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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』の魅力/ 実在の人物をモデルに 面白いドラマを作るには?

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

人命濫費映画はイヤ

今年2012年は初っ端から大御所監督による戦争映画の公開が続いている。チャン・ドンゴンとオダギリジョーの長距離友情物語『マイウェイ 12000キロの真実』(2011/韓国/カン・ジェギュ)、少年とラッキー軍馬の愛情ストーリー『戦火の馬』(2012/アメリカ/スティーブン・スピルバーグ)の2本を観た。その感想は「とにかく人が死に過ぎ!」。

この年になると、若者の命の濫費がコタエるのよ。男性監督は、子どもが大人になるまでにどれだけ手間と時間とお金がかかるかが実感できないんでしょうね。

戦闘シーンで銃がパーンと火を吹けば、いとも簡単に若者が死ぬ。女はその度ごとに、子どもをここまで大きくするのにかかった労力(と費用)を思い、「ああ、なんてもったいない……」と、ため息が出るのです。もし戦争の廃止を本気で願うなら、世界中の国の首脳をぜんぶ女性にしてしまえばいいんじゃない? 

そりゃ会議はやたら長引いて問題は一向に解決しないと思うけど、「息子が死んじゃうかもしれない」戦争に、女性首脳なら易々とは踏み切ったりしないよ…という持論を展開しようと思うとき、「ちょっと待て」と登場するのが元イギリス首相、マーガレット・サッチャーの名前。

イギリスとアルゼンチンのフォークランド紛争(戦争)のとき「人命に代えてでも我が英国領土を守らなければならない!」と吼え、ビビる男性議員のお尻をたたいて軍を出動させたツワモノだ。「女だって戦争強行派はいるだろ」。むむ、と困る私。

どうも理解出来ずにいた彼女を、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011/イギリス/フィリダ・ロイド)として女性監督と女性脚本家(アビ・モーガン)が映画化してくれた。ありがとう、知りたかったの。

あえて使った認知症

夫は他界し、1人で余生を送る86歳のマーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)。認知症をわずらい、夫の死も理解できず、現実と幻想があいまいになっていく彼女は、ふと過去を振り返る。

雑貨屋の娘として生まれ、父の影響を受けて政治家を目指した20代。青年デニスと結婚して子どもにも恵まれるが、政治に意欲を燃やし続け、34歳で保守党の下院議員に当選。1975年には保守党の党首になり、4年後の54歳でついに英国史上初の女性首相になった。

しかしそのころのイギリスには、疲弊した経済の立直し、労働組合との対峙、IRAのテロ攻撃などの難題が山積みしていた。彼女は全力でそれに立ち向かって行った……。

美人で能力があって性格は沈着冷静。献身的に支えてくれる金持ちの夫がいて男の子と女の子の双子に恵まれる。目指した政治の世界では順調に出世、ついには首相という頂点にまで上り詰めた……監督も脚本家も、こういう人を映画化するのはなかなかホネだったろう。だってあまりにも出来すぎ、運も良すぎで、そのまま描いたら、まず反感買うだろうから。

そこで製作者たちがあえて使ったのが、75歳で発症したというサッチャーの認知症だ。おぼつかない足取りで買い物に行き、夫の遺品を見て途方にくれる……どんなに権勢を振るった人間であろうと年を取るし、人生に後悔だってあるという解釈の描写。それまで「なんか偉い人」とだけしか思えなかったサッチャーに、そこで初めて人間的な親しみ、共感を覚えるという仕組みになってて、うまいです。

※You Tube
シネマトゥデイ 映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』予告編より

彼女の苦悩

映画だけではもうひとつマーガレット・サッチャーという人がわからず、彼女自身が書いた自伝を読んでみた。『サッチャー 私の半生 上・下巻』(1995/日本経済新聞社)。上下あわせて900頁近くあるこの本を読み始めてすぐ泣きそうになった。ひたすら政治に関する記述ばかりでぜんぜん面白くない。砂漠のオアシスと楽しみにしていた結婚式から新婚旅行までの記述はわずか2ページだった!

そして読めば読むほど内容への反感がムラムラとわいて困った。新自由主義者(規制緩和、自由競争、国営企業の民営化、国家や組合の役割削減)で対外政策はコワモテ(力や威信で押し切る・国防費の増額、核抑止力の維持)などいわゆる「サッチャリズム」で、それは彼女の思想なんだから仕方ないとしても、驚くのは女性に関連する政策への無関心(というより弾圧に近い)。

若いころには育児費用(乳母や保育園代など)の税控除に反対したし、学校でのミルクの無償配給を廃止しようとして「ミルク泥棒」などというあだ名を頂戴してる。それまで無償だった医療サービスの有料化も考えていた。不思議だよね。だって働く母親だった自分にも必要な政策ばかりでしょ?

そこでやっと気がついた。サッチャーは意識的に「女のにおい」がする政策を無視したんだね。そのころ女性議員の数は630数名の中の1割どころか10数人。まして保守党のサッチャーがチラリとでも女性政策を出そうものなら、たぶん党内では即座に「彼女は女向けの政治しかできない」というレッテルを貼られ、絶対に表舞台で使われることはなかったはず。

サッチャーが最初に入閣したときの理由は「彼女は美人だしフェミニストじゃないから」らしい。頭が良く上昇志向が人一倍強烈な(サッチャー自伝の原題は『権力への道』です!)彼女は、「男以上に男らしく振舞うことが出世の鍵」と見抜き、組合を力でねじ伏せ、戦争を選択するなど、「私を女だと思って甘く見てはいけないよ」という男性社会への示威を絶えずやったワケですね。

しかしいつでも強硬派として振舞わなくてはならないというサッチャーにかかっていた無意識の圧力、屈折、葛藤は相当なものだったに違いないし、ストレスもあったはず。もしサッチャーが女性議員が半数を占めるような議会で活動していたら、随分違った政治家になっていたんじゃないだろうか。

しかも私生活ではそのころの道徳に縛られて、「私は夫や子どもによき妻・母だったろうか」なんてクヨクヨしてるし。こっちもストレスだ。

監督と脚本家は華やかな政治家人生を送ったように見えるサッチャーの奥深い苦悩を理解し、同情もしたのだと思う。女性が女性を描くよさのある映画に拍手パチパチ。本も何とか読み終わってヤレヤレ。映画の中では誰も死ななくてホッ。

※シナリオ教室連載エッセイ2012年4月号<お宝映画を見のがすな>より

★次回は5月11日に更新予定★

映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』データ

上映時間:105分
製作年:2011年
製作国:アメリカ
監督:フィリダ・ロイド
脚本:アビ・モーガン
配給:ギャガ

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