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『 アンフェア 』に学ぶ脚本勉強法/カットバックを効果的に使う方法

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
今回は、テレビドラマ『アンフェア』の脚本を題材に、カットバックを効果的に使う方法を解説いたします。「そういえばカットバックって、あんまり使わないな…」「カットバックはどう使えばいいんだろう…」というかたは必見です!

文章モードからフィルムモードへ

こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

本書ではカットバックを使ってみてくださいとオススメしていますが、試していただけましたでしょうか?

使ってみた方は、まず何より映像のイメージ力が段違いに変わってきたはずです。しっかりと具体的に、つねに映像をイメージしながらシナリオを書けるようになってきたんじゃないでしょうか。

みなさんは映像をイメージしながら書いているつもりかもしれません。

でも、つねに映像をイメージしているかというと、意外と、そうでもないのです。やはりシナリオは原稿用紙に文章を書いているので、どうしても脳が文章モードになってしまっているんですね。

そもそも私たちが文章を書けるようになるには、実際には存在しないものを脳で考える(認識する)必要があります。

たとえば小さな子どもは「ワンワン、来た」「マンマ、食べる」と言ったりします。二語文と呼ばれているものですが、これが「犬が来た」「ご飯を食べる」と助詞を使えるようになります。この「が」や「を」は、どこにも存在しません。

さらに文章と文章の時間的なつながりや因果的なつながりの把握が必要になります。「やがて」とか「だから」などですが、これも実際には存在しません。存在しないものを脳で考えながら文章を書いているのです。

なので文章を書いていると脳は自然に文章モードになるのです。
脳を意識的に「フィルムに描く」モードにしなければなりません。

最も有効なのは小道具です。小道具を使うことで、つねに具体的に映像をイメージしながら書けるようになります。

そして、カットバックです。カットバックを考えることで、映像と映像やシーンとシーンのつながりや組み合わせを考えることになります。

つまり、時間的なつながりや因果的なつながりなどを文章で考えるのではなく映像で考えるようになるわけです。

というわけで、カットバックをプッシュしてみます。

『アンフェア』のカットバックの使い方

今回取り上げるのは『アンフェア』です。

篠原涼子さん演じる警視庁の検挙率ナンバーワン刑事・雪平夏見が、瑛太さん演じる安藤一之とともに、推理小説で予告された連続殺人事件や、娘が誘拐される募金型誘拐事件、さらに2つの事件の関係者の連続殺人事件という3つの事件に立ち向かっていくのですが…という刑事ドラマ。

とにかく、犯人が自分の殺人予告小説に出版社が入札するよう呼びかけたり、誘拐事件の身代金として一人10円の募金を呼びかけ、集まった募金で株を買うよう指示して仕手戦を仕掛けたりといった、いわゆる劇場型犯罪のアイデアが、きわめて斬新です。

また、散らかり放題の部屋で寝る時は真っ裸という主人公のキャラクターも個性がありますが、自分のせいでイジメられ声を出せなくなってしまった娘を思う母親としての心情や、赤ん坊のときコインロッカーに捨てられていたという安藤が主人公や主人公の娘に対する気持ちの描き方などは、その心の奥底を想像すると胸を衝かれます。

