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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『哭悲 THE SADNESS』を楽しむ 見どころ
主人公の障害となる敵役をつくるときの参考に

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その61-
『哭悲 THE SADNESS』徹底憎たらしさを貫くキモい敵役の造り方

今回取り上げるのは、ガチガチのホラー『哭悲 THE SADNESS』です。何しろポスターのキャッチコピーが「内蔵を抉られる衝撃 二度と見たくない傑作」ですし、R-18指定されています。

ホラーはダメという方には、実際にかなりエグい場面もありますので、あまりオススメはしません。でも、画期的におもしろいホラーです。

台湾映画ですが、監督・脚本はアニメーション作家だったというカナダ人のロブ・ジャバズで、これが初の長編映画。台湾から現れた新星です。ホラーというジャンルは特に、アイデアと映像センスとかで、いきなりこうした新人監督を輩出するので、見逃せません。

いわゆるゾンビ映画なのですが、今のコロナ禍を踏まえています。慢性的に広まっていた感染症が、ある日、ウィルスが突然変異し、人間を凶暴化させて他者を次々と襲うパニックが起きる。この狂気が拡大する街で、離ればなれになったカップルのカイティン(レジーナ・レイ)とジュンジョー(ベラント・チュウ)の奮闘の物語。

前回取り上げた邦画の『PLAN 75』()は、終始淡々としたタッチながら、冒頭部だけは衝撃シーンから入る「張り手型」でした。本作の『哭悲』はむしろ「撫で型」です。同棲しているカイティンとジュンジョーの朝から、ちょっとした口喧嘩の後、それぞれの仕事に行く日常から。

ただ、ジュンジョーがベランダから異様な老女を目撃する、という不穏さはあるのですが。この冒頭の10分ほどを経て、以後はジェットコースターのような怒濤のショッキングシーンが続きます。『PLAN 75』とは真逆です。

ところで今回の“ここを見ろ!”は、脇キャラとしてカイティンをひたすら追い詰める“ビジネスマン”(とホームページには表記されている=ジョニー・ワン)の造型と、主人公とのからませ方です。

映画が終わった時に、隣にいたギャル二人組の一人の最初に発した感想が、「今までで一番、マジキモいオヤジだったぁ~」でした。私はマジ噴き出すのを堪えましたが、このギャルの感想をそのまま、演じたジョニー・ワンさんに伝えてあげたいと思いました。役者にとってこれ以上の褒め言葉はないでしょう。

あんまりネタバレはしませんが、このオヤジは、地下鉄でカイティンの隣に座っていました。一見、どこにでも、それこそ東京の電車の中にでもいそうなおっさんで、本を読んでいた彼女に気さくに話しかける。テキトーに相づちを打っていたのですが、次第にセクハラレベルになって、ついにカイティンは切れて罵倒、さらに別の乗客シェン・リーシン(アップル・チェン)を巻き込んでトラブルと発展する。まさにその時……

予告編にもあるのですが、感染して悪の要因が突出したオヤジは、徹底した執拗さでカイティンとシェンを追い詰めていきます。このオヤジキャラの恐ろしさこそが、この映画の白眉ともいえます。

ところでこの恐怖オヤジで思い出したのは、2016年製作の韓国ゾンビホラーの傑作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(そういえばこれもアニメーションから初実写映画のヨン・サンホ監督!)。ゾンビが出現した高速列車の中で、娘を守ろうと奮闘する父の物語でしたが、印象に残っていた悪役キャラこそ、バス会社の重役オヤジ。こいつは主人公たちと共に逃げるのですが、もうひたすら自分だけが助かろうとするクソオヤジで、最後の最後までおのれの欲だけで生きようとします。

物語の中で、主人公は目標に向かって貫通行動をとる。その過程で成長・変化します。これは基本。

ただ、主人公の障害となる敵役、ライバル、悪役といったキャラは、成長なんてしなくてもいい。両作のクソオヤジのように、おのれの欲望をぶれずに(それどころか拡大させて)貫く。

その敵が徹底強力な悪キャラであればあるほど、主人公は窮地に追い込まれて、必死に闘わざるを得ません。ホラーゆえにクソぶりが強調されているのですが、この要素はそれこそビジネスものとか恋愛ものでも同じです。

主人公たちに立ちはだかるマジキモい、クソオヤジっぷりに注目して下さい。

『PLAN 75』についてはこちらの記事を。

・YouTube
Klockworx VOD
”この悲しみと悪意は感染する”『哭悲/THE SADNESS』7月1日公開|本予告

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その62-
『プアン/友だちと呼ばせて』コンクールで突出する秘訣はここにある!

