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『 半沢直樹 』に学ぶ脚本の勉強法:視聴者を魅了する主人公の描き方

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
決めゼリフ「倍返しだ!」が流行語となり、驚異的な視聴率を記録した大ヒットドラマ『半沢直樹』。でも、なぜこんなにヒットしたのか分析していますか?ヒントは、この決めゼリフを言うまでに、主人公の半沢がどんな状態になっているか、です。主人公がどうなれば視聴者は魅了されるのでしょうか。

「才能」の言葉に惑わされない

こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

「才能」なんて言葉に惑わされていませんか?

このシナリオ・パラダイスでは、何をどうすれば面白いシナリオを書けるか、できるだけ具体的に伝えてきました。ビビデバビデブーと唱えれば、たちまち面白いシナリオを書けるようになる魔法の呪文なんてありません。

同じように面白いシナリオが書ける「才能」なんてものも実際にはありません。

試しに「才能」って具体的に何なのか考えてみて下さい。ね? よく分からないでしょ? そんな漠然とした得体の知れないものに惑わされないよう気をつけてください。

もちろん好き嫌いはあります。私の中学の同級生で現場監督をしている男がいますが、作業報告書にたった3行の文章を書くのさえ苦痛だそうです。そんな人にシナリオを書くことは向かないでしょう。

イチロー選手は、たぶん誰よりも野球が好きだろうと思います。ヒットを打った時やファインプレーした時の快感を誰よりも感じているでしょう。

時々「自分にはシナリオの才能があるかどうか見抜く力がある」と言われる方がいたりしますが、決して信じないでください。

その人は、ただ何人かにシナリオを書かせて、その時に一番面白いシナリオを書いた人を才能があると言っているだけです。

じゃあ、一番じゃない人は面白いシナリオが書けないのかというと、そうではありません。シナリオ・センターの講師はみんな知っています。

最初は他の人に比べて大して面白くないシナリオしか書けなかったけど、書き続けて書き続けて、どんどん上手くなって面白いシナリオを書けるようになってデビューしたりプロで活躍している人が何人もいるのです。

でも、書いても書いても、ちっとも面白いシナリオにならないんだけど。それって、やっぱり才能がないんじゃないの?

そんなことはありません。面白くならないのは、ちょっと勘違いしているだけなんです。

一番多い勘違いは、ああなって、こうなってとストーリーを考えてストーリーを書こうとしているから。ああなって、こうなってというストーリーでは面白くなりません。

たちが悪いことに、そこそこ面白くなってしまうんです。決してつまらなくはない、そこそこ面白いシナリオが書けてしまうので、そこで満足してしまうか、もっとストーリーを考えたら、もっと面白くなるんじゃないかと勘違いしてしまいます。

で、書いても書いても面白くならない、そこそこにはなるけど、そこそこにしかならないのです。

もう一つたちが悪いのは、ああなって、こうなってとストーリーを考えるのって、ものすごく楽しいことです。だって妄想ですから。みなさん、妄想、大好きですよね?

楽しいと思うことがヤル気を上げる一番の方法なので妄想するなとは言いにくいのですが、でも、人の妄想を聞くことを想像してみてください。ね? 嫌でしょ?

じゃあ、どうすればいいかというと、ああなって、こうなってとストーリーを考えるのではなく、主人公を困らせるように、困らせるようにしてみてください。

どうすれば主人公が困るかな、こんなことが起こったら主人公が困るんじゃないか、こんなこと言われたら主人公が困るんじゃないかと妄想するのです。

『半沢直樹』の困らせ方

2012年7月号でも『白い巨塔』を取り上げて、主人公を困らせれば困らせるほど面白いシナリオになることを書きました。主人公を困らせれば観客や視聴者は、どうなる? どうする? と引きこまれます。

主人公を困らせれば困らせるほどグイグイ引きこまれます。主人公を困らせて、困らせて、とことん困らせることで「面白い」シナリオになることを、もう一度、お話したいと思います。

今回取り上げるドラマは『半沢直樹』です。驚異的な視聴率を記録した大ヒットドラマであり、主人公の決めゼリフ「倍返しだ!」も流行語になりました。

堺雅人さん演じる主人公・半沢直樹は銀行員。大阪西支店の融資課長として支店長の命令で5億円を融資した製鉄会社が倒産、5億円を回収しなければならなくなり…という第一部。