第4話から挿入されるディスティニーズ・チャイルドの『サヴァイヴァー』のカッコよさも、放送当時、大興奮した覚えがあります。

さて、カットバックですが、先月の『名前をなくした女神』と同じく、ほぼ毎回、使われています。中でも、とても面白い使い方が第9話にあります。

誘拐されていた主人公の娘が解放され、さらに、娘のベビーシッター兼家政婦をしていた女性が実行犯の一人であることが分かりますが、口封じに射殺されてしまいます。

しかし、もう一人の実行犯は自分の正体が、主人公の娘にバレていることに気づきます。

娘は絵本を見ながら読み聞かせのCDをヘッドホンで聞いています。

と、主人公の元夫の職場のシーンになります。元夫は上司に退職届を渡します。これで元夫は家にいないことになります。

ちなみに主人公と元夫は離婚、主人公は家を出て一人暮らし、娘は元夫と暮らしているのです。

その元夫と娘が住む家の玄関に実行犯が来て、呼び鈴を押します。ピンポーンと呼び鈴が鳴りますが、娘はヘッドホンで読み聞かせを聞いていて気づきません。

玄関で実行犯は応答がないのを確認し、ピッキングで鍵を開けます。カチャリ、鍵が開いて実行犯はニヤリと笑います。玄関の中に入ってリビングへ。

娘はヘッドホンで読み聞かせを聞いていて実行犯の侵入に、まったく気づきません。

1階に娘がいないと分かると、実行犯は2階へ階段を上っていきます。

娘はヘッドホンで読み聞かせを聞いています。

実行犯は2階の廊下を歩いてきます。

ヘッドホンで読み聞かせを聞く娘。

実行犯は2階の部屋に入ってきます。そして、ゆっくりと手袋を外します。

読み聞かせをきいている娘のヘッドホンを外す手。

「おやつにしましょうか」と、実行犯とは別人の女性が娘に声をかけます。

元夫と娘が住む家では、誰もいない部屋で実行犯が舌打ちし立ち去って行きます。

実は娘は「ふれあい家政婦紹介所」(いつも元夫が家政婦を頼んでいるところ)にいたのです。

つまり、カットバックで、あたかも娘が家にいて、そこに実行犯が迫っているかのように見せかけて、ハラハラドキドキさせ、実は別の場所だったというわけです。

カットバックで映像にリズムが生まれる

この手は第4話でも使われています。

殺人予告小説で次に殺されるのは「か弱き者」と予告されます。もしかしたら子どもかもしれないと主人公は思います。

さらに犯人から「今日、このビルの屋上で、夕日を浴びてそびえる東京タワーを、目に焼きつけて死ぬだろう」というメッセージが。

そこへ娘の行方が分からないと、元夫から主人公に知らせが入ります。家政婦と一緒にいるはずだが、家政婦の携帯がつながらないのだと。

とあるビルの屋上に娘と家政婦がいて、見えている東京タワーの絵を娘が描き始めます。

殺人が行われるであろうビルが特定され、主人公が走り出します。

ビルの屋上で娘は東京タワーの絵を描き上げます。そして、ボード(娘は声が出せないのでボードに字を書いて会話をします)に、「おうちにかえろう」と書きます。すると家政婦が「もっと遠くに行っちゃおうか」と答えます。

主人公がビルの下に駆けつけてきて、非常階段を上り始めます。そして屋上へ。娘の名を叫び、拳銃を構えます。そこには、容疑者として警察が追っていた男が殺されています。

主人公が駆けつけた殺人現場のビルと、娘と家政婦がいるビルは、まったく別の場所だったのです。

ほかにも第7話では、犯人の狙いが仕手戦ではないかと、捜査本部では鑑識課員が、主人公には元夫が説明する、というカットバックがありました。

誘拐事件の犯人から寄付金で集めた身代金で、ある企業の株を買うよう指示があります。捜査本部では「株で何をしようとしているんだ?」「身代金を増やす目的でしょう。安い時に買って高い時に売る」というやりとりがあります。

すると別の場所で主人公が「そんなに単純?」と言い、元夫が「どういう意味だよ」と。

捜査本部で鑑識課員が「私の見解によりますと犯人はズバリ、仕手戦を挑もうとしているのではないでしょうか」と言います。

元夫が「仕手戦だ。仲間内で一気に株を買って株価を吊り上げるつもりだ」

鑑識課員が「上昇した株価を見て、仲間以外の第三者が買いたいと思うと、こっちのもんです」

元夫が「同じ考えで買う人が増えて、株価は上がるだろ。そしたら仕手戦しかけた犯人が高値で売って、利益を得るんだよ」みたいな感じです。

これなども、わざわざカットバックを使う必要はありません。鑑識課員か元夫のどちらかが説明すればいいのです。

でも、それでは同じ場所の同じ人物の映像が続き、ただでさえ説明セリフが続くのに、より単調になってしまいます。カットバックで映像が変わるだけでも目先が変わり、映像にリズムが生まれます。

いやあ、カットバックの世界、実に楽しいですねえ。ぜひ、みなさんも、いろんな使い方を試してみてください。

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P145より

シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。

こちらのコーナー、次回は11月の第1土曜日に更新予定です。名作ドラマの“技”を自分ものにしていきましょう

 

ドラマ『アンフェア』データ

2006年1月~3月
フジテレビ系列火曜10時枠
制作:関西テレビ放送 共同テレビジョン
原作:秦建日子(『推理小説』より)
脚本:佐藤嗣麻子
演出:小林義寄則 髙橋伸部之 植田秦史 根本和政
プロデューサー:吉條英希 稲田秀樹
出演:篠原涼子・瑛太 加藤雅也 阿部サダヲ他
平均視聴率15.4%(最高視聴率9話16.5%)

 

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