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面白いドラマの特徴 観客や視聴者を感情移入させる方法

面白いドラマの特徴 観客や視聴者を感情移入させる方法

「面白いドラマを作るにはどうしたらいいんだろう?」「面白いドラマってどんなものだろう?」とお悩みでしたら、今まで観た中で「面白い」と思った作品を思い出してみてください。感情移入して観ていた、という特徴がありませんでしたか?今回は観る者を感情移入させる、ある方法をご紹介。

このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

主人公が感情移入しにくいとき

あなたは、どれぐらい観客や視聴者が自分のシナリオに感情移入してくれるか、意識しながらシナリオを書いていますか?

今まで観た映画やドラマで「面白い」と思った作品を思い出してみてください。感情移入して観ていませんでしたか?基本的には、観客や視聴者は感情移入すればするほど「面白い」と感じてくれます。

あんな話にしよう、こう展開するといいかな、などとストーリーばかり考えていませんか?ああでもない、こうでもないとストーリーばかり考えていても観客や視聴者は感情移入してくれません。だってストーリーは、あくまで他人事ですから。

じゃあ、どうすれば観客や視聴者が感情移入してくれるのか?

これまた基本的には、主人公に感情移入してもらいます。なので、一つは主人公のキャラクター、特に共通性を持たせることです。共通性は、観客や視聴者に「自分と同じだなあ」とか「似たようなものだなあ」「身近だなあ」と思わせるような弱いところやダメなところなので、感情移入する入り口になるのです。

もう一つは主人公の葛藤を描くことです。葛藤させればさせるほど観客や視聴者は、より感情移入し「面白い」と感じてくれます。

ところが、どうしても観客や視聴者が主人公に感情移入しにくい、というか、感情移入させることはできなくはないけど、より感情移入しやすくするために、あえて主人公とは別の人物に感情移入させることがあります。

たとえば、主人公の個性が強すぎる時や、ちょっと特殊な設定になっている時、あまり馴染みのない世界にいる時などです。イメージとしては、表玄関が、あまりに立派過ぎたり、ちょっと変わった作りになっていて、入るところがどこなのか、どうやって入ったらいいのかが分かりにくかったりして入りづらい時に、気軽に入れる勝手口を作っておいてあげる感じです。

というわけで今回は、勝手口からお気軽に の術です。

ドラマ『ガリレオ』の新人刑事

まずは、とても分かりやすい例としてドラマ『ガリレオ』を観てみましょう。

このドラマは、柴咲コウさん演じる新人刑事・内海薫が持ち込んでくる人体発火事件や幽体離脱、ポルターガイスト現象といったオカルト現象を、福山雅治さん演じる帝国大学理工学部物理学科の湯川学准教授が物理学的に解明することで事件を解決に導くというミステリー・ドラマです。

たとえば第一話、冒頭で犯人による犯行の様子が描かれます。そして、まず登場するのが薫です。先輩刑事と車で現場に向かい、監察医の検死に立ちあいます。ここで、先輩刑事が頭の黒こげになった死体を見て吐きそうになり、トイレに向かうのに対し、薫は吐きそうになりながら「平気です」と飲みこみます。

さらに、その後、いくつもの難事件を解決した憧れの上司と牛丼屋へ。最初は牛丼を食べられない薫ですが、牛丼に手をつけていないのを見られ、七味をいっぱいかけて必死でかきこむところが描かれます。

そして、その上司に「俺が解決してきた事件は、みんな、アイツのおかげなんだ」と湯川を紹介され、帝国大学理工学部物理学科の研究室に向かいます。

ここで湯川の登場です。「変人ガリレオ」と呼ばれていることが分かり、薫が「オカルト」という言葉を使うと「現象には必ず理由がある」と言い、人体発火事件を「おもしろい」と解明に乗り出します。

この後、聞き込み捜査をしたり、実際に犯人を逮捕したりするのは薫ですが、人体発火を物理学的な知識と実証実験で解明し、事件を解決に導くのは湯川で、あくまでも湯川が主人公になります。

ただ一つは、湯川の何でも理屈で論理的に考え、どちらかというと人の気持ちを理解していないキャラクターの個性が強すぎて、視聴者が感情移入しにくくなっています。

また、物理学という世界は、あまり馴染みがなく、苦手意識が強い方もいるかもしれません。そこで、ドラマの世界に入りやすくするため、物理のことをまったく知らない薫が質問をしたり説明を受けることで、いわば案内役になっているのです。

