シナリオ界の芥川賞”と称される「城戸賞」。
第51回城戸賞では、応募総数495篇(前回480篇)の中から準入賞3作品、佳作2作品が選出。
宮崎和彦さん(作家集団)の『かほはゆし!』が準入賞に輝きました。
宮崎さんは前回『ひらがなでさくら』で佳作を受賞されており、2年連続受賞という快挙を成し遂げられました!
受賞を記念して宮崎さんにコメントをいただきましたのでご紹介。
お読みいただくと、シナリオ・センターでの学びや、在籍されている作家集団での講師からのアドバイスを活かしながら、ご自身で真摯な努力を重ね、書き続けてこられたということがお分かりになるのではないかと思います。
「脚本家になりたい」「脚本コンクールで賞をとりたい」という方にとって、大変勉強になることを沢山お話しいただきましたので、是非参考にしてください。
準入賞『かほはゆし!』
ゼミで発表した際のアドバイスも活かして
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――2年連続受賞という快挙ですね!今回の準入賞受賞は、前回の佳作受賞とはまた違った感慨があったのではないでしょうか?
〇宮崎さん:まずは昨年の成績を上回ることができて一安心しています。今年も入賞ではないことに悔しさは感じますが、受賞を喜んでくれる方が1人でもいてくれることが幸いであり、私の物書きをする原動力にもなっています。
しかしながら、これでプロ脚本家としての未来が約束されたワケではありませんので、今年は受賞して終わりにならないようにしていきたいと思います。
――受賞作『かほはゆし!』のあらすじを教えてください。
〇宮崎さん:時は明治4年、江戸改め東京神田。明治維新で男は丁髷から散切り頭へ変わったが、女の髪型は未だに重たく不便な結髪しか許されなかった時代。半人前の女髪結いのきぬ(25)は町で出会った会津出身の士族、恭介(32)に一人娘りん(14)の髪結いを頼まれる。しかし、りんの髪の長さはワケあって短く切られいて結髪を結える長さがなく、きぬは新しくかわゆい髪型を模索することになる――。
タイトルの『かほはゆし!』は「顔映ゆし(かおはゆし)」と読み、「かわいい」の語源とも言われています。
――本作を書こうと思ったキッカケや、この作品に込めた想いを教えてください。
〇宮崎さん:今までの城戸賞に提出した作品を振り返りますと、時代劇(第44回の最終選考作品、昨年の佳作ともに昭和が舞台)で結果を残していたため、ならば今回も時代劇にしようと構想を始めました。司馬遼太郎『竜馬がゆく』『坂の上の雲』などの影響で、いつかは明治維新を書きたいという夢がありましたので、ちょうど良かったと思っています。
はじめは断髪廃刀令で右往左往する侍たちを構想していたのですが、調査するなかで「女子断髪禁止令」という単語を偶然見かけた瞬間、「御触れや世間に叩かれながらも新しい髪型を求めた女性」の方がイケると考えてすぐに方向転換しました。この手の直感は脚本を書く上で大事な感覚で、いつも私を助けてくれます。
本作は日本人が経験したことのない大変革である明治維新の中で、市井の人々が不器用ながらも必死に生き抜こうとする姿を描いた歴史秘話です。新体制を受け入れる者と受け入れられずに苦しむ者。新しい価値観を作ろうとする者とそれを攻撃する者。これらの対立は分断が進む現代にも通じるテーマだと偉そうに語ることもできそうですが、そのような問題は物語の奥底にひっそりと置いて気づかれなくても私は良いと考えていて、とにもかくにも日々の鬱憤をぶっ飛ばすエンターテインメントとして観客を楽しませたいという想いを最優先に書きました。
――どういったところに特にこだわりましたか?
