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物語の中で漫才シーンや歌うシーンを描くとき
第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞より

漫才や歌うシーンを描く時/第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞より

第24回テレビ朝日新人シナリオ大賞。応募総数957篇(前回は1023篇)。募集テーマは昨年と同じ「ラブストーリー」。

第1次選考は日本脚本家連盟に所属する脚本家によって行われ、176篇が通過。第2次・3次選考は、テレビ朝日のプロデューサーやディレクターなどで構成された社内選考委員会によって審査が行われ、第3次選考で9篇に。最終選考会では、選考委員の井上由美子さん、岡田惠和さん、両沢和幸さんの3氏によって、大賞1篇・優秀賞2篇が決定。

田中徳恵さん(元研修科)の『令和にお見合いしてみたら』と、奈良さわさん(作家集団)の『レンタルくず』が優秀賞を受賞。先日開催された授賞式でのコメントをご紹介。

また、その授賞式での講評の場で、選考委員お三方が口を揃えて仰っていたことがありました。

それは、「漫才で大爆笑をとった」というシーンや「素晴らしい歌を歌った」というシーンを描くとき、ハードルは高いとは思うが、できればその“面白い漫才ネタ”や“驚くような歌詞”を書いてほしかった、ということ。

これは難しいことだとは思いますが、でも、こういうことを審査員は求めています。この他にも、今後コンクールに作品を出す上で参考になることを沢山仰っていましたので、まずは選考委員お三方の講評からお伝えいたします。<広報・齋藤>

両沢和幸さん
「“面白いネタ”のシーンや“すごくいい歌”のシーンをどうするか」

*

〇両沢さん:大賞の『推さないでくれませんか?』は“極限社畜”の女性が、推しのお笑い芸人と出会い、彼にもう一度お笑いでひと花咲かせてほしいと仕事探しを止めさせ、自分の家で養って励ますというお話。

ラブストーリーという題材だと、あの手この手とか、いろんな人を出したりする作品がわりと多いんですが、この作品は「恋愛する2人」に絞って書かれていました。2人の心情と、その心情の変化を書き切る、というのは難しいのですが、それこそがラブストーリーの王道だと思っています。それをちゃんと貫いているところがすごくいいと思いました。

ただ、今までにも応募作に「お笑い芸人さんの話」はあるのですが、この手の作品で一番問題なのは「芸をするシーンをどう描くか」ということ。

要は、シナリオに「すごくウケた」「大爆笑」と書いてあっても、その芸が面白いかどうかを、描くべきか、省略すべきか、という問題がいつもあると思うんですね。

実際、お客さんを笑わせるように書くにはかなり腕がいる。でも本当はそこで、すごく面白いネタを書いてほしかった、というのが選考会で出た話でございます。

でもそれはすごくハードルの高いことなので。この部分にもう一工夫あったら、この作品はもっと素晴らしくなったんじゃないかなと思いますが、非常に楽しんで読めましたし、うまくキャスティングして映像化すれば面白いラブストーリーになると思いました。

優秀賞の『令話にお見合いしてみたら』は、タイパ重視の女性がお見合いをする話。タイパというのは 「タイムパフォーマンス(時間対効果)」のこと。特に若い方は「時間の効率の良い生き方をしたい」と考える人が多いようで。

だからこの設定はすごく今風であるし、非常に面白く展開していくのですが、ちょっと苦言を呈すると、タイパ重視のヒロインがちょっと嫌な女の人に見える瞬間があって。いや、最後まで観れば好感をもてるようにはなっているのですが、テレビドラマは最初の5分か10分でチャンネルを変える人もいるので、やはりそういうことを考えながら書くことも必要なんじゃないかなと個人的に思いました。

同じく優秀賞の『レンタルくず』はレンタル彼氏の話。非常に書き慣れているなという感じがして、大変面白く読ませていただきました。

ただ『レンタル彼氏』とか『レンタル彼女』とか『レンタル家族』みたいなのは割とよく書かれているものではあるんですよね。

また、このクズのレンタル彼氏がバンドマンなんですけど、バンドマンがクズな男の代表になっているような。どうなんでしょうね、やっぱり未だにそうなのかな(笑)。

最後まで観ると、このバンドマンの彼はそんなに悪い奴じゃないことが分かって「ああなるほどね」となるのですが、ただ、何か新しいバンドマン像みたいなものを実はちょっと観てみたいなというのがあって。まあ、欲張りな欲求ではあるのですが。