東京本部第二営業部次長に昇進した半沢が、200億円を融資した名門ホテルの経営再建と金融庁検査に挑むことになり…というのが第二部のストーリー。

銀行員という一般的なサラリーマンに近い職業を舞台にしたお仕事ドラマは珍しく、地味といえば地味な世界のはずなのですが、やはり主人公のキャラクターに個性があります。

普通のサラリーマンなら言いたくても言えないようなことでも、上司だろうが国税局や金融庁の役人だろうが臆することなく言い放つ爽快感は、リアリティーやフィクション性の違いこそあれ『ハケンの品格』の主人公・大前春子に匹敵するでしょう。

まず「分かっているのか、5億だぞ5億。お前のせいで損失したんだ。土下座しろ!」「何としても5億回収してください。もしできなければ…」と支店長と副支店長に困らされて第1話が始まります。

そして、5億円を融資するに至った経緯が描かれるのですが、支店長から明日の朝までに稟議書を提出するように言われます。直接の担当は若い部下ですが、その部下一人に押しつけて帰るわけにもいきません。

しかし、その日は結婚記念日。「帰れないってどういうことよ!」と上戸彩さん演じる妻の花にも責められ困らせられます。

東京本店の融資部には、検討はするが、いい返事ができるかどうかは分かりませんよと言われ直談判に。帰ると花が社宅の派閥の話をし「そういう話は銀行だけで十分だ」と言うと「だったら一戸建て買って」と言われてしまいます。

融資が決まったものの2ヵ月後に融資先の粉飾決算が発覚、さらにその1ヶ月後には倒産してしまいます。そこで初めの「土下座しろ!」のシーンになるのです。

支店長は全責任を半沢に押しつけようと東京本店で根回しし、半沢は一週間後、聞き取り調査という名目の査問委員会にかけられることになります。

雲隠れした融資先の元社長を一緒に探しませんかと連鎖倒産した下請け社長に頼んでも断られてしまうわ、国税局の査察が入るわ、やっと元社長の居所を突き止めますが愛人に不意をつかれて殴られ逃げられてしまいます。

そして、5億円回収の目処がまったく立たないまま本店の聞き取り調査に臨みます。

第1話だけで、これだけ主人公を困らせているのです。まさに、まず主人公を困らせ、次から次に困らせ、どんどん困らせ、とことん困らせています。

最後の最後までとことん困らせる

第一部のクライマックスとなる第4話から第5話、実は融資先の元社長から支店長が金を受け取っていた証拠と隠し資産の口座を突き止めるため融資先の元社長の愛人の協力を何とか取りつけますが、元社長がどこに隠しているのか愛人にも分かりません。

と、いきなり愛人が国税局に出頭し寝返るのです。

そして第5話、元社長の隠れ家に国税局のガサ入れが入ります。元社長は愛人に隠していた口座やら取引記録やらを愛人に持たせ逃がします。それを持って愛人は国税局の車へ。このままでは証拠も隠し資産も国税局に持っていかれてしまいます。

半沢は何度も愛人に電話しますが出ません。万事休す、と思われたときバイク便が来て、愛人から隠し資産の口座や元社長と支店長の金の流れの取引記録が届けられるのです。

実は、愛人を国税局に出頭させたのは主人公だったのです。ガサ入れが入ることで元社長が隠していた口座や取引記録を愛人に渡すことに一縷の望みをかけていたのですが、そこは、あえて描かれていないので、どうする? どうなる? と引きこまれてしまいます。

ついに5億円を回収し、元社長から金を受け取っていた証拠も掴んで支店長を追いつめるシーンでは、いきなり支店長の妻が訪ねてきて「本当にどうか、よろしくお願いします」と主人公の手を取り頭を下げて、最後の最後まで、もう一つ困らせています。

第二部では、もちろん主人公を困らせているのですが、さらに、滝藤賢一さん演じる主人公の同期・近藤直弼も困らせています。

さあ、ああなって、こうなってと妄想している暇なんてありません。今すぐ主人公を困らせて、困らせて、とことん困らせてみてください。

これで、あなたもパラダイス!

 

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P64より

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次回は6月23日に更新予定

ドラマ『半沢直樹』データ

2013年7月~9月(全10回)
TBS系列日曜9時日曜劇場枠
制作:TBS
原作:池井戸潤『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』
脚本:八津弘幸
演出:福澤克雄 棚澤孝義 田中健太
プロデューサー:伊與田英徳 飯田和孝
出演:堺雅人 上戸彩 及川光博 片岡愛之助他
平均視聴率:28.7%
最高視聴率:42.2%(関東地区)45.5%(関西地区)

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