脚本を書くための取材:大事なのはバランス
脚本を書くうえで、取材はしていますか?
生徒さんとお話していると、
・取材して知り過ぎると書けなくなるので、敢えて取材しません。参考資料を読みます。
・取材大好き!リアルな現場が分かるので。
・取材した方がいいのかな、とも思うけど、やったことないです。
・やっぱり取材した方がいいのでしょうか?メリットとデメリットを知っておきたいです。
――といった意見がありました。
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2017」で選出された映画『トーキョーカプセル』で監督デビューされた齋藤栄美さん(本科)は、自身の経験を踏まえて「取材先とのバランスが大切」と仰っています。
ではなぜ、バランスが大切なのか。
その理由も含め、「脚本を書くための取材で気をつけること」について、先日実施した公開講座ミソ帳倶楽部「プロデューサーの視点~映像にしたくなるシナリオ~」からコメントをご紹介します。
ゲストは、
・映画『トーキョーカプセル』の脚本・監督を手掛けた齋藤栄美さん
・映画『トーキョーカプセル』の制作プロダクションであるアルタミラピクチャーズの代表取締役であり映画プロデューサーの桝井省志さん
・「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」を企画している特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)のチーフプロデューサーである根津勝さん
――のお三方をお迎えいたしました。
取材すると内容に深みが出る。しすぎると想像力が広がらなくなる。
〇齋藤さん:映画『トーキョーカプセル』は「柱」から考えていって、「カプセルホテルで撮りたい!」と思いました。でもカプセルホテルの取材はそれほど何回もはしませんでした。
〇桝井さん:もっと取材すると、もうひと話、ふた話、深みが出たかもしれないな、とは思いますね。
〇齋藤さん:そうですよね、特殊な場所であればあるほど取材が大事だと実感しました。
〇桝井さん:とはいえ、取材しすぎると、現実をレポートすることに一生懸命になるので、想像力が広がらなくなる、ということもある。
〇齋藤さん:実は当初、主人公が「支配人にセクハラされて」という設定にしていたのですが、カプセルホテルの支配人のかたを取材してみると、人情味があって、とてもセクハラするような感じじゃなかったんですよ (笑)。そこで、支配人の設定やキャラクターを少し変えました。
〇桝井さん:ほらね、ある意味これが取材の弊害。いい人ばかりになっちゃうんですよ、実際取材してみると。
〇齋藤さん:取材しない方が自由に書けますからね。取材先とのバランスが大切だと思いました。
〇桝井さん:それから、自分のタイプもあると思います。
例えば、周防正行監督は取材が大好きなんです。「もうそろそろ映画つくりませんか?」と言うまでずっと取材してる(笑)。それとは対照的で、矢口史靖監督はあまり取材しないタイプ。その方が、いろいろ発想しやすいんだと思います。
だからまずは自分のやり方をみつけて、で、取材するなら取材先とのバランスに気をつけることが大事かなと思いますね。
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2018」応募に“経験”は関係なし
齋藤さんと桝井さんのお話から、「取材するときに気をつけること」が分かりましたよね。
以上の点に気をつけながら、現在募集中の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2018」に応募してみてはいかがですか?
以前、ndjcのスーパーバイザーを務めたこともある桝井さんは、「齋藤さんはこの映画でデビューする前から助監督の経験がありましたが、この募集に“経験”は関係ありません。だから、監督の経験がなくても、たとえ前回撮った作品があんまり…ということがあっても、気にせずとにかく応募してみてください」と呼びかけました。
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2018」概要
公開講座当日は講義のほか、映画『トーキョーカプセル』の上映と、「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2018」の募集要項について、根津さんからご説明していただきました。
その概要も以下に掲載しますので、ご覧ください。
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」とは
国と映画のかかわりあいとして、諸外国では映画振興機関が創設され、映画作家の育成という面でも様々な活動が展開されています。近年、日本映画の復興が伝えられるなか、日本でも文化庁による長編映画監督の育成への取り組みが進められています。
映像産業振興機構(VIPO)は映像産業というくくりで業態を超えて設立され、その特性を生かした育成支援として、2006年度より、文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」を企画しています。
このプロジェクトでは、在野の優れた若手映画作家の発掘と育成を行い、本格的な映像制作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや制作実習を実施すると同時に、新たな才能の発掘を目的とした作品発表の場を提供することで若手映画作家を支援し、日本映画の活性化を目指しています。
映画『湯を沸かすほどの深い愛』で第40回日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞を受賞した中野量太監督や、映画『嘘を愛する女』の監督・脚本の中江和仁監督などを輩出しています。
本年度の製作実地研修では、シナリオ開発と35mmフィルムによる撮影を必須とした、完成尺25分以上30分以内の短編映画の制作を行う予定。
なお、シナリオ・センターは「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に推薦団体として参加しています。2016年には目黒啓太さん(元通信本科)監督作品『パンクしそうだ』、2017年には齋藤栄美さん(本科P在籍)監督作品『トーキョーカプセル』を発表しています。
今年はどんな作品を推薦させていただくか。楽しみにお待ちしております!
・シナリオ・センターを推薦団体とする場合:
シナリオ・センターで推薦作品を選出させていただきますので、締切の1週間前までには作品をご提出くださいますようお願いいたします。
※こちらの記事は2018年のものになります。
応募されたいかたは必ず、こちらの「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」公式サイトで詳細をご確認くださいませ。
プロフィール
齋藤栄美さん:映画監督・シナリオ・センター本科P在籍。フリーの助監督として、瀬々敬久監督・周防正行監督・黒沢清監督・三谷幸喜監督など多くの監督のもとで経験を積む。今回の文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で2017年に『トーキョーカプセル』で監督デビュー。
桝井省志さん:アルタミラピクチャーズ代表取締役社長であり映画プロデューサー。大映映画・企画製作室入社し、プロデューサーとして周防正行監督の『ファンシイダンス』(1989)『シコふんじゃった。』(1991)などを手掛ける。アルタミラピクチャーズを設立し、『Shall we ダンス?』(1996)『がんばっていきまっしょい』(1998)『ウォーターボーイズ』(2001)『スウィングガールズ』(2004)『ロボジー』(2012)『終の信託』(2012)など、数々の映画でプロデューサーを務めている。
※桝井省志さんのコメントを掲載しております「映画化する題材の見つけ方/映画プロデューサー桝井省志さんの視点」もぜひこちらからご覧ください。
津勝さん:特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)チーフプロデューサー
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