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ドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』/ ドキュメンタリー映画の魅力 とは?

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

「ドキュメンタリーの面白さって何?」の答えが『ショージとタカオ』にある

「ドキュメンタリー映画が大好き。面白いからぜひ見てね」と言ってたら、ある映画講座で「ドキュメンタリーって、どんなトコが面白いんですかァ」と、「ど真ん中ストレート」の質問をされてしまった。言い換えるなら「アナタはいったいどんなドキュメンタリーを面白いと評価するのか。」ですね。

うむむ、これはけっこう難問だ。劇映画なら、まあわかる。いい脚本いい監督いい俳優という「3いい」が揃えば出来た映画はたいてい傑作で、まず面白く見られるし、「2いい」なら秀作、「1いい」なら佳作、「いい無し」なら・…(そんな映画作るな!)。

ドキュメンタリーには脚本はないし俳優もいない。スタイルも監督の数だけある。山形国際ドキュメンタリー映画祭に行くと、めまいがするほど多種多様な作品があって、これを同じドキュメンタリーと言っていいのかな…と考え込むほどだ。長さ1つを取っても『鉄西区』(2003/中国/王兵)という3部作の上映時間は9時間だ!…かと思うと、10分足らずの作品が受賞したりもする。

「アナタが観て面白いと思ったものがいい作品でしょう。」って、コレ、回答になってませんね。…と、悩み深き私の前に「これぞ堂々、王道の面白いドキュメンタリー」というべき『ショージとタカオ』(2010/日本/井手洋子)という作品が現れた。158分という長尺なのに全く飽きず、日を改めてもう一度観にいってしまったほどだった。

そうだ、この映画を分析してみれば「ドキュメンタリーの面白さって何?」の回答になるかも知れない。

ドキュメンタリー映画の魅力その1:知らないことを知る喜び

『ショージとタカオ』は、「布川(ふかわ)事件」と呼ばれる強盗殺人事件の犯人として逮捕されたショージ(桜井昌司)とタカオ(杉山卓男)の2人が主人公。つい最近、水戸地裁土浦支部で無罪判決が出たのでご存知の方も多いだろう。

1967年に茨城県布川で起きた事件の「犯人」とされ無期懲役の判決を受けた2人は、1996年に仮釈放で出所してくる。ハンディカメラでこの姿を撮影するのがドキュメンタリー映像ディレクターの井手洋子。彼女はこの日から14年に渡り、再審請求(裁判のやり直し)を求める二人の姿を追い続ける。

ドキュメンタリー映画の魅力その1は、何といっても知らなかった事を知る喜びにある。特に、権力側の「自分にとって不利な事を隠したい」という意図を暴く映画は、面白いと言うだけでなく民主主義にとっては必要不可欠なものだ。

この映画では、「冤罪の作り方」のノウハウが実によくわかる。警察は何としても犯人を逮捕して「面目」を保ちたいので、物的証拠がないまま自白を誘導して起訴する→検察は警察のいうまま証拠の検証もせず起訴→裁判所は「自白したとされる供述調書」だけをもとに無期懲役の判決をする…。一度権力の描いたストーリーを押し付けられたら否応なしに犯人にされるという構図が、この国にはあったのだ。

「無実なのになぜ自白するの?」という疑問も、ショージの話を聞いているとわかってくる。自分を犯人と決めつけ、どんな説明も全く受け付けようとしない警察に絶望し、「こいつらにいくら言ったって駄目だ。とりあえず警察の言うことを受け入れて裁判で真実を明らかにしよう。」と考えたのは仕方ない事だった。

警察は「(犯罪を)認めなければ死刑、認めたら早く出られる」とさえ言う。「ワタシならやってないのに自白なんかしないけど~」という考えは「思い上がり」だと気づいた。長い取調べで疲れきり、こちらの言い分を全く聞こうとしない相手と論争する徒労感が募った時「もう自白でも何でもいいから、この取調べを終わりたい」と思わないなんて、誰が言い切れるだろうか。

※You Tube
シネマトゥデイ 映画『ショージとタカオ』予告編より

ドキュメンタリー映画の魅力その2:2人の成長と監督の成長

魅力その2。映画の中で主人公が成長するのを目の当たりにすること。獄から出てきたばかりのタカオはやせこけ、オドオドした態度と虚勢が代わる代わるに現れるし、ショージはまだチンピラ時代のイキがった雰囲気がこびりついている。こんな二人が仕事を探し、普通の生活者として暮らし、再審請求に向かっての活動を続けるにつれ、どんどん変わって行く。

最初にあった実年齢と社会経験のなさのアンバランスが急速に埋まり、2人の表情に年齢相応の落ち着きが感じられるようになってくる。また2人はそれぞれ配偶者を得ることで、更に変化する。表情は明るくなり言葉に力がこもるようになるのだ。希望というものが、愛する人とか子どもという具体的な形になってきたからだろう。

2人が語る言葉はどれもハッとするほど印象的だ。演説が上手いショージは「裁判官は『こんな大事な日(事件が起こった日)の事を覚えてないのか!』と怒るんだけど、無実の人にとっちゃ普通の日だもの、覚えてるワケがないでしょう!」と、権力の身勝手さや思い込みを鋭く突く。

タカオは「なんかさ、このままでもいいような気もするよ。結論が出ちゃったらつまんない。出るのが恐い。」と、思わず再審結果への不安を吐露するが、いざその日には「この長きに渡る年月、私も必死に働き、小学生の子どもも授かりました。もういい加減、普通の人生を返してください。」と力強く訴える。

出獄14年、2人は堂々たる大人の男性に成長していた。映像でなければ表現できない2人のこんな変化や、ショージの妻、恵子さん、30年以上この裁判を支えてきた柴田五郎弁護士など、惚れ惚れするような「いい顔」を見ることが出来る喜びは大きい。

ドキュメンタリー映画の魅力その3:監督の人柄や真情がはっきり伝わる

最後になったけれど、ドキュメンタリー映画の魅力その三は、監督の人柄や真情がはっきり伝わることだ。2人に過度の思い入れはせず、いい距離(いい人間関係)を保ちつつ撮り続ける井手監督。その間に技術も上がってくる。(何しろ最初の出獄シーンでは、カメラのピントが会ってない・画面が揺れているという始末。しかしその後どんどん上手くなる。)

画面には登場しなくても、監督もまた成長したんだとわかる。権力によって隠蔽されようとした事実を暴き、その過程で撮る対象も監督も成長する。内容はシビアでも、そんな幸福なドキュメンタリー映画なら、見ていても面白いに決まってる。

えーと、ご質問をなさった方、これで回答になってるでしょうか。もし「まだスッキリしない」とおっしゃるなら、ぜひ『ショージとタカオ』をご覧くださいね。

※シナリオ教室連載エッセイ2011年7月号<お宝映画を見のがすな>より

次回は6月8日に更新予定

 

映画『ショージとタカオ』データ

上映時間:158分
製作年:2010年
製作国:日本
監督・撮影・編集・制作:井出洋子
配給:『ショージとタカオ』上映委員会
※公式サイトはこちらからご覧ください。

 

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