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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

どんな時も登場人物になりきって。湊かなえさんの人物造形法

面影橋まで(光文社文庫刊) 表紙は上村松園さんの待月

人間造形

シナリオ・センター代表の小林です。12月というのにやけに暖かな本日です。 いつも広告を掲載していただいている公募ガイドの方がご挨拶に来て、今月の公募ガイドを1日早く下さいました。
人より早く読めるって・・・得した気分で(笑)、ページをめくっていたら湊かなえさん大特集でした。
湊かなえさんはイヤミスの女王ですが、そのうまい話運び、人物造形に魅了されます。

本誌の中で、着想するときに意識することというところで、人物の履歴を連想するという話がありました。 『もしこうなったらどうか、どう思うか、自分はこう思うけれど、反対の人の意見は何故そう思うか。どんな環境で育ったのか。どんな性格なのか。
反対はわりに考えやすいが、極端に違わないけれど違うという人もいる。結論は同じだけれど理由が違う人もいる。それはどんな理由か。こんな風に色々考えます。』
もうひとつ、キャラクターを大事にされているのに、キャラクター設定を紙に書かないのだそうです。
なぜかというと『書いたら書いたことに満足して、登場人物が頭の中にいなくなるから。考えていないと頭の中からいなくなってしまうので、考え続ける。登場人物が常に居続けなくてはいけない。紙に書いたものを見てああこうだったと思い出すくらいなら書かない。買い物に行っても、この登場人物だったら何を買うかなあとか、どんな買い方をするかなあとか、クイズ番組を見ていても、あの登場人物だったら、答えられない問題の時どんな一言を言うかなとか、常に自分の中で登場人物が動いている状態です。』
すごいでしょ。ここまで考えて掘り下げていかないと人間は描けないのです。

湊かなえさんは、公募ガイドで柏田が連載していた「実践シナリオ教室」で優秀賞をとられてから、柏田の本を読みながらラジオドラマのシナリオのコンクールで大賞を受賞され、そのすぐに小説推理新人賞を受賞されました。
そんなご縁もあって柏田との親交もいまだに続いています。 

面影橋まで

「面影橋まで」(光文社時代小説文庫刊)
湊さんの師でもあり、講師であり出身ライターの柏田道夫の「水に映る 江戸水景夜話」が文庫になりました。
表紙がすごいのです。なんとなんと足立美術館所蔵上村松園の「待月」(1944)なのです。まさか本の表紙になるとはびっくりですが、この小説にとてもマッチして本当に嬉しいです。
表紙もお楽しみにご覧いただければと思います。

表紙だけではなくもちろん中身の小説が素晴らしい。(笑)
題名の面影橋を描いた「面影橋ほたる舞い」は、母親には死なれ、9歳の時に父親が人を殺して逃げたため、船宿で下働きとなったおさん。父親がやっとおさんに会いに来るとそこに待っていたのは・・・。地獄を味わったおさんが死のうとして初めて知った他人の優しさ。髪結いの父親の鬢づけ油の匂い、着物についた母親と同じ醤油と味噌とぬか袋の入り混じった匂い、ほたるの乱舞など五感を刺激する描写が9歳のおさんの哀れさをより深く浮き彫りにします。
このほかに水(川)をめぐる5つのお話しが載っていますが、夜鷹であったり、水茶屋の女であったり、大店の箱入り娘であったり、様々な女性の切ない切ない想いが水面とともに流れています。
時代小説ですが、そこには今はもうなくなってしまった川が目の当たりにあるように、そこで悩み苦しみながら生きている人々の息遣いが聞こえてくるように描かれています。
是非、読んでみて下さい。

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