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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

“興味”が 物語の創作につながる
脚本家・井上登紀子さん=小説家・鷹井伶さんの1日

==このコーナーは『月刊シナリオ教室』掲載企画「先輩のオ・シ・ゴ・ト」と連動しています。先輩方がシナリオの技術を使ってどんなふうにお仕事されているのか、『月刊シナリオ教室』とこちらのブログ、それぞれちょっと違った視点でご紹介していますので、併せてご覧ください==

今回ご紹介する先輩は、脚本のときは井上登紀子さん、小説のときは鷹井伶さんのお名前で活動されています。

これまで、映画・テレビドラマ・ドキュメンタリー・舞台・小説・漫画原作、そして現代物も時代物も、ジャンル問わず様々な作品を沢山手掛けていらっしゃいます。

今年1月には最新作『お江戸やすらぎ飯』を上梓。この発売を記念して、『月刊シナリオ教室 2020年5月号』(4月末発行)では、『お江戸やすらぎ飯』についてや「時代小説はどう書くのか」を中心にお話しいただいています。「時代小説を書きたいけど、どこから手をつけたらいいか分からない」「書き始めるけど途中で分からなくなっちゃう」とお悩みの方は特に必読です。

こちらのブログでは、『お江戸やすらぎ飯』をご執筆中のある日のスケジュールをご紹介。

とっても勉強家の鷹井さん。でも、ご本人は“しなくちゃいけない勉強”という感覚ではなく、「興味があるから」と仰います。色々なことに興味をもつことは、物語を創作する上では凄く大切ですよね。自分が書きたいジャンルに関わらず、「創作をしたい!」というかたは是非参考にしてください。

『お江戸やすらぎ飯』ご執筆中のある日のスケジュール

〇鷹井さん:7:30に目覚ましを鳴らします。
朝食を食べながら、8時放送のNHK連続テレビ小説を観て、それから本格的に行動開始みたいな感じですね。

執筆作業がすごく大変なときは午前中から書いて、休憩なども挟みながら執筆タイムを設けて書きます。

そうじゃないときの午前中は外出したり、料理をしたり、勉強したりが多いです。

例えば、今回の『お江戸やすらぎ飯』は漢方や薬膳のことを描くので、「多少でも医学的なことを扱うなら生半可なことではダメ、自分が勉強しなくちゃ」と思い、漢方養生指導士の資格をとりました。今は上級を目指しています。

また、色々な大学の生涯学習講座に行ったりもするし、フラメンコやスペイン語のレッスンにも行きます。

スペイン語はフラメンコを踊っていたら、やっぱりその国の言語にも興味が出てきて、1年前ぐらいから習っています。スペイン語は世界でも“母語話者(=幼少期から自然に習得する言語)”が多い言語で、15世紀から始まった大航海時代によってアメリカ大陸へ広がり、スペイン語圏を形成していったといわれています。ヨーロッパでも南米でも通じる言語なのでお得感ありです(笑)。

歌舞伎や文楽にもよく行きます。アウトプットするためにも刺激をもらうことをとても大事にしています。

アレもコレも、とやりたいことが多くて(笑)。歳を取るほどに欲張りになっているみたいです。

「江戸時代にタイムスリップしたい!」

〇鷹井さん:でも、勉強っていう意識よりは、興味でしょうか。

先ほど言った生涯学習講座の中で、よく通ったものに江戸学があります。時代小説を書くための知識を得たい、ということも勿論ありましたが、それだけじゃなくて……。

ただ単に、江戸のことが知りたい。どんなところだったのか、いっそのこと、「この時代にタイムスリップしたい!」というぐらい好き。着物もその一環ですね。興味が尽きないんです。

タイムスケジュールに“散歩”とありますが、歩くときも「江戸時代だったら、この辺りには町家があって、あちらの方には武家屋敷があるだろうな」って想像したりします。

江戸名所図会(江戸時代のガイドマップ)や古地図などを見ていると、武家屋敷や寺社の道はとても広く書かれています。一方、庶民が暮らす辺りは狭くてちょっとゴチャゴチャしている。

だから、長屋で暮らしている人がもし何かの用で武家屋敷の辺りに来たら、足がすくむんじゃないかと思うんですよ。道は広いし、塀も高い。道行く人は侍で刀を持っている。怒らせたら、斬られるかもしれない……。

こんな風に想像するのって楽しいでしょ?(笑)。

時代小説をガイドブック代わりに“お江戸歩き”を楽しむ読者さんも多いです。なので、私の小説でも、丁寧に情景を描写することを心掛けています。

そうそう、東京メトロのカレンダー(B全)とほぼ同サイズの古地図があって、見比べると距離感覚をはかるのにちょうどいいんです。2枚張ると、壁いっぱいですけど(笑)

自分の興味から好きで集めた資料は、創作するうえでも凄く役に立っていますね。

自分の身に起きたことは全て役立つ

〇鷹井さん:考えてみると私の場合、これまでやったこと全て、創作に役立っていると思います。

例えば、シナリオ・センターの課題・20枚シナリオ。

私は物心ついた時から本に囲まれていて、読むのは大好きでしたが、自分で書けるとは全く思ってもいませんでした。なので、脚本家を志した大阪校時代、毎回の課題を1週も休まず出しました。

とにかく、「書くための“脳内筋肉”を養わなくちゃ!」と思って、20枚シナリオをどんどん書きました。なので、 “書くこと”ができるようになったのは20枚シナリオのおかげかなと思っています。

あと、文章表現力は、プロット(企画書)を書いたことで養われたかなと思います。

企画書を読むのは超多忙な方々です。一瞬で読む人の心を捉えるにはどういう表現がいいのか、説明的ではなく、わかりやすく、かつ映像が目に浮かぶ表現になっているかを、現場で鍛えられました。

企画書を書き始めた頃、2時間ドラマのプロットは、かなりの量(2万字程度かそれ以上)を求められました。

いきなり長編を書くとなると「大丈夫かな……」とちょっと不安になるかもしれませんが、私は“長いプロット”を沢山書いたおかげで、構成的な分量配分が感覚的に掴めるようになっていきました。企画自体はなかなか通らなかったけれど、それでも、プロットを書き続けたおかげで、脚本も小説も、“長いもの”を書くことへの怖れがなくなったのです。

私は「脚本家になる」と決めて上京してから、割と早い段階で、アニメーションでデビューできましたが、その後は鳴かず飛ばずで、もう一度「脚本 井上登紀子」としてクレジットが出るまでに約5年かかりました。「よく耐えられたなあ」って思いますけど(笑)、その間に起きたことは全て、いま役に立っていると思います。

幸せな時間はもちろん、悲しく不幸せな出来事であっても、物書きにとって無駄なものはない。全てが糧です。

だから最後に、脚本家や小説家を目指す皆さんに、この言葉を送りたいと思います!

『お江戸やすらぎ飯』(角川文庫)/鷹井 伶

――主な舞台は江戸時代に実在した「医学館」。本道(漢方内科)を専門に学ぶ幕府公認の医学校。

ここに、幼い頃江戸の大火で両親とはぐれ、吉原遊郭で育てられた少女・佐保がある理由でやってくる。

佐保には特殊な力があった。それは体の不調を当て、症状に効く食材を見出す力。やがて佐保は病人を救う料理人を目指すことになり――。

巻末には簡単で美味しくて体にもいい料理レシピも! これまでにないグルメ時代小説。ぜひ“ご賞味”ください。

※シナリオ・センター1階書籍コーナーでも販売中です※

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