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映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』『おーい、応為』
シナリオを楽しむ 見どころ・感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その103-
『ワン・バトル・アフター・アナザー』説明なしの【起】と秀逸キャラクター

連投ですが、公開されたばかりの『ワン・バトル・アフター・アナザー』を。
脚本・監督は、『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』など、常に問題作、秀作しか撮らない俊英ポール・トーマス・アンダーソン。なんでもスティーブン・スピルバーグが大絶賛し、すでに3回見たとか。確かに創り手たちを驚嘆、嫉妬させるくらいにおもしろい!

時々「おもしろさとは何ですか?」とか逆に、「おもしろくない、つまらない脚本とは?」といった質問をされます。簡単に定義づけられないのですが、一つの明解な答えとしては「この映画を見ろ! これがおもしろさだ」と。

まさに今回の「ここを見ろ!」は、その「おもしろさとは」なのですが、もうちょっとポイントを絞りますね。

まず導入部、【起承転結】の【起】、ハリウッド型三幕構成でいうところの第一幕について。
初心者のシナリオに顕著な最初のつまづき、つまらなさこそがまさにここ。

【起】で、物語の設定や人物の生い立ち、境遇とかをやたらと説明しようとする。いわゆる「前セツ」になっている。おおむね場面(人物)が平板で動いていない。作者は動かしているつもりだったりするのですが、ただ人物の日常とか、過去がたらたらと綴られていたりする。この【起】で「いかに説明してしまうか?」については、第57回に『シン・ウルトラマン』で、その巧みな「前セツ」方法を述べていました。

さて『ワン・バトル・アフター・アナザー』。
まず、16年後の第二幕に至るまでの、息もつかせぬ第一幕部の描き方を見てほしい。主人公の爆弾犯ボブ(レオナルド・ディカプリオ)と、恋人の革命家ペルフィディア(テヤナ・テイラー)らの、難民キャンプを襲撃するテロ活動。そこに後の敵役となる軍人ロックジョー(ショーン・ペン)と、ペルフィディアとの出会い、そしてその後の関わらせ方……。

事件を通して主要人物の紹介や物語の方向性までを、まったく説明と感じさせずに描いてしまう。かなり危ない世界だったり、内容ではあるのですが、観客はいつの間にか彼らに感情移入してしまう。そのままこの第一幕で一気に、ボブらテログループの瓦解までを、ノンストップで描いています。
そこから16年後となり、ボブは娘のウィラ(チェイス・インフィニティ)と密かに暮らしているが、執念深く追っていたロックジョーの魔の手が及ぶようになる。以後の怒濤の展開は映画館で体験してほしい。

さて、「ここを見ろ!」の二つ目は、まさにキャラクターの秀逸さ。
主人公ボブは、二枚目スターとして売れていたレオ様ことディカプリオですが、かっこよさは皆無。ドジばかり踏むくたびれた中年オヤジで、その不器用ぶりで奮闘する姿が涙ぐましい。
そんなダメオヤジなのですが、中盤からのボブは、ひとつの「動機」と「目的」でひたすら突っ走ります。これも主人公の魅力づけです。

さらに特筆されるのが、敵役のショーン・ペン演じるロックジョー。彼なりの正義と欲望を貫こうとする。なんと、人間臭さに満ちた魅力的なジジイか。
こうした敵役、重要な脇役の描き方としては、第61回に台湾のホラー映画『哭悲 THE SADNESS』で、主人公たちを追い込むビジネスマン。さらには、第65回の韓国映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』で、マ・ドンソク演じる主人公を際立てる脇キャラの描き方を述べていました。

本作のロックジョーはまさに、ボブと対照的な敵役ですが、他にも、ボブを助けるベニチオ・デル・トロ演じるセンセイの妙なおかしさ。さらにはペルフィディアやウィラといった女性たちも皆、実に個性的です。

そうしたそれぞれキャラクターの描き方、からませ方。弱さや欠点だらけの彼らが、ぶつかり合うことでストーリーが展開します。

もうひとつ本作は、ノンストップのおもしろさに満ちたエンタメ映画なのですが、この映画が撮られていたのは2年前だったということ。まさに今、アメリカで起きているトランプ政権下の分断や事件をリアルに感じさせます。

優れた映画は、時代を描いているのですが、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は時代に先駆けている。そのリアルさもおもしろさとなっている要因でしょう。ぜひ映画館で、“おもしろさ”の秘訣を感じとってください。

▼ワーナー ブラザース 公式チャンネル
映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』日本版本予告|2025年10月3日(金)公開

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-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その104-
『おーい、応為』人間ドラマと時代劇に色を添える“季節感”

