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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

ドラマにできること、ドラマだからできること

ジェームス三木さんと新井一

知識教養

シナリオ・センター代表の小林です。日曜日の138期シナリオ作家養成講座の説明会からご質問へのお答えのメールを参加者の皆さんにお出ししています。
最近はすぐに結果を求められることも多く、1足す1は2のようにすぐに答えが出るものとは違う創作の世界は、敬遠されがちだという話を聞きますが、センターに限って言うとまったくそんな感じはいたしません。どの方も表現者として頑張ろうとしていらっしゃいます。

研究とか創作というのは、根っこが深くないといい花が開花しないと思います。
ノーベル賞学者の本庶京大特別教授も、19年受賞者の吉野さんも基礎研究への危機感を訴え、すぐには実用にはならないような様々な分野を長期的に育んでいくことが重要とおっしゃっています。
科学の分野と同じように創作も基礎力、技術はもちろんですが、「すぐには実用にはならないような様々な分野を長期的に育んでいくこと」ところから素晴らしい作品が生まれるのだと思います。
ドラマというのは、フィクションですから、研究と違っていい加減でもいいように思えます。
ジェームス三木さんは、「脚本家の才能は嘘つきだということ」とおっしゃっていました。(笑)
上手な嘘を作るのがフィクションの世界、ドラマの世界ではあります。「ドラマは嘘つき」と新井も言っています。ですが、嘘だからでたらめを言えばいいというものでもありません。国民が納得するものでなければね。(笑)
「大きな嘘はいいが小さな嘘はダメ」とも新井は言っています。細部に本当のこと、ちゃんとしたものを入れることで、大きな嘘が真実になるのです。
最低の常識や知識、教養を持ち合わせていない人の嘘は、すぐにばれてしまいます。
創作の基礎研究は、常識だけでなく広い視野をもつためにあらゆるジャンルのことも知ろうとする姿勢、自分の好きなものを深く掘り下げることも必要なのだと思います。
シナリオを志すのであれば、本を読み、テレビ、映画、芝居を観たり、色々な人と知り合ったり、話したり、もちろん展覧会や音楽会など、あらゆるものに好奇心をもってアンテナを張り巡らして欲しいと思います。

作家性

ウルトラシリーズの脚本家上原正三さんが亡くなられました。ウルトラマンの創設者である金城哲夫さんと同じ沖縄出身で、金城さんに誘われて円谷プロに入られたそうです。
それぞれの世代でお好きなウルトラマンシリーズがおありでしょう。1966年から始まって、今日まで長くシリーズとして愛されてきました。私の年代は、ウルトラマン、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマンあたりです。
上原さんの代表作は「帰ってきたウルトラマン」(71~72年)33話「怪獣使いと少年」です。
身寄りのない少年と町はずれの廃墟で暮らしていた宇宙人が、恐怖と疑心暗鬼にとらわれた町の人々に襲われ殺害される。宇宙人の死で封印されていた怪獣が解放され町の人々を襲い始める。ウルトラマンは人々に戦うように促されるがすぐに動こうとせず、心の中で「勝手なことを言うな」と吐き捨てるというドラマでした。
宇宙人を置き換えたら、戦後の日本にも昨今の社会情勢にも全く同じようなことが起こっていると感じませんか。試写を見たテレビ幹部が怒って没にしろ言ってきたそうで、これもよく似たお話が今も起きていますね。(笑)
上原さんは、辺野古の基地建設など沖縄が置かれている状況に、琉球人として誰よりも怒りを感じられていたそうです。
多分、常に理不尽なことへの怒りをお持ちだったのかもしれませんが、それをドラマという形で、エンタメとして、ただの戦士ではないヒーロー像を描いていらしたのです。
監督を務めた飯島敏弘さんが「悲しみや怒りをストレートに伝えると人は耳をふさぐが、エンタテイメントとして伝えられるのが上原さんのなによりのすごさだった」と語っておられます。
ドラマには、そうした力があるのです。
私たちも上原正三さんのように大きく広い視野を持って、どのように表現することが多くの人へより伝わるのかと考えながら、ドラマを作っていきましょう。
上原正三さんのような心に想いを秘めている職人気質の脚本家は少なくなりました。ご冥福をお祈りします。

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