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シナリオ・センター

代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

跳べ!飛べ!

水上のフライト(徳間文庫刊)

共存の難しさ

シナリオ・センター代表の小林です。すごーく静かなシナリオ・センターです。
新井は201でエアゼミナールをやっており、青木は銀行へ、私一人事務局で、五月の風を味わいながら表参道シナリオ日記を書いています。
今まで今日は何を書こうと悩んだり、時間がないとか、書かなくっちゃと焦ったりする時もあったのですが、この外出自粛になって、毎日他人(ひと)に向かって発信できるという幸せをしみじみ感じています。なんかおしゃべりしたいですもの。(笑)

日曜日に、久しぶりに隣に住んでいる兄と姪と夕飯をともにしました。
自粛までは、休日は一緒にお膳を囲むことが多かったのですが、この外出自粛でわずか1メートルも離れていない隣とも、お取り寄せをお互いに分け合ったり、玄関先で話すくらいでしか会いませんでした。
なので、1ヵ月半ぶり。まあ、よくしゃべりました。
しかもお酒がはいると、おしゃべりも声も知らず知らずのうちにエスカレートしてくる・・・これが一番危ないというのはよくわかりました。
とはいえ、おしゃべりなしで黙々とお酒飲んでご飯食べ終えて、マスクをつけてからおしゃべりする・・・っていうのもなんだかなぁって気がします。
ワクチンができるまではウイルスと共存しながら社会を回していくとなると、色々難しい面が出てくるでしょう。どこまでが危ないのかという感じ方は、人それぞれでもありますし・・・。世界中で色々と考えていく必要があるのではと思います。
ただ、他人を中傷誹謗し合ったりするのだけはやめたいです。感染者の人を村八分的にしたり、医療、運送、ごみ収集、スーパー等で一生懸命働いてくださっている方々を、戦時中の特高みたいな方がまたぞろ出てきて、つるし上げたり、差別したりしているという話を聞くと、ゾッとします。
この状況でこそ、人としてどうあるべきか、じっくり考えることが大事なのだと思うのですが。

水上のフライト

出身ライターの土橋章宏さんの新作小説がでました。
「水上のフライト」(徳間文庫刊)
このお話は、ツタヤクリエータープログラムの企画部門で審査委員特別賞を受賞され、映画化されたもので、この夏パラリンピックに合わせて上映の予定でした。
ですが、残念なことにコロナウイルスのために、上映は延期されてしまいました。
なので、まず小説でフライトすることになりました。
映画がフライトできない分、小説が高く高く飛んでくれることでしょう。

パラリンピックのカヌーの瀬立モニカさんをモデルに土橋さんのオリジナル作品です。
日本記録保持者で走り高跳びのオリンピック選手に選ばれた遥は、その日事故にあって脊椎損傷による下半身麻痺となってしまいます。
女王と呼ばれるほど自分自身に自信を持ち、努力することをいとわなかった遥は、常にひとりで高みを目指してきただけにそのショックは大きく、心を閉ざしてしまいます。
高校の恩師がフリースクールをやっていて、無理やりいかされると、そこは東京で唯一の「川の駅」で、様々な問題をかかえている子供たちがカヌーを漕いでいました。
それぞれの家庭環境に傷つき悩む子どもたち、パラリンピックカヌーの女王やスポーツ健康学科の車いすの大学生知子、装具づくり青年颯太たちとので出会いから、遥は持ち前の女王気質を蘇らせ、パラカヌーという新しい競技の女王になるべく動き出していきます。そして・・・。

土橋さんは、この本で、障碍者の方々を見る目線をまったく違うものに変えました。
ドキュメンタリーでもニュースでも、障害を持っていることが気の毒とか可哀想という上から目線で描くことがほとんどです。
ですが、カヌーに向かい始めた遙を、土橋さんは負けず嫌いの自分勝手な考え方を持つ気高い女王キャラとして描いて、障碍者の立ち直る再生物語ではなく、ひとりのアスリートとしての成長物語として描いています。
私は、障碍(障害)者という言葉も嫌いですが、すべての人間はどこかしらに障害を持っていて誰一人真の健常者などいないと思っています。
前に目の不自由な友人田村さんに講演していただいてことがあります。
田村さんは、「私は車椅子を押せるし、車椅子の人は私の目になれる」という発想を持つ人が少ないとおっしゃっていたことを思いだしました。
その時に、難聴の私と目の不自由な田村さんと二人三脚で生きようねとお約束したのです。
土橋さんもたぶん同じ視点を持ちなのではないかと思いました。
誰もがそれぞれの持っているものを活かしていく、その勇気や自信の持ち方ひとつで人生を変えていくことができるのではないでしょうか。すべての人が助け合う、それはお互いのないもの、持っているものを補い合うのです。
このお話は売りの感動の物語っていうのとはちょっと違う気がします。
確かに彼女が不慮、不慮のでトップの座から引きずる下ろされて新たな競技へ挑戦するまでの葛藤、カヌーに挑戦する姿は感動的ですが、いわゆるお涙ものではありません。
今までの作品も土橋さんは、大上段に物事をただすとか、声高に発言するとかではなく、道徳的に迫るとかではなく、さりげなく笑いに包みつつ、「そうそう、そうだよね」って伝えていく技術が本当に見事です。
作家の視点とは、作家性とは、すべてのことに好奇心を持ち、ご自分で考え、行動することで生まれてくるもので、そして、しっかりと腹に落とし込んでいないと魅力ある伝え方、創作はできないのだと思いました。

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