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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

作家の視点

一橋桐子(76)の犯罪日記(徳間書店刊)

人として

シナリオ・センター代表の小林です。各地で今年一番の寒さになる中、「第3波」でしょうか。
東京感染者393名、北海道230名と増加の一途をたどっています。
本当に心配ですが、それでも、世界中が不安に怯えながらも、生きていかなければならない、暮らしていかなければならないのです。
どうしたらいいのか途方に暮れながら、ただただ消毒・手洗い・マスク着用・ソーシャルディスタンス。
コロナが防げると信じて、できることをやっていくしかないのでしょう。
そして、感染しない、させないことは大事ですが、コロナ感染は、いつどこで誰におきてもおかしくないことですから、コロナ感染者に対しての誹謗中傷はもちろんのこと、不当な差別、偏見、いじめをしないことはいつも心の片隅に置いておきましょう。
自分がなったら、自分が誹謗中傷されたら・・・想像しましょう。
人間としてあるべき姿だと思うのです。

一橋桐子(76)の犯罪日記

心から楽しめ、考えさせられ、癒される気持ちの良い本に出会いました。
出身ライター原田ひ香さんの新刊です。
「一橋桐子(76)の犯罪日記」(徳間書店刊)
タイトルからすると、どんな犯罪を犯した人のお話しかと思われるでしょう。

主人公の一橋桐子さん、76才は、「万引き、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人」どれを犯したら、一番長く刑務所に入れるのか、本気で考えています。
桐子さん、長年老親の面倒をみてきたら、気が付けば結婚もせず76歳。唯一の家も何も介護を手伝わなかった姉に遺産分けしてしまい、わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしていました。
それでも、貯金もなく、両親を送って一人ぼっちになった桐子は、同居してくれた親友のトモとの生活にやっと幸せを見い出します。
が、その幸せもつかの間、トモに先立たれ、このままだと孤独死して人の迷惑をかえてしまうと絶望を抱えながら生きていく日々となりました。
そんな時、高齢の受刑者が刑務所で介護されている姿をテレビでみて、「これだ!」
自分も刑務所に入れば、衣食住は確保でき、人に迷惑かけずに生きていけると長く刑務所に入っていられる犯罪を模索し始めます。
まず考えたのが万引き。
根が真面目で正直な桐子さん、イチゴ大福ひとつをドキドキしながら万引きして、Gメンにつかまってしまいますが、見逃してもらえてしまいました。
万引きくらいでは警察が入ることも難しそう・・・そこで、次々犯罪を目論むのですが。

お金のない高齢者の一人暮らしの話しですが、原田ひ香さんの切り口の鋭さに脱帽です。
うまい、本当にうまい。登場人物一人一人に、センターでお話しするところの二面性の魅力が満載。
人とのかかわりあいの間(マ)が絶妙で、主人公桐子さんのキャラクターを見事に浮き彫りにしていきます。
実際、刑務所に入りたいと考えざるを得ない老人が増えています。

桐子さんの境遇は、私の幼馴染の境遇とそっくりで胸が痛くなりました。
7人も兄弟のいる幼馴染は末っ子なのに、会社も辞めて、恋人と別れて老親の面倒をみてきました。
60過ぎて両親を見送ったときには、もはやまともに働ける場所もなく、結婚もできず、その挙句、30年も両親を面倒見た彼女に待っていたのは、兄弟からの感謝ではなく相続争い。
すったもんだの末、遺産として残った家を売り、1/7だけもらった幼馴染は、兄弟と縁を切り、小さなアパートへ引っ越していきました。
彼女がどんな生活をしていたかをみてきた近所の人々は、あまりの兄弟の仕打ちに唖然としました。
この本を読んで、思わず彼女が桐子さんのように、生きていることを祈ってしまいました。

原田さんは、そんな老人たちをよくみていらっしゃたのだと思います。
ですが、原田さんは、単に孤独でわずかな年金で生きている老人たちの話を描くことで終わらせません。
人には誰しも裏と表があり、楽しみも喜びも含めて生きていくことの難しさ、悲しさ、寂しさを抱えていること。
桐子さんだけでなく登場人物一人一人の心の闇、寂しさを桐子さんを通して浮き彫りにすることで、「生きる」ことへ光を当てています。

若い人からご高齢の方まですべての方に読んでいただきたい。
人は誰しも老いていくこと、ちゃんとわかって生きていくことが大切なのだと思いました。
桐子の一番若いお友達「誘拐」を企てる高校生の雪菜ちゃんに私も出会いたいです。いい大人になるよ、雪菜ちゃん。

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