それから、『推さないでくれませんか?』の「お笑いネタ」のこととちょっと似ているんですが、この作品では彼がオリジナルの曲を書くんですね。もし映像化するなら実際に歌うことになると思うんです。で、それが「すごくいい歌」なら一番いいんですよね。ハードルが高いことではあるんですが、例えば、アッと驚く歌詞が出てきていたら、さらに面白い作品になったんじゃないかなと思いました。

最後に今回の審査の総評を。「ラブストーリー」というと、美しく楽しく淡い物語というのが実は圧倒的に多いのですが、実際の恋愛はそんなことばかりではなくて、結構ドロドロしていたり、切なかったり、激しかったりするものもあるはず。そういった何かハッとするような瞬間を描いているドラマも、できれば観たかったなというのが全体的に言える個人的な感想です。

岡田惠和さん
「ドラマ上で“何かを作る・編み出す”というのを見せるのは難しい」

*

〇岡田さん:毎回テーマを決めて募集すると、いま モノを書きたいと思っている人たちがどんな嗜好性なのか、どんなムードなのか、ということが分かって個人的にも勉強になります。

今回「ラブストーリー」というテーマで、みんながあんまりそんなに恋愛に積極的じゃないんだな、ということがほとんどの応募作から感じました。それから、“Boy Meets Love”みたいなことではなく、何かキッカケがないと恋愛は始まらないんだな、という感じや、人生における恋愛のプライオリティみたいなものが分かってすごく面白かったです。

選考の中でも、楽しく読めた3本が残って個人的にも嬉しく思っております。

『推さないでくれませんか?』は、すごく全体的に駆け抜けた感があって、結構強引なハッピーエンドも非常に良いなと思いましたし、ちょっと泣きました。何かを諦めるというラストが爽快感になっていて、そこはちょっと理知的だなと思いました。

両沢先生も仰いましたが、「彼女がお笑いの彼のために考えたネタが実は一番面白い」というせっかく大きなプロットポイントがあるので、そこは“オフ”にするのはちょっと勿体ないけど、でもひょっとすると自分もそうしたかもしれないという気持ちもあります(笑)。

『レンタルくず』もそうですけど、ドラマ上で「何かを作る」とか「表現するものを編み出す」というのを見せるのは非常に難しい。これからたぶんいっぱい苦労してください(笑)。

『令話にお見合いしてみたら』も面白く読めました。面白いホンを読むと自分だったらどうするかなと考えたりするんですけど、いまこの時代にヒロインが結婚することにあまり迷いがない、というのが面白いなと思いました。

女性がものすごく強くはっきりとした主張みたいなものがあるので、観ていて爽快感があるんですけど、これはプロの作品でもそうなのですが、ヒロインの女性がこれだけ魅力的だと、相手の男がボンヤリするという傾向があって。

結婚しなかったほうの男性を「コイツないわ」という描写にしているけど、「非の打ちどころがない」みたいな感じにすると、ヒロインの“選択”がもうちょっと盛り上がるんじゃないかなと、ちょっと思いました。でも本当に読後感もよくて、とても書ける人だと思います。

『レンタルくず』は「クズを雇うことで普通の恋愛の尊さを知ろうじゃないか」という、この“発明”が非常に面白くできていて、クズにどんどん惹き込まれていくというか、引っ張られていく感じもとてもうまく書けていて面白かったです。

ただ、昔の高校時代の恋愛のトラウマみたいなことが、ちょっとだけ上手く消化できていない感じがあって、ちょっと惜しいなと思いました。でも最後のシーンはとても良かったです。

これもまた両沢先生が仰いましたが、やっぱり「歌で感動する」というシーンはハードル高いですよ。でも、『レンタルくず』は、そこを頑張って、「こういう歌詞の歌なんだ」ということを書いているのは頑張ったなと思いました。

本当に今回は3名ともすごく即戦力というか、ドラマを書ける人たちが集まったと思います。いまドラマは放送するものだけじゃなくて配信とか“数”が増えているので一緒に頑張りましょう。

井上由美子さん
「コンクールという“自由な場”ならではのチャレンジングな作品も読んでみたい」

※当日はご欠席のため司会者が代読されました。

〇井上さん:今年も1000本近い作品が集まりました。現在は地上波テレビドラマ以外のエンタテインメントも多数あります。にもかかわらず、20年以上変わらず力作シナリオが集まるのは第2回受賞の古沢良太さんや第8回受賞の小峯裕之さんの活躍と、主催のテレビ朝日が時代に合わせて応募のスタイルを試行錯誤してきた成果だと思っております。