見応えある時代劇の『おーい、応為』を取り上げます。
監督・脚本は『日日是好日』や『MOTHER マザー』などの大森立嗣さん。独特のタイトルは、江戸中後期に活躍した日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎(永瀬正敏)が、やはり絵師だった娘のお栄(長澤まさみ)を呼ぶ「おーい、おーい」を、そのまま画号にしたという逸話から。

北斎は押しも押されぬ日本を代表する大浮世絵師ですが、実娘のお栄も見事な腕を持っていた絵師でした。確認されている応為作の絵は十数点だけですが、晩年の北斎の絵の多くを代筆していたともいわれています。

代表作のひとつが『吉原格子先之図』。吉原遊郭の遊女屋の格子越しに、遊女と客たちの姿を、光と影のコントラストで描いた傑作肉筆画で、この光景を見るお栄と、実際の絵が描かれる場面の素晴らしさ。ぜひご覧下さい。

北斎の生き様を描いた時代劇として思い出されるのは、1981年の新藤兼人監督の『北斎漫画』。北斎を緒形拳さん、お栄を田中裕子さんで、共に創作に命をかける友人の曲亭馬琴を西田敏行さんが演じていました。
もう一作、本作の原作にも挙げられている杉浦日向子さんの傑作コミック『百日紅』を、アニメ化した原恵一監督の2015年『百日紅~Miss HOKUSAI~』(脚本・丸尾みほ)も、江戸の文物や町並みを巧みに再現していました。

さて本コラムでは時代劇は、第71回に職業性に着目してほしいという旨で、下肥買い(汚穢屋)の若者と、浪人の娘の青春を描いた『せかいのおきく』。第90回に、異色のタイムスリップものの『侍タイムスリッパー』。そして第92回、実在した戯作者の滝沢馬琴と、彼の読本に挿絵を描いた北斎の創作談義と、馬琴が書いた『南総里見八犬伝』を、交互に展開させた『八犬伝』を取り上げました。

書こうとするだけでなく時代劇と親しむ意味でも、これらの作品も、ぜひ見てほしいのですが、今回の「ここを見ろ!」は、時代劇(に限らないのですが)を描く際に、欠かせない要素である“季節感”について。

基礎講座などでは、「時間経過」の手法の中で、物語の設定そのものを決める時、さらには描こうとする場面を作ろうとする際に、季節がいつなのか? 雨や風、雪といった天候をきちんと踏まえなくてはいけない、とお教えします。

恋人同士がケンカしたり、愛の告白をするシーンを描くとして、
人物たちのキャラクターや経緯を作るのは大前提として、
その場面をどこでさせるか? 

さらに桜の舞う川縁か、入道雲が見える丘なのか、粉雪散る駅のプラットホームなのか、どしゃぶりの雨の中でなのか? そうした場面の作りで、映像だったり人物の心情、セリフもまったく違ってきます。

そうした場面を作る補助として、俳句愛好者が必携とする『歳時記』を持つこともオススメします。特に時代劇を描く際には、この『歳時記』が役に立ちます。季節の風物はもちろん、暮らしや行事などをディテールとして取り入れることで、俄然、物語に色彩をまとうことができます。

私は時代劇(小説でもシナリオでも)を書く際に、何度も読み返す本が、『百日紅』の作者の、杉浦日向子さんのマンガやエッセイ本です。『百日紅』はまさにですが、お栄や北斎の日常や生活、絵を描く姿に、必ずその季節や天候が空気として、息吹のように描かれています。

そして『おーい、応為』のそれぞれのシーン。北斎は引っ越し魔でしたが、行った先々の長屋の四季。江戸の名物の火事、夏の金魚や蛍、川開きの花火、七夕、井戸替え、蚊帳、炬燵にくるまったまま絵を描く北斎、桜の散る中での大八車の引っ越し、ウグイスの鳴き声、そして北斎が生涯のモチーフとした富士行脚する二人……日本の四季の美しさ。

それにしても、主人公のお栄を演じた長澤まさみさん。なんというかっこよさ、江戸のダンディズム。
特に無地の着物に男物の兵児帯で、素足に下駄、街を歩く姿のりりしさ。北斎がお栄を「アゴ」と呼んだように、器量はけっしてよくなかったと伝えられているのですが、真剣な眼差しで筆を握る表情のほれぼれとする美しさ。私は長澤さんの新たな代表作になると思うのですが。

お栄こと葛飾応為の生涯は謎に包まれています。歴史を掘り起こすと、こうした人物はたくさんいます。それこそ歴史はネタの宝庫でもあります。時代劇をそうした眼で見直すこともできる秀作です。

▼東京テアトル公式チャンネル
『おーい、応為』10.17 Fri [本予告] 長澤まさみ×髙橋海人×永瀬正敏

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