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妄想から物語 を作る/第45回城戸賞 佳作受賞 弥重早希子さん

――今回ご紹介するのは“シナリオ界の芥川賞”と称される城戸賞を受賞された出身生のコメントです。
脚本コンクールで賞をとりたいかたは、「そんなすごい賞を受賞されたかたってどんな人なんだろう?」「どんな風に書かれたんだろう?」と気になるのではないでしょうか?受賞作だけでなく、受賞者のコメントも、次回応募する際のヒントになります。是非参考にしてください――

昨年2019年度 第45回城戸賞の応募脚本は421篇。
グランプリにあたる入選は該当作なし。準入賞は1篇(元通信本科 町田一則さんの『黄昏の虹』)、佳作は3篇。佳作を受賞された3篇のうちの1篇が元大阪作家集団 弥重早希子さんの『邪魔者は、去れ』。

弥重さんによると、この受賞作は【「バッシングに遭う主婦がその注目を楽しみだしたら?」。そんな不謹慎な妄想からスタートした企画】なんだとか。

皆さんも妄想から物語を作ろうとしたご経験があるのでは?弥重さんには今回、妄想からどうやって1つの物語に仕上げていったのか、をお話しいただいているので、ご自分のやり方との違いや共通点を考えてみるのも良い勉強になるのでは?

また弥重さんは、この妄想から自分自身が昔からどんなことに興味を抱きやすいのか、ということもご自身で分析されています。こうやって“深く考える” という姿勢も脚本家としては大切ですよね。今回ご紹介する弥重さんのコメントをお読みいただき、自分が何に興味をもちやすいのか分析されてみるのもいいのではないでしょうか?あなたが次回書く作品に良い影響があるかもしれませんよ。

なお、『月刊シナリオ教室2020年5月号』(4月末発行予定)に、弥重さんのロングインタビューと受賞作のシナリオが掲載されます。こちらの記事と併せてご覧ください。

“自分が生活してるレベルでの違和感みたいなものをぶち込んでみたら、こんな物語になりました”

――第45回城戸賞 佳作を受賞されて

〇弥重さん:少しずつではありますが、プロデューサーの方からお声がけをいただき、企画開発に携わることができ始めています。

「仕事」に直結している実感は正直、全然ありませんが、他人と企画などの話をする機会が増えたことはとても楽しいです。これまでは、基本的には1人で書いていたので。

根拠のない自信だけでなんとか続けてきましたが、城戸賞佳作という結果は、ちょっと勇気が欲しい時に、自信を貸してくれる根拠になりつつあるようにも思います。

――受賞作『邪魔者は、去れ』。書こうと思ったキッカケは何ですか?

〇弥重さん:「バッシングに遭う主婦がその注目を楽しみだしたら?」。そんな不謹慎な妄想からスタートした企画だと思います。

みんなが悲しい時に、なんでか自分だけは不謹慎なことを考えていたり。みんなが怒っている時に自分は冷静だったり。あるいは逆に、みんなが良かれと思ってやっていることにイラっとしたり。そんなことが、毎日生活している中でたくさんあります。

「生きづらさ」とかいうほど深刻な毎日ではなく、まぁまぁ気楽に暮らしていますが、なんていうか、自分が生活してるレベルでの違和感みたいなものをぶち込んでみたら、こんな物語になった、という言い方が近い気がします。

大学入試の時、小論文を書かなければいけなかったのですが、その時のテーマが「自己責任」でした。当時はちょうど高遠菜穂子さんらが拘束されたニュースがあってから日が浅く、自己責任という言葉が世に出回り始めた頃だったと思います。思えば、あの頃から理由は分かりませんが、その辺りのことに興味があったんだと思います。

まあそんな経緯で、言い出せばきりがないのですが、とにかくベースにあったのは、自分が生活している中で肌に触れて来る「実感」だったと思っています。作中のセリフやエピソードにもかなり生ネタを突っ込んだ方だと思います。

“今回の応募総数は421本。私の番号は420番”

――『邪魔者は、去れ』はどんな想いで書かれたのですか?執筆エピソードを是非教えてください。

〇弥重さん:執筆エピソードとしては、とても苦しかったな、というのが本音です。なんていうか、自分のイヤなところをたくさん見てしまったという感じです。

最初は、勝負をしよう、良いのを書こう、書ける、と意気揚々と書き始めました。バイトも辞めて、7月8月の2ヶ月間は、毎日、脚本を書いていましたが、いざ始めると、なかなか思うように書けませんでした。