〇宮崎さん:受賞インタビューのたびに言っている事ですが、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生の教えに従い、各々のキャラクターが「何を求めているのか」と「どんな恐怖を持っているか」を徹底的に突き詰めました。
主人公の女髪結いのきぬは一流の女髪結いである母親に認められず腐りかけていたときに、上京してきた恭介とその娘のりんと出会ったことで自らの使命を感じて立ち向かっていく。一方の恭介はりんを失うことを最も恐れており、自らを犠牲にしてでも娘を守るために望まぬ陰謀に身を投じていく。
ここまで書くと格好良いヒロイン&ヒーローですが、今回の登場人物たちはみんなどこかヌケている人間にしました。きぬは食い意地が悪くて高価なカステラを食べたいがために新しい髪型に取り組みますし、今の時代に馴染めない男としてクリント・イーストウッドをモデルにしたはずの恭介は世間知らずのダメ父親となって、町娘のきぬにすら田舎侍とバカにされます。しかしながら、そのようにダメな部分を入れることで人間臭いキャラクターとなり、シナリオ・センターが口酸っぱく伝える「共通性」を得ることはできたと思います。
そのキャラクター作りのために今作でも相当な調査をしました。私の場合、調査は2段階ありまして、1段階目が展開と世界観を構築するための「ネタ集め」であり、髪型、髪結いの仕事内容、時代背景などがそれにあたります。
そして2段階目として「キャラクター作り」をするための調査を行います。今回は特に元会津藩の武士である恭介を創作するにあたり、会津戦争、会津若松城での武家の女たちの自刃、会津藩の剣術などを何度も調べて推敲を重ねた末に、庶民には強気だが武士としての覚悟がない情けない男ではあるが、娘の命を守るために武家の暗黙の掟を破らせる反骨心も持ち合わせた強くて優しい父親の面も持っている逸見恭介というキャラクターが出来上がりました。
――今回、シナリオ・センターでの学びが活きたと感じられたことがございましたら是非お聞かせください。
〇宮崎さん:ゼミで本作を発表した際、新井巌先生から「明治維新で変わったこと」を全体に散りばめた方が良いとアドバイスをいただきまして、「苗字にまつわるネタ」を加えました。
明治3年9月の「平民苗字許可令」により町人たちにも苗字が許されていたため、はじめは登場人物の全員に苗字をつけていましたが、実際は納税を恐れて無視した町人が多かったようで、主人公の弟が「武士になりたいがために急いで苗字を付ける」というエピソードを新しく作りました。これによって彼のキャラクターがより膨らんだと思います。
また、20年前に「シナリオの基礎技術」を読んだ際にテクニックとして紹介され、いつかやりたいと思っていた「カットバック法」を今作では効果的に使えたと思います。
――最後に、城戸賞など脚本コンクールで受賞を目指す方々にメッセージを。
〇宮崎さん:夢を叶えるために本気になっている方へ。この手の創作活動をやっていると何かとバカにしてくる連中がどこにでもいますが、どんなにバカにされても絶対に書き続けてください。夢にたどり着いたときは、「ざまぁみろ!ざまぁみろ!ざまぁみろ!」(アニメ『宇宙よりも遠い場所』より)と一緒に叫びましょう。
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※これまでもシナリオ・センターの生徒さん・出身生の方々が城戸賞で受賞されています↓
▼“いつか”と言わず、“今”、書く/第50回城戸賞 佳作受賞 宮崎和彦さん
▼脚本コンクール挑戦中のかた必読!受賞者に学ぶ/第49回城戸賞 準入賞受賞 長濱亮祐さん、佳作受賞 キイダタオ さん
▼自分の想い・仕事・経験を物語にするとき/第48回城戸賞受賞 竹上雄介さん・島田悠子さん
▼【物語を作る事が好きな方注目】第47回城戸賞佳作受賞 島田悠子さん
▼自分の作品を人に見せる 勇気/第46回城戸賞 準入賞受賞 島田悠子さん
▼妄想から物語を作る/第45回城戸賞 佳作受賞 弥重早希子さん
※「脚本コンクールに出したい!」という方はこちらの記事も併せて↓
▼主なシナリオ公募コンクール・脚本賞一覧
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