menu

脚本家を養成する
シナリオ・センターの
オンラインマガジン

シナリオ・センター

代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

ダサい

母親からの小包はなぜこんなにダサいのか(中央公論社刊)

ダサい1

シナリオ・センター代表の小林です。昨日は中秋の名月で、天気も良くリアルに堪能できました。
煌々と輝く月も、雲間にかかる月も、秋風に吹かれながら、我が家の老犬とみる月もこれが最後かと思いながら、ひときわ感慨深く・・・本当にきれいでした。
今年は8年ぶりの満月とのことで、そうか、いつも満月とは限らないのだなとは思い起こしたのですが、でも、やっぱり中秋の名月はまんまるお月さまのイメージですよね。
このイメージって大事だけど、真実は語ってはいないんだ。そこも知っていないといけないのですね。

最近、日本語が変な風に使われています。
どうも教養のないお上の仕業かと思うのですが、私は、真摯にとか丁寧という言葉を恥ずかしくて今はもう使えません。
責任をとらないのに、襟を正す、責任を痛感する、本当の意味を知らないまま使われても全く伝わりません。
欺瞞的な言葉は山のようにあるのですが、コロナ禍で一番問題なのは、「自宅療養」という言葉ではないかと私は思っています。
自宅療養というのは、治療や診断を受けて病院を出て自宅で休む(療養)ことをいいます。
診察も治療も入院もできずに自宅で過ごさせるのは「自宅療養」ではなく「自宅放置」だと思います。
マスコミも言葉を正しく使わないと、その言葉が独り歩きをしてしまいます。
本当のことが伝わりません。
言葉を生業とするものは、言葉の意味をきちんと大切に扱わなくてはいけません。
私たち創作を志す者は、常に言葉を慎重に選び、大事にきちんと伝えていくように努めたいものです。
そして、言葉の嘘を見抜く力をつけて、社会、ものごと、人間の全てをみつめていきたいと思います。

母親からの小包はなぜこんなにダサいのか

出身ライター原田ひ香さんは、言葉を巧みに使い、主人公の心の機微を描きます。
新刊の「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」(中央公論社刊)
もう笑えて泣けます。
6つの物語なのですが、送られてくる小包をちょっと変わった趣向で描いていきます。
一話母親の反対を押し切って出てきた女子大生の寂しい東京生活。
二話一生仕事を女性も持つべきだというキャリアウーマンの母と娘の確執。
三話親と縁を切った一人暮らしのOLが親からと偽って業者から届けてもらう疑似母の小包。
四話疑似母になった野菜を送る女性と不倫から戻った娘。
五話亡くなった父へ毎年送られてくる昆布の謎。ちょっとミステリーチックに。
六話母が再婚したことが気に入らない娘に亡くなった母から届く最後の小包。
どれもこれも、なぜかおかしくて、微笑ましくて、泣けるお話しです。
親子って家族って、基本ダサいもんなんですね。
私が一番送られてきたもので気に入ったのは、二話のバリバリのキャリーウーマンで社長のブランド物で身を包んでいる母から小包。
札幌に転勤で住む娘に送ったものは「東京ばな奈、舟和の芋羊羹、ノベルティ入りのエコバッグ、厚手の男ものと女もの長袖シャツ、女物の厚手の靴下。シャツはスポーツブランドの防寒下着」
苦肉の作でブランドものならいいだろう色々考えて送ったであろうものだけれど、結局絵に描いたような東京名銘菓とエコバッグにババシャツ。
一生懸命工夫しているけれど、その妙な意識の高さで一周回って『ダサい』。と主人公の莉奈は安堵感と暖かい心に笑ってしまうのです。
私もこの母親と寸分違わない考えの持ち主で、女性も一生仕事を持てという主義ですので、母の気持ちがよくわかります。(笑)

私は、東京生れの東京育ちなので、悲しいかな、母親から小包が届いたことはありません。
でも、この本を読んで遥か昔のことを思い出しました。
小包ではないのですが、新婚旅行から帰ってきたら、新居が掃除され、お風呂の湧いており、キッチンテーブルにチキンラーメンが置いてありました。
「おかえりなさい。これからのあなた方の生活の味です。お腹がすいていたら食べて下さい。」という手紙と共に。
インスタントラーメンなど食べたことのない母親の選んだチキンラーメン。
愛って、形は違ってもみんな同じなんだなと思いました。
そして、受け取る方の嬉しいような腹立たしいような妙な気持ち。
私に送ってくださった原田さんの手紙には「母親からの小包はダサいという一点だけで本を作りました。途中何度か後悔しました。(笑)」と書いてありましたが、とんでもない、後悔が実っています。(笑)こんなに泣けたのは久しぶりです。
親子、家族、切っても切れない縁が紡いでいく物語は永遠のテーマです。
原田ひ香さんのどの小説を読んでも、「そうだそうだ」とうなづけるのは、きっとダサいからこその、あったか~い気持ちをよくご存じだからなのだと思います。
コロナ禍の憂さを、先の見えないもやもやを、癒してくれる物語の数々です。

過去記事一覧

  • 表参道シナリオ日記
  • シナリオTIPS
  • 開講のお知らせ
  • 日本中にシナリオを!
  • 背のびしてしゃれおつ