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ハラハラ ドキドキするドラマ を書くには

今回、浅田講師が伝授する“あっちもこっちも分身の術”を使うと、視聴者を魅了する、ハラハラドキドキさせるシーンが描けるようになります。20枚シナリオやコンクールでこの術を取り入れてみてください。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

映像の特性を生かす

みなさん、覚えていますか?
基礎講座で初めて習ったのはシナリオの原稿用紙の書き方ですが、では次の週は?
そう、映像の特性です。

そして、その映像の特性の一番最初が、時間と空間を飛躍させることができる、でした。つまりワープできるのです。

普通、私たちはワープできません。たとえば、私が自宅マンションを「いってきま~す」と出てから、エレベーターに乗ってマンションを出て駅まで歩いて電車に乗って、途中で乗り換えて、また電車に乗って、表参道駅から歩いて、シナリオ・センターに「おはようございます」と入ってくるまで、一切、省略できません。

でも映像なら「いってきま~す」と家を出たシーンの次に「おはようございます」とシナリオ・センターに入ってくるシーンを持ってくることができます。

じゃあ、どこを描いて、どこを省略するかを考えなければならないのですが、この、どこを描くか省略するかは、みなさん、普段の20枚シナリオでも、すごく考えているんじゃないかと思います。

もう一つ、時間と空間を飛躍させることができるという特性を生かして、できることがあります。分身の術です。私たちは普通、違う場所で同時に起こっていることを見ることはできません。でも、映像ならできます。

自宅マンションを出てシナリオ・センターまでの道のりを描きながら、たとえば表参道でバイオテロを企てているグループがいて着々と準備を進めていくのを描くのです。主人公が表参道に向かうのと、テログループも違う電車だけど表参道駅に近づいていくのを同時並行で描くとハラハラドキドキ感が生まれます。

あるいは、自宅マンションからシナリオ・センターまで電車に乗り継いでいくのを描きながら、同時並行して、アフリカの奥地で水を汲みに遠くまで歩いて行くところを描けば、今の日本の便利さや、その便利さで怠惰になったり失われているものを感じさせることができるかもしれません。

この、違う場所で起こっていることを同時並行して描くことは、みなさん、意外と考えていないのではないでしょうか。

もちろん20枚シナリオのように枚数の少ないシナリオの場合、なるべく主人公だけを追いかけて、主人公のドラマをしっかりと描くということもあると思います。

でも、20枚シナリオは部分です。これから描こうとする部分の、そのまた半分だけを描いて、同時並行して起こっていることをプラスすることで、よりドラマを深くしたり広げたりできるかもしれません。ぜひぜひ、同時並行のドラマを描いてみて下さい。

というわけで今回は、あっちもこっちも分身の術!

映画『炎のランナー』の全部同時進行

ちょっと特殊な例ですが、映画では、主人公ともう一人の人物が最初から最後まで同時並行して描かれていることがあります。

『炎のランナー』は、ハロルド・エーブラムス(ベン・クロス)とエリック・リデル(イアン・チャールソン)という実在する二人の陸上競技100メートル走者の1919年から1924年パリ・オリンピックまでを描いたスポーツ青春ドラマです。(映画の冒頭と最後は1978年のエーブラムスの追悼集会が描かれておりサンドイッチ回想法を使っていますが)

ユダヤ人であるエーブラムスは潜在的な差別と戦っていて、陸上競技で走ることも自身を世間に認めさせる戦いであるというドラマがあります。一方、スコットランドの宣教師であるリデルにとって走ることは信仰であり伝道でしたが、後半、100メートルの予選が安息日である日曜日に行われ出場を辞退しなければならなくなります。

この二人のドラマは基本的に同時並行で描かれ、ほとんど交わることはありません。

二人が関わるシーンは、エーブラムスが、スコットランドとフランスの競技会でリデルの強靭な走りを観戦、さらに一度だけ直接対決した時にリデルに敗れたショックからプロのコーチにトレーニングを受けようと決意するところ、そして、オリンピックで400メートルに出場することになり金メダルを獲得するリデルの走りを観戦するところだけです。

