これまでシナリオ・センターが開催してきた「3行ストーリー大賞」と「トップシーン脚本大賞」。
今回は、創立55周年記念企画としてこの2つのコンクールをドッキング!
題して「企画のたまご大賞2025 ~3行ストーリー+トップシーンで唸らせる~」。
先日、結果発表会をライブ配信で実施し、応募総数165本の中から、
★優秀賞:『雨は上から降るらしい』梅野きいろさん
★柏田道夫賞:『カラスの巣』佐川幸太郎さん
★はぎわらちゃん賞:『海も青、空も青』北川由美子さん
――が決定。
結果発表会には、(写真左から)企画・司会進行役のシナリオ・センター代表 新井と、企画・審査委員長の柏田道夫講師、審査員の萩原恵礼さん(出身ライター・柏田クラスOG・『月刊シナリオ教室』編集部)が出席。
その中で特に印象的だったコメントと受賞作品の講評を広報の齋藤がリポート致します。
特に、コンクールに挑戦しようと思っている方は、今回ご紹介する以下2点
・お題がある場合は、お題に沿った作品を!
・SF・ファンタジー系の作品で挑戦してみては!
――といった部分に注目して是非お読みください。
お題がある場合は、お題に沿った作品を!
*
〇萩原さん:今回は、すごく面白い作品なのにお題の「空or海」に沿っていない、というケースが結構ありました。「お題がある」ということを見落としてしまったのかな?
でしたら、シナリオS1グランプリ(以下「S1」)のときも何度も申し上げているのですが、応募要項は必ず確認してください。
あと、もう1つ考えられるのが、既に考えていた話をベースにされたのかなと。
これは他のコンクールでも起こる場合があると思うのですが、例えばコンクールのお題が「家族」だとします。そのときに、「いま自分が書こうとしている作品は、家族をテーマにした内容ではないけど、でも、家族の物語と言えなくもないから、これを少しアレンジして出しちゃおう!」というケース。
〇新井:「主人公の家族も登場するし、ホームドラマと言えなくもないよね」みたいなね。
〇萩原さん:はい。でもやっぱり、お題があるときは「既存の作品を無理にお題に寄せていく」というよりも、「そのお題から内容を考えていく」というのが望ましいんじゃないかな、と思うんですけど、先生どうですか?
〇柏田講師:そうね、お題をうまく使ったほうがね。そこを審査員は見るわけだからね。今回でいえば、「海」じゃないと成り立たない話、もしくは、「空」じゃないと成り立たない話を書いてほしかった。
〇新井:ちょこっと海や空が出てくればいい、というわけではないですからね。
〇萩原さん:ただ本当に今回は、お題に沿ってはいないけど秀逸な設定の作品が多かったので、ぜひブラッシュアップして、完成させて、他のコンクールに出してみてください!
受賞3作品の講評
「SF・ファンタジー系の作品で挑戦してみては!」
*
★優秀賞は梅野きいろさん『雨は上から降るらしい』
【3行ストーリー】
シェルターに投影された雲が流れていく。発明好きのゲン少年は、祖父母の時代に「空」と呼ばれていたものを実際に見ようと四苦八苦していた。レーザーガンも、原子投石器もダメだった。
【トップシーン】
〇ガレージ
工具や材料が溢れている。金属板にレーザーを当てるゲン(15)。板を支えるゴウ(15)。
ゴウ「都市伝説だろ」
ゲン、フェイスシールドをあげる。
ゲン「じっちゃんは見たことあるって、本物の空」
ゴウ「けど」
ゲン「雨は、予告もなく、上から降ってくるって」
ゲン、フェイスシールドを下げる。
【講評】
〇柏田講師:SF設定。空を見たことがない15歳の少年が、なんとしてでも空を見ようとする作品。で、タイトルが『雨は上から降るらしい』。いいよねえ!
〇萩原さん:作者の梅野さんは、「第3回 3行ストーリー大賞2023」のときに『箪笥の香り』という作品をわたくし選出させていただきました。
〇新井:あ!チャット欄に梅野さんから「こちらに全集中で、今回のS1出せなかったので、うれしいです!」とコメントいただきました!
〇萩原さん:S1には出せなかったけど、このアイデアを広げて1本の作品にして、コンクールに出してみてくださいね!
〇新井:よく「SFとかファンタジーだとコンクールに通らないのでは?」と心配されている方がいるっていう話を聞くんですけど、どうなんだろう?
〇萩原さん:むしろ、そのほうが自分の“色”を発揮できるからいいんじゃないかな、と思うんですけどね。
〇柏田講師:今回はファンタジー系の作品がいっぱいあったよね。どの作品もなかなか良かった!
