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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

理解

ハツコイハツネ(集英社文庫)

好み

シナリオ・センター代表の小林です。お彼岸に父へお供えしたおはぎを仏壇からそっとおろして、挨拶もせず今朝の朝ご飯代わりにいただいちゃいました。
父は亡くなる寸前までお汁粉を食べていた人ですから、推して知るべしで、あんこ系なら何でも好きです。特にこし餡が好き、高級な虎屋の羊羹よりも、大福やおはぎみたいな庶民的なものが好きでした。
「これが好き!」ってわかってもらえていると亡くなってもちゃんと好きなものがお供えされます。ちなみに母は日本酒です。
義父は、とても温和な人で、自分の好みも主張しませんでした。お酒も飲みませんし、かといって父のようにお菓子が好きでもなく、何がお好きだったのか・・・。
今更ながら、連れ合いに「お義父さんの好きな食べ物ってなんだった?」と訊いたら「何が好きだったんだろう」と?で終わりました。
好みは主張しておいた方がいい気がします。
あ、お供えしてもらえる、もらえないというだけではありません。(笑)
苺好き、お豆好き、お稲荷さん好き、漬物好き、コーヒー好き、チョコレート好き、無花果好きとかわかっていると、買い物の折り、ふと「あ、これAちゃん好きだよね」と顔が浮かび、買いたくなります。
私に好みを教えておくと得しますよ~。
自分の好みと違ったとしても、好みから他人と繋がることができるって、いい感じがしませんか。
人の好みって、その方の人となりが出たり、また意外性が出たり、キャラクターが出たり・・・。
その人を知る手掛かりにもなりますしね。

彼岸過ぎの朝、仏壇のおはぎを食べながらこんなこと考えていました。

ハツコイハツネ

出身ライターの持地佑季子さんの新刊が出ました。
「ハツコイハツネ」(集英社文庫刊)
切ないとてもやさしいラブファンタジーです。
脚本家でもある持地さんが小説家デビューされたのは「クジラは歌をうたう」(2018年)でした。
ミステリーラブファンタジーというのかなぁ、ま、ジャンルに分ける必要もないのですが、映像で観たいと思わせる映像が浮かぶ心躍る小説でした。
そして、この新作もまた、映像で観たいと思わせる、絵が浮かぶだけでなく、音も聴こえる小説です。

コーヒーショップの店員に思わず声をかけてしまった亮介。
彼女は8年前急に転校してしまった中学の同級生香澄でした。
ピアニストを目指していた亮介に「素敵な音を出すのね」と声をかけてくれた転校生の香澄ですが、仲良くなった彼女のためだけにピアノのコンサートを開くまでしたのに、突然姿を消してしまうのです。
8年後、運命(?)の出会いを果たした二人は、再び付き合い始めるのですが、香澄には「人の感情が音として聞こえる」という特殊な体質で、それが故に二人の恋は様々に揺れ動いていきます。

人の心がわかるって、ちょっと便利なような気がしますが、とんでもないことなのですね。
心の声が聞こえてしまうと、通りがかりの知らない人の心の悲鳴まで聞こえてしまう、そのつらさが香澄と亮介の間に立ちふさがって物語は進んでいきます。
音が聞こえてしまう人と音を奏でる二人の出会い、相反する人のぶつかり合い、過去と現在を行き来しながら進んでいく構成が見事で、引き込まれていきます。
また、シャレードの使い方が絶妙で、さすが脚本家と思わずにやり。
ずんずん引き込まれ二人のつらさ、悲しさを共有させられてしまいました。
映像にしたい、音と絵が相俟って、ゼッタイ素敵な映画になると思います。

人の心がわかってしまったら、どうなるのでしょう。
人間ドラマが生まれるのも、人は皆違い、わからないからですものね。
わからないからこそ、葛藤をしたり、対立するわけです。
人間は、お互いをわからないからこそ生きていけるのかもしれません。

脚本家と小説家の2足のわらじは、こういうとても素敵なお話しを生み出します。
見えるものしか描くことのできない脚本家は、小説を見えるように描けるのです。

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