珍しいタイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』を取り上げます。

監督・共同脚本は(昨今の事件を先取りした感のある)痛快作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリアで、『恋する惑星』や『花様年華』などのウォン・カーウァイ監督が製作総指揮に参加しています。実際、カット割りや都会的な映像、音楽の使い方など、カーウァイタッチを彷彿とさせ、ファンとしても嬉しく思いました。

ところで、「映画のここを見ろ!その30」でタイ映画の『ハッピー・オールド・イヤー』を紹介しました()。監督は違いますが、この映画も『バッド・ジーニアス』チームによる製作でした。

で、両作の主演だったのがチュティモン・ジャンジャルーンスックジンで、今回の作品にも脇役ですが印象的な役で登場しています。上戸彩さんそっくりですので、すぐに分かります。

さて『プアン』ですが、ニューヨークでバーを経営しているボス(トー・タナポップ)は、バーテンダーの腕で女性客をナンパしまくっている遊び人。ある夜、タイに帰国して疎遠となっていた友人のウード(アイス・ナッタラット)から電話が入る。ウードは白血病で余命宣告され、ボスに頼みたいことがあるので帰国してほしいという。

ウードの頼みというのは、借りを残したままで別れてしまった過去の恋人たちの元を訪ねたいので、その助けをしてほしいということ。こうして、ウードとボスはNYで知り合ったダンサー、女優、カメラマンなど夢を追いかけていた元恋人たちを(病気であることは隠して)訪ねて廻る。

この中の女優志望者がチュティモンさんで、彼女には激しく拒絶されるのですが、でもウードの出現によって彼女が変わるという逸話が絶妙です。

バンコクを中心にタイ各地を転々としつつ、過去のNYでの逸話が回想シーンで頻繁に挟まれつつ展開します。

過去と現在を分ける要素は、ウードのガン治療の証である坊主頭です。

さて、今回の「ここを見ろ!」は、実は……、という二重構造です。

予告編に暗示されているのですが、ウードがボスに告げる「お前にも返すものがある」「本当の目的」「秘密」というのは何か?ネタバレになるのでここでは明かしません。

ところで、脚本家志望者の皆さんが、シナリオコンクールにぶつける応募作を読み、一番多い感想は、「うーん、(そこそこに)書けているのだけれど……」で、この“……”に入るのは、“どこかにあった話だ”とか“ありきたり”“予想通り”といった言葉です。

もちろん、作品の完成度、ドラマ性、キャラクターの魅力とかもありますが、とにかく、ありがちと思わせる一番の要因がワンアイデアだったりする。

この『プアン』のアイデア性だと、「ガンで余命わずかな親友の望みを叶えてやろうとするバディロードムービー」なわけですが、それだけだとどこかにあった感動難病もの、というワンアイデアかもしれません。

ちなみに、実家に溢れていたガラクタを断捨離するために、過去や元カレを訪ねて廻るという『ハッピー・オールド・イヤー』も、動機の部分は違いますが、設定としては似ていますね。

実際『プアン』のこの前半部60分くらいを見ていて「あれ、この後はどうするんだ?」と思いました。ところが後半部となって、もうひとつの別の展開へと向かうのです。それがすなわち「本当の目的」と秘密の解明で、実はワンアイデアではなかった!
この二重構造ゆえに難病であるウードだけでなく、親友だったボスの物語が浮き彫りになっていきます。

しかも、当初より色濃く打ち出されているテーマである「友情」や、過去を清算するために恋人たちに会いに行くという設定も外していない。つまり、もうひとつのアイデア性を加えることで、ありがちを大きく脱することができる。その見本のような映画なのです。

小道具的の役割を担うバーテンダーが作るカクテルのネーミングや、副題となっている「友だちと呼ばせて」という意味もぜひご覧ください。

『ハッピー・オールド・イヤー』についてはこちらの記事を。

・YouTube
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』監督最新作!
『プアン/友だちと呼ばせて』予告編
 8月5日(金)公開【公式】

「映画が何倍も面白く観れるようになります!」

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