〇柏田講師:だから、これをうまく1本の作品に仕上げてコンクールに挑戦してみるのもいいんじゃない?例えば受賞して映像化するにしても、今なら色々な技術もあるし低予算でもできるはずだから。
〇萩原さん:もし、「コンクールに出す作品は身近な人の話を書かなきゃいけないんじゃないか」と考えているなら、ちょっとその“枠”を外して、ファンタジー系に挑戦してみると、世界観とか作風とかセリフとか設定といったところで自分の個性を出せるんじゃないかな、と思います。
★柏田道夫賞は佐川幸太郎さん『カラスの巣』
【3行ストーリー】
某国軍の遺伝子操作実験で全長6メートルに巨大化したつがいのカラスがタワーマンション最上階に巣を作る。知性も優れたカラスに元自衛官の警備員が立ち向かう。
【トップシーン】
〇タワーマンション・外観
〇同・最上階のリビング・中
富裕層に属する30代くらいの男と6歳ぐらいの息子が
FIX窓から階下を見下ろしている。
富裕層の男「いいか! あそこに見える奴らになっちゃいけないぞ!」
息子「うん……ところであれ、なあに?」
前方から黒い点の様な物が二つ来る。
【講評】
〇柏田講師:タワマンの最上階に住んでいるっていうのはステイタスの象徴のようなところがあるじゃない。下の階から襲われるんじゃなくて、そういう所に住んでいる人たちから襲われちゃうというのがね、そういうシーンから始まっているのもいいなと思って。
〇萩原さん:不穏な感じが出てていいですよね。
〇新井:トップシーンで主人公を出さないで、このシーンから始める、というのがね!
〇柏田講師:カラスは本当に頭がいいからね。このアイデアから“パニックもの”に仕上げることができれば面白そうな映画になるんじゃないかなと思います。
★はぎわらちゃん賞は北川由美子さん『海も青、空も青』
【3行ストーリー】
英雄(55)は、息子の康太(22)が漁師を継がず、役人になる事に寂しさを覚えていたが、康太は父の安全を守る為、海上保安庁で灯台の管理をする道を選んだのだった。
【トップシーン】
〇港(朝)
帰港する漁船で活気がある。
沖から、大漁旗を掲げた小さな漁船が帰港し、
汚れたビブパンツ、長靴姿の英雄(55)が下船する。
英雄は、他の漁船から、父子らしき漁師が協力しながら
魚を下している様子をじっと見つめる。
英雄の前に、ブリーフケースを持ったスーツ姿の康太(22)が現れる。
【講評】
〇萩原さん:作者の北川さんはなんと、「第1回 3行ストーリー大賞 2021」では『ふくら雀、死んだ』という作品で優秀賞を、「第3回 3行ストーリー大賞2023」では『人形命与命被与(ひとがたにいのちあたうもあたえられるも)』という作品で優秀賞を受賞されています。
〇新井:やっぱりね、チカラがある方は何度でも受賞されますからね。
〇柏田講師:タイトルの『海も青、空も青』もシンプルでいいしね、アイデアもいいよね。
〇萩原:これはもう“設定勝ち”だなと。漁師のお父さんとお役人の息子。もっと言えば、叩き上げのお父さんとエリートの息子。明らかに違う世界観。敵対しそうだし、人間ドラマが展開される感じがしますよね。
それに、この物語は絶対に「海」で展開されますからね。「海」でないと描けない。今回のお題に“文句なし!”にハマる作品です!
* * *
お読みいただいた方の中には、「募集要項をよく読んだけど見落としてしまった……」という経験をされた方や、「SFやファンタジー系の作品を書きたいけどコンクールには通らないよね……」と悩まれていた方もいらっしゃるのでは?今回ご紹介した審査員コメントを、コンクールに出すときの参考にしていただければ!と思います。
来年は「3行ストーリー大賞」として開催するのか、「トップシーン脚本大賞」として開催するのか、はたまた「企画のたまご大賞」として開催するのか、未定ではありますが、何らかの形で開催したいと思っていますので、その際は是非ご応募いただければと思います。
※「企画のたまご大賞2025 ~3行ストーリー+トップシーンで唸らせる~」結果発表会全編はこちらの動画をご覧ください。
「シナリオは、だれでもうまくなれます」
「基礎さえしっかりしていれば、いま書いているライターぐらいには到達することは可能です」と、新井一は言っています。
“最初の一歩”として、各講座に向けた体験ワークショップもオススメです。
※シナリオ作家養成講座とシナリオ8週間講座は、オンライン受講も可能です。
詳しくは講座のページへ