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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

虫たちの家

 シナリオ・センター代表の小林です。やりましたね!イチロー選手、ついに米通算3000本安打達成です。いつも冷静なイチロー選手の目から涙がこぼれた姿に、偉業達成はもちろんですが、私ももらい泣きするほど感動しました。
コツコツやり続ける努力ができることが天才なのだということをイチロー選手は教えてくれ続けています。
私たちだって、天災になれるのです。書き続けていく持続力を持ちましょう。

虫たちの家

出身小説家の中で、唯一「純文学」を描かれているのが原田ひ香さんです。
「純文学」というと難しそうですが、もう10年も前のこと、原田さんがすばる文学賞を受賞されたとき、「脚本を描いていたらこそ書き得た面白い小説」と審査委員長の高橋源一郎さんが絶賛してくださったのですが、本当に原田さんの小説は、面白いのです。
エンタメ純文学とでも命名したくなります。
発想のみごとさはさることながら、登場人物のキャラクターが見事に描かれていて、その内面から出てくる裏打ちされた行動に、ストーリーの面白さだけではなく、読者は感情移入させられてしまうのです。

すばる文学賞受賞の「はじまらないティータイム」から始って、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「彼女の家計簿」「ミチルさん、今日も上機嫌」「三人屋」「ギリギリ」等の作品も、現代を切り取る発想、見事なキャラクター設定、と構成にため息が出るほど魅せられてしまいます。

新作の「虫たちの家」(光文社刊)は、原田ひ香さんの真骨頂と言えるかも知れません。
お互いに本名も過去も知らせずに、虫の名前のニックネームで呼び合う九州の孤島にあるグループホーム虫の家。 このグループホームでは、インターネットで傷ついた女性たちがひっそりと社会から逃げるように共同生活を送っています。
マリアというオーナーとテントウムシ、ミミズ、オオムラサキと4人で暮らしている中に、新しくトラブルを抱えた母娘を受け容れ、ミツバチとアゲハと名付けます。
古参のテントウムシはある日、奔放なアゲハが村の青年たち近づいていることを知り、自分の居場所を守らなければと「家」の禁忌を犯してしまいます。

過去がわからないゆえに、それぞれの行動に疑心暗鬼になっていくさまが見事に恐怖心を創りあげていき、ックネームの意味が伏線として活きていきます。
そして、この小説の見事なのは構成。現在と誰の過去かわからない出来事がフラッシュバックされ、絶妙なバランスとともサスペンスのようにドキドキワクワクさせるのです。

本当に原田ひ香さんは、新刊を出されるたびにどんどん高みに上がっていっています。
この小説は、小説なのですけれど、現代のインターネット社会の愚かさを切り取っている発想といい、見せることの大切さ、キャラクターの見事なまでの表現、構成のバランス感覚、シナリオライターが学ぶべきことが山ほど描かれています。
小説家志望の方も、脚本家志望の方も、ご一読下さい。

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