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『 最高の離婚 』に学ぶシナリオの勉強法:
キャラクターが出るセリフの書き方

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
面白いとハマったテレビドラマや映画の共通点、それはセリフではないですか?でも、いざ書いてみると、難しくないですか?今回は、坂元裕二さん脚本『最高の離婚』から、登場人物のキャラクターがこれでもかと出ているセリフについて学んでいきましょう。

ストッパーを外そう

いいセリフって、正しいことやカッコイイことを言わせるものだと勘違いしていませんか?

そんな、相田みつをの言葉やJ‐POPの歌詞みたいなセリフは、むしろ不自然で生き生きしていないセリフになりがちなので注意してください。

特に、いい人に正しいことを言わせようとすると校長先生の朝礼の話みたいに退屈で、つまらないセリフになります。下手をすると、そんなこと、お前に言われたくないよ! とか、そんなの分かってんだよ、うるせえな! と反発されかねません。勉強しなければいけないのは分かってるけど、勉強する気になれなくてウダウダしている時に「勉強しなさい!」って言われると腹立ちませんでしたか? そんな感じです。

じゃあ、いいセリフって?

そのセリフを言う人物のキャラクターならではのセリフです。

つまり普通の人なら言わないけれど、この人なら言うよなあ、というセリフ。普通の人は言わないことであればあるほどキャラクターの個性が際立ち、いいセリフになります。

ただ、この普通の人なら言わないことを書くのが、みなさん、とても苦手なようです。

1つは、普通の人なら言わないことって、どんなことなのか、さっぱり思い浮かべられないという方がいます。知らず知らずのうちに、正しいことを言わせたい、間違ったことを言わせたくないという意識や常識が、ストッパーをかけているのだと思われます。

ストッパーを外しましょう。あえて間違ったことや非常識なことを言わせよう言わせようとするのも1つの方法です。

たとえば『最後から二番目の恋』では小泉今日子さん演じる吉野千明が、中井貴一さん演じる長倉和平と、45歳と50歳では全然違うと言い合いになり、「だって50なんて、ありえない」と言うと、「はあ? 自分が50になったらどうすんですか?」とつっこまれて、「なりませんから!」と断言しちゃっています。

『白い巨塔』では唐沢寿明さん演じる財前五郎が、手術中にミスし患者の生命を危機に陥れた助手に、もう一度、同じ役割を与え「君がミスると患者が死ぬぞ。しかし君が死ぬわけじゃない。落ち着くんだ」と言い放ちます。

ほら、間違ったことや非常識なことを言わせると面白くなるでしょ? 間違ったことや非常識なこと、どんどん言わせましょう!

もう1つは、せっかく普通の人なら言わないことを書いたのに、ゼミで仲間から、そんなこと普通は言いません、と言われてしまい萎縮してしまって、ダメダメ、普通の人が言いそうなことを書かなきゃと思ってしまう方がいます。

逆です。そんなこと普通は言いませんとゼミで言われたら、それって面白くなるってことなんだなと思ってください。

ただし、そう言われたということは、まだまだキャラクターが伝わっていないということです。キャラクターを伝えるにはセリフです。

つまり、そんなこと普通は言いませんと言われたら、もっともっと普通の人なら言わないけれど、この人なら言いそうなセリフを、たくさん書いてやればいいのです。

『最高の離婚』のセリフ

というわけで、普通の人なら言わないけれど、この人なら言いそうなセリフといえば、何といっても『最高の離婚』です。

瑛太さん演じる濱崎光生と尾野真千子さん演じる濱崎結夏、真木よう子さん演じる上原灯里と綾野剛さん演じる上原諒という2組の夫婦が、離婚と結婚を巡って共感したり反発しながら、右往左往する姿を描くラブ・コメディ。

ストーリーとしては、とにかく神経質で何事にも細かい濱崎と、大雑把でズボラな結夏は、日ごろからケンカが絶えず、ついに離婚届を提出してしまいます。

一方、灯里は上原が自分以外にも何人かの女性と付き合っていることを見て見ぬ振りをしていましたが、上原が婚姻届を提出していなかったことが判明します。この2組の夫婦は、もう一度、やり直すことができるのか……というもので、さほど派手なものでも、今までにない新鮮なものでもありません。

しかし、この4人のキャラクターが、それぞれ、とても個性的に設定され描かれていて、とにかくグイグイと引き込まれていきます。特にセリフ。4人それぞれのキャラクターならではのセリフが爆発しています。

たとえば第1話、夜、窓の外を見て結夏が「ねえ見て、ほら月がすごい大きいよ」と言うと、濱崎は「月は大きくなんかならない」と言います。それでも結夏は「でも、すごい大きいよ。ねえ見て見て」というのですが、濱崎は「それは対象物による目の錯覚」と取り合いません。「あ、そう」と結夏が窓を閉めようとして網戸がちょっと開いているのを、濱崎は「網戸!」と注意します。

