオドラマ脚本賞への応募は初めてでした。BKラジオドラマは、大好きな脚本家の木皿泉さんが昔、受賞されていたので漠然と憧れがありました。
関東出身で関西圏に馴染みが無かったのですが、以前、別の公募に向けて大阪を舞台にした短編小説を書いたことがあり、それを元に今回の作品を書きました。
なので、地元の方が聴いたらおかしいセリフや、舞台にした土地のリサーチ不足等、自分でも自覚があったので、手応えは全くありませんでした。実際、審査員の選評でもリサーチ不足は指摘されていて、作品に対する姿勢として反省しています。
――ラジオドラマコンクールに出そうと思ったキッカケ
〇高橋さん:今回の応募の前に、他のラジオドラマ賞に2~3回ほど応募したことがありますが、一次審査より上に進んだことは無かったです。
正直、これまでラジオドラマを聴く習慣が無く生きてきたのですが、まずは思い切って書いてみようと思いました。
――受賞作『赤いあと』について
〇高橋さん:これまで割と、自分の想像の及ぶ範囲の物語を考えてきたのですが、一度思い切って、自分からは離れたところにある少し背伸びしたものに挑戦したいと思い、書きました。
――今回、工夫したこと
〇高橋さん:ラジオドラマをしっかり聴いたことが無い状態で、手探りで書いていたので、あまり工夫する余裕が無かったです。強いて言えば、頭の中で音声を流すイメージを持ちながら書いていきました。
――シナリオ・センターで学んできた映像シナリオの技術。受賞作を書く上で役に立ったこと
〇高橋さん:普段、シナリオ・センターの課題に取り組むときは、頭に具体的に映像を浮かべながら書いていくよう心がけています。
今回ラジオドラマを書いていくにあたって、聴き手に映像を浮かべてもらえるようにする点で、これまで学んできたことを活かそうという意識が働いていたのではないかと思います。
――「ラジオドラマを書きたい」という方にメッセージを
〇高橋さん:私はラジオドラマを書いたのはまだ数えるほどで、技術的なことや勉強法など、お話できることが無く申し訳ないです。
今回賞を頂けたのは、ラジオドラマシナリオの評価というよりも、自分的に思い切った作品を書いた点が功を奏して、その点を評価していただけただけではないかと思っています。
今回放送していただくにあたり、少しずつディレクターの方との打ち合わせをしていくなかで、自分の応募原稿が、いかに聴き手を想定せず、独りよがりに書いていたものかが分かりました。
他の方からしたら当たり前のことかもしれないのですが、やはり、自分の書いた作品に責任を持たなければならないと反省しました。
これは、私自身の今後の課題でもありますが、やはり、多くのラジオドラマを実際に聴いてその良さを実感することや、こういう物語を聴き手に届けたいというイメージを大事にしながら最後まで書き進めることが大事なのかなと、今は思っています。
佳作『天空のふたり』阿部奏子さん
「ゼミ仲間にシナハンに付き合って貰った体験も今回のシナリオに」
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=あらすじ=
関根チカ(6)は家族の運転で、奈良と大阪の境に位置する生駒山の麓にある『シロガネ園』に突然連れて来られた。不機嫌なチカに園長のまり子やユキ(8)は優しく、トモヤ(8)からは『お嬢』とあだ名を付けられる。だがシンノスケ(7)だけは何かと突っかかって来た。トモヤらはチカの首に蛇のような形のアザを見つけて騒いだが、チカにはそれがいつ付いたものか記憶は全くなく、不安を覚える――。
――受賞の感想
〇阿部さん:BKラジオドラマ脚本賞には毎年欠かさず応募しています。
実は一旦提出してしまうと割と忘れちゃう事も結構あって、昨年の佳作受賞は全く思いがけない事で、自分自身でも大変驚きました。
今年は去年より、作品の放送化を目指して書いたのですが、昨年引き続き、佳作(昨年は二席で今年は一席です)だった為、嬉しさ半分悔しさ半分といったところです。
とは言え、プロを多く輩出している長い歴史のある賞ですので、ミラクルが起こったと思いますし、大変名誉に感じています。
――ラジオドラマを書こうと思ったキッカケ
〇阿部さん:シナリオ・センター大阪校出身で現在売れっ子の脚本家でいらっしゃる新井まさみさんの作品が好きで、『月刊シナリオ教室』に掲載された作品を読んだり、ラジオドラマを聴くうち、見様見真似で書き始めました。