私は「泣きながらご飯を食べる」というシーンが好きで、自分の作品の中にも時折そんなシーンをぶち込んでみることがあったのですが、このシナリオを書いている時、初めて、実生活で泣きながらビールと餃子を食べました。

初稿を書き終わったけれど、全く満足いかず、しかも長くて。もうどうしようもないけど息抜きしようと入ったラーメン屋で「なんでいっつもここって時にうまくいかへんのやろ」と一緒にいた恋人に漏らした瞬間に、涙がボロボロ出てきました。恥ずかしくてしょうがなかったのですが、涙が止まらず、鼻水も止まらず。そんな中、店のおばちゃんは、いつもと変わらぬ顔で、焼きたての餃子とティッシュの箱を運んで来てくれました。

ああ、こんな感じなのか。泣きながら飯を食うということは、とあの時、初めて知りました。それで泣いてしまうと案外にスッキリしたのか、翌日からは、また脚本を書き続けました。

が、それでもうまくいかず、応援してくれる人に八つ当たりしたり、ダサい泣きつき方をしたり、本当に自分の気持ち悪い部分が、これでもかってくらい溢れ出て来てしまい、それでも脚本の方はイマイチ進まないし、もう毎日、本当にイヤになっていました。

もう無理。きっと城戸賞なんか取れへん。これが終ったら脚本辞めよう。そこまで落ちていたと思います。あの時は。

そんな締め切り2時間前。もしかしたら、主人公の美奈子もそんな気持ちなのかもしれない、と思いました。なにをやってもうまくいかない。失敗ばかりで気持ち悪くてダサい。それでも「また歩き出せる力を、私は信じたい」。こういうやり方、本来よくないかもしれないですが、最後のセリフは、多分、自分に向けて書いたんだと思います。

蛇足ですが、なんとか書き上げて、プリントアウトしようとした瞬間に、自宅のプリンターが壊れました。このプリンターの元の持ち主は、もう今はこの世にいませんが、この世の人間とは思えないほどに意地悪でクセの強い私のおじいちゃんで、こんな時にまで、あの意地悪さが健在なのか、と思ってる余裕もなく。徹夜続きでろくに風呂にも入ってませんでしたが、とにかく日本橋のキンコーズに走りました。

なんとかプリントアウトできた!急ごう!と思って会計を待っていると、ニコニコしたお姉さんが、今日はくじ引きをやっています、と言い出しました。今そんなもん引いてる時間はない!と伝えてみましたが、お姉さんは案外に物わかりが悪く、困った顔をしたので、とりあえず引いてしまえ、と思って、ガラガラを引きました。すると、一等賞でした。

お姉さんはびっくりして、倉庫にあるから待ってて下さいと、賞品の山形ラーメンセットを取りに行きました。

この時点で3時50分。締め切りの4時まで10分です。バタバタとラーメンセットを受け取って勢いよく、店の外に出ましたが、ハッとしました。映連の場所が分からないのです。東京の道の名前に不慣れな私は、もう無理かと思いました。

今回の応募総数は421本ということでしたが、私の番号は420番でした。あとは野となれ山となれ、という気持ちで、ベローチェでオレンジジュースを一気に飲んで、家に帰りました。

とにかく、いろいろなことがギリギリで、訳の分からない。そんな執筆体験でした。

“とにかく作品に集中”

――今回の作品限らず、シナリオをご執筆される際、いつも意識していることはありますか?

〇弥重さん:意識というのとは違うかもしれませんが、毎回、初稿に入る度、「書けなくなってたらどうしよう」と思います。

スラスラ流れるように書きたいのが本当ですが、プロットやラフ作業をはさみ、久しくシナリオを書いていないと、なんだかいつも「あれ、どうやって書くんやっけ? セリフとか出るかな?」と思ってしまいます。

そんな不安をよけるためにも、とにかく作品に集中するということを心がけていると思います。

あと、書いた後に、セリフは極力、声に出して読むようにしています。

――シナリオ・センターには、コンクールでの受賞を目指している生徒さんが沢山いらっしゃいます。その方々に向けてひとことメッセージをお願いいたします。

〇弥重さん:私もまだまだこれからなので、メッセージとかは言えませんが、今回私は、結構ダメだと思いながら書きました。

だから結果は、出てみないと分からないなと思ったのが正直なところです。そういう結果と向き合いながらも、やりたいことをやりたいようにやりまくろうと私は今のところ思ってます。自分で決めるのが1番苦しいけど大切なことだと思います。

※このほか、脚本コンクールいろいろあります。こちらのブログ「主なシナリオ公募コンクール・脚本賞一覧」で、どんなコンクールがあるのかチェックしてみてください!

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