離婚届を提出した結夏は、立ち食いソバ屋で、濱崎の大学の卒論のテーマだったドストエフスキーの『罪と罰』を読んだときの話をします。上下巻買ってきて必死に読破して、濱崎に「すごい感動したよ」と言うのですが、「岩波文庫の『罪と罰』は上中下。君は中巻を飛ばしてるって。そんなこと言う必要あります? 思いやりって何だろう? 少なくても彼にはなかった」と怒ります。まあ、確かに……でも中巻飛ばして読んじゃってるのも…どっちもどっちでしょうか。

この人なら言いそうなセリフが満載

第3話では濱崎と上原のこんな会話があります。濱崎が「手品、嫌いなんで」「あんなもんでワーとかキャーとかバカみたいでしょ?」と言うと、上原が「手品が嫌いというより、みんなが楽しんでるのを見るのが嫌いということですか?」と尋ねます。濱崎は「端的に言うと、そうです」「テレビとか見るとイェーイとかいってヘラヘラ笑ってるじゃないですか。テレビ壊したくなりますよね。まあ、実際大人なんで、実際にはしませんけど」と答えるのです。

第4話では灯里に「温泉好きなんですか?」と訊かれて「好きじゃないです。わざわざ、お湯で体温めるために出かけるなんて下らないと思います。あー温まったなあ、とか言って。最初から家にいれば、もともと体冷えてませんからね」と答えます。

同じく第4話で結夏とケンカになった時の濱崎のセリフが「食べません! 食べません! 俺は別に、そっちがよく分からない、しょうもない男のために作った食べ合わせの悪そうな手料理の残り物だとは、さらさら思ってないけど、仮にそうだとしても、こっちは気にならないけど、ただただ食べたくないなという状態なんだけど」です。

濱崎の面倒くささ、発揮しまくりです。

この濱崎の口癖は「ハマザキではなくハマサキです」と、もう1つ「つらい、つらい」ですが、第5話では温泉に入りながら出てきます。

最初は「温泉って気持ちいいんだなあ」と言っている濱崎ですが、泳ぎまわっている上原に「上原さんって自由人だねって言われたことありませんか?」と尋ねると「え? 言われたことないですけど」と答えます。すると濱崎は「まあ、自由人は人の話聞いてないですからね。僕なんか両手両足がんじがらめですよ」「離婚したら自由になると思ったら大間違いですよ。結婚生活のドロ沼は、だいたい見える範囲ですけど、離婚生活のドロ沼は底が見えません。どこまで深いか分かりません」「絶望的ですよ。絶望人です」「僕、いま気がつきました。いま僕に必要なのは温泉じゃなくて御祓いですよ。どっかに、いい神社ないかなあ。つらい、温泉つらい」となります。温泉に入りながら「温泉つらい」って言っている人なんて濱崎だけでしょう。

一方、上原は真面目な顔で「あの、濱崎さん、僕、全然自由じゃないですよ」「僕、つまんない奴です。全然こんな人間になりたくなかった。まあ、でも、こんなもんなんだろうなあって」と言うと、温泉に潜ります。姿が見えなくなったので濱崎が大声で呼びます「上原さん! 上原……」ブワッと出てきた上原は屈託なく「ああ、気持ちいい!」と超マイペースぶりを発揮します。

第8話で灯里に部屋から閉め出された上原が、濱崎の部屋に勝手に転がりこむところの2人のセリフのやりとりも笑えます。濱崎が「ちょっと! 何で靴下脱いでるんですか?」と言うと、上原が「あ、いま洗濯機どこかなあと思って」と。そして「上原さん、ウチ、何で離婚したか、ご存知ですか? 僕が神経質だからです。いま直そうと思ってるんですけど、ものすごく細かくて、うるさいからです」と言う濱崎に言った上原のセリフが、「大丈夫です。僕、神経質なの気にならないんで」

もう、きりがありません。普通の人なら言わないけれど、この人なら言いそうなセリフが満載です。ぜひ参考にしてみてください。

セリフが違ってくるとシナリオが見違えるように面白くなるはずです。

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P120より

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次回は5月26日に更新予定

 

ドラマ『最高の離婚』データ

2013年1月~3月(11回)木曜22時枠
フジテレビ
演出:宮本里江子・並木道子・加藤裕将・宮脇亮
脚本:坂元裕二
プロデューサー:清水一幸・浅野澄美・若松央樹
キャスト:瑛太・尾野真千子・真木よう子・綾野剛 
平均視聴率11.8%
最高視聴率13.5%(初回)

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