そして様々な作品を聴くうちに、音の世界の面白さに嵌り、もっと上手く書けるようになりたいと思うようになりました。
また、活字から想像する世界と、音から想像する世界は似ていると思うので、活字好きには割と向いているのかなと思います。
――受賞作『天空のふたり』について
〇阿部さん:今回書いた話は私自身の人生で実際に起こった事と重なっています。
母親が60代に入って直ぐ認知症になり、その様子を長年見てきました。認知症がいよいよ進行し、施設に入って2年程経った頃の事です。少しでも昔の記憶を呼び戻そうと、以前住んでいた家の話を母としていた時に、何の気なしに今自分が何歳か分かる?と尋ねると、母は20歳だと答えました。
その後会うたびに、答える年齢は下がっていき、会話が出来無くなってしまう直前の年齢は4歳でした。その時の母は、幼い少女のようにはにかんでとても可愛らしく見え、本人にとっては本当に4歳なのだと思えました。
その時の、本当の年齢と認知症を患う人が思う年齢は異なると言う事が、今回ストーリーの基となっています。
現在、母は良い施設でお姫様扱いをしていただいておりまして、悩みが多かった頃よりも遥かに穏やかで幸せそうに見えます。そしてその周りの方々の発言や行動を見ていても、思わず笑ってしまうような事が多く、様々な発見があります。それらは、主人公を取り巻く人々としてシナリオで描きました。
老いたり弱ったりする事は寂しい事ですが、母や、その周りの方々にそれだけではないと教えられています。
そして、もし環境が許すなら、親への恩に拘り、「自宅介護ではないと」とは思い込まず、思い切ってプロの手に委ねる事が親子双方にとってより良い選択になる可能性があると、他の方にも知って貰いたい気持ちを作品に込めました。
――今回、こだわったところ
〇阿部さん:認知症を正面から描いても、暗く辛い話になりがちかと思い、ラジオドラマとして、ワクワクするような仕掛けを考える事にしました。
音で進行する物語だからこそ、聴く人はそれぞれ別の映像を頭に思い浮かべます。それを逆手に取って騙す事が出来るのでは?と気付き、構成を練りました。
――シナリオ・センターで学んできたことで、特に役に立ったこと
〇阿部さん:現在私が所属している作家集団の狩山ゼミは、提出された作品に対して、様々な意見を戦わせる自由で前向きな雰囲気があります。
合評中は「何でそんな当たり前の事、自分は気付かなかったのだろう」と驚いたり、「これを伝えたかったけど未だ伝わってないな」と確認したりと、様々な気付きを得られる重要な場となっています。
また、このコンテストに取り掛かる前に、ゼミ仲間にシナハンに付き合って貰った体験も、今回のシナリオに入れたのですが、そのシーンは審査員に鮮やな光景が画に浮かぶようだと褒めていただきました。
色々な職業、性別や年齢が異なる人々が集うゼミの活用は、シナリオ・センターに在籍する人ならではの特権だと思います。
何よりも目標を掲げて創作に取り組む人同士で切磋琢磨するのは得難い体験ですし、創作へのモチベーション維持にはなくてはならないものだと感じています。
――「ラジオドラマを書きたい」という方にメッセージを
〇阿部さん:まずは、ラジオドラマを色々聴いてみて、その可能性に触れてみる。そこで映像のためのシナリオには無い面白さを感じ取る事が出来れば、自分でも書きたくなってくるのではないでしょうか。
改めまして、「BKラジオドラマ脚本賞」とは
これまでの受賞者のコメントも
NHK大阪放送局(BK)主催の「BKラジオドラマ脚本賞」。1980年から始まり、テレビやラジオで活躍している多くの作家が誕生していることから、次代を担う新人作家の登竜門として高く評価されています。
シナリオ・センター出身ライターでは、山本むつみさん(『ゲゲゲの女房』『八重の桜』『相棒』等)、桑原亮子さん(『心の傷を癒すということ』『舞いあがれ!』等)、新井まさみさん(『さよなら、わたしの神様』『琥珀のひと』等)などが受賞されています。
シナリオ・センター在籍生・出身生はこれまでも同賞を受賞されています。こちらの記事も併せてご覧ください。
▼第41回BKラジオドラマ脚本賞 最優秀賞受賞 山本昌子さん
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