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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

『私の中のあなた』にみる 難病を題材にするとき

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

臓器移植の問題を上質のドラマに

「もう映画で難病ものを扱うのはヤメにしたら?」という原稿を書いたことがある。
ちょうど『世界の中心で、愛をさけぶ』(04/日本/行定勲)がショーケツを極めていた頃で(既に言い方に悪意ありますね。ごめん……)それにウンザリしてたから。

難病映画はたいてい「若者の突然の発病→本人と周囲の苦悩→闘病→ささやかな希望→避けられない死→しかしその死には意義があった」という経過をたどる。

だからどの映画を観ても既視感があって飽きてしまい感動も少ない。「このパターンを破るテーマが出てこない限り、しばらく難病映画を作るの止めてもらえないかなァ~」というのがその趣旨だった。

しかしその頃もう少し注意深く映画を観ていたら、海外のいくつかの作品の中に臓器移植が取り上げられ始めていたことに気づいて、「難病映画で次に扱うべきテーマは臓器移植」と分かったかも。

例えば『オール・アバウト・マイ・マザー』(99/スペイン/ペドロ・アルモドバル)。
交通事故死した最愛の息子の心臓移植を、臓器移植コーディネーターの仕事をする母が決める。息子の心臓を移植した相手を物陰から見つめる母の姿が印象的だった。

『21グラム』(03/アメリカ/アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)は夫の心臓を移植した男と恋に落ちる女性のお話。

どちらもいい映画だったし臓器移植が物語の鍵になっていたのに、あんまり意識しなかった。見方甘かったです。反省。

今回取り上げた『私の中のあなた』は、まっ正面から臓器移植の問題を取り上げ、しかもそれが上質のドラマになった画期的な作品だ。

原題は『My Sister’s Keeper』(=姉のスペア)

11歳のアナ(アビゲイル・ブレスリン)は、白血病の姉ケイトに臓器提供するドナーとして「創られた」子ども。

既に赤ん坊のころから臍帯血、血液、骨髄などを何度も提供している。

近々姉に自分の腎臓の片方を与えることも決められている。ある日アナは母サラ(キャメロン・ディアス)に「自分はこれ以上手術を受けるのはイヤ」と主張し、弁護士を雇って両親を訴える。

妹アナの臓器提供がなければ姉ケイトの死は避けられない。承服できない母は、アナの言い分を覆すためにこの裁判を受けて立つ。しかしアナの決断の裏には、ある真実が隠されていた……。

原題は『My Sister’s Keeper』。
つまり「姉のスペア」という意味で、もっと分かりやすく言えば「姉に臓器を提供するための子」ということになる。

うわ、ナマナマしい。

実はイギリスやアメリカでは「病気の子を救うための臓器移植目的で、弟・妹を産むことは合法」なのだそうだ。「Savior  Sibling」〈救いのきょうだい〉という単語もあるというから驚く。

妊娠の着床前診断によって提供対象と胎児のHLA(白血球の型)が合致するかどうかは分かるので、体外受精して出来た複数の受精卵の中から、目的に合った受精卵で妊娠すれば「〈救いのきょうだい〉が産まれてくる」ということらしい。

他人の子の臓器をわが子のために取ったら(もちろん幼いその子の了解もなく)犯罪的なスキャンダルなのに、自分のきょうだいなら美談?むむむむむ……医学に詳しい人なら常識なのかもしれないけれど、私はそんな事実だけでビックリぎょーてん、つい詳しく書いてしまいました。

■You Tube
Warner Bros. Pictures 『My Sister’s Keeper』予告編より↓

河野父子の生体肝移植

この映画を見て思い出したのが、2002年「重い肝硬変で助からないと言われた政治家河野洋平氏が、息子の河野太郎氏から生体肝移植を受けて助かった」というエピソード。

太郎氏の肝臓の3分の1を移植された父・洋平氏は九死に一生を得、健康を取り戻している。
「えらい息子だ!」と感心したものの、「もしこういうことが当然だとされるようになったらイヤだなァ」というような危惧も持った。

だってそうでしょ?自分の子や親きょうだいが生体移植しか助かる見込みのない病気にかかったとき、「肉親が病気の家族に臓器を上げるのは人情からして当たり前じゃないの。ほら、河野さんちをご覧よ」と言われたら、そのプレッシャーは大変なものとしてのしかかって来るだろう。

また反対に、自分が生体移植しか助かる方法のない病気になって、子どもや親、きょうだいが臓器提供を申し出てきたら、いくら助かりたいとはいえ相手にかかる負担を思えば切なくて迷うに決まっている。

相手にいくら愛情があっても、体に大きな傷をつける、また死亡の危険性や手術後のトラブルも少なくない生体移植を受け入れることは大変なことだ。

恋人になら「あなたがほしい」といわれたらどんなうれしいかと思うけれど、「あなた(の臓器)がほしい」といわれたら……そりゃ別です。誰にとっても難問だよね。

生体肝移植に踏み切った河野太郎氏は、その後「健康体を傷つける危険な生体移植をやめ、脳死移植を増やすべき」と主張している。実感があってなんだかホッとする。

どの立場にも共感

この映画が強い説得力を持っているのは、登場人物の誰にも共感できるからだろう。

妹のアナ。最初のナレーションで出てくる「私はいったい何のために産まれ、何のために今ここに生きているのか」という問いかけの重さには黙るしかないし、恋を知った姉ケイトが「生きていたい」とため息をつけば、うなずくしかない。

しかし誰よりも共感できるのは姉妹の母サラだ。重い病気の子を持つ母にとっては、その病気と闘うことが自分の人生の「唯一無二の目的」になる。

ましてサラのように能力が高く、知識も豊富な母親はドナーの妹を作ることにもためらいがない。母にとってわが子の死を黙って見ていることは「自分の敗北」と感じられるからだ。「戦わなきゃ。うらまれたっていい。どんなことをしても勝つんだ」……それ以外のことは何も見えなくなってしまう。

途中まではほとんど「悪役」とすら感じられるサラの強引さには反発を感じつつも、その裏にある悲しみの大きさに共感したとき、彼女の肩を抱きしめたくなる。

医学の進歩というのはもちろんありがたいんだけれど、半面すごく罪作りなものでもあるよな、と実感した。

★こちらのコーナー、次回は11月の第1金曜日に掲載いたします。来月もぜひご覧ください★

映画『私の中のあなた』データ

上映時間:109分
製作年:2009年
製作国:アメリカ
監督・脚本:ニック・カサヴェテス
脚本:ジェレミー・レヴェン
配給:ギャガ・コミュニケーションズ

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