確かに、たとえばエーブラムスのドラマだけを掘り下げて描くこともできるでしょう。しかし、それではユダヤ人に対する潜在的な差別と戦うドラマにだけ観客の目が向いてしまうかもしれません。リデルのドラマを同時並行で描くことで、最初は対照的に見えていた二人が、だんだん、ともに戦っているように見えてきて、より広い大きなドラマを感じることができます。

映画『のど自慢』の同時並行

映画『のど自慢』も、室井滋さん演じる売れない演歌歌手・赤城麗子と大友康平さん演じる中年パパ・荒木圭介のドラマが最初から最後まで同時並行で描かれています。

ストーリーは、NHKの人気長寿番組『のど自慢』に出場しようとする町の人々を描く群像劇ですが、中心となるのは麗子と荒木、そして不倫の末に妊娠し家出する姉を応援する女子高生、不登校の孫と暮らす老人の四人で、それぞれのホームドラマにもなっています。

とりわけメインは麗子と荒木であり、主人公は麗子なのですが、麗子と女子高生が『のど自慢』に出場する歌を取り替えたり、温泉地に営業に向かう麗子が道に迷い老人に尋ねるシーンがあったりするものの、麗子と荒木は、まったく絡みません。たった一つ、荒木がやっていたラーメン屋が火事でなくなってしまっていて、その跡地で歌の練習をする荒木と娘たちを、たまたま通りかかった麗子がチラッと見るシーンがあるだけです。

映画の全体はコメディタッチで、荒木のドラマも完全なホームコメディなのですが、麗子のドラマはシリアスで、二つのドラマのジャンルやタッチも違います。この対照的な二つのドラマが同時並行で描かれることで互いのドラマ(特に主人公の麗子のドラマ)が強調されます。

麗子のドラマのクライマックスは、のど自慢の会場で見事に鐘を鳴らし泣き崩れる主人公と、その様子をテレビで観ている父親の、これも二つの場所を同時に描く分身の術を使っているのですが、荒木のドラマがあるからこそ、このクライマックスの感動が、より大きなものになっています。

ドラマ『アンフェア』の分身の術

分身の術を使った、ちょっと面白いテクニックを紹介します。

連続ドラマ『アンフェア』の第4話、篠原涼子さん演じる女性刑事・雪平夏見と、瑛太さん演じる新人刑事・安藤一之は、推理小説で予告される連続殺人事件を追っていますが、次のターゲットと予告された「か弱き者」が夏見の娘・美央ではないかと美央の居所を探します。

一方、美央はベビーシッターに連れ出され、とあるビルの屋上にいます。「おうちにかえろう」という美央にベビーシッターは「もっと遠くに行こうか、ね……?」と。

その時、夏見はビルの非常階段を駆け上がっていて、屋上に出ると美央はいません。そして、被疑者だと思われていた男の死体があります。美央がいたビルと夏見が非常階段を駆け上がったビルは別の場所だったのです。同時並行で描くことで、あたかも同じ場所であるかのように思わせたのです。

第9話でも同じ手を使っていて、誘拐されていた美央が無事保護され、実行犯は殺されてしまいます。主犯の手掛かりを知っているのは美央だけ。

録音された読み聞かせをヘッドホンで聞きながら絵本を見ている美央が映ります。と、美央の家の玄関に主犯が来て呼び鈴を押します。ヘッドホンに聞き入り絵本を見ている美央。主犯がピッキングで鍵を開け、2階への階段を上がり、部屋のドアを開けます。

絵本を見ている美央のヘッドホンを何者かの手が外します。驚いて振り向くと、そこに立っているのは家政婦紹介所の女性スタッフで「おやつにしましょうか」と。美央は、自宅にいたのではなく、そこに預けられていたのです。誰もいない部屋で主犯が舌打ちしています。

みなさんも、ぜひ同時並行のドラマを試してみてください。

いま書こうとしているドラマと、どんなドラマを組み合わせたら面白くなるかな?

同じ時間に別の場所で、どんな事が起こっているのかな?

と考えるだけでも視野や発想が広がるはずです。

出典:『月刊シナリオ教室』(2011年11月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は2月27日に更新予定です

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