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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

女中は何でも知っている 映画『 小さいおうち 』

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

日本の向かう先は大丈夫?

【昨夜、大勢の人達と一緒に秘密保護法案反対のためのテロに行った。いや、行ったのはテロではなくてデモだった。なぜ私がこんな言い間違いをしたかというと、人相の悪い翼賛政治体制政党の大臣が『大声で叫ぶデモはテロと同じだ』と、デモ隊を非難したという話を旦那さまからお聞きしたからだ。奥様は『タキちゃん、その間違いはちょっとひどくなくて?』とお笑いになった。】

…と、中島京子著の直木賞小説「小さいおうち」に出てくる「女中のノート」をちょっと真似し、タキちゃんになって書いてみた。

物書きのハシクレとして「こんな悪法ができたら大変だ」と思ってデモに行ったんだけれど、「秘密保護法案を阻止するぞ~」「法案を許さないぞ~」(「デモはテロじゃないぞ~」というのもあって笑った。その通りなんだけどね)」というシュプレヒコールもむなしく、特定秘密保護法案は成立してしまった。

私の気分は奥様にひどく叱られた女中と同じ。シュンとして落ち込んで先行きに不安がいっぱい。ちょうど映画化された「小さいおうち」(2013/山田洋次監督/2014年1月25日公開)を観たところなので、「国が自分たちのやってることを隠し始め、それがエスカレートすると国民はみんなひどい目に合う。いや、知らないまま死に追いやられちゃうことだってあるよね」と、実感するから。

山田監督ご本人が「果たして今の日本がどこへ向かっていくのか、というようなことも見えてくる作品にしたい。」(byパンフ)と語っているのも暗示的じゃないの、って、新年早々不景気な話をしてごめんなさい。

特定秘密保護法案成立ダメージが、じわじわジワジワとボディに効いてきてるもんですから。

原作もスタッフもキャストも、いい仕事してます

現代。大学生の健史(妻夫木聡)は、亡くなった大叔母タキ(倍賞千恵子)が残したノート書きの自叙伝を手にとる。そこにあったのは昭和の日本で女中奉公をした若き日のタキの姿だった。

健史は一人暮らしのタキを訪ねるたびノートを読み、もっと書くように勧めていた時のことを回想する。

昭和初期、東京郊外にある赤い三角屋根のモダンな家に、山形出身の女中、タキ(黒木華)が奉公に来る。平井家は玩具会社重役の雅樹(片岡孝太郎)、その妻時子(松たか子)、幼い一人息子の恭一の3人家族。

若くて美しくお洒落な時子は女中にも気さくな優しい態度で接し、タキは時子に強い憧れを抱く。

雅樹の部下、板倉正治(吉岡秀隆)が家に出入りするようになってから、時子の様子は微妙に変わって行った。それを見つめるタキ。日本は徐々に戦争の色を濃くし、昭和16年12月にはとうとうアメリカとの戦争が始まった。

しかし平井家はまだまだノンキな日常を送っていた。

板倉も出征することになった。最後に時子は板倉に逢いに行こうとする。止めるべきか、手助けすべきか…タキは激しく迷い、ある決断をする。

現代。社会人になった健史はある日、昭和の人気漫画家、イタクラ・ショージが「小さいおうち」に出入りしていた板倉だと知る。不思議な糸に導かれるように健史は存命していた時子の息子、恭一に会いに行く。そこで明らかになったのは、タキが隠し通そうとしたある真実だった…。

山田洋次監督は、この所「おとうと」(2010) 「東京家族」(2013)などの名作リメイクを何本かやらされてる。やらされてる…なんて、まことに失礼な言いぐさなんだけれど、どちらの作品も、人情ものにムリムリ現代社会批判が接ぎ木されているような消化不良感があり、胸(腹か?)に納まりの悪い作品になってて残念だった。

今回の作品はリメイク縛りなしで自由にノビノビ撮っているので、山田洋次監督好みのモダン(ちょっとレトロ)、賢い女性、権力への批判などがうまくミックスされていてもたれず、見ごたえがあってよかった。

原作は小説の楽しみがぎっしり詰まっている傑作だし、脚本も音楽も、「小さなおうち」を再現した美術スタッフもいい仕事してます。何より二人のヒロイン、松たか子と黒木華がまんま昭和顔なので、原作イメージが壊れてない。

※You Tube
松竹チャンネル『小さいおうち』予告編

情報隠しの恐ろしさ

「小さいおうち」の本を読んでも映画を観ても、戦前の日本政府は国民に対し、ほとんどと言っていいほど現実の戦況を伝えていないことがわかる。

中国との戦争が続いていても、それは小競り合い程度にしか報道されないので、時子の夫は「なあに、来年にでも片づくだろう」と楽観するばかり。昭和16年に対米戦争が始まっても景気のいい戦勝しか伝えないから、国民はそれを信じて疑わない。

賢くて気が付きなんでもよく理解する女中のタキだって「南の島の人は踊りを踊って日本の軍人を歓迎しているらしい」という話をノートに書き、それを読んだ健史は「なんだそれは。能天気すぎる」と怒り、「もっと本当のことを書きなよ」と説教している。「あのころは、みんなそう思っていたのだから仕方ない」と言うタキ。これはタキが言う通りだ。

昭和17年のミッドウエー海戦で日本はボロ負けに負けているのだけれど、その頃の新聞には「敵の戦艦をぼこぼこ撃沈して日本は大勝利」と書かれていたのだから、誰だってそっちを信用するだろう。

昭和17年4月に東京が初空襲された時も、「敵の9機はすべて撃墜」と発表されたらしい。平井家の旦那様は「アメリカ人もなかなかやるとほめてやってもいいぐらいだ。心配するには及ばない」と鷹揚そのもの。

昭和20年、レイテ沖海戦で海軍は潰滅的な打撃を受け、神風特攻隊は出撃し、沖縄で悲惨そのものの闘いが続いていても、報道がなされなければ、国民にとってはそんな話にリアリティーの持てるはずがない。

結果としてこのご主人と妻の時子は、防空壕へ避難したまま焼け死んでしまった。爆撃を受けながらもご主人は、「なあに、心配するには及ばない」と言っていたのかも。

もし日本政府が「日本は東京をはじめ、都市という都市は爆撃されているので、出来るだけ田舎へ避難しなさい。防空壕は役に立たず、焼死の可能性が高いです」という正確な情報を伝えていたら、この二人は生き残れたかもしれないのに。情報隠しは人の命さえも奪う。

次回は3月2日に更新予定

映画『小さいおうち』データ

上映時間:136分
製作年:2014年
製作国:日本
監督・脚本:山田洋次
原作:中島京子
配給:松竹

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