厳しい選考を勝ち抜いた3人の作品は、ラブストーリーというテーマを自分に引き寄せ、多くの人を楽しませる作品を生み出そうとする意欲を感じました。

最終審査に残った他の作品も、構成やセリフが確かで、技術的なレベルの高さが目立ちました。ただ一方で、コンクールという自由な場ならではのチャレンジングな作品も読んでみたいという願いも抱きました。

ハートウォーミングな作品も強い印象を残す個性的な作品も両方ある。そんな贅沢なコンクールでありたいと思いながら審査をしております。

大賞の『推さないでくれませんか?』は、ここ数年ドラマで取り上げられる機会が増え、応募作にも多い「推し活」が題材。読み始めたときは「また推し活か」と思いましたが、推される側の心情を丁寧に描くことで、新しい切り口を獲得し、他の推し活ドラマとは一線を画していました。

死んでしまいそうだった主人公が、推しを応援して元気を取り戻す一方、応援された芸人が推されることに甘えて堕落する様子がリアルでおかしみがありました。

主人公と芸人が「推し活」という形式的な行為から卒業し、夢を諦めながらも一歩踏み出すラストは通り一遍のハッピーエンドではなく、応援したくなる爽やかな結末でした。

残念だったのは、シナリオの中でお笑いのネタが具体的に書かれていなかったことです。どこかワンシーンでも、オチまで書かれたネタがあり、それに二人の関係が投影されていれば、より重層的で説得力が出たのではないかと思いました。

『レンタルくず』は素晴らしい彼氏ではなく、くずをレンタルすることで、過去に縛られていた主人公が現実の恋を知るという設定に新鮮さがありました。

主人公がクズに振り回される様子は微笑ましく、現れた元カレの方が実はくずだったという視点もひねりが効いていました。個人的にはレンタルくずのクズっぷりがもっと振り切れて許せないレベルまでいくとさらに個性的な作品になったのではないかと思いました。

『令和にお見合いしてみたら』はタイパを重要視するヒロインがお見合いで結婚相手を見つけようと奮闘する物語です。

こう書くとありがちな設定に聞こえるかもしれませんが、主人公のキャラクター描写に迷いがなく、セリフのナチュラルさが秀でており、私はこの作品に一番高い点を付けました。構成もスムーズで無駄な描写を省略できる思い切りもありました。

シナリオは限られた枚数の中で伝えなければならない、という制限があるので大事な資質だと思います。

ただ、タイパという概念が、半年後でも観る人に刺さるかどうかはわかりません。推し活やレンタルもそうですが、その時に話題になっている時事ネタを題材にする難しさも感じました。

3本ともすぐに映像にできるシナリオであり、3人は即戦力になる可能性を持った方だと思います。

優秀賞 受賞コメント

★田中徳恵さん『令和にお見合いしてみたら』

〇田中さん:この度はこのような大きな賞に、私の応募作を選んでいただきまして、誠にありがとうございます。

ただ、脚本はやっぱり、映像化されて本当に完成するものだなあと思いまして、この応募作を読んで撮りたいなと思ってくださる監督はいらっしゃるのかな、演じたいと思ってくださる俳優さんはいらっしゃるのかな、時間を割いて観てくださる視聴者の方はどれくらいいらっしゃるのかな、と思いながら応募作を読み直してみたところ、直したいところがたくさん見つかって困ってしまいました。

今回大変だったというか後悔しているのは、やっぱり選考委員の先生方からご指摘があったような、結局、ヒロインが結婚しなかった相手の描写が若干典型的な感じになっていたりとか、ヒロインに比べたら相手の男性の見せ場がちょっと少なかった、ということをとても反省しています。

昨日よりも今日はもっと面白いものを書こうって強く思いました。

★奈良さわさん『レンタルくず』

〇奈良さん:私は生粋のテレビっ子。テレビが好きで、ドラマが好きで、音楽が好きで、バンドが好きで。そのたくさんの愛を込めた作品が評価されたということがとても嬉しいです。

私はいつも書き出すのが遅くて、締め切り間際にお尻に火がついてわあっと書くという感じなのですが、それでも今回はちょっと、自分の中ではなかなかノッて書けたので、お尻に火がつくとこんなに走れるもんだなと思いました。

本当にこれまで諦め悪く長々と書き続けてきてよかったなと。そして、まだまだ諦め悪く書き続けていきたいと思います。

*     *     *

 

次回の第25回テレビ朝日新人シナリオ大賞に応募される際、また、その他のコンクールに応募される際も、今回ご紹介したコメントを是非思い出していただければと思います!

また、これまでの「テレビ朝日新人シナリオ大賞」授賞式の模様&講評も是非参考にしてください。

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