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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『ミレニアム』に学ぶ 魅力的なヒロインの作り方

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

いとしのマイ・ヒロイン ベスト3

映画の様々な「ベスト3」を考えるのが好き。

紙とペンさえあればいつでもどこでも楽しめる安上がりの趣味だ。それも「お気に入り映画ベスト3」などというありふれたものではつまらないから、「マイ泣ける映画ベスト3(1位『野菊の墓』)」とか「美男度濃厚映画マイベスト3(1位『上海グランド』)」とかを考え「入れ替え戦」もやる。

「いい新人(新作)が出てきたので残念ながらキミは落とそう」などと上目線の態度でも、誰からも文句が出なくて良い(当たり前だ)。「入場料返せベスト3」などもやる(1位『北京原人』僅差で『青き狼~地果て海尽きるまで』)。

その中で「いとしのマイ・ヒロインベスト3」はここ10年ほどずーっと変化なし。
①デミ・ムーア ②ミッシェル・ヨー ③シガニー・ウィーバーの「ストロング美女ご三家」だ。

1位のデミは『GIジェーン』で見せた腹筋、2位のミッシェルは『皇家戦士』ほか命知らずのアクション、3位のシガニーは『エイリアン3』の宇宙飛行士エレン・丸刈り・リプリーにそれぞれ惚れたから。

ところがこのジャンルで昨年いきなりトップの座を奪おうかという女優が現れた。

スウエーデンのノオミ・ラパスがその人。

「どんな役者なの?」と聞かれても私も全然知らないのだが、とにかく『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009/スウェーデン/ニールス・アルデン・オプレヴ監督)を見れば、彼女が世界一クールなヒロインであることが直ちに分かります。私はゾッコンだ!

マイナス要素だらけのヒロイン

『ミレニアム』の舞台は現代のスウェーデン。月刊誌ジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィスト(マイケル・ニクヴィスト)は大物実業家の告発記事をめぐっての裁判で敗訴し、失意の時を過ごしていた。

そんな彼に大企業グループの元会長から調査の依頼が来る。それは40年以上も前、一族が住んでいる孤島で起きた姪の失踪事件。彼は大切にしていた姪が「一族の誰かに殺されたのではないか」という疑惑を持っていた。

高齢の彼は死ぬまでに真相を知りたいと願い、その調査を彼に託したのだった。ミカエルは、24歳の風変わりな女性調査員リスベット・サランデル(ノオミ・ラパス)に協力を依頼し困難な調査を続ける。次第に浮かびあがってきたのは想像を絶する一族の物語だった…

女性調査員リスベット…150センチ40キロという拒食症を疑うほど痩せた体、青白い肌、毒々しい化粧、無表情に相手をじっと見据える目、鼻と眉にはピアス、首にはスズメバチ、肩甲骨辺りにはドラゴンのタトゥー…

映画のヒロインとしては相当に異形、更に彼女は精神状態が不安定で反社会的な言動があり特別後見人さえ付いている。

普通のヒロイン像からすればマイナス要素だらけ、むしろ反発や嫌悪を買いそうなキャラクターだ。

しかし彼女は天才的なハッカーであり、一度見たり読んだりしたものは決して忘れない映像記憶能力を持つことも示される。ストーリーが進むにつれ、彼女の外見や性格設定が「なるほど。リスベットは絶対こういう女性でなければならなかったのだな」と分かってくる。

この映画がR2指定になった理由のひとつであるすさまじいレイプシーンと、それへの復讐場面は、ノオミ・ラパス演じるヒロイン・リスベットの体から、青い炎がすさまじい勢いで噴出してくるようで、画面を見ながら身震いが止められなかった。

福祉国家の裏の顔

スウェーデンと聞けば、「福祉国家」という言葉が思い浮かぶ。社会民主労働党政権が築いた社会保障制度が整い、低所得者層、高齢者、失業者などの弱者に優しい政策が取られているうらやましい国だ。

とはいえやはり様々な犯罪は起きる。その一つが女性に対する性暴力。「スェーデンでは女性の13%が性的パートナー以外の人物から深刻な性暴力を受けた経験がある」「性的暴行を受けた女性のうち92%が警察に被害届を出していない」・…福祉国家の裏にあるこの問題が『ミレニアム』のテーマの一つになっている。

スウェーデンの男女平等は日本など比べ物にならないほど進んでいる。

女性の国会議員は全議員の47.3%、女性閣僚は45.5%、女性の80%が働き賃金格差は少ない。こんな国で女性への性暴力犯罪が多いのは奇妙に思われるが、逆に「男女平等は男の今までの既得権への侵害」「「自分の地位を奪いかねない敵=女」と反発を募らせる男性も少なくないのだろう。

そのねじれたストレス発散のため、暴力で相手を屈服させようとする「女を憎む男たち」(原題)は、どんな社会でも悪性腫瘍のように発生する。それに立ち向かうヒロインなら、本来はデミたちのような筋骨たくましい大柄の武闘派がぴったりだと思うのだが、逆にひどく貧弱な外見を与えているところにこの映画のひねりがある。

主人公リスベットは少女のような外観なのに鋼鉄のごとき意志と狡知を秘め、男性に容赦ない制裁を加えることをためらわない。彼女こそ21世紀型新ヒロインだ。

悔しい…

この『ミレニアム』は、映画を観たあと(先でもいいが)、ぜひ原作を読んでほしい。原作は『ドラゴン・タトゥーの女』(上・下)『火と戯れる女』(同)『眠れる女と狂卓の騎士』(同)の全6冊。私も長くミステリーファンをやっているので、そう簡単に「参った」とは思わないのだけれど、この本には完全にノックアウト。

最初『ドラゴン・タトゥーの女』上下2冊だけ買って帰り、その日どうしてもやめられずに徹夜で2冊を読破、あくる朝書店の開くのを待って残りの4冊を買い、その日の予定をキャンセルしてひたすら読み続けるというハメに。
映画を見ればまた原作が読みたくなり、原作を読んでいるとスクリーンのリスベットに会いたくなる。

しかしショックなのは『ミレニアム』の原作者スティーグ・ラーソン氏がこの3部作を書き終えた直後、わずか50歳で急逝したことだ。ああ、死んだらダメじゃんスティーグ!

あと20年は書き続けて、この得がたいヒロイン、リスベット・サランデルを活躍させ成長させてほしかったのに。そして原作のリスベットが乗り移っている女優・ノオミ・ラパスはスクリーンでもっともっと活躍し、今のベスト3女傑を抜いて「マイ・ヒロイン」に確定したはずなのに。

悔しい。

※オススメ映画、いろいろあります。こちらのブログもご覧ください。
・シナリオ・センター講師が選ぶ「泣きたいときに観たい映画 おすすめ13選」はこちらからご覧ください。
・シナリオ・センター講師が選ぶ「夏オススメ ちょっと大人になれる映画」はこちらからご覧ください。

映画『ミレニアム』データ

上映時間:153分
製作年:2009年
製作国:スウェーデン
監督:ニールス・アルゼン・オプレブ
脚本:ニコライ・アーセル、ラスムス・ハイスタバーグ
配給:ギャガ

■You Tube ギャガ公式チャンネル『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』予告編より

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