menu

脚本家を養成する
シナリオ・センターの
オンラインマガジン

シナリオ・センター

代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

気持ち

海蝶~鎮魂のダイブ~(講談社刊)

他人の想い

シナリオ・センター代表の小林です。やっと本格的に休みが開けた気分になりました。今週の土曜日は、145期シナリオ作家養成講座の開講ですし、やる気は高まります。
世の中がろくでもない方向へどんどん流れていく気がするからでしょうか。
たくさんの方々に、シナリオを学んでほしいなぁとますます強く感じるようになりました。
シナリオを描けば、自分が何をどう考えればいいのか、他人に対してどう思うのかが明確になるからです。
人は皆違うのですから、様々な意見があり、考え方も違っていても当たり前のことです。
私自身、自分の意見が必ずしも正しいとは思ってはいません。
浅学ですから、他人の話を聞くと「え~、そうなの?」「そういうこと?」と驚くことが多々あります。
だからこそ、自分の想いや考えを表現することで、様々な他人の想いや考えをうかがうことができる、対立することも含めて素晴らしいことだと思っています。
シナリオを描くことで、今まで知らなかった世界を見たいと思えるようになりますし、自分と違う環境や考えの人のことも考え、接することも恐れなくなります。
シナリオは、多くの登場人物のキャラクターを考えます。多種多様な人がいればいるほど面白くなります。
シナリオを学ぶことで、今までと違った視座、視点を持つことができると人生も楽しくなることでしょう。

海蝶~鎮魂のダイブ~

今年はさすがに3年ぶりの何も締め付けのないG.Wだったせいか、コロナ前の出足になったとかで、感染者も増えてきています。
私は、ハルが逝ってしまったため、大切なルーチンだったお散歩もなくなり、外に一歩を踏み出す気持ちが薄れてしまいました。
なので、無理やり、この休みは外に出て本を読むということにしました。
で、帰れなくなりました。(笑)
読んだのは、出身小説家の吉川英梨さんの新作、シリーズ2作目「海蝶 鎮魂のダイブ」(講談社刊)です。
吉川英梨さんは、ご存じのように原麻希シリーズ、53教場シリーズ、水上警察シリーズ、13階シリーズなど骨太の警察エンタテイメントサスペンスで人気の作家さんです。
どれも面白く読み応えのある作品ばかりですが、私は、一応女性のせいでしょうか、女性を主人公にした「海蝶」や「十三階」「原麻希」シリーズが好きです。女性刑事や女性海上保安官が、様々な差別や偏見に苦しみながら戦っている姿が好きです。男性達に腹を立てながら読むのが好きです。(笑)

「海蝶」は、東日本大震災で被災した忍海愛が主人公です。
父も兄も海上保安庁の優秀な潜水士という家族ですが、東日本大震災という過去を背負っています。そして、家族がそれぞれの立場で、愛は母と一緒に津波に流されながら自分だけ助かったという、父と兄は任務のために家族のもとに駆け付けつけられなかった、妻を母を助けられなかった、その場にいなかったという、それぞれの葛藤、苦しみ、そして温度差が。
第1作の「海蝶 海を護るミューズ」では、その過去のトラウマを背負って、自ら女性初の海上保安庁の潜水士になる愛の必死な姿と驚くべき事件が描かれています。
有名な海上保安庁の「海猿」の中の紅一点の潜水士愛につけられたのが「海蝶」です。
2作目は2011年、震災から10年経った今が舞台です。
一緒に被災した友人の船上結婚式に呼ばれた愛は、そこで震災の時に愛を助けてくれた元海上保安官と再会し、恋に落ちます。
ですが、優秀な海上保安官だった彼が、客船の乗務員になっていたのには、震災の大きなトラウマが原因だったのです。
その彼のために、旅に出ることを提案した愛、急に彼はフェリーで出かけようと言い出し、愛を混乱させます。
海に出たフェリーに、怪しい致死性のガスが発生。
687名の乗員の命が、愛に託されます。最悪の洋上での事件に、愛は必死に頑張るのです。
ミステリーですから、先の話や細かいことは言えません。

追い立てられるように次を読みたくなるようなサスペンスではあるのですが、それ以上に人間の苦しみをここまでサスペンスに包んで描ける吉川さんの筆力に圧倒されます。

今年、東日本大震災から11年。被災者でない方は忘れかけようとしているように思います。
ですが、忘れたくても忘れられない方が、どれだけたくさんいらっしゃるのか。
年月を経て、忘れる人が増えれば増えるほど、被災者の方は置き去りにされて、その苦しみは深く潜行しているのではないでしょうか。
そのそれぞれの想いを、それはもしかしたら薄れることはあるとしても、前を向くことで見ないようにしようとしても、決して消えない想いであることを、どんなに年月が経とうと今もなお被災者は被災者のままであることを、吉川さんは被災していない私たちに伝えたかったように思います。
吉川さんの作品は、どれも極上のサスペンスでワクワク読ませながら、人間の本質の深いところを描いています。
第2作目ではありますが、2作目から読んでも十分堪能できます。
ですが、1作目を読まれるとより忍海愛の魅力に、吉川さんの視座にメッタ打ちされることでしょう。
ちょうど第1作目の「海蝶 海を護るミューズ」(講談社文庫)は文庫化になりました。こちらも。

過去記事一覧

  • 表参道シナリオ日記
  • シナリオTIPS
  • 開講のお知らせ
  • 日本中にシナリオを!
  • 背のびしてしゃれおつ