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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『 海街diary 』から学ぶ脚本術/4人姉妹のキャラクターが起承転結

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

姉妹がうらやましい…

姉妹のある人が羨ましい。年をとればとるほどその思いは深まって行く。

まわりにも「何かあったら今でもお姉チャンに相談する」50代や、一緒に旅行へ行くと、必ず「妹にお土産買わなくちゃ」と言う40代がいてほほえましい。お葬式に参列したら、3姉妹が抱き合って泣いていて、見るからに「悲しみを分け合っている」という感じがした。

姉妹がいるという事は、生まれながらにして「強い味方をもっている」ようなものだ。
私には2つ下の弟がいるが、普段は思い出しもしないし、たまに会った時の正直な感想は「だれ、このおっさん?」。地方公務員一筋という職歴からか、堅苦しくてユーモアがわからないのは仕方ないが、子どもの頃の思い出話をしても、たいていニベもなく「知らんな」「覚えとらん」というのを聞くと、「女と男では見てたものが違うのだろうか」とため息がでる。つまらん。

そんな私にとって、「4人姉妹」は贅沢そのもの、その上4姉妹が揃って美形だなんて羨ましすぎるよ…と思う。まあ、これは「海街diary」(2015/是枝裕和監督)という映画の中のことなんですが。

「海街」の魅力輝く

鎌倉に住む3人姉妹の所に、15年前に家を出て行き音信不通だった父の訃報が届く。
山形の葬儀に出かけた長女の幸(綾瀬はるか)、二女の佳乃(長澤まさみ)、三女の千佳(夏帆)は、そこで腹違いの妹すず(広瀬すず)と遭う。

衝動的に「鎌倉の家で一緒に暮らそう」と言う幸に、すずは「行きます!」と答え、新しい暮しが始まった。それぞれに忙しい日常を送りながら、ゆっくりと「4人姉妹」になって行く…。

原作は吉田秋生の同名マンガ。吉田作品の特徴は、ドキッとする意外な設定、繊細な人間関係の表現、深刻になりすぎるところをサラッとかわすユーモア感覚などだが、是枝監督はその特徴を映画にうまく活かしている(監督ありがとう!吉田先生の長いファンです)。

また、原作にある古都鎌倉(海街/うみまちというネーミングが既にバツグンだ!)の魅力が映画の全篇に漂っているところもいい。

海が近いのに、まちのすぐ裏側には深山のような自然がある、長い桜のトンネル、風格のある古い住宅、日常の中に歴史が溶け込んでいる…いやあ、鎌倉が「住んでみたい街」ベスト3にいつも選ばれるワケがわかりました。こうした「美しい街のたたずまい」を伝えることこそ、映画の得意技だ。

また4人姉妹に当代最高の女優達をキャスティングしたことで、マンガ以上にそれぞれの個性がクッキリ輝いた。マンガだと、どうしても顔が似てしまうんだけれど、女優が演じればその違いがよくわかる。

ナイスバディを惜しげなく見せた長澤まさみ、とぼけた味わいが役柄にピッタリの夏帆、まだ16歳ながら翳りのある美貌が際立つ広瀬すず(宮沢りえ以来の本格的美少女だ)しかし何と言っても、長女役の綾瀬はるかがバツグンにいい。

小津安次郎映画の中の原節子のように、キリリと清潔でいながら妖艶な雰囲気もあって見惚れるばかり。この映画は綾瀬の代表作になるのではないだろうか。

※You Tube 海街diary予告篇ギャガ公式チャンネル

4姉妹ならうまくいく!

「4姉妹もの」って、小説でも映画でもたいてい面白い。子どもの頃から繰り返し読んだ「若草物語」、小説も映画も大好きな「細雪」、ついでにマンガなら、秋月りすの「かしましハウス」(全8冊・竹書房刊)もなかなかイケます。

どうしてこんなに4姉妹ものは面白いの?私はその理由を、「4姉妹は、存在そのものが起承転結という王道で、おさまりがいいから」ではないかという仮説を立てた。

えーと、行きます。

まず長女が「起」。この人が全体の雰囲気を決める。たいていしっかり者で思いやりがあるけれど、どこかヌケたところがあるという設定かな。
「承」の二女は長女の雰囲気を受け継ぎつつも、ちょっと「反」の要素もある。
三女になると、これは「転」なので、上の二人の味わいとは違う個性を出す。
そして「結」の四女は、何をやっても姉たちから許されるマスコット的存在ですね。

4姉妹は、この安定した構造ゆえに「必ず面白い」。

「細雪」(83/市川崑)なんて、まんまコレです。
「起」岸恵子が貫禄の「船場旧家の長女」でいながら、ちょっと時代とズレた感じに可愛げがあり、「承」二女の佐久間良子は、長女のおっとりした育ちの良さと同質なものがありながら、そこに現代的な華やかさが加わって、「転」三女の吉永小百合は一転し、美貌だけれど、無個性が個性のような「嫌な女」スレスレの訳の分からなさが際立ち、「結」四女の古手川祐子は奔放で素行も悪いが、姉たちを慕い、姉たちも体面をつくろいつつもかばわずにはいられない愛されキャラという感じで、見事な「起承転結」構造になっている。

ちょっとだけ脱線させてね。

みなさん吉永小百合の代表作って知ってますか?「キューポラのある街」(62/浦山桐郎)と、この「細雪」と言われてます。
私は長い事これに納得がいかなかった。「キューポラ」はいいとしても、なぜに「細雪」?だって吉永小百合はこの映画で、なんにも演技してないんだよ…と。

でも今回、この原稿を書くため、映画「細雪」を見直してみてふと気が付いた。市川崑監督は、吉永小百合にわざと演技をさせなかったんじゃないの?
吉永小百合がセリフを言い、演技をすると、たいてい画面から浮く。
何をどうやっても、そこにいるのは「吉永小百合」でしかないからだ。

だから市川崑監督は、この「細雪」で、わざと彼女に澄ました無表情、内面のわからない消え入るような棒読みセリフを与え、しかし華麗な着物で飾り立てて、その美しさだけを利用した。
実はこれが、吉永小百合の最高の使い方だったのだ…。長年の謎が解けたような気がした。市川監督、巨匠と言われるのも当然ですね。

盤石な4姉妹という構造に、女優たちの魅力を知って引きだす演技指導、プラス四季折々の自然の美しさ…是枝監督は、4姉妹ものの最高傑作映画である「細雪」の構造を研究しぬき、それを「海街diary」に応用したのだろう。

まだ「巨匠」というには若い是枝裕和監督だけど、「小巨匠」(いいにくいかな)または「巨匠発展途上監督」の資格充分と見ました。

映画『海街diary』データ

上映時間:126分
製作年:2012年
製作国:日本
監督・脚本:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず
配給:東宝、ギャガ

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