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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

私たちは

私たちはどこで間違えてしまったんだろう(双葉社刊)

春遠からじ

シナリオ・センター代表の小林です。昨日の日曜日、東京は春めいてとても穏やかな1日でした。
私は神楽坂まで散歩に出かけ、久方ぶりに1万歩近く歩きました。コートを着ていると汗ばむほどで、帰って来てセーターの背中をみたら汗で色が変わっていたほど。
今日は東京も寒さがちょっと戻ってきたみたいですが、日本海側は雪が強まるという予報にさぞかし大変だろうなと思います。
東京は、なにかにつけて恵まれている場所だとつくづく思います。
恵まれた場所にいると大変な場所に対する想像力が欠如しているのではないかと思う時があります。
子供じみた発想だといわれそうですが、原発が安全だというなら東京のど真ん中に作ればいいし、原発被害がないような発言される方は現地に住めばいいと思ったりします。
想像できないのなら、ご苦労されているその場、その人の近くでちゃんと見聞きすることだと思います。

上皇ご夫妻が私的に「平和祈念展示資料館」を訪問されたそうです。
昨今のように、有事のごとく兵器を調達することに血道をあげているお上こそ、もう二度と戦争を起こさないように、戦争とは、平和とはと、きちんと検証される時間を持つべきだと思うのです。
平和祈念資料館へのご訪問は、○○な政府への上皇様の心からの「憲法第九条戦争放棄」を大切にしたいという声ではなかろうかと思うのは、考えすぎでしょうか。

私たちはどこで間違えてしまったんだろう

出身作家の美輪和音さんの新刊本が出ました。
美輪さんはホラーがお得意で、映画は「着信アリ」だし、受賞作の「強欲な羊」はじめ「ゴーストフォビア」「ウェンディのあやまち」等々は完璧ホラー小説。
私はホラー本も映画も大っ嫌いなので、お送りいただくたびに、嫌々ながら見てきましたし、読んできたという次第ですが(笑)、今回は面白く一気に読ませていただきました。
ホラーではありません。完璧ミステリーです。
でも、今の日本を描いているようで、読んでいてホラー以上に怖かったです。

「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」(双葉社刊)
仁美、修一郎、涼音は、平和な小さな田舎町の幼馴染。
毎年恒例の秋祭りで、誰かに仁美の母が作ったおしるこに毒を入れられ、仁美の母、修一郎、涼音の兄弟たちが亡くなってしまう。
「この町に犯人がいる」100人ちょっとの町民はお互いを疑い始め、幼馴染3人は、真実を突き止めようとするのだが・・・。

和歌山毒物カレー事件と同じお祭りでの毒物殺人事件なので、どう展開させていくのかと思いながら読ませていただいたら、これはうまい。
犯人捜しも最後の最後まで誰だ、どうしてと思いながら読ませ、二転三転しながら引っ張っていく上質なミステリーですが、みごとなのはお互いがみな顔見知りの小さな町で、疑心暗鬼になっていく過程、登場する人々すべての心情の描き方です。
勝手に犯人探しをし始める。怪しいと思われる者、その家族を貶める。
一人が声高に糾弾すると、そうだそうだと声が上がり、どんどんエスカレートする。
今まで人のいい親切なおじさんだった人が、世話好きのやさしいおばさんだった人が・・・。
同調圧力の怖さをまざまざと見せつけてくれます。

それぞれが傷つき、信頼を失っていくさまは、まさに今日の日本を描いているようにみえました。
美輪さんは、スタンフォード大学心理学名誉教授ジンバルドーフィリップが行った「スタンフォード監獄実験」(ルシファーエフェクト)を巧みに使って、人間の恐ろしさをみせていきます。
ジンバルドーフィリップ名誉教授の「スタンフォード監獄実験」とは、学生を刑務所のような中にいれ、半分を看守役、半分を囚人役に分けると、どうなるかという実験です。
役のはずなのに囚人役の学生たちは、刑務所の階級構造を自然と受け入れて、不当な扱いにも従順化されて、看守役の学生たちは、権威を振りかざし、囚人たちに対する暴言や虐待がどんどんエスカレートしていくという実験結果をもたらしました。
本来、看守役も囚人役も腐ったリンゴではなかったのに、腐った樽に閉じ込められたことで人格に極めて強い影響を与えられてしまったという実験結果は、世の中に衝撃を与えました。
この「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」では、まさに田舎町の元は善良な人々が、看守と囚人へと変貌していき、人間の本質をみせつけます。
ミステリーとして巧みな設定に最後まで犯人探しをしてしまうのですが、犯人探しよりも登場人物の端役に至るまでの人々の心理変化こそがホラーよりも怖さをもたらし、一気にラストまで読み進んでしまいました。
すべての人に読んでいただきたい本です。

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