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映画プロデューサーから見た脚本家

2012.09.28 開催 映画プロデューサー 坂上順さんの根っこ「人の心をときめかせるのが映画です」
ゲスト 坂上順 さん

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回は2012年12月号)よりご紹介。
ゲストは、元東映プロデューサーの坂上順さん。『新幹線大爆破』(1975年)、『空海』(1984年)、『鉄道員 ぽっぽや』(1999年)、『半落ち』(2004年)、『男たちの大和 YAMATO』(2005年)、『剱岳 点の記』(2009年)など数多くの名作・大作を作り続けています。そんな坂上さんが今まで手掛けられた映画を中心に、シナリオと映画製作の真髄についてお話しいただきました。

映画の元になるのはシナリオ

「映画力」という言葉があるかどうかは知りませんが、映画の力が落ちているような気がしています。

私が東映に入ったのは50年前で、年間に100本も製作していた頃です。当時は、スタッフルームが機能していました。

どういうことかというと、映画製作が始まると、監督を中心に、チーフ助監督、デザイナー、カメラマンなどがスタッフルームに集まり、皆がいろいろな意見を出して、喧々諤々になる。1つの作品を作るということに対して、全員が同じ方向を向いていたんですね。

ところが今のスタッフルームでは、助監督が「監督、これ赤と青どちらにします?」「はい、青ですね。わかりました」と言うだけ。なぜ「青」なのか聞く人もいなくなっているように思います。

この風潮は、映画会社が製作する時もそうだし、配給会社の営業部でもそう。番組が埋まればいいんですよ。「この映画をお客さんに届けたい」とか「これを伝えたい」というようなことまでは気持ちが向かない。

映画製作に半世紀関わってきた身としては、このまま映画界が立ち枯れていくのが忍びないのです。

私は、日本人の才能はスゴイと思っています。

映画の元になるのはシナリオです。

映画は1人では出来ないものですが、まず種になるのはシナリオです。日本のコミックは世界中で売れている訳でしょう?

だったら映画だって、種を書ける人はいるはずなんです。

コミックを原作にするとか、視聴率の高いテレビドラマを映画にするんじゃなくて、映画独自の何かがあると思う。

それを考えられるのは、今ここにいる皆さん。私が50年も映画をやっていられるんだから、皆さんがその気で頑張ってくれたらできると思います。

今日、私がこの場に来たのは、脚本を書こうという人たちがいるなら、製作体験の多い私が、皆さんに何か伝えられるかもしれないと思ったからです。

これまで日本の映画は日本のマーケットだけで生きてきたんですね。香港やシンガポールを見ると、マーケットが自国だけではどうにもならないので、海外を目指して映画を作っています。

文芸作品、アート系、アクション、色々なジャンルがありますが、どれをとっても、今の日本はアジアの中では勝てなくなっている。

音楽が世界に通じるように、映像も通じるんです。映画は人間を描くのですから、親子、家族、恋人、そういったことは世界共通です。世界に通用するホンを書いてほしい。 

ときめいたことを書けばいい

『剱岳 点の記』という映画を準備していた時、富山県知事に撮影の協力をお願いに行きました。

ところが忙しいのでなかなか会っていただけない。北日本新聞社が毎年新年にパーティーを開くんですが、そこで木村大作監督が3分間のスピーチをする機会を得ました。

ところが、招待客はお酒が入ってるし、会場は人の話なんか聞いちゃいない。そしたら木村大作は、壇上から「そこ! 何やってるんだ! 人の話を聞け!」と指さして怒鳴り始めた。最前列にいた知事もビックリですよ(笑)。

でも、お願いをする立場でそこに行ったのに、なぜ怒鳴ったりできるんでしょうか。それは、木村大作が『剱岳~』に命を懸けていたからです。

彼が67歳の時です、「日本人の映画を作らないか?」と提案したんです。絶滅危惧種の日本人がいるっていう気がしているんです。単一民族で単一言語、この狭い国土の中で固有の文化を発展させた民族は世界にもそうないと思う。

何かを築いてきていながら、名前の知られていない人。無名でも力を持っている人。例えば京都や滋賀には、ひとつのパテントを持って世界に通じる技術を開発している企業がたくさんあります。

そういう人たちを取り上げて、映画にして後世に遺そうよ、と。日本の四季と、誠実に生きる日本人を木村大作のカメラで撮り遺して行きたいと思ったのです。

全国を車で回っていた木村大作が、立ち寄った立山で読み直し、「これだ!」と思ったのが原作となった『剱岳~』でした。

帰ってきてから「『剱岳~』映画にできないかなあ」と言うんです。山に登ることも私にはできないけれど、彼は、監督としてこの作品を撮るんだと心を決めていました。山で死ぬ覚悟まで決まっていました。よし、それならわかった、ということで始めたのです。