小説『博士の愛した数式』の「私」

ここで、小説の場合と比較してみます。

小説の場合も似たようなケースで勝手口の術を使うことがあります。たとえば『博士の愛した数式』がそうなのですが、主人公の数学者は脳に損傷があり、記憶が80分しかもたないという設定になっており、やはり数学という世界も、苦手意識の持ちやすい世界です。

そのために、家政婦である「私」という女性が設定され、読者は「私」に感情移入することで、「私」の視点で主人公の博士を見ていくことになります。

ただし、映像の場合と違うのは、小説の場合は、感情移入する人物のキャラクターをあまり描かず、あえて無色透明にしておくことがあります。

それは、小説は文章で描かれているので、姿形など具体的なイメージは、読者がそれぞれ浮かべるので、それぞれ違ったものになります。おそらく100人の読者がいたら、100通りのイメージが浮かべられるでしょう。そして、そのイメージは、読者が感情移入しやすいように作れるのです。

ところが映像の場合は俳優さんが演じるので、姿形など具体的なイメージがはっきりしています。そして、それは明らかに自分とは違います。明らかに他人なのです。その人物を無色透明に描いてしまうと、他人であることだけが強調され、かえって感情移入しにくくなります。なので映像の場合はキャラクターをはっきりと描き、特に、感情移入の入口になる共通性(『ガリレオ』の薫なら意地っ張りなところ)を、しっかり持たせることがポイントになるのです。

大河ドラマ『龍馬伝』の岩崎弥太郎

同じ福山雅治さんが主人公を演じた大河ドラマ『龍馬伝』では、香川照之さん演じる岩崎弥太郎が、感情移入の入口になっていました。

このドラマは幕末維新の志士・坂本龍馬の幼少期から、大政奉還を実現させた1ヵ月後に殺害されるまでの生涯を描いていますが、第1話は明治15年(1882年)から始まります。

岩崎邸のパーティーで、郵便汽船三菱の社長となった弥太郎がスピーチをします。短刀を手にした男に「国賊!」と襲われますが、難を逃れるエピソードがあり、龍馬と弥太郎の故郷である土佐の、新聞社の記者が訪ねてきます。

記者が、ある人物について話を伺いたいと言うと、弥太郎は「商売の宣伝にならん取材を受けても、意味がないがじゃ」と立ち去ろうとします。しかし、記者が坂本龍馬の名を出すと、立ち止まり、振り向きます。そして、「龍馬はの、わしがこの世で一番嫌いな男やった。あんな能天気で、自分勝手で、人たらしで、おなごに好かれて……あればあ腹の立つ男は、どこにもおらんがじゃき!」と言います。

ここでオープニングタイトルとなり、その後に「天保14年(1843年)土佐」の字幕タイトルが出て、弥太郎のナレーションが、「わしが龍馬と初めて会うたがは、わしがまだ10歳の頃やった」と入ります。

10歳の弥太郎が、父親と鳥籠を売り歩いていて、少年たちが川に飛び込んで遊んでいる中に、怖くて半ベソの9歳の龍馬を見るのです。その後も弥太郎が、龍馬を思い出して語っているという設定で、弥太郎のナレーションを入れつつ描かれていくのです。

映画『アマデウス』が同じパターンを使っていました。『アマデウス』は、天才といわれ自由奔放なキャラクターの音楽家モーツァルト(トム・ハルス)を、その才能に激しく嫉妬する宮廷作曲家のサリエリ(F・マーリー・エイブラハム)の視点で描くことで、観客が感情移入しやすくしています。

映画『タイタニック』も、今では100歳を超えるローズが、85年前の豪華客船タイタニック号沈没と、その船上で出会った主人公ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とのラブストーリーを語ることで、観客が感情移入しやすくしています。

今回の錬金術は、もちろん主人公とは別の人物に感情移入させるテクニックの紹介ではあるのですが、それほどプロの現場では、いかに観客や視聴者を感情移入させるかを考えているんだなあと感じていただき、まずは自分のシナリオに、観客や視聴者が、どれぐらい感情移入してくれるだろうかを意識してみてください。

出典:『月刊シナリオ教室』(2011年10月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は4月23日に更新予定です

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