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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『8月の家族たち』にみる葛藤の描き方

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

トラブル体験あります

「ヒトの悩みの大半は人間関係」らしい。なるほど、だからヒトが集まれば必ずそこに葛藤が起き、ドラマが生まれるわけね…と悟ったような事を言ってるが、自分にも「いったいどうすりゃいいのよ…」と、頭を抱えた経験が2度ほどある。

ひとつは会社員時代。先輩女性が「自分は常に正しく、間違っているのはいつも他人」という「思想」の持ち主で、仕事上でも私的な雑談の時でも、こちらが何か言うたび「違う違う!」と叫びたてる。最初のうちこそビビッて「あ、すみません」と謝っていたが、やっぱり不愉快なので近づかないようにしてたら、今度は個人攻撃に切り替わった。

「なぜ私があなたのカバーをしなきゃならないの!」(頼んでないし)「遅刻早退は社会人の恥!」(育児時短なんですけど)などの暴言多数。(もう会社をやめるっきゃないかな…)と覚悟したが、「職場のイザコザの大半は彼女が原因」と気付いた上司が、この人を本社転勤させてくれた。拝みましたよこの上司を。

もうひとつはある活動グループでの体験。なんだか一生懸命やればやるほどトラブルが増え仲間との間にモメ事が起きる。不思議でたまらず悩みぬいたが、ある日その理由がわかった。指導的で尊敬されている(ように見えた)女性が、メンバーを仲たがいさせるよう、それぞれにお互いのワルグチを吹き込みまくって不信感や不和をあおっていたのだった。「分断・支配」ですね。それに気づいた瞬間、グループ(というよりこの女性)から後も見ずに逃亡いたしました。

今思えば、二人とも明らかに「他人への攻撃欲・支配欲が異常に強い」という「ビョーキ」の人だった。
この人たちが他人だったから私は逃げられたけれど、もし家族だったらどうすればいい?という問題を描いたのが「8月の家族たち」(2014/アメリカ/ジョン・ウェルズ)だ。

「ビョーキ」の母親にどう対処するか

アメリカ・オクラホマ州の片田舎。ベバリー・ウェストン(サム・シェパード)の妻、バイオレット(メリル・ストリープ)はガンを患い、薬物中毒にかかっている。ある日ベバリーが行方不明になる。ベバリーは死んで発見された。

葬儀のため、長女バーバラ(ジュリア・ロバーツ)、二女アイビー(ジュリアン・ニコルソン)、三女カレン(ジュリエット・ルイス)の三姉妹とバイオレットの妹マティ(マーゴ・マーティンディル)、それぞれの夫や子、恋人が集まる。バベリーを偲ぶ食事会で、バイオレットは全員を攻撃し、ついにバーバラは母ととっくみあいの大ゲンカになる。

その後みんなは散りぢりバラバラにこの家から去っていき、最後に残ったバーバラもやはり逃れるように家を出る。バイオレットと家政婦だけが残った家に静寂が訪れる…。

この映画を「家族とは何なのか」とか「母と娘のトラブル」を描いた映画と考えると、ちょっと理解が難しくなる。

この映画は「異常に攻撃欲と支配欲の強い家族(母)に、どう対処するかの物語」だと思う。

メリル・ストリープは、「内心では娘たちのことを心配している母」などという中途半端な解釈をせず、「家族であろうが他人であろうが人を攻撃することが愉快で愉快でたまらない、そのことに快楽を感じている」という人格を吹っ切れて演じている。

二女に「あんたの恰好はまるでレズビアンね」とくさし、長女に「私がガンになったのにあんたは一度も来ない」と、正義を振りかざして責める。そんな時の彼女の眼は、相手を痛めつける喜びにギラギラと輝いている。

ジュリア・ロバーツの「苦悩の長女」ぶりもいい。母が心底疎ましいのだけれど、「もしかしたら母の異常な部分が自分にもあるのではないか」というおびえを、すっぴん、ニコリともしない顔に終始張り付けている。二人とも、「演技力がある」というよりも「役柄への理解が深い」と言うべきかな。

You Tube Asmik Ace ブルーレイ&DVD 映画『8月の家族たち』10月8日リリースより

逃げろ!!

昨年から今年にかけて、有名人が自分の母についてセキララに語る本が出版されている。「解縛―しんどい親から自由になる」(小島慶子/新潮社)「一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ」(遠野なぎこ/ブックマン社)。タイトルだけで中身は一目瞭然、今までほとんどタブー視されてきた実の母親による娘への虐待(肉体・精神両方)、支配に対する告発本だ。

実は今迄にだって「叫ぶ私」(森瑤子/集英社文庫)など、「母の方にこそ問題があり、自分はそれで傷ついた」と書いた本はあったのだけれど、「母親は何があっても子どもを可愛がるもの、きっと誤解があったんだろう」ぐらいに扱われてきた。まだそんな幻想を持っている人も少なくないだろうが、そういう人こそ「8月の家族たち」を見てほしい。

絶えず暴言を吐き皮肉を言い、威嚇で恐怖を与え、時には自分で自分を傷つけてまで相手の罪悪感をかきたて、そうした行為全部で相手を支配しようとする―そんな人間が家族の中に一人でもいれば、家庭は地獄になり、まず崩壊する。

この作品の中でもそれはハッキリ描かれる。支配者バイオレットの夫はアルコール中毒に陥り、長女バーバラは自分の優しい夫に対しても過度に攻撃的で、二女三女も恋愛や結婚に問題を抱え、近くに住むバイオレットの妹に至っては、姉への復讐心からか、とんでもないことをする(ネタバレになるので言えませんが…)。彼女の吐く毒が、全員を確実に蝕んでいっている。

もしこんな人が家族にいたら、いったい私たちはどうすればいいの?

答えはひとつ、「逃げろ!」。
この映画を見たあと、「パーソナリティ障害」(岡田尊司著/PHP新書)「他人を攻撃せずにはいられない人」(片田珠美著/PHP新書)「知らずに他人を傷つける人たち」(香山リカ/ベスト新書)などの本を読んで見たが、その答えは「相手は絶対に変らないのだから、逃げるしかない」。全く見事に同じだった。

この映画のプロデューサーに、家族の問題を真摯に描くジョージ・クルーニーも入っている。心やさしい彼は、「そんなビョーキの親なら捨ててもいい。罪悪感なんか持たなくていいんだよ」と、優しく保障しようとしたんだね、きっと。

映画『8月の家族たち』データ

上映時間:121分
製作年:2013年
製作国:アメリカ
監督:ジョン・ウェルズ
原作・脚本:トレイシー・レッツ
配給:アスミック・エース
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