映画が出来上がったら、知事から木村監督に会いたいとの連絡がありました。「県として表彰したい」と(笑)。

何が知事の心を動かしたか……それは、木村大作の志と映像が本物だったからです。カメラマンとしての技術も、山に登って撮った意欲も、本物です。

今日ここにお集まりの皆さんも、シナリオの勉強をしようという意欲がおありでしょう。では、何を書くか、それは「自分の知っていること」「自分にわかること」です。

私はプロデューサーです。プロデューサーというのは業界でもあまり信用されない、詐欺師と紙一重の職業です(笑)。

ただ、私が最初に騙すのは自分なんです。自分が納得しなければ人を口説けない。人にわかってもらうには、まず自分が納得していないとね。

映画というのは、最初に脚本を読んだ時、あるいは映画を観た時に、ときめかなければ、お金を払う価値はないと思っています。観客に届けるにはときめきが必要です。

だから皆さんが普段生活している中で、ときめいたことを書けばいい。そうすれば人に必ず伝わる。

『剱岳~』は原作がありますが、脚本は木村大作とスタッフが一緒に作りました。つまり素人が書いているんです。志と訴えたいことがあれば、誰にでも書ける。志が本物なら、必ず人の心を打つし、ときめかせるんですよ。

映画は一人では作れませんから、仲間を集めた方がいい。

人に自分のホンを読んでもらうのが恥ずかしいなんて思っちゃいけません。一緒にゼロからものを作れる仲間、その喜びや楽しさ、苦労を共有できる人を見つけることです。

技術を身に付けたら、後は志とテーマだけなんです。皆さんがときめいたことを書いてください。

※You Tube Fuji TV
劒岳 点の記(プレビュー)

 

『鉄道員(ぽっぽや)』両巨匠の腕組み

『鉄道員(ぽっぽや)』の時は、直木賞を受賞した原作で、15社から申し込みが来ていました。

原作者への手紙に「僕はこの映画を映画館でしみじみと観たい」と書きました。すると「『観たい』というのはズルい。もうちょっとちゃんと中身を聞かせてほしい」との返事がありました。

そこで始めは、植木等さんに律儀な乙松役を、そして高倉健さんには友人の役をやってもらうということで提案したら、驚いたことに映画権をくれたんですね。そうして製作することが決まりました。

ホンは、岩間芳樹さんに頼みました。岩間さんが書かれた、北海道の廃線になった駅長さんのドラマを観ていたので、面識がないにもかかわらず訪ねて行ったんです。

すると岩間さんは既に原作を読んでいて、「よくぞ私のところに来てくれた」と。「鉄道と北海道と炭鉱に関して、私以上に知っている脚本家はいない」と快諾してくれました。そして、「乙松は高倉さんで書きたい」と。最初のホンができて読んだときは、私は泣きました。

その頃には、高倉健さんが主演で、降旗康男監督にお願いすることが決まっていましたので、監督にもホンを読んでもらいました。ところが監督は「これじゃダメだよ」と。岩間さんと言えば、NHKのトップライターです。そこで、3人で集まって話し合うことになりました。

降旗さんは「『鉄道員~』は、主人公の乙松を客観的に書いてあるから成立している。乙松の主体で描いては成り立たない」と。

私は困ってしまいました、両巨匠が腕組みしてじっと黙っちゃったんですね(笑)。

私には随分長い時間でした。困り果てていると、「もう一度考えてみましょうか」と岩間さんが言ってくれました。

プロデューサーというのは、自分に才能がある訳じゃない。演出をやるのではないので、感動する気持ちさえあればいいんです。

監督、脚本家、技術者、俳優、それぞれが頑張っているところで、手を叩き、ときめきに共鳴できればいい。そういう立場の者がいないと、なかなかまとまりませんからね。

映画でもテレビでも、脚本家は人間を描き、監督は人間を撮る。そこに的確にフォーカスを合わせられる監督の映像を見ると、プロデューサーは泣けてきます。

皆さんは人間を描くんです。中でも一番確かな人間は自分。自分に嘘をついて人間を描くことは無理です。

でもどこにも確かなものはありません。感動というのは形にできるものではないし、数字でも表せられないじゃないですか。

例えば「これは87点の感動です」なんてできないでしょう。その、目に見えない感動を文字で書ける人が、脚本家なんですよ。

音楽家は映像を見ただけで音が出てくるそうですね。

脚本家の場合は、目に見えないものを文字にする。そういう不確かなもので商売しているのが映画会社で、そこで食わしてもらってるのがプロデューサーなんです(笑)。

※You Tube Toei
鉄道員(ぽっぽや)(予告編)

映画『空海』の奇跡

映画『空海』の脚本は早坂暁さんです。

期日に間に合ったことがないから「遅坂ウソツキ」なんて呼ばれています(笑)。愛媛出身で、胎内被曝を扱った『夢千代日記』も書かれています。空海の話、お遍路さんの話なら絶対に早坂さんだということで、お願いしました。

ところが彼の急病・大病が立て続けにあったりして、執筆がなかなか進まない。

しかし僕は早坂さんはすごい才能の持ち主だと思っているので、「他の人にはこの作品は書けない」と、周囲を説得しました。

彼は病床で私にこう言いました。「これは弘法大師さんに試されているんだ。これが書けなきゃ、俺は脚本家として生きている意味がない」と。何通も手紙をくれました。

そうして早坂さんが命懸けで取り組んでいる頃に、真言宗仁和寺の管長が「ヤクザ映画を作っていたところで、弘法大師の映画を撮らせる訳にはいかない」と大反対している、という話が耳に届きました。

謝罪しに行く前に、四国八十八カ所の遍路を回りたい、そうしてからの方がいいだろうと思って、僕は独りで札所を回り始めたんです。

64番まで行った時、61番の御札が紛失していることに気付いたんです。

次の朝、取りに戻ったところ、偶然巡礼をされている高僧に出会った。その人は、なんとあの仁和寺の管長さんだったんです。「坂上さん、これを仏縁と言います。いい映画を作ってください。よくわかりました」と言って製作を許可してくださった。

作り話のように思われるでしょうが、嘘のような奇跡が起こるんです。見えない力があるのでしょう。その後映画が完成し、真言宗がチケットをたくさん買ってくれて、30億円の興収を上げました。

3つのことばと信念

東映では、故岡田茂名誉会長がプロデューサーに「東映の映画を作る時はこれだけは入れろ」と言う三大要素があります。それは「泣く・笑う・握る」。

「泣く」と「笑う」はわかりますよね。

「握る」っていうのは、手に汗を握るということ。自分が言いたいことだけ主張するのではなく、お客がときめく映画を作れという意味です。

脚本家から初稿が上がってきた時、正直どうにもならないことがあるんです。困ったな、どうしようと(笑)。

そんな時は、「ありがとう」「ご苦労様」「頑張って」の3つのことばを入れてくれと頼みます。ことばで言わなくても、仕草で示すのでもいい。どんな話でも、その3つは必ず入れられるところがあるんです。

「ありがとう」というのは、相手のやったことを自分がわかっていないと出てこないことば。「ご苦労様」も同じ。「頑張って」も相手を理解した時に言えることばです。

それをシナリオに入れると、お客さんは「ストーリーはちょっと何だけど、なんか泣けたよ」となる。こういうふうにやっていくうちに、観客の心に届ける技を、経験として覚えていくんです。

40年近く前、高倉健さんに『信念の魔術』(C.M.ブリストル著/ダイヤモンド社刊)という本を勧められました。

その本によれば、潜在意識を動かすと波動が起こって、例えばですが1億円欲しいと思っていると、1億円を手に入れる方法を知っている人に、その波動が届くというんです。僕はまだ1億円手に入れてないんですけど……(笑)。

でも「こういう映画を作りたい!」と思っていたら、いつの間にかその映画が動き出すってことはあると思います。

1人ではできないけれど、皆に力を貸してもらえばできます。「坂上、次は何やるんだ?」と言ってきてくれて、撮影のための色々なアイデアを出してくれます。

映画は生身で作るものだからこそ、人間を描けるんだと思います。

僕は、皆さんには絶対に脚本が書けると思っているし、書いてほしい。

今の映画界で、脚本家のまず1番のハードルとなるのはプロデューサー。その次に監督、スポンサー、役者も色々言ってくる。そういう人たちを説得する力が必要です。

頭の中に種をまくのが脚本家とすると、どういうところにまいて、どういう肥料をやって養生をするかを考えるのが映画のチームの役割。日本人のチーム力がどれほどパワーを持っているかは、「なでしこジャパン」などで実証済みですよね。

まずは頭の中にあるものを紙に書く。人を動かしていく。他人が読んで理解できるように人間の心を描く。映画は商売ですから、やはり大多数に分かるホンでないとダメですね。

少しでも、この不振になった映画界に力をください。夢を大きく持って。だって、夢はタダなんですから。

「一心岩をも通す」です。これだということを、信じてやるしかない。そうすれば、誰かが手を差し伸べて助けてくれます。

根無し草の私の話、根っこを見つけるのに大変だったと思います。ご静聴ありがとうございました。

ご苦労様です、頑張って!

出典:『月刊シナリオ教室』(2012年12月号)より

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部――達人の根っこ
映画プロデューサー 坂上順さんの根っこ
「人の心をときめかせるのが映画です」
2012年9月28日採録

次回は2月の第4月曜日に更新します

プロフィール:坂上順(さかがみ・すなお)

元東映プロデューサー。
1962年慶應義塾大学経済学部卒業後、東映株式会社に入社。
高倉健主演『網走番外地』シリーズなど映画・テレビの制作進行を経て、1973年プロデューサーとして映画『ゴルゴ13』を担当。『新幹線大爆破』(1975年)、『空海』(1984年)、『鉄道員 ぽっぽや』(1999年)、『半落ち』(2004年)、『男たちの大和 YAMATO』(2005年)、『剱岳 点の記』(2009年)など数多くの名作・大作を手掛けた。『鉄道員』で顕著な活躍をした映画製作者を表彰する藤本賞を受賞。

 

 

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